清楚系彼女は溺愛警察官を乱して狂わせる

日下 凛

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第一章 出会い

二話 お巡りさんと喫茶店で

 木のドアを開けると、ドアベルがカランカランと鳴った。
 クラシック音楽が流れて、コーヒーの香りに満ちた雰囲気のいい喫茶店。
 カフェエプロンを着けた女性が、にこやかに声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
「……ありがとうございます」

 通勤ラッシュ時間のせいか、店内の客はまばらだった。
 窓際の二人掛け席に座ると、さっきの店員さんが水とおしぼりを置いて、メニューを手渡してくれる。

「人と待ち合わせているから、注文はその人が来てからでもいいですか?」
「もちろんいいですよ。ごゆっくりどうぞ」

 まだ四月の下旬なのに、日差しは強くて少し暑いくらい。
 それとも緊張のせいなのか――
 うっすらと滲んだ首筋の汗をハンカチで拭う。
 グラスの水を一口飲むと、カラリと氷の音がしてほっと小さく息を吐いた。

 窓の外を急ぎ足で行き交う人達を、ぼんやり眺める。
 少し前まで違う街にいた時は、私もあちら側の人間だった。
 あの頃は、そんな生活が変わるなんて疑いもしていなかった。
 こんなものだって、諦めていたような気がする。

 今は助けてもらったお巡りさんと会うために、午前中から喫茶店でそわそわしてる。
 こんなの、昨日の自分なら想像もしてなかった。
 二十四年しか生きてないけど、人生って本当に何があるか分からない。

 もう一度グラスに口をつけた時、ドアベルが鳴った。
 入って来たのは、私服に着替えた田島さん。
 視線を彷徨わせる彼に手を上げようとしたとき、さっきの店員さんが慣れた調子で声をかけた。

「あら、田島さんいらっしゃい。当直明けなの?」
「はい、さっき終わったんです。ここで人と待ち合わせていて」
「もしかして……あちらの綺麗なお嬢さん?」

 店員さんの視線が私に注がれて、田島さんもそれにつられる。
「綺麗なお嬢さん」なんて言われちゃった。
 そんなふうに見られる余裕なんて、今の私にはないはずなのに……胸が少しだけ温かくなる。

 私と目が合うと、田島さんは微笑んで、こっちに向かって歩いてきた。
 制服姿もきりっとしてて素敵だったけれど、私服だと爽やか好青年そのもの。
 高身長で脚が長くて、様になりすぎていた。
 なんでこんな人が私を助けてくれたんだろう。

「遅くなってすみません。もしかして、注文待っててくれたんですか?」

 田島さんが私の向かいに座り、テーブルの上に視線を落としてそう聞いてくる。

「はい。一緒に注文した方がいいかな、と思って……」
「気を遣わせちゃってすみません。……ところで笹倉さん、朝飯食べました?」

 あっけらかんと言われて、緊張していた身体から力が抜けた。
 そう言われれば、朝は水しか飲んでいなかった。
 なんだか、無性にお腹が空いてきた気がする……。

「まだ、食べてないです」
「それなら、何か食べませんか? モーニング、美味しいですよ。これおすすめです」
「はい、それじゃあ私も同じで」

 二人でメニューを覗き込みながら、田島さんがおすすめしてくれたモーニングとコーヒーを頼んだ。

「田島さん、当直明けで疲れてますよね?」
「もう三年目になりますし、慣れましたよ。笹倉さんは、昨夜眠れましたか?」

 そう言って田島さんは水を飲んだ。
 グラスを持つ指は、長くて骨ばっていて、思わず見入ってしまう。
 昨夜は気にする余裕もなかったけれど、この手が助けて支えてくれたんだ。

「……あまり眠れなかったです。まだ部屋に慣れてないのもあって」
「そっか、昨日引っ越してきたばかりでしたよね。近くに知り合いの方とか、いるんですか?」
「誰もいないです。全く初めての場所なんで、交番もスマホのナビを見ながら来たくらい」
「……良かったら、連絡先交換しませんか? 同じアパートですし、何かあったらいつでも駆け付けます。迷惑じゃなかったら、ですけど」

 冗談か本気か、田島さんは笑っていて、私もつられて笑ってしまう。
 警察官の仕事って、私に構っているほど暇なはずないのに。
 でも相手が田島さんだからか警戒することもなく、お互いの連絡先を交換した。

「当直明けって……何してるんですか? その、やっぱり帰ってすぐ寝ちゃうんですか?」
「うーん、買い物して帰って、シャワー浴びて。洗濯したり掃除したり。大体そんな感じですかね」
「……きちんとしてるんですね」
「そんなことないですよ。その代わり休みの日は、だらだらしてますし」

 昨日会ったばかりなのに、不思議なくらい自然に会話ができて、沈黙も気にならなかった。
 これは……制服職業の魔法なんだろうか。
 コーヒーを飲み終わる頃には、すっかり打ち解けた雰囲気になっていた。

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