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第一部――『気がつけば彼に抱かれていました』
◇5 *
しおりを挟む「ひっ、あっ、……」
天井が、わたしの甘ったるい声を飲み込んでいく。
室内には、ほかに彼の舌の立てる音のみが響く。
後ろ手を回して枕を抱え込んでいる状況。
寸時、自分の肘と肘のあいだから天井を見る。
天井を見ることなんて、いまのいままでなかったな……。
気がついたら、寝てたもん。
「考えごとか、こら」
「ひあっ!」彼が、わたしの敏感な芽をつねるようにする。……勿論、そんなところをろくに触ったことも触られたこともないわけで……。
わたしのお尻の下にタオルを敷いてくれたのは彼なりの気遣いで。
彼の指で目一杯広げられたところを彼の舌で存分に愛され。
愛液、半端ない。
後ろの穴まで伝うどころか、タオルを浸してシーツにまで染みこみそうな勢いだ。
なのに、止めるつもりはない。この場にいる誰もが。
わたしは彼を、欲している。
彼は、わたしを求めている。
ゆっくりとしていた彼の舌の動きが、急に激しくなった。頃合いと見たのだろう。わたしも喉が乾いた。
お水が飲みたい。こんなにも水分を排出して、いったいどうなってしまうのだろう。
「あ、はあ、……いや……」必死に枕を掴む。すべてをあけっぴろげにして、すべてを彼に委ねた状態。
彼が、笑ったのがわたしには分かった。
わたしが満ち足りているのが彼には分かるのだ。
いくら『いや』と首なんか振っても、わたしが求めていることは彼には明白なのだから。
舌に、指の刺激まで加わり、たまらずわたしは首を振る。いままでに味わったことのない感覚がわたしを襲う。そのときが迫るのが分かる。「……だめ。どうしよ、わたし、出ちゃう、出ちゃうよ……」
しばらくのあいだ黙っていた彼が、直前になってようやく口を開いた。
「いきなよ、綾乃」
それは、最高のタイミングだった。
かくん、かくん、と自分の膝が揺れる。ぱたぱた、となにか音がした。それがなにが気づいたときに、眉間に皺が寄る。
世界が、白く染まった。
はあ、はあ、と肩で大きく息をする。思えば、全て彼任せだというのに。
なんだか、すごい運動でもした気分。
一旦ベッドから離れたけいちゃんがどこへ行ったのかと思えば。彼は、ペットボトルを手に戻ってきた。正直、ありがたい。
わたしは、両手をお腹の横について、上体を起こすつもりが。
かくん、と落ちてしまった。
ちょっと笑った彼の手を借り、ようやく起き上がる。
ぱきぱき、とペットボトルを開く彼の手が白いけど骨ばっていて、太い血管も浮いていて、やっぱり男の手だなあと、妙に意識してしまった。
彼が、先にミネラルウォーターに口をつけた。先に飲むのかな、と思っていたら、彼は、ぐっとわたしを抱き寄せ、
口移しで水を飲ませる。
ごく、ごく、と素直にわたしの喉が彼の提供するものを飲み干していく。
それは、これからの行動を暗示しているようで。それだけでわたしは感じてしまった。
もっとキスをして欲しかったのだけれど、彼は、そのまま顔をわたしの乳房のほうへとスライドさせ、容赦なく、愛撫を再開する。
「あ……」
「潮吹いたの、初めて?」
男の低い声。
「ち、が……」
「嘘つけ」かぷ、と甘噛みされる。固く長くなったそこを舌で転がされ、「……あんな顔していくんだな、綾乃って。
おまえ、相当、エロい」
「……けいちゃんこそ」負けじと、わたしは彼の勃起したそれに手を伸ばす。「わ。わたしのおっぱいに顔を埋めに来ただけのときだって、勃起、してたじゃんよ」
「……好きな女のおっぱいに顔を埋めて勃起しねえとか、そっちのほうがいかれてんよ」
「開き直りましたわね」
どうやら、さきほど彼がここを離れたのは、取りに行く目的もあってのことらしい。
わたしの視線を悠然と受け止めながら、彼は、開封し、装着して見せた。
その余裕っぷりが、なかなか憎らしいところではある。
男のひとの、すごいところではある。
……先輩は、いつも背を向けていたな……。
わたしは思ったことがすぐ表情に出るらしい。苦い顔をした彼に、乳首を持ってびぃんと引っ張られてしまった。あひ、とか変な声が出てしまったじゃないか。
「もう! けいちゃん!」
ちょっと怒って彼をぽかぽかしてみようものなら、その手首をぐっと掴まれる。
男の力に驚かされたときに、切なげな目線に囚われていた。
「……おれのことだけを見てくれよ。
おれには、おまえだけなんだ。
だから、おれを好きになれ。綾乃……」
「けいちゃん……」
わたしは、彼の背中に手を回した。足を広げ、彼が挿れやすいようにする。
穴にあてがわれたときに、ぬるりと、滑ってしまう。「あっ」
「ちょ、おま、……なんだこりゃ。なんか、久しぶりすぎて全然うまくいかねえな、ちきしょ……」
困ったような、焦ったようなけいちゃんが可愛くて、わたしは笑ってしまったのだった。
ようやく照準を定めると、男が、ゆっくりと、腰を沈める。
けいちゃんが、わたしのなかに、入ってくる。
「……あ……」深い。苦しい。大きい。
なんて圧迫感。
そういえばセックスなんてずいぶんとご無沙汰だった。
とんでもない快楽と感覚が、わたしを支配する。
脳髄が焼かれるようだ。
「ふ、あ――」
「綾乃」唇を、塞がれていた。
艶めかしい彼の舌が、わたしの痛みを和らげようとせんと、深く、動きまわる。
二つの入り口を支配されているという現実に目眩すら、起こる。
気づけば痛みなど消失していた。味わうほうに忙しく。
「入ったよ」
低い声が耳に届く。目をあげれば、彼の愛情に囚われる。
わたしの柔らかくて狭いところが彼の大きな男を受け入れている。
胃の底まで入っているかのような圧迫感に苦しさも覚えるけれども、それよりも、悦びのほうが勝った。
「けいちゃん……」彼の顔が滲んで見えた。「……好き。大好きよ、けいちゃん……」
「おれも。綾乃……」
彼の唇がゆっくりと動く。わたしはそれを凝視した。
愛している。
「わ、たしも……」声は震え、涙がこぼれた。わたしの頬に彼の手が添えられる。
わたしのなかが、彼でいっぱいになる。寂しくて苦しかったわたしという器が。
あふれるものを堪えるつもりはなかった。これは、わたしが生まれて初めて嬉しくて流す涙だった。
「好きなの。大好きなの。けいちゃん……」
「――綾乃」言葉だけじゃ、足らない。
わたしは、自分から彼にくちづけた。思い切って舌を入れてみると柔らかく噛まれてしまう。
「ん。んん……」頭の奥が痺れる。彼を受け入れるわたしの柔らかいところが、びくびくと彼を締めつける。その感覚が、着実にわたしを追い込んでいく。その最中。
「! あ! ああ……あっ」たまらず唇を離してしまう。彼の手が、わたしの胸元を探る。どこがどう弱いかは、分かりきっているはず。
彼の手が、緻密に正確に動く。
恥ずかしいくらいに、声が、出てしまう。
何度いけば済むのだ。頭のなかで冷静な自分がそんなふうに叫ぶのだが、大多数の自分が、導かれることを望んでいる。よだれを垂らし、その瞬間を待ち望んでいるのだ。
「――綾乃」
彼が、背を屈め、完全にわたしの乳房を愛撫する体勢に入った。わたしは顎を反らし、ただあえぎ、自分の待ち望んだそれを受け入れる。
舌で歯で甘く刺激され。反対の胸は大きな手で力強く揉まれ、
「やああ。けいちゃん、わたし、また、……あ」
いっぱい、いってよ、綾乃。
気がついたときにはわたしは彼に抱きしめられていた。
それから、どのくらいのときが経ったのだろう。時間の感覚が分からない。
たぶん、十分程度。幾度も自分を見失い、その都度彼に呼び戻され、それを繰り返している。
「――動いていい?」
わたしの好きな、けいちゃんの心地よい低音ヴォイスが鼓膜に響く。わたしは顔を起こした。
「というか、……おれ、やばい」珍しくけいちゃんが顔をしかめる。「おまえのなか、熱くて、狭くて、……食いちぎられちまいそうだ」
兄貴が実家に置いてったエロ小説辺りに出てきそうな台詞だ。
名器ってやつですか。
まじですか。
ガチですか。
思い切って、きゅう、と力を入れてみる。と、けいちゃんは、「ちょ、それっ」と慌てふためく。その反応が可愛くて、もう一度やってみると、「おいこら」と声が降ってくる。
目線さえ、ちょっと鋭くなる。
三白眼でけいちゃんはわたしを見据えると、
「そんなにお望みならもう、我慢なんかしない」
「ちょ、あっ」
わたしの膝の裏を支え。けいちゃんは、わたしの深い深いところを刺激する。当たってたまらない気持ちにさせる。
「なに、これ……」息も絶え絶えにそう言ってみると、けいちゃんは、わたしの最奥を刺激したまま、わたしに覆いかぶさり、「ここ、おまえの弱いとこ。覚えておいて」と耳に息を吹きかける。
その彼の熱い大きな手がわたしの乳房に回り、
「――あ」
彼が、腰を動かし、円を描くようにする。すると、わたしのなかに、じわじわと快楽が満ちていく。足のつま先から頭のてっぺんまで突き抜けるような。
「や。ああ……けいちゃん。けいちゃん……」
わたしは必死に彼にしがみついた。セックスって、男のひとが一方的に激しく腰を振るものだと思い込んでいたわたしにとっては、新鮮過ぎる体験だった。
「綾乃。綾乃……」すると彼の大きな手が、今度は、わたしの恥丘を揉むようにする。そんなところ、触ったことも、ろくに見たこともないのに。わたしの内心の抵抗構わず、その動きが、ますますわたしのからだを熱くしていく。
自然と、声が喉からこぼれ落ちていく。「やああ。気持ち、いいよお、けいちゃん……」
「おれも」
ゆっくり、落ち着いた彼のセックス。こころがゆっくりとあたたまっていくのを感じる。
彼の、ひだまりがわたしの胸のなかに満ちていく。
と。彼が、わたしの背中に手を回し、そしてわたしの上体を起こす。わたしは彼の背中に手を添え、彼の意志に任せた。
座っている彼に、下から貫かれている状態。対面座位。
「なんか、エロいな、綾乃……」彼の眼前にわたしの乳房がある。ふー、と熱い息を吹きかけられれば、「ひやあっ!」とわたしは反応してしまう。
口を閉じると、また視線が絡む。わたしを貫く、愛おしい男と。
彼は、わたしと視線を絡ませると、躊躇なく、わたしの敏感な箇所を貪っていく。
わたしは彼の小さな頭を掻き抱き、彼の提供する快楽に没頭する。勿論。その間も、わたしは彼の剛直に貫かれたままで。時折、彼がごり、ごり、とわたしの最奥をこすりあげる動きが、ますますわたしを高みへと追いやっていく。
「あ。やああ……」
ある段階に来ると。わたしは自分を支えきれず、両手をベッドにつけ、胸を張る体勢へと移る。まるで自分の乳房を見せつけるような。すると、けいちゃんが、腰を揺らし、わたしのなかに8の字を描くようにする。
「あ、あ、あっ……」そのときが近いのが分かった。「どうしよ、けいちゃん、わたし、また、……」
いっちゃいなよ、綾乃。
後ろから崩れそうになったのを、彼の両腕に支えられていた。
スパークする脳内。頬に吹きかかる彼の熱い息。
「綾乃」
愛おしい者にするかのように、わたしの髪を撫でるけいちゃんの優しい手の動き。
ゆっくりと、わたしは再び押し倒される。
けいちゃんは、わたしの両の膝を押し上げ、膝頭をわたしに持たせる。
「……ごめんな、綾乃」ちゅ、と音を立てて彼はわたしのまぶたにくちづける。「最中なのは分かるんだけど、おれ、……もう、限界」
「限、界って」途端、言葉が切れ、嬌声へと変わる。女の反応は見事だと、自分のことなのに、わたしは他人事のように思ってしまった。
「ひ。あ、ああ……! らめ、らめってば、けいちゃん!」
脳が千切れそうなくらいの、圧倒的な快楽。
いままでのセックスはなんだったんだろうって思えるくらいの刺激を頭のてっぺんから足のつま先に至るまで浴び続け。
ばかになってしまったかのように叫び続ける。それでも彼の律動が止まらない。
けいちゃんは、わたしの陰部を両手で広げるようにし、都度、ばちゅん、ばちゅん、と音を立ててお互いを誘っていく。見えなくなる方向へ。
愛と享楽の世界へと。
頭が、ぼうっとしてくる。涙が出てくる。口が開いたまま、止まらない。気持ち、いい。
「あ。あああ。やああ! 気持ち、いいよお! けいちゃん、けいちゃん……!」
「おれも。綾乃」すると彼がわたしに顔を近づけ、思う存分わたしの口のなかを動き回る。ゆっくりとしたグラインドと平行して。
「ん、んんぅ……」隙間のブレス。いやらしい声が漏れる。けいちゃんの息も、荒い。
「もっと、……激しくしても、いい?」
「いいよ、けいちゃん」わたしは目を閉じたまま答えた。そして、両足を彼の背中に回した。より一体感を感じたかった。
男は、自分を追い込むための激しい動きへと移行する。わたしはもう叫ぶことすらできないほどに、追い込まれてしまっていた。
「ああ。いく、いく、綾乃……」
「わ、たしも……」
指を絡ませ、握りしめた。どこまでも頼りになる彼の手を。
どこまでも愛している彼の手を。
一段とわたしのなかで彼が大きくなり。膨張し、暴発し、そしてわたしのなかで果てた。
薄いゴム越しの精が、確かにわたしの子宮に直撃し。直後自分が激しく収縮するのが分かった。
視界が、ちらつき、星がきらめく。
まばゆいばかりの景色を眺め、そしてたったひとりの人間のことだけを思い描きながら、ブラックアウトしていく意識へと身を任せた。
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