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連載
社交界からの追放
しおりを挟む「お名前は何と仰るのかしら?」
「お初にお目にかかります、フィロソフィ公爵夫人。わたくしはデイジー・テララと申します」
あれだけの醜聞を聞かされたというのに、まだ持ち直せると思っているのか、にこにことデイジーはお辞儀をした。
「お庭も凄く素敵ですし、御子息様達も皆さん素敵ですわ。わたくしなら、どの御方でも婚約できます」
マリアローゼとシルヴァインを始め、その場にいた夫人方全員がぎょっとしたのは言うまでもない。
その言葉を聞いて、ミルリーリウムはふふっと優しい笑顔を浮かべた。
「まあ、お褒め頂いて嬉しいわ。テララ夫人、活発なお嬢様でいらっしゃいますのね」
「……あ、いえ、その…………はい…」
優しい微笑を浮かべているが、こんな事を言われて怒らない人はいないだろう。
身分の差を弁えない、大変な侮辱である。
それがわからないテララ夫人ではないので、言訳出来る言葉すら出てこないのだ。
マリアローゼは不思議に思っていた。
何故きちんとした教育を受けていないこの子を、お茶会に同伴できたのだろう。
自殺願望……?それとも深く考えていなかったのかしら……?
「でも、暴力はいけませんわね。公爵家としては、使用人を守る義務もございますもの」
「あ、……娘には重々言って聞かせますので、どうか」
テララ夫人が言訳をしている最中に、デイジーは追い討ちをかけた。
「たかが使用人を子爵令嬢のわたくしが傷つけても問題ありませんわよね、お母様。
だいたい、その相手はこのみっともないステラですもの」
「わたくしの使用人を侮辱するのは許しませんことよ」
ステラの手をぎゅっと握って、マリアローゼは毅然とした態度でデイジーを見詰めた。
デイジーはまさか、否定されるとは思わずに、吃驚した顔でマリアローゼを見返す。
「あらあら、本当に教育が足りておりませんのね。公爵家の使用人より、子爵令嬢の方が偉い、だなんて」
更に言われて、デイジーはぽかん、と口を開けたままミルリーリウムを見た。
普段穏やかな公爵夫人の、笑顔の圧で言われる言葉に、居合わせた夫人達も心なしか青褪める。
「公爵家の使用人は、公爵家の権力によってその身分を保証されておりますのよ。
もし貴女がその使用人達へ横暴な態度と暴力を行使するなら、今後一切我が家にはお呼び出来ませんわ」
それは、公爵家出入禁止の通達である。
顔色を悪くした子爵夫人が、尚も食い下がる。
「それは、どうか…」
「申し訳ないのですけれど、わたくしは息子達も娘も何より大事にしておりますの。
娘は優しい子ですのよ。自分の小間使いが怪我をしたら心を痛めますの。わたくしは親ですもの。
子供の心と身体を守るのが親の務め、貴方にもお嬢様がいらっしゃるのですから、分かって頂けますわね?」
優しいけれど、反論を許さない理詰めである。
マリアローゼはハッとして、ステラの手を掴むとさささっとシルヴァインの後ろに隠れた。
こういう時、無防備でいると突然最後の手段で、何故か襲い掛かってくる人もいるのだ。
「さあ、お帰りになって?娘が脅えていますわ」
シルヴァインに庇われたマリアローゼとステラを力なく見て、子爵夫人はゆらりと立ち上がった。
そして、デイジーの手を引いて帰っていく。
「どうして?お母様」
と言う声が何度も聞こえて、マリアローゼは遣る瀬無い気持ちになるのだった。
どう考えても、あれは育てたように育ってしまった悪い例で、デイジーも被害者といえるかもしれない。
いつの間にか涙を流していたステラが、搾り出すような声で謝罪する。
「申し訳ありません、お嬢様…」
「貴女が謝ることではありませんわ…それより、今まで辛かったですわね。さ、治癒師の所へ参りましょう」
マリアローゼは婦人方にお辞儀をしてから、改めてステラと手を繋いで、マリクの部屋へと歩いて行った。
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