6 / 60
第一章 出会い
四話 大胆なお誘い
「その……今日はわざわざありがとう」
「……私の方こそ。お礼しなきゃいけないのに、朝ごはんも結局ごちそうになっちゃったし、買い物まで付き合ってもらって。本当に助かりました」
田島さんは視線をすっとそらし言いにくそうに、それでも優しく言った。
「いいんです。俺が、ただ付き合いたかっただけですから……」
胸の真ん中が、トクンと音を立てる。
優しくて、頼りになって、素敵な田島さん。
この人なら……って気持ちがどんどん大きくなる。
お礼をしたい、それを言い訳にして内心思っていたことを伝えるか迷っていた。
でも、今の私にできることなんてほとんどない。
迷惑に思われたらどうしよう――
だけどこのままさよならをしたら、きっと後悔する。
そう思ったのと同時に、言葉が口をついて出た。
「……あの、良ければお昼ご飯を作るので、……食べに来てくれませんか?」
「え、いいんですか?」
田島さんの表情がパッと明るくなる。
良かった、と心底ほっとした。
「ぜひ、来てください。大したものは作れないですけど……。あ、嫌いなものとか、アレルギーとかありますか?」
「いや、なんでも大丈夫ですよ」
甘い匂いのする風がそよいで、顔に髪がかかる。
田島さんの長い指が触れて、私の耳にかけてくれた。
その手つきがあまりに自然で、しばらく気がつかなかったくらい。
触れられた場所が、静かに熱くなった。
「……昨日と今日のお礼をさせてください」
「嬉しいです。……っと、その前にシャワー浴びて着替えてきます。俺、当直明けだし、臭いでしょ?」
ジャケットの内側の匂いを嗅いで、田島さんはわざとらしく顔をしかめる。
私は、笑って首を振った。
「全然、臭くなんてないですよ」
「昨日から風呂入ってないし、笹倉さん一緒に歩いてて臭いだろうなって思ってたのに」
「そんなことないですってば。……それじゃ、待ってますから」
「わかりました。部屋を出る前に連絡入れますね」
田島さんに軽く会釈をして、三階の自分の部屋に戻った。
部屋に入って鍵をかけるとドアに背中を預けたまま、ずるずる座り込んだ。
いくら命の恩人の警察官とはいえ、男の人を自分から誘うなんて。
大胆なことをしちゃった……。
「だめだ、こんなことしてる場合じゃない」
カーテンと窓を開けて空気を入れ替え、掃除機をかける。
部屋に干しっぱなしだった下着を取り込んだ。
こんなの絶対に見られたくない。
まだ荷ほどきの終わっていない段ボールも、クローゼットの奥に押し込んだ。
それを終える頃には、うっすら汗をかいていた。
「私もシャワー浴びようかな……」
独り言を口にして、我に返った。
お礼に食事を食べに来てもらうだけなのに。
朝からたくさん歩いて汗もかいたし、さっぱりしたい――
自分で自分にそんな言い訳をして。
結局シャワーを浴びるだけじゃなく、髪まで洗ってしまった。
何、期待してるんだろう、私……。
髪を乾かしながら、スマホの通知を見る。
田島さんからの連絡は、まだだった。
待っている時間がこんなに長いなんて。
一体、どうしてだろう。
「……私の方こそ。お礼しなきゃいけないのに、朝ごはんも結局ごちそうになっちゃったし、買い物まで付き合ってもらって。本当に助かりました」
田島さんは視線をすっとそらし言いにくそうに、それでも優しく言った。
「いいんです。俺が、ただ付き合いたかっただけですから……」
胸の真ん中が、トクンと音を立てる。
優しくて、頼りになって、素敵な田島さん。
この人なら……って気持ちがどんどん大きくなる。
お礼をしたい、それを言い訳にして内心思っていたことを伝えるか迷っていた。
でも、今の私にできることなんてほとんどない。
迷惑に思われたらどうしよう――
だけどこのままさよならをしたら、きっと後悔する。
そう思ったのと同時に、言葉が口をついて出た。
「……あの、良ければお昼ご飯を作るので、……食べに来てくれませんか?」
「え、いいんですか?」
田島さんの表情がパッと明るくなる。
良かった、と心底ほっとした。
「ぜひ、来てください。大したものは作れないですけど……。あ、嫌いなものとか、アレルギーとかありますか?」
「いや、なんでも大丈夫ですよ」
甘い匂いのする風がそよいで、顔に髪がかかる。
田島さんの長い指が触れて、私の耳にかけてくれた。
その手つきがあまりに自然で、しばらく気がつかなかったくらい。
触れられた場所が、静かに熱くなった。
「……昨日と今日のお礼をさせてください」
「嬉しいです。……っと、その前にシャワー浴びて着替えてきます。俺、当直明けだし、臭いでしょ?」
ジャケットの内側の匂いを嗅いで、田島さんはわざとらしく顔をしかめる。
私は、笑って首を振った。
「全然、臭くなんてないですよ」
「昨日から風呂入ってないし、笹倉さん一緒に歩いてて臭いだろうなって思ってたのに」
「そんなことないですってば。……それじゃ、待ってますから」
「わかりました。部屋を出る前に連絡入れますね」
田島さんに軽く会釈をして、三階の自分の部屋に戻った。
部屋に入って鍵をかけるとドアに背中を預けたまま、ずるずる座り込んだ。
いくら命の恩人の警察官とはいえ、男の人を自分から誘うなんて。
大胆なことをしちゃった……。
「だめだ、こんなことしてる場合じゃない」
カーテンと窓を開けて空気を入れ替え、掃除機をかける。
部屋に干しっぱなしだった下着を取り込んだ。
こんなの絶対に見られたくない。
まだ荷ほどきの終わっていない段ボールも、クローゼットの奥に押し込んだ。
それを終える頃には、うっすら汗をかいていた。
「私もシャワー浴びようかな……」
独り言を口にして、我に返った。
お礼に食事を食べに来てもらうだけなのに。
朝からたくさん歩いて汗もかいたし、さっぱりしたい――
自分で自分にそんな言い訳をして。
結局シャワーを浴びるだけじゃなく、髪まで洗ってしまった。
何、期待してるんだろう、私……。
髪を乾かしながら、スマホの通知を見る。
田島さんからの連絡は、まだだった。
待っている時間がこんなに長いなんて。
一体、どうしてだろう。
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ
玖羽 望月
恋愛
老舗医療機器メーカーのマーケティング・企画部で働く石田琴葉【いしだことは】(28)は、仕事一筋で生きてきた。
学生時代に恋愛で痛手を負った琴葉は、それから勉強と仕事を最優先に生きてきた。
ある日琴葉は、祖母にお見合いを勧められ、「会うだけなら」と渋々お見合いに臨んだ。
そこに現れたのは眉目秀麗という言葉が似合う榛名智臣【はるなともおみ】(33)だった。
智臣は琴葉の仕事や業界に精通していて、思いの外話しは弾む。ただ自身のことは多くを語らず、会話の端々に謎を残してお見合いは終わった。
その後何も連絡はなく、気になりながらも目の前の仕事に全力を尽くす琴葉。
やがて迎えた、上層部の集う重要会議。
緊張感の中、突如発表されたのはマーケティング・企画部長の異動と、新たな部長の着任だった。
そこに現れた新部長は――
第19回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。ありがとうございます。
今後は不定期更新の予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。