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六話
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ヨーロッパの街並みを歩いていくと、木造の一軒家があった。看板にはベッドが描かれている。宿に入ると無愛想なおじさんが芽衣とエルネストのほうを見ただけで何にも言わない。
エルネストもわかっているのか。鍵をといえば、すっと差し出した。誰もすれ違わない階段を登って、二階に登る。
「この二階に泊まっているんだ。狭くてすまないね」
部屋の鍵をあけて芽衣を通す。きょろきょろと部屋を見回すとベッドとソファがある。窓がいくつかあって、布に穴を開けてカーテンのようにしている。
エルネストは精霊が活動する野外と比べて、部屋のことを言ったのだが、芽衣は首を振った。これが広いのか狭いのか芽衣には理解できなかった。
「そんなことないよ。私が寝てた場所より、十分広いよ」
エルネストは芽衣を背もたれのある長椅子に座らせて、自分は向かいに座る。
「君は何か飲むのは好きかい?」
「うん。好き」
芽衣の言葉にここでちょっと待っててくれとエルネストは部屋を出て行った。エルネストが出て行って、一人になった芽衣は椅子を珍しげに見て、表面を触るとつるつると指の動きで滑ることがわかるがやはり感触が戻ってなかった。
「……」
誰かと向かい合って座っていると妹のことを思い出す。共働きだった家族の中で一番、近い存在だった芽衣よりも2つ下の女の子。ぼんやりとした芽衣とは真逆で、はきはきして元気でいつも先を進んでいく子だった。
芽衣が本家に収容される前に、些細なことで喧嘩別れてしまった子。ごめんなさいもさよならも言えなかった。そのことを思い出すと、視界が歪んで、ざわりと体の中にかざわめいた。
(あれ?)
体の違和感を感じて、ぺたぺたと自分の体を点検していると、扉が開いた。
「待たせ……」
「エルネスト、危ない!」
ポットとカップのせた盆を持ったエルネストが戻ってきたが、芽衣の涙がつたう顔を見た瞬間、お盆を落としそうになる。芽衣が慌てて立ちがろうとすると、地面の影が帯状から液体状に変化し、お盆をキャッチする。キャッチしたあと、影によって机の上に置かれた。
「ありがとう。助かった。それが君の能力なんだね」
「どういたしまして。よくわからないけど、そうみたい」
エルネストは芽衣の言葉に少し引っかかりを覚えながらも、芽衣の流れていた涙を親指で払った。
「辛いなら、思い出さなくてもいいんだ」
「けど、大切な思い出だから」
「!!」
エルネストは芽衣の言葉に衝撃を受ける。ひどい目にあったかもしれないのに、それでも人は怒らず、人との思い出は大切という精霊は初めてだった。精霊もちゃんと喜怒哀楽はあり、されたことにはちゃんと怒るし恨みもするものも多かった。エルネストは彼らの怒りに多く触れてきて、同僚が何人もそのせいで命を落としたを見ている。
エルネストは芽衣の境遇に触れるたびに、自分なら大切にするのにという気持ちと、契約して失望されたくないという気持ちがごちゃごちゃになる。それがどちらも自分のための気持ちでしかないことが一番、嫌だった。
「エルネスト、触るね」
「えっ」
芽衣はエルネストの頬に手を伸ばして、さっきエルネストが涙を拭ってくれたように撫でる。
「なんだか、辛そうだから」
「辛そうな顔をしてたか……」
「うん。してた。辛い時は誰かに言ってね。人は辛いって言わないと辛いのわからなくなっちゃうから」
芽衣の言葉にエルネストは彼女の手をそっと外して、一瞬、諦めのような寂しい笑顔をしたが、何もなかったように微笑む。
「さて、お茶が渋くなるから、席につこう。せっかくの貰い物だ。もったいないだろう」
エルネストは芽衣の隣を通り抜けてしまう。今、芽衣は何か返答を間違えてしまったような気持ちになり、エルネストの言葉に頷くしかなかった。
エルネストもわかっているのか。鍵をといえば、すっと差し出した。誰もすれ違わない階段を登って、二階に登る。
「この二階に泊まっているんだ。狭くてすまないね」
部屋の鍵をあけて芽衣を通す。きょろきょろと部屋を見回すとベッドとソファがある。窓がいくつかあって、布に穴を開けてカーテンのようにしている。
エルネストは精霊が活動する野外と比べて、部屋のことを言ったのだが、芽衣は首を振った。これが広いのか狭いのか芽衣には理解できなかった。
「そんなことないよ。私が寝てた場所より、十分広いよ」
エルネストは芽衣を背もたれのある長椅子に座らせて、自分は向かいに座る。
「君は何か飲むのは好きかい?」
「うん。好き」
芽衣の言葉にここでちょっと待っててくれとエルネストは部屋を出て行った。エルネストが出て行って、一人になった芽衣は椅子を珍しげに見て、表面を触るとつるつると指の動きで滑ることがわかるがやはり感触が戻ってなかった。
「……」
誰かと向かい合って座っていると妹のことを思い出す。共働きだった家族の中で一番、近い存在だった芽衣よりも2つ下の女の子。ぼんやりとした芽衣とは真逆で、はきはきして元気でいつも先を進んでいく子だった。
芽衣が本家に収容される前に、些細なことで喧嘩別れてしまった子。ごめんなさいもさよならも言えなかった。そのことを思い出すと、視界が歪んで、ざわりと体の中にかざわめいた。
(あれ?)
体の違和感を感じて、ぺたぺたと自分の体を点検していると、扉が開いた。
「待たせ……」
「エルネスト、危ない!」
ポットとカップのせた盆を持ったエルネストが戻ってきたが、芽衣の涙がつたう顔を見た瞬間、お盆を落としそうになる。芽衣が慌てて立ちがろうとすると、地面の影が帯状から液体状に変化し、お盆をキャッチする。キャッチしたあと、影によって机の上に置かれた。
「ありがとう。助かった。それが君の能力なんだね」
「どういたしまして。よくわからないけど、そうみたい」
エルネストは芽衣の言葉に少し引っかかりを覚えながらも、芽衣の流れていた涙を親指で払った。
「辛いなら、思い出さなくてもいいんだ」
「けど、大切な思い出だから」
「!!」
エルネストは芽衣の言葉に衝撃を受ける。ひどい目にあったかもしれないのに、それでも人は怒らず、人との思い出は大切という精霊は初めてだった。精霊もちゃんと喜怒哀楽はあり、されたことにはちゃんと怒るし恨みもするものも多かった。エルネストは彼らの怒りに多く触れてきて、同僚が何人もそのせいで命を落としたを見ている。
エルネストは芽衣の境遇に触れるたびに、自分なら大切にするのにという気持ちと、契約して失望されたくないという気持ちがごちゃごちゃになる。それがどちらも自分のための気持ちでしかないことが一番、嫌だった。
「エルネスト、触るね」
「えっ」
芽衣はエルネストの頬に手を伸ばして、さっきエルネストが涙を拭ってくれたように撫でる。
「なんだか、辛そうだから」
「辛そうな顔をしてたか……」
「うん。してた。辛い時は誰かに言ってね。人は辛いって言わないと辛いのわからなくなっちゃうから」
芽衣の言葉にエルネストは彼女の手をそっと外して、一瞬、諦めのような寂しい笑顔をしたが、何もなかったように微笑む。
「さて、お茶が渋くなるから、席につこう。せっかくの貰い物だ。もったいないだろう」
エルネストは芽衣の隣を通り抜けてしまう。今、芽衣は何か返答を間違えてしまったような気持ちになり、エルネストの言葉に頷くしかなかった。
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