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第一章 出会い
四話 大胆なお誘い
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「その……今日はわざわざありがとう」
「……私の方こそ。お礼しなきゃいけないのに、朝ごはんも結局ごちそうになっちゃったし、
買い物まで付き合ってもらって。本当に助かりました」
田島さんは視線をすっとそらし、言いにくそうに、それでも優しく言った。
「いいんです。俺がただ……付き合いたかっただけですから……」
胸の真ん中が、トクトクと音を立て始める。
田島さんの優しさに、甘えてしまいたくなる自分がいた。
この人になら……って気持ちがどんどん大きくなる。
お礼をしたい、それを言い訳にして内心思っていたことを伝えるか迷っていた。
でも、今の私にできることなんてほとんどない。
迷惑に思われたらどうしよう――だけどこのまま、言わずにいられなかった。
「……あの、良ければお昼ご飯を作るから……食べに来てくれませんか?」
「いいんですか?」
田島さんの表情がパッと明るくなる。
良かった、と心の底からほっとした。
「ぜひ、来てください。大したものは作れないですけど……。あ、嫌いなものとか、アレルギーとかあります?」
「いや、なんでも大丈夫ですよ」
甘い匂いのする風がそよいで、顔に髪がかかる。
田島さんの長い指が触れて、私の耳にかけてくれた。
その手つきがあまりに自然で、しばらく気がつかなかったくらい。
触れられた場所が、静かに熱くなった。
「……昨日と今日のお礼をさせてください」
「嬉しいです。……っと、その前にシャワー浴びて着替えてきます。俺、当直明けだし、臭いでしょ?」
ジャケットの内側の匂いを嗅いで、田島さんはわざとらしく顔をしかめる。
私は、笑って首を振った。
「全然、臭くなんてないですよ」
「昨日から風呂入ってないし、笹倉さん一緒に歩いてて臭いだろうなって思ってたのに」
「そんなことないですってば。……それじゃ、待ってますから」
「わかりました。部屋を出る前に連絡入れますね」
田島さんに軽く会釈をして、三階の自分の部屋に戻った。
部屋に入って鍵をかけるとドアに背中を預けたまま、ずるずる座り込んだ。
いくら命の恩人の警察官とはいえ、男の人を自分から誘うなんて。
大胆なことをしちゃった……。
「だめだ、こんなことしてる場合じゃない」
カーテンと窓を開けて空気を入れ替え、掃除機をかける。
部屋に干しっぱなしだった下着を取り込んだ。
こんなの絶対に見られたくない。
まだ荷ほどきの終わっていない段ボールも、クローゼットの奥に押し込んだ。
それを終える頃には、うっすら汗をかいていた。
「私もシャワー浴びようかな……」
独り言を口にして、我に返った。
お礼に食事を食べに来てもらうだけなのに。
朝からたくさん歩いて汗もかいたし、さっぱりしたい――
自分で自分にそんな言い訳をしていたくせに。
結局シャワーを浴びるだけじゃなく、髪まで洗ってしまった。
何、期待してるんだろう、私……。
髪を乾かしながら、スマホの通知を見る。
田島さんからの連絡は、まだだった。
待っている時間がこんなに長いなんて知らなかった。
「……私の方こそ。お礼しなきゃいけないのに、朝ごはんも結局ごちそうになっちゃったし、
買い物まで付き合ってもらって。本当に助かりました」
田島さんは視線をすっとそらし、言いにくそうに、それでも優しく言った。
「いいんです。俺がただ……付き合いたかっただけですから……」
胸の真ん中が、トクトクと音を立て始める。
田島さんの優しさに、甘えてしまいたくなる自分がいた。
この人になら……って気持ちがどんどん大きくなる。
お礼をしたい、それを言い訳にして内心思っていたことを伝えるか迷っていた。
でも、今の私にできることなんてほとんどない。
迷惑に思われたらどうしよう――だけどこのまま、言わずにいられなかった。
「……あの、良ければお昼ご飯を作るから……食べに来てくれませんか?」
「いいんですか?」
田島さんの表情がパッと明るくなる。
良かった、と心の底からほっとした。
「ぜひ、来てください。大したものは作れないですけど……。あ、嫌いなものとか、アレルギーとかあります?」
「いや、なんでも大丈夫ですよ」
甘い匂いのする風がそよいで、顔に髪がかかる。
田島さんの長い指が触れて、私の耳にかけてくれた。
その手つきがあまりに自然で、しばらく気がつかなかったくらい。
触れられた場所が、静かに熱くなった。
「……昨日と今日のお礼をさせてください」
「嬉しいです。……っと、その前にシャワー浴びて着替えてきます。俺、当直明けだし、臭いでしょ?」
ジャケットの内側の匂いを嗅いで、田島さんはわざとらしく顔をしかめる。
私は、笑って首を振った。
「全然、臭くなんてないですよ」
「昨日から風呂入ってないし、笹倉さん一緒に歩いてて臭いだろうなって思ってたのに」
「そんなことないですってば。……それじゃ、待ってますから」
「わかりました。部屋を出る前に連絡入れますね」
田島さんに軽く会釈をして、三階の自分の部屋に戻った。
部屋に入って鍵をかけるとドアに背中を預けたまま、ずるずる座り込んだ。
いくら命の恩人の警察官とはいえ、男の人を自分から誘うなんて。
大胆なことをしちゃった……。
「だめだ、こんなことしてる場合じゃない」
カーテンと窓を開けて空気を入れ替え、掃除機をかける。
部屋に干しっぱなしだった下着を取り込んだ。
こんなの絶対に見られたくない。
まだ荷ほどきの終わっていない段ボールも、クローゼットの奥に押し込んだ。
それを終える頃には、うっすら汗をかいていた。
「私もシャワー浴びようかな……」
独り言を口にして、我に返った。
お礼に食事を食べに来てもらうだけなのに。
朝からたくさん歩いて汗もかいたし、さっぱりしたい――
自分で自分にそんな言い訳をしていたくせに。
結局シャワーを浴びるだけじゃなく、髪まで洗ってしまった。
何、期待してるんだろう、私……。
髪を乾かしながら、スマホの通知を見る。
田島さんからの連絡は、まだだった。
待っている時間がこんなに長いなんて知らなかった。
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