【完結 R18】忌み子のたぬき獣人は双子銀狼獣人の偏愛包囲網のなか ~人生あきらめてましたがこんな愛され方は想定外です~

鳥海柚菜

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第二章 グラナイダの二人の銀狼

9.選ばれた者と選ばれなかった者 ①

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「ミイナ!元気そうでいが……っ」
「……近づかないでよ、罪人が!」

 扉を開いた瞬間、ミイナは手入れをしていた白い髪から手を離しぱっと笑顔を見せたが、訪問者がナハヤだと知ると明らかに嫌悪した表情になった。

「ミイナ……?」
「悪魔の薬を作っていたアンタの身内だってだけで肩身が狭いんだから近づかないで!」

 ドレッサーのすぐ隣にあるベッドの上のクッションが投げつけられる。振りかぶられた手を見て、咄嗟にしゃがみ込んだナハヤの頭に、バシンと当たった。ふかふかだから別に痛くはない。
 けれどナハヤはミイナに怒鳴られたのが怖くてビクビクと小さくなる。

「ご、ごめんだ……だどもわし、ミイナのことが心配で……体はだいじょぶだか?」
「アンタに心配されなくても結構よ」

 ツンとそっぽを向いたミイナは、確かに最後に見た時よりも明らかにふくよかになっていた。細かった頬は丸みを帯びて愛らしく、青白かった頬も薔薇色に輝いている。キラキラとした雪のように白い髪はもつれたところもなく絹のようで、唇は健康的に赤い。
 ほっとナハヤは息を吐いた。

「いがった、もう発作は起きてなさそうだっちゃ」
「ねえ!その田舎者丸出しの喋り方やめてよ。ここ、グラナイダの本家なのよ?恥ずかしいったらないわ。何回教えてあげたと思ってるの?」
「あ……、ご、ごめん……」

 ミイナは村長の家で色々と教育を受けていたからナハヤよりも色々なことを知っている。綺麗な言葉の使い方、綺麗な所作、体を綺麗にする方法、たぬきらしい化かし方、誘惑の言葉の使い方。
 でもナハヤはどれもろくに覚えられなかった。
 野山の木の実や薬草ならすぐわかるのに、頭がいいと皆が誉めそやすことは一つもできない。
 ミイナはいつもため息を吐いていた。おねえちゃんと優しい声でお願いするとき以外。

「お、お医者さまに、みで、診てもらった?いつも朝になると苦しい、動けないからお勤めは無理って……」
「うるさいわね、ここは寒くないから平気よ!医者もいらないわよ!」
「そう!よがった!あん寒さが悪かっただ!ああよかったぁ」
「もう黙ってよ!余分なこと言わないで!病弱だったって知られたくないの、今せっかくいい感じなのに!」
「ご、ごめん……」

 ぱあっと顔を輝かせたナハヤに、ミイナが目を釣り上げる。たぬきなのにミイナは目がとんがるととても怖い顔になる。ナハヤはぴゃっとまた頭の上の耳を覆った。

「出てってよ、もう!」
「あ……そ、そうだ。く、薬はもういらんだとも、もしも……あの、なんかこの先、食うに困ることがあったらいかんと思って…」
「は?」

 それでもナハヤは、浴衣の合わせからミイナに巾着を差し出した。

「これ……、もらった飴。長く持つから、非常食に……って。私、刑がされたら、もう、守ってあげられないから……少しずつ溜めといた方がいい。ちょっとずつ、ちょっとずつ、もしもに備えた方がいい」
「は?アンタなんかのおこぼれいるわけないでしょ」
「あの、ミイナは何でもすぐに食べてしまうけども、私がいないとすぐに渡してあげる人がいなく……」
「うるさいわね!私の今の状況を見て、そんなみみっちいものいるわけないってわかるでしょっ!」
「……これ、とってもおいしいよ?」
「そういうことじゃないわよ、愚図!」

 ばしん!と弾かれた。ばらばらと床に色とりどりの飴が散らばる。
 ナハヤは困った顔になった。
 ミイナは北たぬきの習性の”溜め込み”ができない。困ると泣きながら、全部ナハヤに取ってきて、頂戴、と言ってきたのだ。ナハヤは冬の山で何も取れないことを知っているから、いっぱいにミイナの分も溜め込んできたけれど、自分がいなくなったらミイナはどうする気なのだろう。

 けれど、その答えはミイナ自身が持っていたらしい。

「もういいの。アンタなんかのものなんていらない。私はここでたくさん新しくもらえるんだから」
「あたらしく、もらえる?」
「そう。見て、この部屋。すごく快適なの。あんな薄汚れた茣蓙に煎餅布団なんかじゃない。ふかふかのベッドにお化粧の道具もたくさん。ごはんもたくさん来るわ。服だってこんな素敵なもの。アンタのみすぼらしい浴衣とは違うの。だからみみっちく溜め込むなんてこともうしなくていいの」
「………そ、そうだが。でも、それがずっと続くとは限らない。だから備えて……」
「はぁ?続かせるのよ。そのために必死なの!わかる?犯罪者のアンタは邪魔なの!」
「……はんざいしゃ。うん。そうだが……、そうだね」

 指摘される事実に、しょんぼり、とナハヤは肩を落とす。ミイナが指で外を示し、きぃきぃと甲高く叫んだ。

「とにかく早く出てって!私は巻き添えくらいたくないの!関係ないんだから!私は何もしてないんだから!」
「……ん。ミイナは何もしてない。悪くない」
「そうよ、全部アンタがやったことなんだから。連座なんてたまったものじゃない。最初からいなかったわ、おねえちゃんなんて。こんな見窄らしいのが一緒に生まれてきたなんて恥ずかしい。いなくなるなら、せいせいするわ」
「………ん、そうか。なら、いがった……うん……」
「もう来ないでよね!」
「ん……そうじゃな。……あの、ミイナが元気になって、最後に、会えてよかった」

 その言葉は心からのものだ。けれど、ミイナは心底馬鹿にしたように笑う。

「なにその、うすら寒い言葉。偽善者のくせに」
「……ん、そだな。あの、ちゃんと、アル様にもバル様にも連座なんてしないでってお願いするで、安心してな……二人は優しいから大丈夫だと思うけど」

 ナハヤは、床に散らばった飴を拾い上げ、そうつぶやいてから出て行こうとした。

「……なんでアンタがお二人を愛称で呼ぶのよ?」
「ぇ?」

 けれど、突然、ミイナの声が金切り声から唸るようなものに変わった。ミイナが心の底から腹を立てているときの音に、ナハヤはぎくりとして振り返る。ただ、わあわあとわめいているだけの方が可愛いものなのだ。

「なんで、アンタが、呼ぶの?」
「……ぇ、ぁ、だ、って、そう、しろと言われ……」
「はぁっ?!」
「きゃんっ!」

 ミイナがドレッサーの前から勢いよく立ち上がって、ナハヤの肩にかかる三つ編みの一つを掴んだ。ミイナはナハヤよりも小さい。だが、ナハヤはミイナが時折上げる手に対抗する術がない。だってのだから。

「なんで、アンタがっ、罪人のくせに!悪魔のくせに!汚いくせに!」
「う、あ、ご、ごめんなさ……ごめんなさいっ」

 容赦なく降り注ぐ拳と爪に、ナハヤは頭を抱える。ミイナの力はそう強くないが、威圧的な言動と過去の振る舞いに恐れをなしているナハヤはそれを耐えるしかない。のしかかられて肺が圧迫されるうえ、髪がぶちぶちと抜けて痛い。

ナハヤ泥団子のくせに!!私には許されてないのに、どういうつもりだっ!!」
「う、う……っ」
「いい加減にしろ」

 殺気立ったミイナの振る舞いを止めたのは、アルベルトだった。
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