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不審者

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 アレクが退室して、ベッドに飛び込み目を閉じる。あっという間に睡魔が私を連れに来る。
 意識がとろとろに溶けてゆく。
 どれくらい眠っていただろうか、私は不意に気配を感じて覚醒した。

「誰?」
「あ、ごめんなさい起こしちゃいましたね」
「……アレク、じゃないわね」
 体を起こし、気配の主と対峙する。
 さっきはアレクだった姿、もっと前は助けてくれた青年だった姿。

「その質問は、ちょっと答えるのが難しいです」
「難しいと言うのは、どういう事なの」
「うーん、答えられないというか答える権限が今の僕にないというか」
 そこで青年は思わせぶりに微笑んで、口を開いた。
「でもご褒美をくれるんだったら、僕が答えられる範囲で答えてもいいですよ」
「ご褒美?」
 ぎしりと音を立てて、青年がベッドに乗り込んでくる。私は思わず、後ろに下がった。
「こういう、ご褒美です」
 青年は私の手を取り、そっと指先に口付ける。静かな自室にリップ音が響くのがやけに生々しく、私は焦って手を引く。

「ちょ、ちょっと何するのっ!」
「はい、質問どうぞ!」
 畳み掛けるように、青年はにこにこの笑顔で言う。私は慌てて頭の中で質問を組み立てた。
「えっ、あっ、アレクの……それはアレクの体なの?」
「そうですね。アレクシスの体です。はい、次の質問ありますか?」
「あるわ、アレクの体だっていうなら、なんで成長しているの?」
「うーん、その質問だと結構おおきなご褒美が必要になりますよ?」
 じりじりと青年がにじり寄ってくる。つられて下がっていくが、あっというまに壁に追い詰められた。

 魔法、そうだ魔法で逃げれば!
 そう思った瞬間、首筋に暖かな何かが触れて息を飲む。続くチリっとした痛み。
「な、な、なにしてるの」
「おおきなご褒美をもらってました」
 至近距離で青年が嬉しそうに笑う。

「大事な物には名前を書いておかないと、取られちゃうと困るので」
 私は首筋を押さえて、ぶわっと熱を帯びた全身を震わせた。羞恥と、怒りに。
「質問の答え。この体は、アレクシスが望んだので成長しました」
「それだけじゃわからないわよ!」
「え? じゃあ追加が必要ですよ、ご褒美」
 するりと青年の手が私の右手を捕らえる。次いで左の手も。近づいてくる顔に、私の思考がぐるぐるとかき混ぜられて……。

 ごちん!

「痛ったあ!」
 私は全力で頭を突き出し、思った以上の衝撃に声を上げた。両手を捉えられているなら、もうできる事がそれしか思いつかなかった。

「熱烈ですね、嬉しい」
 喜ばれるとは意外だったし、そういう趣味なら反撃し甲斐がないにも程がある。
 涙目で睨みつけると、機嫌良さそうに笑って私の額を撫でる。
「アレクの家のことを調べてみてください」
 それがさっきの質問の答えだとわかって、頷く。

「さて、最後にもう一つだけなら質問を受け付けます」
 私は慎重に質問を選ぶ。そうして口を開いた。
「あなたはミスミって名前を知っている?」
 言葉が終わると同時に、腕の中に包み込まれた。
「知ってますよ、僕の名前ですから。覚えてくれてたんですね」
 とろけるような声だった。

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて顔を見る事はできないが、嬉しそうな声。
 間違っても、やっとついさっき名前を思い出しましたとは言えない空気。
 私は身動きができない苦しさと、質問の答えが示す内容にただただ混乱していた。
「さて、もっとご褒美は欲しいですけど質問タイムはここまでです。アレクは何にも知りませんから、聞いても無駄ですよ」

 ゆっくりと体を離してから、青年ミスミはもう一度私の顔を見て微笑んだ。
「やっと会えたのに残念ですが、今の所は戻ります。ゆっくりと休んでくださいね」
 優しい声、そうして彼はすうっと姿を消した。

「眠れるわけがないじゃない!!!」
 枕に八つ当たりをするしかない私を残して。
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