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第一部――『気がつけば彼に抱かれていました』
◇4 *
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さっき味わったばかりの彼の舌が再びわたしを翻弄する。
寸時、わたしは口を外し、彼の耳に息を吹きかけた。「けいちゃんも、脱いで――」
「綾乃が、脱がせて」
再び互いの口を舌を貪りながら、わたしは荒っぽいくらいの手つきでけいちゃんを脱がせる。
下を脱がせるとけいちゃんが、勃起しているのが分かった。
わたしにはなんだかそれがとても嬉しかった。
わたしは彼の男に手を伸ばす。とても太くて血管が浮いている。尖端がちょっと濡れていて、親指の腹で撫でると「うがっ」とけいちゃんが叫んだ。
わたしにはそれがとても可笑しかった。笑っている場合じゃないんだけど。
すると彼がすこしかすれた声で言う。「余裕こいてんのはいまのうちだぞ、綾乃」
「――わ」
背中と膝のしたに手を回され、あっという間に姫抱きでベッドへと。
そして、はだかの男女がなにをするのかといえば、
「綾乃……」
閉じていたまぶたを上げれば。
切なげな男の目線とかち合う。
彼の手がわたしの髪に触れる。
「おれ、……大切にするから。綾乃のこと」
一生。
という言葉をわたしの聴覚が拾ったときには。もう、胸を揉まれていた。
「けいちゃ、あ……っ」からだが跳ね上がる。『あのとき』の感触が蘇り、からだじゅうの全細胞が歓喜する。
聞きたいことは山ほどあった。
いつ。わたしを好きになったの。
わたしが先輩と付き合っているときに、なんで我慢してたの。
告白しなかったの。
それに。いまの、どういう意味。
頭のなかがぐっちゃぐちゃで。なのに、意識は変に冴えていて。
高みに追いやられる自分を、わたしのなかの一パーセントくらいが意外と冷静に見ていた。
こんなふうに愛される自分を。
愛する自分を見出し、震えてしまう。
わたしは、自分から彼の背中に手を回した。滑らかな彼の背中は、シャワーを浴びたせいか、熱くてしっとりと濡れていた。
すると彼がひとりごとのように言う。
「……おれが、どれだけ我慢していたと思っている」
「けいちゃん、……も、我慢、しないで、……あっ」
「あんまり煽るなよおれを」
自分のからだが弓なりにしなる。胸の頂きを貪られている。
皮膚の分厚い男の指で触れられるのも、とんでもない快楽をわたしに提供していたわけだけど。舌は口内はそれ以上のもので。
足を広げ、彼の下半身を挟み込み。他方、手は彼の背中に回したまま、まるでしがみつく格好。
なにもかもを彼に委ねた状態。
なにもかもを彼に許した状態。
いったいどうしてわたしが彼のことをこんなに信用しているのかは分からない。自分のことすら信じられていないというのに。でも彼は――
わたしのことを置き去りにしない。
胸への愛撫だけでそれが分かった。
驚いたことにわたしの到達は間もなくだった。
ちゅばちゅばと吸いあげるけいちゃんにそれを伝えると。
わたしのなかで彼の力がますます強くなった。
安心してついていける。安心して導かれる。
「ああ、けいちゃん、や……」
視界がブレる。涙がどっとあふれる。背筋を駆け抜ける感覚。手の力が抜け、それに反して下半身に力が入り――
そのときを迎えるとわたしはベッドに縫い付けられたかのように脱力してしまった。
涙の筋をけいちゃんが舐めてくれるのが分かった。
いったいどうしてしまったというのだろう。
胸だけでいくなんて人生初めてだった。
キスだけで腰が抜けそうになるのも初。
初めてだらけでいったいどうなってしまうんだろう、わたしの、恋。
――恋。
しているんだ、やっぱり……。
わたしは目を開いた。わたしの髪を撫で続けているけいちゃんと目が合った。
……、
「こらこら」笑ってけいちゃんが優しくわたしの頬を摘まむ。「なんで避けるんだよ、おい」
「えっとけいちゃんわたしのこと淫乱とかヤリマンだとか思ってます……?」
「思ってねえよ!」大きい。声。滅多にきかないけいちゃんの大声……。
「あのなあ、綾乃」頬を、大きな両手で挟み込まれる。「いまから言うことは、なにも、おれがおまえを抱きたいから言うわけじゃないぞ。そこんとこ、分かっとけよな」
……なんのことだか分からないけど。「了解、しました」
「結論するとな。
おまえ、結構早い段階で、おれに惚れてたんだよ。
要は、いまのいままでそれに気づいてなかったってだけの話で」
「……ですの?」
「ですの」こういう場面でも動じないのがけいちゃんはさすが。某RPGのキャラの口真似してみたってのに。
「男のからだもそうなんだけど、女のからだもそんな簡単じゃないだろ。
惚れてない相手に触られたって、そこまで感じたりしねえよ。
……まあ、多少は、感じることはあるかもしれねえけど、でもな。
本当に愛している相手に比べたら、全然、だぞ。
……聞くけどおまえ。
胸だけでいったこと、あるか」
……愚問です。
わたしが首を振ると「だよなあ」と言って乳首を爪で弾く。ちょ、そこ……! 「ふぎゃあ」と叫ぶわたしを彼は、笑う。ひどい男だ。
そう、本当にひどい男だ。
ここまでわたしのことを本気にさせて、いったいどう責任を取ってくれるのだろう。
胃のなかで理不尽な怒りが燃えそうになるがひとつ、思い当たることがあった。
わたしは、それを正直に言ってみる。「あのね、けいちゃん……」
相変わらずわたしの髪を撫で続ける男は答える。「なによ。綾乃」
「あの、……いつぞやの『おっぱい』事件があったじゃないですか。
正直、……あのとき、気持ちよくって、そのね、直に、……さ、わって欲しいって思って、ううん、それ以上のことをして欲しいってくらいで、……
むらむらしちゃって」
彼の手が止まる。
けいちゃんの顔が紅潮していた。鼻の穴が大きく膨らみ、「……おまっ!」そっぽを向いて叫ぶ。
「だって、……本当のことなんだもん」と言うわたしは半べそ状態。
すこしの時間をかけてから戻ってきた彼は、気持ちを落ち着かせていたのか、いつもの顔色に戻っており、
「綾乃らしいな」と笑いかけたのだった。
「……というと」
「無意識的にであれ、先輩のことが整理できていないと、おれと関係持っちゃあいけないと思ってたんだろ。ほんで今日、けりがついたからおれのことが見えてきたんだよ。……真面目な、綾乃らしいっちゃ綾乃らしい判断だな」
……そういうことだったのか。
自分でも、なにがなんだか分からなかったのが、彼の力を借りて、ようやく事態が整理できた気がする。
ここまで素直になるのなら、もうちょっと頑張ってみよう。「……あのね。けいちゃん」
「なによ。綾乃」
「け、いちゃんのおっきなもので、綾乃のこと、……、
めちゃくちゃに突いてください」
今度は。
けいちゃんは、逃げなかった。
わたしの願望を真正面から受け止め、そして笑いかける。「望むところよ」
そして、互いに笑い合い、抱きしめあう。なんて、幸せなのだろう。
触れ合う素肌が、気持ちいい。
頬ずりされて、涙さえ浮かんでしまう。
するとまぶたのうえにキスを落とされ。
ほっぺの高いところを、かぷ、と噛まれる。
わたしは、彼の耳を甘噛みした。
すると、首筋を指がたどり。鎖骨を熱い舌が這う。「――あ」
逃げようとすれば彼の手に首の後ろを支えられ。
自由と引き換えの快楽。わたしは、それを求めている。
好きなひとに、こんなに求められて。
好きなひとに、こんなに愛されて。
「でもなー綾乃」ところがいきなり、彼の指がわたしの水浸し状態のそこをなぞる。ふぎゃっ、と言うのもお構いなしに。「おれ、おまえのここ、舐めたいんだけど、駄目?」
……舐!? 「舐めるの!? ここを!? ちょ、意味分かんないんだけど!?」
彼の瞳孔が開いた。「……ないのかよ。……そうか」
なにかを企むかのように彼の口元が弧を描いた。
「……じゃあ、教えてやんなきゃだな」
*
寸時、わたしは口を外し、彼の耳に息を吹きかけた。「けいちゃんも、脱いで――」
「綾乃が、脱がせて」
再び互いの口を舌を貪りながら、わたしは荒っぽいくらいの手つきでけいちゃんを脱がせる。
下を脱がせるとけいちゃんが、勃起しているのが分かった。
わたしにはなんだかそれがとても嬉しかった。
わたしは彼の男に手を伸ばす。とても太くて血管が浮いている。尖端がちょっと濡れていて、親指の腹で撫でると「うがっ」とけいちゃんが叫んだ。
わたしにはそれがとても可笑しかった。笑っている場合じゃないんだけど。
すると彼がすこしかすれた声で言う。「余裕こいてんのはいまのうちだぞ、綾乃」
「――わ」
背中と膝のしたに手を回され、あっという間に姫抱きでベッドへと。
そして、はだかの男女がなにをするのかといえば、
「綾乃……」
閉じていたまぶたを上げれば。
切なげな男の目線とかち合う。
彼の手がわたしの髪に触れる。
「おれ、……大切にするから。綾乃のこと」
一生。
という言葉をわたしの聴覚が拾ったときには。もう、胸を揉まれていた。
「けいちゃ、あ……っ」からだが跳ね上がる。『あのとき』の感触が蘇り、からだじゅうの全細胞が歓喜する。
聞きたいことは山ほどあった。
いつ。わたしを好きになったの。
わたしが先輩と付き合っているときに、なんで我慢してたの。
告白しなかったの。
それに。いまの、どういう意味。
頭のなかがぐっちゃぐちゃで。なのに、意識は変に冴えていて。
高みに追いやられる自分を、わたしのなかの一パーセントくらいが意外と冷静に見ていた。
こんなふうに愛される自分を。
愛する自分を見出し、震えてしまう。
わたしは、自分から彼の背中に手を回した。滑らかな彼の背中は、シャワーを浴びたせいか、熱くてしっとりと濡れていた。
すると彼がひとりごとのように言う。
「……おれが、どれだけ我慢していたと思っている」
「けいちゃん、……も、我慢、しないで、……あっ」
「あんまり煽るなよおれを」
自分のからだが弓なりにしなる。胸の頂きを貪られている。
皮膚の分厚い男の指で触れられるのも、とんでもない快楽をわたしに提供していたわけだけど。舌は口内はそれ以上のもので。
足を広げ、彼の下半身を挟み込み。他方、手は彼の背中に回したまま、まるでしがみつく格好。
なにもかもを彼に委ねた状態。
なにもかもを彼に許した状態。
いったいどうしてわたしが彼のことをこんなに信用しているのかは分からない。自分のことすら信じられていないというのに。でも彼は――
わたしのことを置き去りにしない。
胸への愛撫だけでそれが分かった。
驚いたことにわたしの到達は間もなくだった。
ちゅばちゅばと吸いあげるけいちゃんにそれを伝えると。
わたしのなかで彼の力がますます強くなった。
安心してついていける。安心して導かれる。
「ああ、けいちゃん、や……」
視界がブレる。涙がどっとあふれる。背筋を駆け抜ける感覚。手の力が抜け、それに反して下半身に力が入り――
そのときを迎えるとわたしはベッドに縫い付けられたかのように脱力してしまった。
涙の筋をけいちゃんが舐めてくれるのが分かった。
いったいどうしてしまったというのだろう。
胸だけでいくなんて人生初めてだった。
キスだけで腰が抜けそうになるのも初。
初めてだらけでいったいどうなってしまうんだろう、わたしの、恋。
――恋。
しているんだ、やっぱり……。
わたしは目を開いた。わたしの髪を撫で続けているけいちゃんと目が合った。
……、
「こらこら」笑ってけいちゃんが優しくわたしの頬を摘まむ。「なんで避けるんだよ、おい」
「えっとけいちゃんわたしのこと淫乱とかヤリマンだとか思ってます……?」
「思ってねえよ!」大きい。声。滅多にきかないけいちゃんの大声……。
「あのなあ、綾乃」頬を、大きな両手で挟み込まれる。「いまから言うことは、なにも、おれがおまえを抱きたいから言うわけじゃないぞ。そこんとこ、分かっとけよな」
……なんのことだか分からないけど。「了解、しました」
「結論するとな。
おまえ、結構早い段階で、おれに惚れてたんだよ。
要は、いまのいままでそれに気づいてなかったってだけの話で」
「……ですの?」
「ですの」こういう場面でも動じないのがけいちゃんはさすが。某RPGのキャラの口真似してみたってのに。
「男のからだもそうなんだけど、女のからだもそんな簡単じゃないだろ。
惚れてない相手に触られたって、そこまで感じたりしねえよ。
……まあ、多少は、感じることはあるかもしれねえけど、でもな。
本当に愛している相手に比べたら、全然、だぞ。
……聞くけどおまえ。
胸だけでいったこと、あるか」
……愚問です。
わたしが首を振ると「だよなあ」と言って乳首を爪で弾く。ちょ、そこ……! 「ふぎゃあ」と叫ぶわたしを彼は、笑う。ひどい男だ。
そう、本当にひどい男だ。
ここまでわたしのことを本気にさせて、いったいどう責任を取ってくれるのだろう。
胃のなかで理不尽な怒りが燃えそうになるがひとつ、思い当たることがあった。
わたしは、それを正直に言ってみる。「あのね、けいちゃん……」
相変わらずわたしの髪を撫で続ける男は答える。「なによ。綾乃」
「あの、……いつぞやの『おっぱい』事件があったじゃないですか。
正直、……あのとき、気持ちよくって、そのね、直に、……さ、わって欲しいって思って、ううん、それ以上のことをして欲しいってくらいで、……
むらむらしちゃって」
彼の手が止まる。
けいちゃんの顔が紅潮していた。鼻の穴が大きく膨らみ、「……おまっ!」そっぽを向いて叫ぶ。
「だって、……本当のことなんだもん」と言うわたしは半べそ状態。
すこしの時間をかけてから戻ってきた彼は、気持ちを落ち着かせていたのか、いつもの顔色に戻っており、
「綾乃らしいな」と笑いかけたのだった。
「……というと」
「無意識的にであれ、先輩のことが整理できていないと、おれと関係持っちゃあいけないと思ってたんだろ。ほんで今日、けりがついたからおれのことが見えてきたんだよ。……真面目な、綾乃らしいっちゃ綾乃らしい判断だな」
……そういうことだったのか。
自分でも、なにがなんだか分からなかったのが、彼の力を借りて、ようやく事態が整理できた気がする。
ここまで素直になるのなら、もうちょっと頑張ってみよう。「……あのね。けいちゃん」
「なによ。綾乃」
「け、いちゃんのおっきなもので、綾乃のこと、……、
めちゃくちゃに突いてください」
今度は。
けいちゃんは、逃げなかった。
わたしの願望を真正面から受け止め、そして笑いかける。「望むところよ」
そして、互いに笑い合い、抱きしめあう。なんて、幸せなのだろう。
触れ合う素肌が、気持ちいい。
頬ずりされて、涙さえ浮かんでしまう。
するとまぶたのうえにキスを落とされ。
ほっぺの高いところを、かぷ、と噛まれる。
わたしは、彼の耳を甘噛みした。
すると、首筋を指がたどり。鎖骨を熱い舌が這う。「――あ」
逃げようとすれば彼の手に首の後ろを支えられ。
自由と引き換えの快楽。わたしは、それを求めている。
好きなひとに、こんなに求められて。
好きなひとに、こんなに愛されて。
「でもなー綾乃」ところがいきなり、彼の指がわたしの水浸し状態のそこをなぞる。ふぎゃっ、と言うのもお構いなしに。「おれ、おまえのここ、舐めたいんだけど、駄目?」
……舐!? 「舐めるの!? ここを!? ちょ、意味分かんないんだけど!?」
彼の瞳孔が開いた。「……ないのかよ。……そうか」
なにかを企むかのように彼の口元が弧を描いた。
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