清楚系彼女は溺愛警察官を乱して狂わせる

日下 凛

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第一章 出会い

六話 近づく距離

「お待たせしちゃってすみません。お口に合えばいいんですけど、どうぞ」
「いただきます」

 私に微笑みかけてから手を合わせる姿を見て、やっぱりきちんとした人だなと思う。
 昨夜、初めて会った男の人を自分の部屋に呼んで、手料理を振る舞っている。
 同じ空間に田島さんがいるのが当たり前のような気がする。

「……あの、どうですか?」

 お味噌汁を一口飲んで、田島さんは固まってしまった。
 なぜか、お椀を持つ手が震えている。
 もしかして、震えるほど不味かった……とか?
 お椀を置いた田島さんが、抑えきれないように言葉をこぼした。

「……笹倉さん、ほんっとうに超美味いっす。染みる……」
「良かったです……」

 誰かに食事を作って、こんなに喜んでもらえたことなんて今までなかった。
 嬉しくて、口元が緩んでしまう。
 田島さんは、「美味い」と無意識なのか呟きながら食べてくれた。

 食事を食べながら、彼の様子を時々盗み見る。
 こういう人って本当にいいな。
 一緒にいるだけで、胸が温かくなる。
 食べるのは速いのに、がっついているのでもない。
 綺麗に食べる人なんだ……と、気づけば見惚れていた。

「ごちそうさまでした」

 お箸を静かに置いて、田島さんは丁寧に両手を合わせた。

「なんか、無言で食べちゃってすみません。美味すぎて、つい夢中で……」
「そんなふうに言ってもらえて、嬉しいです」

 笑いながら言うと、田島さんはテーブルの上に両手を付く。
 なんだろう?と思っていたら、私に向かっておもむろに頭を下げた。

「お世辞とかそういうの抜きで、本当に美味かったです。笹倉さんに、こんなに美味い料理作ってもらえて、めちゃくちゃ幸せでした」
「幸せなんて……大袈裟ですよ……」

 照れ隠しのついでに、空になっていた田島さんのグラスにポットの麦茶を注いだ。
 胸の中で乾いてひび割れていた何かが、彼の笑顔や言葉で満たされて潤っていく。
 迷っていたけれど、この人なら信じられる。

「……あの、こんなので良かったらまた食べに来てください。もちろん迷惑じゃなかったら」
「そんなこと……笹倉さんみたいな人に言われたら、俺、本気にしちゃいますよ」

 田島さんの表情が急に真剣になって、声が低くなる。
 きゅっと跳ねた胸を押さえる。
 落ち着け、と頭で繰り返しながら、私は言葉を継いだ。

「……だったら、本気にしてください。社交辞令なんかじゃないですから」

 食べ終えて、お箸を置いた。
 沈黙が落ちて、昼下がりの風がカーテンの裾を揺らす。
 田島さんは笑ってごまかしたりしなかった。
 テーブルに置いた私の手に、大きくて温かい手がそっと重ねられる。

「俺も、白状します。昨夜、笹倉さんをこのアパートに送った後も、ずっと気になってた。
笹倉さんは被害にあったのに……警察官のくせに最低ですよね、俺」

 申し訳なさそうに苦笑いしながら、田島さんが言う。
 私は静かに首を横に振った。

「……あの時、田島さんが助けてくれたから、こうして一緒にご飯も食べていられるし、笑っていられる。
田島さんは私の命の恩人です。お願いだから、最低なんて言わないで……」

 手のひらを返して、田島さんの指に指を軽く絡めた。
 彼の長い指にもわずかに力が入った。
 ぴったりと吸い付くような感覚は鋭くなるのに、私の思考は霞んでしまう。
 息を呑んだ田島さんの喉仏が、ゆっくり上下した。

「……笹倉……さん?」

 絡めた指を離したくなかった。
 でも、このままでいられない。
 テーブル越しに、穏やかに微笑んだ田島さんと視線が合う。
 
 何を言えばいいんだろう。
 言葉が見当たらなくてうつむいた。
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