108 / 319
連載
忘れていた約束
しおりを挟む
「ふやぁあぁぁ」
素っ頓狂な声を上げて、マリアローゼが飛び起きた。
まだ明け遣らぬ朝の事だ。
びっくりしたルーナが、慌ててマリアローゼの側に走り寄った。
「マリアローゼ様!」
早朝から起きていたユリアとカンナも驚いて、二人の様子を見る。
「はぁ…はぁ…わたくし、忘れてましたわ……」
「何をですか?お嬢様…」
宥めるように、ルーナが小さな背中を何度も撫でさすっていた。
驚きのあまり、敬語も覚束なくなっているルーナは、涙目でマリアローゼを見ている。
ふうふう、と息を整えて、マリアローゼはぽつりと零した。
「約束を、忘れていたのです。ああ、どうしましょう……」
「何か、私で出来る事がございますか?」
漸くマリアローゼが落ち着いたのを見て、ルーナも段々と落ち着きを取り戻した。
ルーナの問いかけに、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「今からでも遅くはありませんわね……いえ、お店の方にはご迷惑をかけてしまうかしら……
あの、マスロで購入できる、お酒が欲しいのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーナは今度こそ大きく息を吐いた。
何かもっと重要で、切迫した内容かと思っていたので、安心できたのだ。
そして、まだ困った様に眉を下げているマリアローゼを安心させるように、にっこりと微笑んだ。
「では、こうしましたら如何でしょう。ここは高級宿ですので、お客様にお出しするお酒が余分にある筈です。それを売って頂けるか、交渉して貰います。
それから、町にある醸造所かお店が始まったら、お酒を注文して公爵邸に送って頂きましょう。手間賃をお支払いして、宿の者に頼んで参ります」
「まあ…ルーナ……素晴らしく機転がききますのね。是非お願いしますわ」
寝起きでなければ、マリアローゼにも簡単に指示出来る事なのだろうが、絶賛されてルーナは微笑んだ。
「伝えて参りますので、少々お待ち下さい。お紅茶もお持ち致します」
ルーナが足早に出て行った後、きょとんとした顔でユリアがマリアローゼに質問した。
「マリアローゼ様はお酒を嗜まれていましたっけ?」
思い返す限りのユリアの記憶では、マリアローゼが口にしていたのは紅茶か果実水か水くらいだ。
妖精さんかな?
思わず首を捻って妄想に入りかけたところで、マリアローゼからの答えが返ってきた。
「いえ、わたくしのではありませんの。……前に約束をして、次に訪ねる時はお酒が欲しいと言われていたのに自分の用事ですっかり忘れてしまっていて…その後すぐ神聖国の招聘と旅で
…ずうっとそのまま……」
マリアローゼはずーんと暗くなって、手元のシーツを小さな手できゅっと握っている。
ユリアから見れば、大した約束でもなければ、マリアローゼがそこまで傷心する理由にも思えない。
というか、何してくれやがってんだという怒りすら覚えるのだ。
「いやぁ、こんな可愛くて幼い子にお酒ねだるなんて碌な大人じゃないので、ノーカンですよ。大丈夫です」
罪悪感に胸を痛めていたのに、あっけらかんと言い放たれて、マリアローゼは顔を上げた。
まあ確かに…関係のない第三者から見ればそうかもしれない。
「それも、一理有りますわね。でも、約束を忘れていたのは事実なので…」
「文句言うようなら私が代わりに話しますよ!」
思いっきり拳を見せ付けてくるユリアに、マリアローゼは困った笑顔のまま固まった。
また拳で語る気ですわね…
「いえ、まだ間に合うので、わたくしに約束を守らせてくださいませ」
「お嬢様、どうぞ」
戻って来たルーナが、朝の紅茶を渡してくれたので、マリアローゼは受け取った。
「ありがとう、ルーナ」
「お酒の件、ギラッファさんが引き受けて下さったので、大丈夫です」
「良かったですわ…安心しました」
マリアローゼはほっとして、何時もどおりの美味しい紅茶をこくりと飲んで微笑んだ。
心配事が一つ減って心が軽くなっていた。
素っ頓狂な声を上げて、マリアローゼが飛び起きた。
まだ明け遣らぬ朝の事だ。
びっくりしたルーナが、慌ててマリアローゼの側に走り寄った。
「マリアローゼ様!」
早朝から起きていたユリアとカンナも驚いて、二人の様子を見る。
「はぁ…はぁ…わたくし、忘れてましたわ……」
「何をですか?お嬢様…」
宥めるように、ルーナが小さな背中を何度も撫でさすっていた。
驚きのあまり、敬語も覚束なくなっているルーナは、涙目でマリアローゼを見ている。
ふうふう、と息を整えて、マリアローゼはぽつりと零した。
「約束を、忘れていたのです。ああ、どうしましょう……」
「何か、私で出来る事がございますか?」
漸くマリアローゼが落ち着いたのを見て、ルーナも段々と落ち着きを取り戻した。
ルーナの問いかけに、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「今からでも遅くはありませんわね……いえ、お店の方にはご迷惑をかけてしまうかしら……
あの、マスロで購入できる、お酒が欲しいのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーナは今度こそ大きく息を吐いた。
何かもっと重要で、切迫した内容かと思っていたので、安心できたのだ。
そして、まだ困った様に眉を下げているマリアローゼを安心させるように、にっこりと微笑んだ。
「では、こうしましたら如何でしょう。ここは高級宿ですので、お客様にお出しするお酒が余分にある筈です。それを売って頂けるか、交渉して貰います。
それから、町にある醸造所かお店が始まったら、お酒を注文して公爵邸に送って頂きましょう。手間賃をお支払いして、宿の者に頼んで参ります」
「まあ…ルーナ……素晴らしく機転がききますのね。是非お願いしますわ」
寝起きでなければ、マリアローゼにも簡単に指示出来る事なのだろうが、絶賛されてルーナは微笑んだ。
「伝えて参りますので、少々お待ち下さい。お紅茶もお持ち致します」
ルーナが足早に出て行った後、きょとんとした顔でユリアがマリアローゼに質問した。
「マリアローゼ様はお酒を嗜まれていましたっけ?」
思い返す限りのユリアの記憶では、マリアローゼが口にしていたのは紅茶か果実水か水くらいだ。
妖精さんかな?
思わず首を捻って妄想に入りかけたところで、マリアローゼからの答えが返ってきた。
「いえ、わたくしのではありませんの。……前に約束をして、次に訪ねる時はお酒が欲しいと言われていたのに自分の用事ですっかり忘れてしまっていて…その後すぐ神聖国の招聘と旅で
…ずうっとそのまま……」
マリアローゼはずーんと暗くなって、手元のシーツを小さな手できゅっと握っている。
ユリアから見れば、大した約束でもなければ、マリアローゼがそこまで傷心する理由にも思えない。
というか、何してくれやがってんだという怒りすら覚えるのだ。
「いやぁ、こんな可愛くて幼い子にお酒ねだるなんて碌な大人じゃないので、ノーカンですよ。大丈夫です」
罪悪感に胸を痛めていたのに、あっけらかんと言い放たれて、マリアローゼは顔を上げた。
まあ確かに…関係のない第三者から見ればそうかもしれない。
「それも、一理有りますわね。でも、約束を忘れていたのは事実なので…」
「文句言うようなら私が代わりに話しますよ!」
思いっきり拳を見せ付けてくるユリアに、マリアローゼは困った笑顔のまま固まった。
また拳で語る気ですわね…
「いえ、まだ間に合うので、わたくしに約束を守らせてくださいませ」
「お嬢様、どうぞ」
戻って来たルーナが、朝の紅茶を渡してくれたので、マリアローゼは受け取った。
「ありがとう、ルーナ」
「お酒の件、ギラッファさんが引き受けて下さったので、大丈夫です」
「良かったですわ…安心しました」
マリアローゼはほっとして、何時もどおりの美味しい紅茶をこくりと飲んで微笑んだ。
心配事が一つ減って心が軽くなっていた。
400
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~
こじまき
ファンタジー
「こんな転生先だなんて聞いてないっ!」六年間付き合った彼氏に婚約を解消され、傷心のまま交通事故で亡くなった保育士・サチ。異世界転生するにあたり創造神に「能力はチートで、広い家で優しい旦那様と子だくさんの家庭を築きたい」とリクエストする。「任せといて!」と言われたから安心して異世界で目を覚ましたものの、そこはド田舎の山小屋。周囲は過疎高齢化していて結婚適齢期の男性なんていもしないし、チートな魔法も使えそうにない。創造神を恨みつつマニュアル通り街に出ると、そこで「魔力持ち」として忌み嫌われる子どもたちとの出会いが。「子どもには安心して楽しく過ごせる場所が必要」が信条のサチは、彼らを小屋に連れ帰ることを決め、異世界で保育士兼りんご農家生活を始める。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。