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プロローグ 後編
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「歩けそうですか?」
「ごめんなさい。足が……前に出ないです……」
「分かりました。ちょっと待ってください」
警察官は自転車を持ってきて、私の隣に立つ。
「あなたの自宅まで送ります。俺に寄りかかってください」
「……でも、そんなの悪いです。落ち着けば……多分歩けますから……」
まだ震えが止まらない私の足元に視線を落として、警察官は静かに言った。
「それじゃ歩けないでしょう。それに、あなたをここで一人きりにしておくわけにはいきません。家は近くですか?」
「……多分……近くだと思います」
「多分?」
警察官が、怪訝な表情をした。
そりゃそうよね。自宅を尋ねられて「多分」なんておかしいもの。
「……今日、引っ越してきたばかりなんです。だからこの辺りのこと、あまりわかってなくて……」
「ああ、そういうことでしたか。じゃあ、尚更送らないと。すみませんが、肩に手を置いてもいいですか?」
うなずくと、大きな手に肩を引き寄せられた。
「遠慮なく、体預けてもらって構いませんからね。転ばないように」
がっしりした身体は、私が寄りかかったくらいではびくともしない。
片手では自転車を押しているのに。
「ありがとうございます……」
「いえ、これも警察官の仕事です。だけど、本当に……無事でよかった……」
近くで見上げると、警察官は意外と若い。
私とそれほど年齢も変わらなさそう。
――本当にいいのかな?
迷ってみたところで一人じゃ歩けなかった。
自転車を片手で押しながら、片手で私の肩を抱くように支えてくれてる警察官のお兄さん。
そうしてもらっていると温かくて安心できて、恐怖でこわばっていた身体がゆっくりほどけていく。
清潔感のある匂いも、それを後押しした。
「……お巡りさん、おいくつですか?」
「二十六歳です。警察学校卒業してから、駅前の交番に配属されて、今年で三年目になるかな」
「私と二つしか変わらないです。もう少し年上かと思ってました」
警察官のお兄さんは、気にする様子もなく笑いながら言った。
「こんな仕事ですから、若く見られるよりは、多少老けてた方がいいんですよ。二つ違いって、年下ですよね?」
「はい……笹倉梓と言います。助けていただいたのに、名前も言わずにごめんなさい」
「いいえ、笹倉さんは何も悪くないですよ。謝らないでください。俺は、田島拓巳って言います」
そんなことを話しながら歩いているうちに、アパートの前に着いた。
田島さんは、戸惑った表情を浮かべていた。
「……もしかして、このアパートですか?」
「はい……。どうか、しました?」
「実は、俺もここに住んでるんです」
こんな偶然って、本当にあるんだ。
田島さんはアパートの入り口まで、私を送ってくれた。
借りていたジャンパーを田島さんに返すと、訳もなく心細くなってしまう。
事情聴取は明日、田島さんが担当してくれるらしい。
名刺を渡されて交番に来てほしいと言われた。
「笹倉さん、交番の場所は分かりますか?」
「駅前ですよね? 多分、大丈夫です」
「では、今夜はゆっくり休んでください。……明日、交番でお待ちしてますので、気を付けてきてください」
私が部屋に入るのを見届けてから、軽く会釈をした田島さんは自転車に乗って帰っていった。
まだ襲われた恐怖は残ったまま。
けれど、身体に残った田島さんの温もりの記憶が、心を落ち着かせてくれた。
「ごめんなさい。足が……前に出ないです……」
「分かりました。ちょっと待ってください」
警察官は自転車を持ってきて、私の隣に立つ。
「あなたの自宅まで送ります。俺に寄りかかってください」
「……でも、そんなの悪いです。落ち着けば……多分歩けますから……」
まだ震えが止まらない私の足元に視線を落として、警察官は静かに言った。
「それじゃ歩けないでしょう。それに、あなたをここで一人きりにしておくわけにはいきません。家は近くですか?」
「……多分……近くだと思います」
「多分?」
警察官が、怪訝な表情をした。
そりゃそうよね。自宅を尋ねられて「多分」なんておかしいもの。
「……今日、引っ越してきたばかりなんです。だからこの辺りのこと、あまりわかってなくて……」
「ああ、そういうことでしたか。じゃあ、尚更送らないと。すみませんが、肩に手を置いてもいいですか?」
うなずくと、大きな手に肩を引き寄せられた。
「遠慮なく、体預けてもらって構いませんからね。転ばないように」
がっしりした身体は、私が寄りかかったくらいではびくともしない。
片手では自転車を押しているのに。
「ありがとうございます……」
「いえ、これも警察官の仕事です。だけど、本当に……無事でよかった……」
近くで見上げると、警察官は意外と若い。
私とそれほど年齢も変わらなさそう。
――本当にいいのかな?
迷ってみたところで一人じゃ歩けなかった。
自転車を片手で押しながら、片手で私の肩を抱くように支えてくれてる警察官のお兄さん。
そうしてもらっていると温かくて安心できて、恐怖でこわばっていた身体がゆっくりほどけていく。
清潔感のある匂いも、それを後押しした。
「……お巡りさん、おいくつですか?」
「二十六歳です。警察学校卒業してから、駅前の交番に配属されて、今年で三年目になるかな」
「私と二つしか変わらないです。もう少し年上かと思ってました」
警察官のお兄さんは、気にする様子もなく笑いながら言った。
「こんな仕事ですから、若く見られるよりは、多少老けてた方がいいんですよ。二つ違いって、年下ですよね?」
「はい……笹倉梓と言います。助けていただいたのに、名前も言わずにごめんなさい」
「いいえ、笹倉さんは何も悪くないですよ。謝らないでください。俺は、田島拓巳って言います」
そんなことを話しながら歩いているうちに、アパートの前に着いた。
田島さんは、戸惑った表情を浮かべていた。
「……もしかして、このアパートですか?」
「はい……。どうか、しました?」
「実は、俺もここに住んでるんです」
こんな偶然って、本当にあるんだ。
田島さんはアパートの入り口まで、私を送ってくれた。
借りていたジャンパーを田島さんに返すと、訳もなく心細くなってしまう。
事情聴取は明日、田島さんが担当してくれるらしい。
名刺を渡されて交番に来てほしいと言われた。
「笹倉さん、交番の場所は分かりますか?」
「駅前ですよね? 多分、大丈夫です」
「では、今夜はゆっくり休んでください。……明日、交番でお待ちしてますので、気を付けてきてください」
私が部屋に入るのを見届けてから、軽く会釈をした田島さんは自転車に乗って帰っていった。
まだ襲われた恐怖は残ったまま。
けれど、身体に残った田島さんの温もりの記憶が、心を落ち着かせてくれた。
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