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羊のマリーを見習って
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「何だかとても久しぶりな気がしますわ、ノクス」
「はい、お嬢様」
照れくさそうな表情を浮かべて、ノクスが控えめに微笑む。
「元気そうですわね、それに……背が少し伸びたかしら?」
「そうでしたら、嬉しく思います」
あの、悲劇の日から比べて、今は血色も良いし、手も肌も荒れていない。
生活自体は特別待遇ではないので、公爵家の使用人への扱いはとても良い物なのだと改めて感じる。
「必要なものがありましたら、遠慮なく言って頂戴ね」
「お心遣い感謝致します。十分に与えて頂いているのでご心配なさいませんよう」
ぺこりと会釈をして、また真っ直ぐ姿勢を正すノクスを見上げて、マリアローゼは、あっ、と声を上げた。
「ルーナにお願いするのを忘れてしまったわ」
「私で良ければ代わりにお引き受け致しますが…」
心配そうにマリアローゼを見るノクスに、しょんぼりと頷く。
「本当ならわたくしが直に参りたいのですけれど、今日頂いた羊のマリーちゃんの様子を見たくて…」
釣り大会の景品であり、ユリア渾身のマリアローゼを釣る餌でもあった、もこもこ羊のマリーちゃんである。
宿の料理人に預けたまま、帰りはシルヴァインが部屋まで離さなかったので行けず、そのまま着替えにお茶、ジェレイドと続き、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「で、あれば問題ありませんね。ルーナが戻り次第、私が様子を見て参ります」
「……でも、ノクスにもお魚とチーズケーキを食べて欲しいわ」
マリアローゼが膝の上で両手をぎゅっと握って訴えかける様子に、ノクスは嬉しそうにはにかんだ。
「様子を見て、報告に参りましたら、両方共有り難く頂戴いたします」
「分かりましたわ。それではお願いします」
やっと安心したように微笑むマリアローゼを見て、ノクスもにこにこと笑顔を見せた。
暫く話していると、ルーナが戻って来たので、ノクスはその場を後にする。
「お魚とチーズケーキはどうでした?」
「とても美味でございました。奥様のご要望もございましたので、チーズの仕入れは増やす事になりました」
「それは安心ですわね。…領地にも少し、持っていければいいのだけれど…」
「日持ちするものなので、大丈夫かと存じます。量については相談しておきますね」
ええ、と返事をしつつ、マリアローゼは少し寂しく思い始めていた。
あんなに遠くに行ったり、町へ出る事を願っていたのに、公爵邸を再び離れ、領地に行くというのがとても寂しい事のように思えてきたのだ。
まだまだ公爵邸ですら冒険しきれていないし、大きな図書館も豊かな温室も全て大切な場所になっている。
生まれてからずっと、過ごしてきた場所なのだから愛着が芽生えるのも当たり前なのだが、自分の一部を失うような、ぽっかりと穴の開くようなそんな不安な気持になる。
しゅん、と笑顔をなくしたマリアローゼを見て、ルーナはあわあわと慌てた。
今までにこんな風に元気を失くしたマリアローゼは見た事がなかったのだ。
「マリアローゼ様、どうかなさいましたか?何かご心配でも?」
床に膝を付き、マリアローゼが膝の上に置いていた手を、ルーナが両手できゅっと握って見上げる。
「何かおありなら、仰って下さい。至らないとはおもいますが、全力で叶えて差し上げます」
まるで神に祈るかのような真摯な瞳を真っ直ぐに向けられて、マリアローゼはへにゃりと笑った。
こんなに大事に思ってくれる人が、側にいるのに寂しいだなんて、冒涜だわ。
「領地に行くのが少し寂しいと思っていたのだけれど、ルーナが一緒だから大丈夫ですわ」
「はい。ずっとお側におります」
そこへノクスが戻って来た。
そして、ルーナとマリアローゼを見て、不思議そうな顔をしたが、ぺこりと会釈をする。
「マリー様の様子を見てきました。既にジェレイド様の手配で馬車に乗せられており、馬車の中で寛いで、眠っておいででした」
「ふふっ」
マリアローゼは思わず笑い声をたてた。
そして、ルーナの手を引いて立たせる。
「マリーちゃんはマスロから一人で旅立つのに豪胆なのね。わたくしも見習わないと…」
二人を並べてから、きゅっと両手を広げて二人いっぺんに抱きしめてマリアローゼは微笑んだ。
「わたくしには二人がついているのだから」
「はい、お嬢様」
照れくさそうな表情を浮かべて、ノクスが控えめに微笑む。
「元気そうですわね、それに……背が少し伸びたかしら?」
「そうでしたら、嬉しく思います」
あの、悲劇の日から比べて、今は血色も良いし、手も肌も荒れていない。
生活自体は特別待遇ではないので、公爵家の使用人への扱いはとても良い物なのだと改めて感じる。
「必要なものがありましたら、遠慮なく言って頂戴ね」
「お心遣い感謝致します。十分に与えて頂いているのでご心配なさいませんよう」
ぺこりと会釈をして、また真っ直ぐ姿勢を正すノクスを見上げて、マリアローゼは、あっ、と声を上げた。
「ルーナにお願いするのを忘れてしまったわ」
「私で良ければ代わりにお引き受け致しますが…」
心配そうにマリアローゼを見るノクスに、しょんぼりと頷く。
「本当ならわたくしが直に参りたいのですけれど、今日頂いた羊のマリーちゃんの様子を見たくて…」
釣り大会の景品であり、ユリア渾身のマリアローゼを釣る餌でもあった、もこもこ羊のマリーちゃんである。
宿の料理人に預けたまま、帰りはシルヴァインが部屋まで離さなかったので行けず、そのまま着替えにお茶、ジェレイドと続き、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「で、あれば問題ありませんね。ルーナが戻り次第、私が様子を見て参ります」
「……でも、ノクスにもお魚とチーズケーキを食べて欲しいわ」
マリアローゼが膝の上で両手をぎゅっと握って訴えかける様子に、ノクスは嬉しそうにはにかんだ。
「様子を見て、報告に参りましたら、両方共有り難く頂戴いたします」
「分かりましたわ。それではお願いします」
やっと安心したように微笑むマリアローゼを見て、ノクスもにこにこと笑顔を見せた。
暫く話していると、ルーナが戻って来たので、ノクスはその場を後にする。
「お魚とチーズケーキはどうでした?」
「とても美味でございました。奥様のご要望もございましたので、チーズの仕入れは増やす事になりました」
「それは安心ですわね。…領地にも少し、持っていければいいのだけれど…」
「日持ちするものなので、大丈夫かと存じます。量については相談しておきますね」
ええ、と返事をしつつ、マリアローゼは少し寂しく思い始めていた。
あんなに遠くに行ったり、町へ出る事を願っていたのに、公爵邸を再び離れ、領地に行くというのがとても寂しい事のように思えてきたのだ。
まだまだ公爵邸ですら冒険しきれていないし、大きな図書館も豊かな温室も全て大切な場所になっている。
生まれてからずっと、過ごしてきた場所なのだから愛着が芽生えるのも当たり前なのだが、自分の一部を失うような、ぽっかりと穴の開くようなそんな不安な気持になる。
しゅん、と笑顔をなくしたマリアローゼを見て、ルーナはあわあわと慌てた。
今までにこんな風に元気を失くしたマリアローゼは見た事がなかったのだ。
「マリアローゼ様、どうかなさいましたか?何かご心配でも?」
床に膝を付き、マリアローゼが膝の上に置いていた手を、ルーナが両手できゅっと握って見上げる。
「何かおありなら、仰って下さい。至らないとはおもいますが、全力で叶えて差し上げます」
まるで神に祈るかのような真摯な瞳を真っ直ぐに向けられて、マリアローゼはへにゃりと笑った。
こんなに大事に思ってくれる人が、側にいるのに寂しいだなんて、冒涜だわ。
「領地に行くのが少し寂しいと思っていたのだけれど、ルーナが一緒だから大丈夫ですわ」
「はい。ずっとお側におります」
そこへノクスが戻って来た。
そして、ルーナとマリアローゼを見て、不思議そうな顔をしたが、ぺこりと会釈をする。
「マリー様の様子を見てきました。既にジェレイド様の手配で馬車に乗せられており、馬車の中で寛いで、眠っておいででした」
「ふふっ」
マリアローゼは思わず笑い声をたてた。
そして、ルーナの手を引いて立たせる。
「マリーちゃんはマスロから一人で旅立つのに豪胆なのね。わたくしも見習わないと…」
二人を並べてから、きゅっと両手を広げて二人いっぺんに抱きしめてマリアローゼは微笑んだ。
「わたくしには二人がついているのだから」
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