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04 (e)VAC(u)ATION
12 Vesta (行動開始)
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あたたかさと窮屈さで目を覚ますと、バルの左腕と脇腹が俺の体をすっぽり包んでいた。まだ薄暗い。それとも天気が悪いのかな。目の前にバルの頬からあごのラインが見える。
昨日のこと、ほんと? まだ信じられない。バルのことだから、俺がねぼけてバルのベッドに入ってもめんどくさがってそのまま一緒に寝そう。
バルの腕が痛そうだから、そっと体を起こして腕をバルに寄せる。もう一度隣に入ってその手に指を絡める。あたたかい。幸せ……。
微睡んでいると、一階の音が聞こえてきた。誰かがやってきて、おばさんと話をしている。何か言い争っているような。こんな朝早くに? ブリングを見る。6時10分。
「何かあったな」
バルのぴりっとした声。
「ヴェスタ。荷物をまとめろ」
……一気に現実に引き戻される。すぐにバッグに荷物を詰めて、音を立てずに廊下に出た。
「そんな子はいないって言ってるだろ」
おばさんの叱りつけるような声が聞こえた。
「でもですね、参考人のレプリカントのブリングがここにあるのは確かなんです」
レプリカント? 俺?
「来い」
バルが裏に抜ける階段を通り、裏口から出てエアバイクに乗る。
参考人? バイクは飛ぶように森を抜けてエアランナーのところに着く。操縦席に座って離陸準備。
「どこに行く?」
「何もしてねえのに出頭すんのは癪だ」
とりあえず飛び上がる。家の方向へ。
「エアバイクは大丈夫?」
「停車場所を知らせる。おばちゃんにもあとで謝んなきゃ」
俺のブリングのことを言っていた。
「お前のブリングを位置探索されたな。まさかそこまで……」
「バルはどうしてるの?」
「俺が許可したやつからしか探索できないようにしてる」
ちゃんと設定を見ればよかった。
「ごめん」
「いいさ。俺もうかつだった」
オートに入ったのでブリングをチェックする。殺人事件。金持ちだけどあまり有名じゃない被害者。
オットー・ベルナール。資産家。86歳。でも写真は若い。20台の半ばに見える。お金持ちだとみんな年齢調整してるんだね。
そういえばアラスターもそろそろ年齢調整した方がいいかなって言ってた。俺はアラスターを見て、歳をとるのは素敵だなと思った。どんな人なのか、顔そのものや表情に表れてくるんだと。
「年齢調整って、薬を飲むとみんな20代くらいになるの?」
「なんだ急に。いや、年齢調整は調整を始めた時の外見をキープするだけ。たまに5歳10歳若返って見える人もいるらしいけど。本当に若返るのはそれこそ遺伝子治療とか、外科手術になる」
「どうして遺伝子操作を受けると若返るの?」
「若返るってか、成長の最高点の状態に再生するんだな。だから俺はこの見た目のまま」
何かが頭の中をこすっていった。ずっと引っかかっていた。
壁に書かれた文字。DIE YOU PIG。豚。ハイブリッドが豚の子と呼ばれるのなら、豚は………。
「……じゃあ、遺伝子操作の年齢治療を受けた人たちが殺されてるんじゃないの? この殺された人たちは、若返ってる……だろ? 86歳だよ。年齢調整の薬が出た三十年前でも50代だったはず」
「なるほど。そうかも知れないな……」
「アルミスとテナーは気づいているのかな? どうする? 出頭して教えてあげる?」
「やだね。局に行こう」
「ふふ。出勤?」
「そう。絶滅危惧種だからって捕まってやる義理はない」
エアランナーを返して局に着く。結局昼近くなった。入るとナツナが寄ってきて声をかけた。
「バル、連邦捜査局から照会が来た。あんたのこと」
「知ってる。参考人になっちまったみたいだな」
「位置探索切ってたでしょ? 局長がそれに怒ってる」
「わかった」
事件を改めて見てみる。一人目がデイノス・フォルトバーグ。78歳。俳優。最近の写真でも若い。刺殺としかニュースには載っていない。
でも想像はつく。彼が遺伝子操作を受けた一世代目だとしたら、再生能力があるから、心臓をひとつきにしたか何かで一気に出血させたんだろう。防犯カメラ完備、SPだっている家にどうやって?
次が資産家のオットー・ベルナール。これも刺殺。こっちも警備が入ってなかったとは思えない家。
「現調の画像がほしい」
「やっと本腰だ」
「休暇中だぞ。別料金だって連邦捜査局に言っとけ」
言ってみよう。ザムザにコールする。
「ザムザ」
『ヴェスタ! 帰ってきたのか? お前ら逃げただろ』
ザムザは笑っていた。
「逃げたよ。あれは酷いだろ。あのさ、現調の画像とか見れないかな」
『それは無理だな。俺たちのケースじゃないもん。あの壁の落書きの画像だって、ほんとはお前らに送れないんだぜ』
「うーん……」
『……そうだな、例えば……例えば、この事件にレプリカントが関わってるかも知れなかったりしたら……』
「ん?」
『これ以上は察してくれよ。バルトロイに言ってみな』
「よし。それで行こう」
後ろで聞き耳を立てていたバルがにやっと笑った。連邦捜査局に照会をかける。関係者の一覧の請求。
「俺たちからこの照会が来てどう思うんだろうな」
「局に押し掛ければ捕まえられると思うと思うな」
「じゃあ出よう。公用車回しておく」
すぐに一覧が届く。氏名をこっちのデータと照合すると何人かのレプリカントが混ざっている。
「よしよし。あとは車の中で考えよう」
駆け足で車に乗る。まずはデイノスの家。二つの事件の関係者の一覧を見比べてみても、共通点はない。
「こういう警備がちゃんと入ってる家に入り込めるってどんな人?」
「普通に考えれば内部の人間。でなきゃ、よく知ってる人。保安関係者……SPが被ってたりすりゃよかったんだけど……」
「何を知ってればいいの?」
「仕組み? 死角? 構造…かな」
「バルはこれがハイブリッドの人の仕業だと思う?」
「うーん……」
最初のメッセージ。TRY TO KILL ME I'M HYBRID。殺してみやがれ、俺はハイブリッドだ。これのせいで犯人はハイブリッドだと思われた。次のメッセージ。DIE YOU PIG。死ね、豚。
「メッセージはハイブリッドっぽいな。豚って使うあたり」
そう。それに、この手際の良さ。バルを見てればわかるけど、遺伝子操作を受けて再生能力が上がってる人を死なせるのはなかなか大変だ。傷が治る前に絶命させないといけない。犯人はだから、よく知ってるってことになる。どう殺さないといけないのかを。
もう一つ引っ掛かりがあるけど、なんだか見えてこない。豪邸の前に着く。
「アポイントメントはございますか?」
「ありません。殺人事件について捜査に来ました。レプリカント人権捜査局の捜査官です」
だめかな? と思ったけど、意外に門が開いた。アンドロイドが出てきて先導する。キープアウトのライン。まだ血まみれの部屋。
「臭い」
バルが露骨に顔を顰める。
「血?」
「いや……」
部屋の中。例のメッセージ。思ったより血が出ていない。バルが刺された時は水溜りみたいに血が流れたのに。
「本当に心臓をひとつきにすると出血はあまりしない」
バルが遠巻きに血溜まりを見る。
「部屋の中にはカメラはないな」
見ていると、綺麗な女性が部屋のドアを開けた。
「連邦捜査局の?」
「我々はレプリカント人権保護局です。A492090rpとC571098rpです」
「あら。いろんな人たちがいるのね……」
どうやら間違って入れてくれたらしい。
「少しお話を伺ってもよろしいですか?」
彼女は被害者の今の妻だった。四人目。警備は万全だったはずだった。カメラは屋敷内には通路にしかないが、外側には死角がないほどにある。SPも常に二人が屋敷の中にいて、被害者かその家族がコールすれば飛んでくるようになっている。
犯人は外のカメラには映っていた。黒っぽいフード付きのマントのようなものを着て、換気口から入り込み、直接被害者の部屋の通気口に出たようだ。
「泥棒?」
「泥棒ならメッセージなんか残さないだろ。盗んだのがバレない方が都合がいいんだ。小説の怪盗じゃないんだから」
でもプロの泥棒みたいによく知っている。バルくらいの体格の男が通気孔を通れるなんて思わない。
「これくらいの規模の家ならそうかも。でも思いつかないな……」
だからハイブリッドの保安職が怪しまれた。そういう手口に詳しいやつ。
「どうにも変な匂いがする。出よう。ここでモタモタしてるとあいつらまで来ちまうかもしれない」
女性にお礼を言って次の現場に行く。オットー・ベルナール。デイノスの家から2ブロック離れただけの家だ。こっちも豪邸だが、デイノスの家と趣が違う。ごてごてしていて古い。
「旧家って感じだな」
「しさんかって何する人?」
「んー、お金でお金を増やすのが上手い人」
「ふうん」
こちらもすんなりと中に入れてくれた。捜査官と聞くと連邦捜査局と混同されるのかな?
「ここもすごい匂いがする」
血溜まり。壁の文字。きんきらの部屋。
におい。俺には血の匂いしかしない。
「なんのにおいだろうな。知ってるんだけど……思い出せない」
ここもダクトから入られている。
「あの合羽みたいな服は汚れないようにか。考えるね」
ダクト。通気孔。そんなもの、保安関係で知ってる? むしろ……
「レプリカント人権保護局さんですか?」
40代くらいの男性が現れた。被害者の息子。よく似ている。被害者の方が見た目が若いから、こっちが父親のようだ。
「レプリカントなんていましたか?」
「はい。お宅のメイドさんとSPの一人がレプリカントですよ」
「え? いや、そうでしたか。派遣会社に任せてるもんで、それは知らなかった。そんなにいるものなんですね。みんなヒューマンだと思っていた」
そんなことあるんだ。雇い主が知らないなんて。レプリカントなんてどこにでもいると思ってたけど、そうでない人もいるんだ……。
また何かが頭を撫でていった。俺はレプリカントがどこにでもいて珍しくもないと思ってる。だって実際に、俺の周りにはたくさんいたから。俺自身もそうだから。違和感。最初からバルに感じていた違和感。
「……バルは、他にもハイブリッドの人を知ってるんじゃないの?」
「え? ああ。今まで二人くらい知ってる。そんなに珍しくもないって言っただろ?」
そう。そうなんだよね。
「ザムザは、バルが生まれて初めて会ったハイブリッドだって言ってた」
それで俺もバルの貴重さにやっと気がついた。ほんとは救急搬送された病院で受け入れ経験がないって聞いた時に気づいてないといけなかった。
「……バルはさ、ハイブリッドがどのくらいいるか知ってる?」
「ん? 結構いるんじゃねーの?」
これだ。バルの奇妙なくらいの余裕。そりゃ、やってないんだから捕まるわけないって言うのは正論だけど、ハイブリッドの少なさを考えると、そんな場合じゃない。ザムザとバルのおかしな認識の乖離。
「どうしてそう思う?」
「だってそんなに少ないか? 言わないだけだろ?」
「ねえバル、ザムザが教えてくれたんだけど、ハイブリッドはこの街に100人くらいしかいないんだって」
「……え?」
「12400人にひとり。バルの周りにはハイブリッドの人がいたから特別じゃないと思っちゃったんだね……。その人たちに会いに行こう? 犯人とは限らないけど、他にハイブリッドの人を知ってるかもしれない」
「もう連絡も取ってねえよ? 名前もフルネームは覚えてない。一人は施設で会ったやつだし、もう一人はアカデミーで同じクラスを取ってただけだ」
「うーん……」
「それよりもこのにおいだな。ここでの事件がおととい? 1件目よりだいぶ匂いが強い。これが犯人の匂いなら追えるかも知れない」
「ほんと?」
「うん。でも他でもかいだことあるんだな……」
「バルってい……」
「犬って言うな」
昨日のこと、ほんと? まだ信じられない。バルのことだから、俺がねぼけてバルのベッドに入ってもめんどくさがってそのまま一緒に寝そう。
バルの腕が痛そうだから、そっと体を起こして腕をバルに寄せる。もう一度隣に入ってその手に指を絡める。あたたかい。幸せ……。
微睡んでいると、一階の音が聞こえてきた。誰かがやってきて、おばさんと話をしている。何か言い争っているような。こんな朝早くに? ブリングを見る。6時10分。
「何かあったな」
バルのぴりっとした声。
「ヴェスタ。荷物をまとめろ」
……一気に現実に引き戻される。すぐにバッグに荷物を詰めて、音を立てずに廊下に出た。
「そんな子はいないって言ってるだろ」
おばさんの叱りつけるような声が聞こえた。
「でもですね、参考人のレプリカントのブリングがここにあるのは確かなんです」
レプリカント? 俺?
「来い」
バルが裏に抜ける階段を通り、裏口から出てエアバイクに乗る。
参考人? バイクは飛ぶように森を抜けてエアランナーのところに着く。操縦席に座って離陸準備。
「どこに行く?」
「何もしてねえのに出頭すんのは癪だ」
とりあえず飛び上がる。家の方向へ。
「エアバイクは大丈夫?」
「停車場所を知らせる。おばちゃんにもあとで謝んなきゃ」
俺のブリングのことを言っていた。
「お前のブリングを位置探索されたな。まさかそこまで……」
「バルはどうしてるの?」
「俺が許可したやつからしか探索できないようにしてる」
ちゃんと設定を見ればよかった。
「ごめん」
「いいさ。俺もうかつだった」
オートに入ったのでブリングをチェックする。殺人事件。金持ちだけどあまり有名じゃない被害者。
オットー・ベルナール。資産家。86歳。でも写真は若い。20台の半ばに見える。お金持ちだとみんな年齢調整してるんだね。
そういえばアラスターもそろそろ年齢調整した方がいいかなって言ってた。俺はアラスターを見て、歳をとるのは素敵だなと思った。どんな人なのか、顔そのものや表情に表れてくるんだと。
「年齢調整って、薬を飲むとみんな20代くらいになるの?」
「なんだ急に。いや、年齢調整は調整を始めた時の外見をキープするだけ。たまに5歳10歳若返って見える人もいるらしいけど。本当に若返るのはそれこそ遺伝子治療とか、外科手術になる」
「どうして遺伝子操作を受けると若返るの?」
「若返るってか、成長の最高点の状態に再生するんだな。だから俺はこの見た目のまま」
何かが頭の中をこすっていった。ずっと引っかかっていた。
壁に書かれた文字。DIE YOU PIG。豚。ハイブリッドが豚の子と呼ばれるのなら、豚は………。
「……じゃあ、遺伝子操作の年齢治療を受けた人たちが殺されてるんじゃないの? この殺された人たちは、若返ってる……だろ? 86歳だよ。年齢調整の薬が出た三十年前でも50代だったはず」
「なるほど。そうかも知れないな……」
「アルミスとテナーは気づいているのかな? どうする? 出頭して教えてあげる?」
「やだね。局に行こう」
「ふふ。出勤?」
「そう。絶滅危惧種だからって捕まってやる義理はない」
エアランナーを返して局に着く。結局昼近くなった。入るとナツナが寄ってきて声をかけた。
「バル、連邦捜査局から照会が来た。あんたのこと」
「知ってる。参考人になっちまったみたいだな」
「位置探索切ってたでしょ? 局長がそれに怒ってる」
「わかった」
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でも想像はつく。彼が遺伝子操作を受けた一世代目だとしたら、再生能力があるから、心臓をひとつきにしたか何かで一気に出血させたんだろう。防犯カメラ完備、SPだっている家にどうやって?
次が資産家のオットー・ベルナール。これも刺殺。こっちも警備が入ってなかったとは思えない家。
「現調の画像がほしい」
「やっと本腰だ」
「休暇中だぞ。別料金だって連邦捜査局に言っとけ」
言ってみよう。ザムザにコールする。
「ザムザ」
『ヴェスタ! 帰ってきたのか? お前ら逃げただろ』
ザムザは笑っていた。
「逃げたよ。あれは酷いだろ。あのさ、現調の画像とか見れないかな」
『それは無理だな。俺たちのケースじゃないもん。あの壁の落書きの画像だって、ほんとはお前らに送れないんだぜ』
「うーん……」
『……そうだな、例えば……例えば、この事件にレプリカントが関わってるかも知れなかったりしたら……』
「ん?」
『これ以上は察してくれよ。バルトロイに言ってみな』
「よし。それで行こう」
後ろで聞き耳を立てていたバルがにやっと笑った。連邦捜査局に照会をかける。関係者の一覧の請求。
「俺たちからこの照会が来てどう思うんだろうな」
「局に押し掛ければ捕まえられると思うと思うな」
「じゃあ出よう。公用車回しておく」
すぐに一覧が届く。氏名をこっちのデータと照合すると何人かのレプリカントが混ざっている。
「よしよし。あとは車の中で考えよう」
駆け足で車に乗る。まずはデイノスの家。二つの事件の関係者の一覧を見比べてみても、共通点はない。
「こういう警備がちゃんと入ってる家に入り込めるってどんな人?」
「普通に考えれば内部の人間。でなきゃ、よく知ってる人。保安関係者……SPが被ってたりすりゃよかったんだけど……」
「何を知ってればいいの?」
「仕組み? 死角? 構造…かな」
「バルはこれがハイブリッドの人の仕業だと思う?」
「うーん……」
最初のメッセージ。TRY TO KILL ME I'M HYBRID。殺してみやがれ、俺はハイブリッドだ。これのせいで犯人はハイブリッドだと思われた。次のメッセージ。DIE YOU PIG。死ね、豚。
「メッセージはハイブリッドっぽいな。豚って使うあたり」
そう。それに、この手際の良さ。バルを見てればわかるけど、遺伝子操作を受けて再生能力が上がってる人を死なせるのはなかなか大変だ。傷が治る前に絶命させないといけない。犯人はだから、よく知ってるってことになる。どう殺さないといけないのかを。
もう一つ引っ掛かりがあるけど、なんだか見えてこない。豪邸の前に着く。
「アポイントメントはございますか?」
「ありません。殺人事件について捜査に来ました。レプリカント人権捜査局の捜査官です」
だめかな? と思ったけど、意外に門が開いた。アンドロイドが出てきて先導する。キープアウトのライン。まだ血まみれの部屋。
「臭い」
バルが露骨に顔を顰める。
「血?」
「いや……」
部屋の中。例のメッセージ。思ったより血が出ていない。バルが刺された時は水溜りみたいに血が流れたのに。
「本当に心臓をひとつきにすると出血はあまりしない」
バルが遠巻きに血溜まりを見る。
「部屋の中にはカメラはないな」
見ていると、綺麗な女性が部屋のドアを開けた。
「連邦捜査局の?」
「我々はレプリカント人権保護局です。A492090rpとC571098rpです」
「あら。いろんな人たちがいるのね……」
どうやら間違って入れてくれたらしい。
「少しお話を伺ってもよろしいですか?」
彼女は被害者の今の妻だった。四人目。警備は万全だったはずだった。カメラは屋敷内には通路にしかないが、外側には死角がないほどにある。SPも常に二人が屋敷の中にいて、被害者かその家族がコールすれば飛んでくるようになっている。
犯人は外のカメラには映っていた。黒っぽいフード付きのマントのようなものを着て、換気口から入り込み、直接被害者の部屋の通気口に出たようだ。
「泥棒?」
「泥棒ならメッセージなんか残さないだろ。盗んだのがバレない方が都合がいいんだ。小説の怪盗じゃないんだから」
でもプロの泥棒みたいによく知っている。バルくらいの体格の男が通気孔を通れるなんて思わない。
「これくらいの規模の家ならそうかも。でも思いつかないな……」
だからハイブリッドの保安職が怪しまれた。そういう手口に詳しいやつ。
「どうにも変な匂いがする。出よう。ここでモタモタしてるとあいつらまで来ちまうかもしれない」
女性にお礼を言って次の現場に行く。オットー・ベルナール。デイノスの家から2ブロック離れただけの家だ。こっちも豪邸だが、デイノスの家と趣が違う。ごてごてしていて古い。
「旧家って感じだな」
「しさんかって何する人?」
「んー、お金でお金を増やすのが上手い人」
「ふうん」
こちらもすんなりと中に入れてくれた。捜査官と聞くと連邦捜査局と混同されるのかな?
「ここもすごい匂いがする」
血溜まり。壁の文字。きんきらの部屋。
におい。俺には血の匂いしかしない。
「なんのにおいだろうな。知ってるんだけど……思い出せない」
ここもダクトから入られている。
「あの合羽みたいな服は汚れないようにか。考えるね」
ダクト。通気孔。そんなもの、保安関係で知ってる? むしろ……
「レプリカント人権保護局さんですか?」
40代くらいの男性が現れた。被害者の息子。よく似ている。被害者の方が見た目が若いから、こっちが父親のようだ。
「レプリカントなんていましたか?」
「はい。お宅のメイドさんとSPの一人がレプリカントですよ」
「え? いや、そうでしたか。派遣会社に任せてるもんで、それは知らなかった。そんなにいるものなんですね。みんなヒューマンだと思っていた」
そんなことあるんだ。雇い主が知らないなんて。レプリカントなんてどこにでもいると思ってたけど、そうでない人もいるんだ……。
また何かが頭を撫でていった。俺はレプリカントがどこにでもいて珍しくもないと思ってる。だって実際に、俺の周りにはたくさんいたから。俺自身もそうだから。違和感。最初からバルに感じていた違和感。
「……バルは、他にもハイブリッドの人を知ってるんじゃないの?」
「え? ああ。今まで二人くらい知ってる。そんなに珍しくもないって言っただろ?」
そう。そうなんだよね。
「ザムザは、バルが生まれて初めて会ったハイブリッドだって言ってた」
それで俺もバルの貴重さにやっと気がついた。ほんとは救急搬送された病院で受け入れ経験がないって聞いた時に気づいてないといけなかった。
「……バルはさ、ハイブリッドがどのくらいいるか知ってる?」
「ん? 結構いるんじゃねーの?」
これだ。バルの奇妙なくらいの余裕。そりゃ、やってないんだから捕まるわけないって言うのは正論だけど、ハイブリッドの少なさを考えると、そんな場合じゃない。ザムザとバルのおかしな認識の乖離。
「どうしてそう思う?」
「だってそんなに少ないか? 言わないだけだろ?」
「ねえバル、ザムザが教えてくれたんだけど、ハイブリッドはこの街に100人くらいしかいないんだって」
「……え?」
「12400人にひとり。バルの周りにはハイブリッドの人がいたから特別じゃないと思っちゃったんだね……。その人たちに会いに行こう? 犯人とは限らないけど、他にハイブリッドの人を知ってるかもしれない」
「もう連絡も取ってねえよ? 名前もフルネームは覚えてない。一人は施設で会ったやつだし、もう一人はアカデミーで同じクラスを取ってただけだ」
「うーん……」
「それよりもこのにおいだな。ここでの事件がおととい? 1件目よりだいぶ匂いが強い。これが犯人の匂いなら追えるかも知れない」
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