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七話

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 芽衣はエルネストのことが気になりつつも、出されたお茶が懐かしい香りを放ち、そっちのほうも気になってしまい、エルネストとお茶を交互に見る。
 好奇心に正直な様子にエルネストは憂鬱な気持ちが少しだけ晴れ、苦笑しつつ、エルネストは残ったカップを差し出す。
「どうぞ。飲んでも大丈夫だ」
「ありがとう」
 いつも父と母が飲んでいるのを見たことはあったが、飲んだことはなかった。贄になったときから水しか出されなかったからもう何年も見たことがない。
 エルネストは先にお茶を飲み、飲んでも大丈夫なものだと教える。眺めていた芽衣も同じように、一口飲むとなんとも言えない顔をした。
「……苦い」
 ちゃんと味を感じたことに芽衣は安堵する。時間が経っているせいでお茶は生ぬるくなっていたが、芽衣はそことには気づかなかった。温度を感じなかったからだ。
 予想していた反応にエルネストは小さなポットを差し出す。
「それじゃあ、これを入れるといい。蜂蜜だ」
「蜂蜜! 甘いやつ!」
 妹と二人で分けた蜂蜜の飴の味を思い出す。また、妹のことを思い出して、心の片隅に穴が空いたような気持ちになった。
 芽衣は蜂蜜をお茶に垂らして飲むと、苦味が薄まって、ちょうどいい味になった。
「美味しい」
「それなら、よかった」
 笑う芽衣に安堵しながらエルネストは天気のことを話すように切り出した。
「君は空から落ちてきたけど、どうして、そんなことに?」
「寝てたら、放り出されてたの」
 芽衣は死んだ時に出会った声の思い出しつつ答える。エルネストは芽衣の回答にどんな状態なのかわからずにもっと掘り下げて聞くことにした。
「寝ていたら? 君は寝るのが好きなのかい?」
「あんまり好きじゃないけど、呪いで体が弱くなってうごかせなかったから、寝てた」
「呪いだって……」
 エルネストはぎゅっと拳を握りしめる。思ったよりも彼女がいた場所は劣悪なのかもしれないと。
「そう、呪い。神様を作るための」
「!?」
 彼女が語る事は教団に所属するエルネストからすれば、到底信じられないものだった。精霊に呪いをかけて、神様を作るなぞ冒涜、以前に命知らずである。必ず実験者が命を落とす結果になるか、死ぬよりも酷い目にあうのが、通常だ。虐待された精霊が虐待だと認識して、人を恨んだ瞬間、能力が発動し相手が燃えたり、凍ったりしたことだってある。その場合、精霊の気がすむまで、犯人を好きにさせるのだ。
 エルネストは高鳴る心臓を抑えながらいった。これから、彼女の口から出てくる爆弾に備えて。
「その人間たちはなんで神を作ろうとしていたんだ?」
「皆が幸せになるためだって、人のための、人を守る神様を作るんだって言ってた」
「何を愚かな……」
 エルネストはバカバカしそうに吐き捨てた。爪が肉に食い込む。悔しさと己への苛立ちだった。教団で保護した精霊に話を聞くたびに、彼らの純粋さと運を恨む。
「ふわっ」
 芽衣はお茶を飲み終わり、小さなあくびをする。本来ならば、肉体か精神のどちらかが傷ついていないかぎり、睡眠を必要としない。
 エルネストは外を見て、いくつかの家の明かりが消えているのを確認する。いい時間だったようだ。
「もう、こんな時間か。今日はこれまでにしよう。そっちのベッドで寝るといい」
「エルネストは?」
「俺はこの椅子で寝るから問題ないよ」
 エルネストの回答に納得がいかない芽衣はベッドの大きさと自分たちの大きさを見て言った。
「じゃあ、ベッド一緒に寝よう」
「えっ?」
 また、爆弾を落とされて、エルネストは固まった。
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