上 下
204 / 208
番外編

愛しい子

しおりを挟む

 お腹が大きくなって、予定日に近づいてきたある日の真夜中の事。
 体の異変に気がついて目が覚めた。

 ここ最近、お腹が張る感覚や時折痛みがあって、もしかして陣痛!?と思っていたのにいつの間にか無くなったり。

 けれどなんとなく、今回のは違うと思って、心臓をバクバクさせながら、慌てて寝ている凪さんの肩を揺らす。


「ん、真樹……?」
「っ、痛い、お腹……っ」


自分のお腹を抱えるようにすると、凪さんは飛び起きて俺の体を擦る。


「今痛くなったばかり?」
「ん、今、痛くて起きた……お腹痛い……」
「わかった。痛みが落ち着いたら教えてね。一緒にいるからね」


 そうして彼にお腹をさすられてしばらく、痛みが治まってベッドに寝転がる。
 水を持ってきた彼にそれを飲まされた。
 治まったとはいえ、痛かったおかげでどっと疲れた。


「凪さん、手握って」
「うん。いつもの痛みと違う感じがする?」
「なんか……うん。思い違いかもしれないけど……」
「もしかしたら産まれるのかもしれないね。体勢苦しくない?」
「大丈夫……」


 ぎゅっと凪さんの手を握る。
 段々と不安な気持ちが大きくなってきた。
 それが彼には伝わったようで、眉を八の字にして見つめてきたかと思うと、優しく頭を撫でてくれる。

 凪さんと話をして暫くすると、続けて痛みが襲ってきては治まり、悶えては脱力する。
 その間隔が短くなってきて、凪さんを見上げるとスマートフォンを手に取っていた。



「病院に連絡してくるよ。」
「ここにいてっ、怖い……」
「うん。ちゃんと傍にいるよ」


 いつの間にか溜まっていた涙が零れ、彼はそれを拭うと病院に連絡をしてくれる。
 病院からは「来てください」とだけ言われ、凪さんに支えられながら家を出て車に乗った。






 病院に着くと陣痛室に入れられて、そこでまた痛みと戦う。
 凪さんが手を握ってくれたり、腰を押してくれたり、そうして俺を励ましてくれて、気がつけば朝の七時。
 ようやく分娩室に入って台に乗った。


「っ、ぁ、痛い、痛い……っ!」
「真樹、もうちょっとだからね、頑張って!」
「うっ、ぁ、あぅぅ……っ」


 痛くて、辛くて、苦しくて、彼に励まされながら、先生の合図で息んで──ある時フッと体が楽になった。


 凪さんが泣いて俺の手を強く握る。
 放心しながら、彼を見ていると聞こえてくる赤ちゃんの泣き声。



「え……」
「真樹、真樹!男の子だ!」
「……赤ちゃん……ぁ、赤ちゃん、うまれた……!」



 隣に寝かされた赤ちゃんを見て、涙がとめどなく溢れる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

本当はあなたを愛してました

m
恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,373pt お気に入り:218

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:44,673pt お気に入り:35,285

彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14,356pt お気に入り:107

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:1,874pt お気に入り:2

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,647pt お気に入り:1

モテたかったがこうじゃない

BL / 連載中 24h.ポイント:1,334pt お気に入り:3,854

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:24,993pt お気に入り:11,875

スパダリ社長の狼くん【2】

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:95

処理中です...