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図らずも。
あの女のことを助けてしまうことになった。
ジェイクは、例のアパートメントの出入口が見渡せる建物の影に身を潜めていた。
女がアパートメントを後にしたら、あの部屋に忍び込むつもりでいた。
成り行きだったとはいえ、一度は殺してやろうと思っていたターゲットを、よもや助けてしまうことになろうとは。 ── いや、そうは思うまい。あの場であの女を助けておかなければ、大切な部屋の在処を知ることはできなかった。その部屋には、自分の身の上がばれてしまうような危険な手がかりが残されているのかも知れないのだから。
直にパトカーが二台やってきた。
ジェイクは、用心深く更に建物の影の奥へ身を潜めた。
警官が四人、拳銃を手に取りながら建物の内部に入って行く。
パトカーの周囲に野次馬が集まってきた。
しばらくして、一人の警官が建物から出てきて、パトカーの無線に向かって何か話した後、野次馬払いを始めた。その後、完全に戦意を喪失した強盗犯が警官に両脇を支えられつつ、建物から出てくる。
それに遅れてしばらく。
女性警官に伴われ、小柄なあの女が出てきた。
どうやら女は、警官に事の次第をずっと説明しているらしい。おそらく、彼女の口から『スタン』と名乗る男のことも出ているだろうが、警察はその男を探し出すことはできないだろう。
強盗犯を乗せたパトカーが先に走り始め、女が乗り込んだパトカーが後に続いた。
パトカーに乗り込む前、女は群衆の片隅に向かって何か合図をしたが、ジェイクの位置からは誰に何の合図をしたかよく見えなかった。
パトカーが走り去ると、三々五々、野次馬の輪は消えてなくなる。
ジェイクは用心のため、更に三十分ほどそこで時間を潰し、アパートメントに向かった。
周囲を用心深く見渡し、さり気なく建物の中に入る。
先程の騒ぎのせいか、住民達はより一層ドアを堅く閉ざしていた。
ジェイクは誰ともすれ違うことなく三階フロアまで上がると、先程ここの住人である中年女が指さした問題の部屋の前に立った。
ジェイクは念のため、周囲を見回しながら薄手のゴム手袋を両手に填めた。
ドアノブを掴むと、当たり前だが鍵がかかっている。
ジェイクは鼻で笑った。
こんなドア、雑作もない。
上着のポケットからヘアピンを二本取り出すと、鍵穴に突っ込んだ。
ジェイクが二、三回ピンを揺らすと、あっけなく鍵が開く音がする。
ジェイクが触れてもいないのに、ふっとドアが開いた。
ジェイクは部屋の中に滑り込む。
ガランとした空間が広がっていた。
家具といわれるものは何もなく、床も壁もあちこち剥げていて見る影もない。ところどころにネズミの排泄物と思われる小さな黒い固まりが転がっている。
とても人が住んでいるような気配は感じなかったが、道路に面した窓側に、唯一人間の痕跡と思えるものが残されていた。
寝袋にノート型のパソコン。プリンター。小さな水槽。食い散らかされたゴミ。キャンディーの包み紙。散乱した封筒。無造作に折り畳まれた大きな方眼紙。無数のカラーペン。カメラ。望遠鏡。
なるほど、ヤツはここで何かを調べるのと同時に、何かを見張っていたのだ。
ジェイクは窓に近づいた。
表通りが見える。
そろそろ本格的な夜の景色へと変貌しつつある街並み。
── 一体ここから何を見ていたんだ?
通り沿いには、汚いながらも営業をしている小店舗が軒を並べている。ただ、向かいの通りの角にある建物は、看板が出ていなかったので何の店かわからなかった。
ジェイクは舌打ちをする。
窓の外には、あの哀れなアメリカ人記者が何を見張っていたのかわかるような手がかりはなかった。
ジェイクは床にしゃがみ込んで、床に散らばる出力紙を眺めた。
その頃、今さっきまでジェイクが覗いていた窓の外では、看板の出ていない店から黒髪の姿のいい男が出て来て通りの南側に向かって歩き去って行ったのだが、結局ジェイクはそれに気が付くことがなかった。
ジェイクは出力された紙を拾い上げ、ふんと鼻を鳴らす。
「なるほど・・・」
インターポールで扱われているジェイクの資料だ。
おそらくトップシークレットの情報だろうが、あの記者はどうにかしてこれを手に入れたらしい。なかなか根性がある。
── もっとも、今頃は棺桶の中だがな。それに、その中身もきちんとあるかどうか。
ジェイクはそう思って、少し笑った。
今頃、ジェイコブはどうしているだろう。
すっかり頭がおかしくなって、「三番目の記者の事件は俺の仕業じゃない」とほざいているところだろうか。だがきっと誰も信じないさ。
ジェイクはパソコンを立ち上げた。
年を取っているからといって、パソコン音痴ではない。
むしろ獄中では、無期懲役囚でありながらも精力的に最新技術の習得に勤めてきた。同房のヤツは、呆け防止かい?とふざけて訊いてきたが、もちろんそんな筈はなかった。
ジェイクはずっと諦めていなかったし、そして事実今、見知らぬ国の見知らぬ街にいる。
持ち主をなくしたパソコンが、カリカリと音を立てて起動する。
不用心なことにあの記者は、自分のパソコンにパスワード設定をしていなかった。
誰も知らない秘密の隠れ家だからこそ、安心していたのか。
デスクトップやハードディスクにある書類を、片っ端から広げていく。
ジェイクの過去の犯罪歴はもちろんのこと、ジェイコブ・マローンについてのデータもある。あの記者は、なかなかよく調べていた。おそらく、彼はこの街の警察より事件の確信に迫っていたのだ。あの時点で消しておいて正解だった。
カチカチとクリックしていくうち、ピタリと手が止まった。
若い頃の自分の写真。
車に乗り込もうとする自分の後ろに、『彼』の姿が写っていた。
モノクロの粒子が粗い写真だとしても、『彼』の美しさは変わらない。
── ああ、何と愛しい姿だ。
まだあどけない表情を残す横顔は、これから起こる惨劇を予測して、堅く静かな表情を浮かべている。
若く美しい横顔。
『彼』は、この腕の中で何度も涙を流し、喘いだ。例え拷問で身体中傷ついていても、その美しさが穢れることはなかった。
── アレクシス・・・。
何度思い起こしても、それは甘い感情をジェイクに思い起こさせる。
そして同時に、気が狂いそうなほどの憎悪も。
なぜ、私の元から去ったのだ。
あのまま、私の言うことを聞いているだけで良かったのに。
今頃、どこでどうしているのだろう。
この国に逃げて行ったことまでは調べたのだが・・・。
ジェイクは、手袋に覆われた指先で名残惜しそうにアレクシスの横顔に触れると、パソコンのデータを完全に初期化した。
ジェイクの足先が、黄色い封筒を踏みつけた。
そのせいで、中身の形が封筒の上に浮かび上がってくる。四角いそのシルエットは、どうやら写真のようだ。
ジェイクは、その封筒を手に取って中身を取り出した。
そこには。
ジェイクは一瞬、呼吸することを完全に忘れていた。
あまりの驚愕に、身体の機能さえ狂ってしまった。
ジェイクは激しく咳き込む。だが、写真は決して離さなかった。
その写真に写っていたものは。
アレクシス・コナーズによく似た黒髪の男の姿。
といっても先程のあどけないアレクシスの写真とは全く違って、随分年齢を重ねた男の横顔だった。写真の隅に『ジム・ウォレス』とメモがされている。これが写真の男の名前だろうか。
── だが、それにしても・・・。
ジェイクは頭を横に振った。
これはアレクシスだ。そうだ、間違いない。
望遠で撮ったカラー写真が、男の蒼い瞳を写し出している。
この目。この瞳の色。
こんなに深く美しいサファイア色の瞳をした男は、世界でただ一人のはずだ。
アレクシス・コナーズ。
私の愛する、そして世界一憎むべき存在。
ああ、それにしても何て美しいのだろう。
高い鼻梁、憂いを含む唇。顔の作りは、青年の頃となんら変わっていない。いや寧ろ、年を重ねたことでより艶やかな男の色香を感じさせる。写真でこれほどなのだから、実物はもっと魅力に溢れているのだろう。
想像していた通りだ。
突然の再会に、ジェイクは浮き足だった。
写真を舐めるように見る。
写真に写し出されたアレクシスが出ていこうとしている店は、まさに通りの角にある看板のないあの店だった。
── アレクシスが、この街にいる。この街のどこかで、今もこの私と同じ空気を吸っている。
ジェイクにしては珍しく、全身がブルブルと震えていた。
久しぶりに骨の髄まで感じる興奮に、ジェイクは気が狂いそうになった。
その場をグルグルと歩き回り、写真を胸に押しつける。
そうしてジェイクは、窓の外に目をやった。
通りは静かだ。店も動きはない。
ジェイクは振り返って、方眼紙を広げてみた。
そこには、カラフルな色のメモ用紙がベタベタと張り付けられ、そのメモ用紙同士は、サインペンで書かれた矢印で結ばれていた。
そこには、数々のキーワードが書かれてある。
『トレント橋爆破事件。11月9日午後5時24分。事件発生。犯人の意図なのか、爆弾の威力自体は橋を破壊するに十分なものだったが、仕掛けられた位置のせいで橋の破壊までには至らなかった。だがこの爆発により、橋の上で35台の玉突き事故が発生、47人の市民に重軽傷者が出る。幸い死者は出なかった』
『プロの仕業?』
『爆弾事件の10分後。シンシア・ウォレスのひき逃げ事件発生』
『ひき逃げ事件の犯人=ステッグマイヤー→ウォレスに恨みを持つ者』
『次の被害者』
『12月3日午後3時丁度。第二の事件発生。ミラーズ社の前に停車してあった車に仕掛けられていた爆弾が爆発。車に乗っていたステッグマイヤーが死亡。ほぼ即死の状態だった。・・・明らかな殺意』
『同一の犯人』
『恨み?』
『シンシアの事故を目撃している?』
『犯人像=大胆。乱暴。粗雑。残忍。爆弾が爆発することに対する喜び。ミラーズ社に対して特別な感情がある。』
ミラーズ社というコメントの上に線が引っ張ってあり、『ジム・ウォレス』と書き換えられてあった。
── ジム・・・。ジム・ウォレス、か。
ジェイクは、自分の手の中の写真を見つめ続けた。
あの女のことを助けてしまうことになった。
ジェイクは、例のアパートメントの出入口が見渡せる建物の影に身を潜めていた。
女がアパートメントを後にしたら、あの部屋に忍び込むつもりでいた。
成り行きだったとはいえ、一度は殺してやろうと思っていたターゲットを、よもや助けてしまうことになろうとは。 ── いや、そうは思うまい。あの場であの女を助けておかなければ、大切な部屋の在処を知ることはできなかった。その部屋には、自分の身の上がばれてしまうような危険な手がかりが残されているのかも知れないのだから。
直にパトカーが二台やってきた。
ジェイクは、用心深く更に建物の影の奥へ身を潜めた。
警官が四人、拳銃を手に取りながら建物の内部に入って行く。
パトカーの周囲に野次馬が集まってきた。
しばらくして、一人の警官が建物から出てきて、パトカーの無線に向かって何か話した後、野次馬払いを始めた。その後、完全に戦意を喪失した強盗犯が警官に両脇を支えられつつ、建物から出てくる。
それに遅れてしばらく。
女性警官に伴われ、小柄なあの女が出てきた。
どうやら女は、警官に事の次第をずっと説明しているらしい。おそらく、彼女の口から『スタン』と名乗る男のことも出ているだろうが、警察はその男を探し出すことはできないだろう。
強盗犯を乗せたパトカーが先に走り始め、女が乗り込んだパトカーが後に続いた。
パトカーに乗り込む前、女は群衆の片隅に向かって何か合図をしたが、ジェイクの位置からは誰に何の合図をしたかよく見えなかった。
パトカーが走り去ると、三々五々、野次馬の輪は消えてなくなる。
ジェイクは用心のため、更に三十分ほどそこで時間を潰し、アパートメントに向かった。
周囲を用心深く見渡し、さり気なく建物の中に入る。
先程の騒ぎのせいか、住民達はより一層ドアを堅く閉ざしていた。
ジェイクは誰ともすれ違うことなく三階フロアまで上がると、先程ここの住人である中年女が指さした問題の部屋の前に立った。
ジェイクは念のため、周囲を見回しながら薄手のゴム手袋を両手に填めた。
ドアノブを掴むと、当たり前だが鍵がかかっている。
ジェイクは鼻で笑った。
こんなドア、雑作もない。
上着のポケットからヘアピンを二本取り出すと、鍵穴に突っ込んだ。
ジェイクが二、三回ピンを揺らすと、あっけなく鍵が開く音がする。
ジェイクが触れてもいないのに、ふっとドアが開いた。
ジェイクは部屋の中に滑り込む。
ガランとした空間が広がっていた。
家具といわれるものは何もなく、床も壁もあちこち剥げていて見る影もない。ところどころにネズミの排泄物と思われる小さな黒い固まりが転がっている。
とても人が住んでいるような気配は感じなかったが、道路に面した窓側に、唯一人間の痕跡と思えるものが残されていた。
寝袋にノート型のパソコン。プリンター。小さな水槽。食い散らかされたゴミ。キャンディーの包み紙。散乱した封筒。無造作に折り畳まれた大きな方眼紙。無数のカラーペン。カメラ。望遠鏡。
なるほど、ヤツはここで何かを調べるのと同時に、何かを見張っていたのだ。
ジェイクは窓に近づいた。
表通りが見える。
そろそろ本格的な夜の景色へと変貌しつつある街並み。
── 一体ここから何を見ていたんだ?
通り沿いには、汚いながらも営業をしている小店舗が軒を並べている。ただ、向かいの通りの角にある建物は、看板が出ていなかったので何の店かわからなかった。
ジェイクは舌打ちをする。
窓の外には、あの哀れなアメリカ人記者が何を見張っていたのかわかるような手がかりはなかった。
ジェイクは床にしゃがみ込んで、床に散らばる出力紙を眺めた。
その頃、今さっきまでジェイクが覗いていた窓の外では、看板の出ていない店から黒髪の姿のいい男が出て来て通りの南側に向かって歩き去って行ったのだが、結局ジェイクはそれに気が付くことがなかった。
ジェイクは出力された紙を拾い上げ、ふんと鼻を鳴らす。
「なるほど・・・」
インターポールで扱われているジェイクの資料だ。
おそらくトップシークレットの情報だろうが、あの記者はどうにかしてこれを手に入れたらしい。なかなか根性がある。
── もっとも、今頃は棺桶の中だがな。それに、その中身もきちんとあるかどうか。
ジェイクはそう思って、少し笑った。
今頃、ジェイコブはどうしているだろう。
すっかり頭がおかしくなって、「三番目の記者の事件は俺の仕業じゃない」とほざいているところだろうか。だがきっと誰も信じないさ。
ジェイクはパソコンを立ち上げた。
年を取っているからといって、パソコン音痴ではない。
むしろ獄中では、無期懲役囚でありながらも精力的に最新技術の習得に勤めてきた。同房のヤツは、呆け防止かい?とふざけて訊いてきたが、もちろんそんな筈はなかった。
ジェイクはずっと諦めていなかったし、そして事実今、見知らぬ国の見知らぬ街にいる。
持ち主をなくしたパソコンが、カリカリと音を立てて起動する。
不用心なことにあの記者は、自分のパソコンにパスワード設定をしていなかった。
誰も知らない秘密の隠れ家だからこそ、安心していたのか。
デスクトップやハードディスクにある書類を、片っ端から広げていく。
ジェイクの過去の犯罪歴はもちろんのこと、ジェイコブ・マローンについてのデータもある。あの記者は、なかなかよく調べていた。おそらく、彼はこの街の警察より事件の確信に迫っていたのだ。あの時点で消しておいて正解だった。
カチカチとクリックしていくうち、ピタリと手が止まった。
若い頃の自分の写真。
車に乗り込もうとする自分の後ろに、『彼』の姿が写っていた。
モノクロの粒子が粗い写真だとしても、『彼』の美しさは変わらない。
── ああ、何と愛しい姿だ。
まだあどけない表情を残す横顔は、これから起こる惨劇を予測して、堅く静かな表情を浮かべている。
若く美しい横顔。
『彼』は、この腕の中で何度も涙を流し、喘いだ。例え拷問で身体中傷ついていても、その美しさが穢れることはなかった。
── アレクシス・・・。
何度思い起こしても、それは甘い感情をジェイクに思い起こさせる。
そして同時に、気が狂いそうなほどの憎悪も。
なぜ、私の元から去ったのだ。
あのまま、私の言うことを聞いているだけで良かったのに。
今頃、どこでどうしているのだろう。
この国に逃げて行ったことまでは調べたのだが・・・。
ジェイクは、手袋に覆われた指先で名残惜しそうにアレクシスの横顔に触れると、パソコンのデータを完全に初期化した。
ジェイクの足先が、黄色い封筒を踏みつけた。
そのせいで、中身の形が封筒の上に浮かび上がってくる。四角いそのシルエットは、どうやら写真のようだ。
ジェイクは、その封筒を手に取って中身を取り出した。
そこには。
ジェイクは一瞬、呼吸することを完全に忘れていた。
あまりの驚愕に、身体の機能さえ狂ってしまった。
ジェイクは激しく咳き込む。だが、写真は決して離さなかった。
その写真に写っていたものは。
アレクシス・コナーズによく似た黒髪の男の姿。
といっても先程のあどけないアレクシスの写真とは全く違って、随分年齢を重ねた男の横顔だった。写真の隅に『ジム・ウォレス』とメモがされている。これが写真の男の名前だろうか。
── だが、それにしても・・・。
ジェイクは頭を横に振った。
これはアレクシスだ。そうだ、間違いない。
望遠で撮ったカラー写真が、男の蒼い瞳を写し出している。
この目。この瞳の色。
こんなに深く美しいサファイア色の瞳をした男は、世界でただ一人のはずだ。
アレクシス・コナーズ。
私の愛する、そして世界一憎むべき存在。
ああ、それにしても何て美しいのだろう。
高い鼻梁、憂いを含む唇。顔の作りは、青年の頃となんら変わっていない。いや寧ろ、年を重ねたことでより艶やかな男の色香を感じさせる。写真でこれほどなのだから、実物はもっと魅力に溢れているのだろう。
想像していた通りだ。
突然の再会に、ジェイクは浮き足だった。
写真を舐めるように見る。
写真に写し出されたアレクシスが出ていこうとしている店は、まさに通りの角にある看板のないあの店だった。
── アレクシスが、この街にいる。この街のどこかで、今もこの私と同じ空気を吸っている。
ジェイクにしては珍しく、全身がブルブルと震えていた。
久しぶりに骨の髄まで感じる興奮に、ジェイクは気が狂いそうになった。
その場をグルグルと歩き回り、写真を胸に押しつける。
そうしてジェイクは、窓の外に目をやった。
通りは静かだ。店も動きはない。
ジェイクは振り返って、方眼紙を広げてみた。
そこには、カラフルな色のメモ用紙がベタベタと張り付けられ、そのメモ用紙同士は、サインペンで書かれた矢印で結ばれていた。
そこには、数々のキーワードが書かれてある。
『トレント橋爆破事件。11月9日午後5時24分。事件発生。犯人の意図なのか、爆弾の威力自体は橋を破壊するに十分なものだったが、仕掛けられた位置のせいで橋の破壊までには至らなかった。だがこの爆発により、橋の上で35台の玉突き事故が発生、47人の市民に重軽傷者が出る。幸い死者は出なかった』
『プロの仕業?』
『爆弾事件の10分後。シンシア・ウォレスのひき逃げ事件発生』
『ひき逃げ事件の犯人=ステッグマイヤー→ウォレスに恨みを持つ者』
『次の被害者』
『12月3日午後3時丁度。第二の事件発生。ミラーズ社の前に停車してあった車に仕掛けられていた爆弾が爆発。車に乗っていたステッグマイヤーが死亡。ほぼ即死の状態だった。・・・明らかな殺意』
『同一の犯人』
『恨み?』
『シンシアの事故を目撃している?』
『犯人像=大胆。乱暴。粗雑。残忍。爆弾が爆発することに対する喜び。ミラーズ社に対して特別な感情がある。』
ミラーズ社というコメントの上に線が引っ張ってあり、『ジム・ウォレス』と書き換えられてあった。
── ジム・・・。ジム・ウォレス、か。
ジェイクは、自分の手の中の写真を見つめ続けた。
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