47 / 72
第十三章 聖女と魔女
1
しおりを挟む
真っ青な顔のルルタを前に、イウリスは自分まで焦燥に駆られてはならないとなるべく落ち着いた様子を保ち、言葉を返す。
「聖女メイナは時折『シウナクシア神から魂のみ神域へ喚ばれている』ようだ、という旨の報告をラウミからもらっていたが、今回もそうではないのか?」
「僕も加護のおかげで神域までは招かれずとも、聖堂でならシウナクシア神の声を聞き、会話する事はできたというのは知っているでしょう? そこで聞いた事があるんです。神域に魂を喚べるのは、シウナクシア神の心臓の位置にある王城だけ、だと」
「今回が異例だという事はないのか?」
少しふらつきながら立ち上がるエウジェを先に立って支えながらそう問うイウリス。だが、ルルタは首を振った。
「場所については、そういう事もあるかもしれません。でもメイが『神域に喚ばれている』時に立ち会った事がありますが、その時とは様子が違います。……メイが息をしていない」
その言葉に、エウジェが近づくとメイの胸元に耳を当てる。……耳から伝わるのは静寂。
「鼓動が……」
エウジェはそれ以上の言葉を発せずに目を閉じる。
イウリスは眉根を寄せた。そして、微かな音に振り返り、誰何の声を投げる。
「誰だ!?」
その声に応える様に茂みが揺れ、姿を現した人物にイウリスは驚く。
「ケイナーン様!」
ケイナーンは前聖女であり、またイウリスにとっても、ルルタにとっても高祖母に当たる人物。当然、イウリスも何度か対面する機会があった。
そんな彼女が杖を頼りに半ば這う様にして現れたのだ、イウリスは何事が起こったのかと慌てて駆け寄る。
膝をつき助け起こすと、ケイナーンは苦しげに息をしながらなんとか口を開いた。
「ごめんなさい、ルルタ。私、メイちゃんを守れなかった……」
その言葉に籠められた深い悔恨の念を感じ、ルルタは自分の考えが誤っていた事を知った。
ルルタは、ケイナーンが隣国と通じていたのではないかと疑っていた。メイナが襲われたのはケイナーンが教えてくれた場所だったし、また、その場所に関する情報はカルス、ラウミにも知らせないようにしていたから。
もしかしたら、渡された杖に居場所を感知する様な魔法道具でも仕込まれていたのかとも思っていたのに。
だからメイナが連れ去られた時、すぐにエウジェと連絡はついたが、揺さぶりをかける意味で『メイナが攫われた』事と『助けに向かう』事だけを伝信の魔法道具で伝えていたのだ。
そしてその後、連絡が取れなくなっていた……。
「何があったのですか?」
メイナを抱いたままでルルタはケイナーンに問う。
「……メイちゃんが攫われたと聞いて居ても立っても居られなくて、馬でここまで来たんだよ。着いてみたら杖が残っていたから、それを使って少しでも魔力の巡りが整えられないかと思った。せめてメイちゃんをルルタが助け出して来てくれるまで持たせられるだけでも良いからって」
「……まさか、命まで使い果たすつもりで……」
加護がない今のケイナーンがそれをやろうとするなら、魔力だけではどうにもならなかっただろう。ルルタの言葉にケイナーンが笑う。
「元々女神様から伸ばしてもらった命だからね、お返しする時だろうと思ったんだよ」
「聖女メイナは時折『シウナクシア神から魂のみ神域へ喚ばれている』ようだ、という旨の報告をラウミからもらっていたが、今回もそうではないのか?」
「僕も加護のおかげで神域までは招かれずとも、聖堂でならシウナクシア神の声を聞き、会話する事はできたというのは知っているでしょう? そこで聞いた事があるんです。神域に魂を喚べるのは、シウナクシア神の心臓の位置にある王城だけ、だと」
「今回が異例だという事はないのか?」
少しふらつきながら立ち上がるエウジェを先に立って支えながらそう問うイウリス。だが、ルルタは首を振った。
「場所については、そういう事もあるかもしれません。でもメイが『神域に喚ばれている』時に立ち会った事がありますが、その時とは様子が違います。……メイが息をしていない」
その言葉に、エウジェが近づくとメイの胸元に耳を当てる。……耳から伝わるのは静寂。
「鼓動が……」
エウジェはそれ以上の言葉を発せずに目を閉じる。
イウリスは眉根を寄せた。そして、微かな音に振り返り、誰何の声を投げる。
「誰だ!?」
その声に応える様に茂みが揺れ、姿を現した人物にイウリスは驚く。
「ケイナーン様!」
ケイナーンは前聖女であり、またイウリスにとっても、ルルタにとっても高祖母に当たる人物。当然、イウリスも何度か対面する機会があった。
そんな彼女が杖を頼りに半ば這う様にして現れたのだ、イウリスは何事が起こったのかと慌てて駆け寄る。
膝をつき助け起こすと、ケイナーンは苦しげに息をしながらなんとか口を開いた。
「ごめんなさい、ルルタ。私、メイちゃんを守れなかった……」
その言葉に籠められた深い悔恨の念を感じ、ルルタは自分の考えが誤っていた事を知った。
ルルタは、ケイナーンが隣国と通じていたのではないかと疑っていた。メイナが襲われたのはケイナーンが教えてくれた場所だったし、また、その場所に関する情報はカルス、ラウミにも知らせないようにしていたから。
もしかしたら、渡された杖に居場所を感知する様な魔法道具でも仕込まれていたのかとも思っていたのに。
だからメイナが連れ去られた時、すぐにエウジェと連絡はついたが、揺さぶりをかける意味で『メイナが攫われた』事と『助けに向かう』事だけを伝信の魔法道具で伝えていたのだ。
そしてその後、連絡が取れなくなっていた……。
「何があったのですか?」
メイナを抱いたままでルルタはケイナーンに問う。
「……メイちゃんが攫われたと聞いて居ても立っても居られなくて、馬でここまで来たんだよ。着いてみたら杖が残っていたから、それを使って少しでも魔力の巡りが整えられないかと思った。せめてメイちゃんをルルタが助け出して来てくれるまで持たせられるだけでも良いからって」
「……まさか、命まで使い果たすつもりで……」
加護がない今のケイナーンがそれをやろうとするなら、魔力だけではどうにもならなかっただろう。ルルタの言葉にケイナーンが笑う。
「元々女神様から伸ばしてもらった命だからね、お返しする時だろうと思ったんだよ」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ
鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。
目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。
無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。
「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」
貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。
気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!?
一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。
誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。
本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに――
そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、
甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する
ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる