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転生者は木と成り杖となる
22話 「討つ」復讐の戦士ノエル
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ドワーフの王国は、火と鉄の匂いに満ちている。
昼夜を問わず燃え続ける炉。
絶え間なく響く槌音。
それがこの国の鼓動だった。
だがその日、城下に漂う空気は重かった。
南境からの敗報。魔王軍四天王の一角、《幻策将グリモル》の侵攻。
さらに王都から届いた召集令が、国の誇りに影を落とす。
王子レオンハルトの名による軍務命令。
副団長ノエルの名も、そこに記されていた。
全身を覆う重厚な白銀のフルプレート。
背には己の背丈を超える大剣と大盾。
小柄ながら、前衛として幾度も戦線を押し上げてきた実力者。
その前に立ちはだかったのは、壮年の男だった。
軍団長戦士ドリー。
鍛冶も戦も一流。
義を曲げぬ鉄の男。
「お前は残れ」
低く、揺るがぬ声。
ノエルの視線が鋭くなる。
「召集令です。副団長として従います」
だが父は首を振った。
「命令は受ける。行くのは俺だけだ」
一瞬、炉の火が遠のいたように感じた。
「私は、役不足ですか」
わずかに滲む悔しさ。
それでも涙は見せない。
「他国の王子の要請だ。俺一人で充分だ」
それだけ言い残し、重斧を背負い直す。
鋼の背中が門へ向かう。
その歩みに迷いはなかった。
生きて戻れぬと悟っている者の、覚悟の歩みだった。
ノエルは追わない。
それでも、誰にも届かぬほど小さな声がこぼれた。
「……戻ってきて」
――――――
南境は霧に閉ざされていた。
味方の陣形が歪む。
距離が狂う。
視界が裏切る。
《幻策将グリモル》。
正面からは来ない。
混乱と分断で敵を削り、孤立させて討つ。
ドリーは斧を振るった。
重く、速く、正確に。
崩れかけた前線を押し戻し、仲間を守りながら霧の奥へ踏み込む。
幻影を斬り裂き、本体へ迫る。
だが、その一瞬。
霧の裏から放たれた魔刃が、死角を穿つ。
幻と現実が交錯する軌道。
避けられぬ角度。
斧が砕け、鎧が裂ける。
倒れながらも、彼は退かなかった。
最後まで盾となり、隊列を守った。
「……隊列を崩すな」
それが最期だった。
――――――
数日後
砕けた斧と血染めのマントが戻る。
ノエルは無言で受け取る。
王子の召集に応じた結果だ。
ノエルは無言でそれを受け取る。
拳が鎧の中で軋む。
命令は正しかったのか。
戦死は名誉なのか。
答えは出ない。
だが一つだけ、揺るがぬものがある。
仇は、魔王軍四天王の一人《幻策将グリモル》。
その時、城門で一部始終を見ていた旅人たちの中に、異質な光を見つける。
聖剣の輝き。
勇者だった。
ノエルは歩み寄る。
重装の足音が石畳を震わせる。
「魔王軍四天王を討つのか」
勇者は真っ直ぐに頷いた。
「討つ」
迷いのない声音。
それだけで十分だった。
ノエルは大剣を抜く。
白刃が空気を裂く。
踏み込みは雷光のように速い。
三度の斬撃が城壁を抉り、石片が弾け飛ぶ。
小柄な体に似合わぬ膂力。
しかし無駄のない動き。
攻めながら守る、前衛の理想形。
剣を収め、勇者を見据える。
「私は盾だ。だが守るために立つのではない」
一拍置き、静かに告げる。
「《幻策将グリモル》の首は、私が取る」
勇者はその目を見て、わずかに笑った。
「よしなら、一緒に来るか」
差し出された言葉は、力強く優しかった。
ノエルは迷わない。
「共に戦わせてください」
横でソフィアが明るく笑う。
歓迎の空気が自然と生まれる。
こうして、戦士ノエルは勇者パーティの盾となった。
遠く王都では、王子が兵の配置図を睨んでいる。
一万の兵。
包囲。
奪還。
彼はまだ知らない。
自らの召集が生んだ死が、
勇者パーティに最強の前衛を与えたことを。
炉の火が、再び強く燃え上がる。
城門を背に歩き出す勇者たちの上空で、白銀の翼が大きく弧を描く。
遠く、高く。
イカロスが旋回している。
鋼の盾を得たことを祝福するように。
あるいは、近づく戦火を知っているかのように。
その影が一瞬、ノエルの鎧をかすめた。
昼夜を問わず燃え続ける炉。
絶え間なく響く槌音。
それがこの国の鼓動だった。
だがその日、城下に漂う空気は重かった。
南境からの敗報。魔王軍四天王の一角、《幻策将グリモル》の侵攻。
さらに王都から届いた召集令が、国の誇りに影を落とす。
王子レオンハルトの名による軍務命令。
副団長ノエルの名も、そこに記されていた。
全身を覆う重厚な白銀のフルプレート。
背には己の背丈を超える大剣と大盾。
小柄ながら、前衛として幾度も戦線を押し上げてきた実力者。
その前に立ちはだかったのは、壮年の男だった。
軍団長戦士ドリー。
鍛冶も戦も一流。
義を曲げぬ鉄の男。
「お前は残れ」
低く、揺るがぬ声。
ノエルの視線が鋭くなる。
「召集令です。副団長として従います」
だが父は首を振った。
「命令は受ける。行くのは俺だけだ」
一瞬、炉の火が遠のいたように感じた。
「私は、役不足ですか」
わずかに滲む悔しさ。
それでも涙は見せない。
「他国の王子の要請だ。俺一人で充分だ」
それだけ言い残し、重斧を背負い直す。
鋼の背中が門へ向かう。
その歩みに迷いはなかった。
生きて戻れぬと悟っている者の、覚悟の歩みだった。
ノエルは追わない。
それでも、誰にも届かぬほど小さな声がこぼれた。
「……戻ってきて」
――――――
南境は霧に閉ざされていた。
味方の陣形が歪む。
距離が狂う。
視界が裏切る。
《幻策将グリモル》。
正面からは来ない。
混乱と分断で敵を削り、孤立させて討つ。
ドリーは斧を振るった。
重く、速く、正確に。
崩れかけた前線を押し戻し、仲間を守りながら霧の奥へ踏み込む。
幻影を斬り裂き、本体へ迫る。
だが、その一瞬。
霧の裏から放たれた魔刃が、死角を穿つ。
幻と現実が交錯する軌道。
避けられぬ角度。
斧が砕け、鎧が裂ける。
倒れながらも、彼は退かなかった。
最後まで盾となり、隊列を守った。
「……隊列を崩すな」
それが最期だった。
――――――
数日後
砕けた斧と血染めのマントが戻る。
ノエルは無言で受け取る。
王子の召集に応じた結果だ。
ノエルは無言でそれを受け取る。
拳が鎧の中で軋む。
命令は正しかったのか。
戦死は名誉なのか。
答えは出ない。
だが一つだけ、揺るがぬものがある。
仇は、魔王軍四天王の一人《幻策将グリモル》。
その時、城門で一部始終を見ていた旅人たちの中に、異質な光を見つける。
聖剣の輝き。
勇者だった。
ノエルは歩み寄る。
重装の足音が石畳を震わせる。
「魔王軍四天王を討つのか」
勇者は真っ直ぐに頷いた。
「討つ」
迷いのない声音。
それだけで十分だった。
ノエルは大剣を抜く。
白刃が空気を裂く。
踏み込みは雷光のように速い。
三度の斬撃が城壁を抉り、石片が弾け飛ぶ。
小柄な体に似合わぬ膂力。
しかし無駄のない動き。
攻めながら守る、前衛の理想形。
剣を収め、勇者を見据える。
「私は盾だ。だが守るために立つのではない」
一拍置き、静かに告げる。
「《幻策将グリモル》の首は、私が取る」
勇者はその目を見て、わずかに笑った。
「よしなら、一緒に来るか」
差し出された言葉は、力強く優しかった。
ノエルは迷わない。
「共に戦わせてください」
横でソフィアが明るく笑う。
歓迎の空気が自然と生まれる。
こうして、戦士ノエルは勇者パーティの盾となった。
遠く王都では、王子が兵の配置図を睨んでいる。
一万の兵。
包囲。
奪還。
彼はまだ知らない。
自らの召集が生んだ死が、
勇者パーティに最強の前衛を与えたことを。
炉の火が、再び強く燃え上がる。
城門を背に歩き出す勇者たちの上空で、白銀の翼が大きく弧を描く。
遠く、高く。
イカロスが旋回している。
鋼の盾を得たことを祝福するように。
あるいは、近づく戦火を知っているかのように。
その影が一瞬、ノエルの鎧をかすめた。
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