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番外編

幸せな事件

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 ■


 十五分後、真樹を昼寝から起こすと、彼はぼんやりと自分の両手を眺めていた。
 寝惚けているのだろうか。隣に座り、頬にキスをするけれど反応が無い。


「真樹?」
「……何?」
「何か変な夢でも見た?」
「……秘密」


 何故だか複雑そうな表情をしている。


「大丈夫?」
「大丈夫」


 勢いよく立ち上がった真樹は、キッチンで水を飲んでからトイレに行った。
 ブランケットを畳んでいると、後ろから抱き着かれて頬にキスをされる。


「さっきキスしてくれたお返し」
「気付いてたのか。ぼんやりしてたから気付いてないのかと……」
「さすがに気付くよ」


 くすくす笑う彼に、今度は口にしてくれと言うと、直ぐにその通りにキスをしてくれた。
 可愛い。俺の、俺だけの大切な人。


「今日の晩御飯、何にしよっか。」
「真樹は何が食べたい?」
「んー……鍋?」
「何鍋?」
「キムチ!」


 キムチ、あったっけ。
 キッチンに行くと後ろからついてきた真樹が、俺の腰に腕を回してくっついたまま離れない。


「キムチあるな。素も置いてるし、キムチ鍋にするか。」
「やった!」
「まだ用意するまでに時間あるな……何かする?」
「結婚式の事考える」
「あれ、ネズミーランドに行きたいからハワイにするってやつは?」
「それは、そうなんだけど……」


 何かを言い淀む様子を不思議に思いながらも、真樹にも何か考えがあるようだし、深く詮索されるのは嫌だろうと思ってやめた。
 しばらくは真樹の好きなようにしていればいいし、考えが纏まらないなら、多分いつか話してくれる。


「納得するまで悩んで」
「凪さんは悩まないの?」
「真樹がしたい事をしているのが、俺の幸せ。」
「なーにそれ」


 笑われたけれど、これは間違いなく本音である。
 テーブルの席に座った真樹がパンフレットを眺めだした。
 まだまだ悩むんだろうなと思って、またコーヒーをいれて真樹の傍に置いておく。


「ねえ凪さーん」
「何?」
「前に発情期きたの、いつだっけ?」
「一ヶ月と少し前、とかか?」
「そっか」


 うーん、と唸った真樹がスマートフォンを手に取る。


「何かあった?」
「あ、いや……結婚式と発情期が被らないようにしないとなって。」
「そうだな……。まあ、次の発情期は問題無いよ。実際式を挙げられるのはまだまだ先だ。」
「うん。」


 カレンダーを見ているのか、真樹は眉間に皺を寄せて、スマートフォンを持っていない左手は口元に置いている。

 仕事をしている時、真樹はいつもこういう表情をしているんだろうか。
 真剣な顔付きだ。もともと顔が整っていることもあって、真顔でいると少し怒っているようにも見える。

 手を伸ばして、ムニッと頬を軽く抓ってみた。
 目線をスマートフォンから俺に移した彼が、眉間の皺をそのままに「何?」と聞いてくる。


「ごめん。真剣だったから、つい。」
「真剣なんだから邪魔しないで」
「はい。ごめんなさい」


 手を離すとまたすぐにスマートフォンに視線を落とす。
 起きてからずっと、何をそんなに真剣に考えているのか気になった。

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