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第一章 出会い
七話 キッチンでキス
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「……そろそろ、片付けますね」
「あ! 俺も手伝います」
「いいですよ。お礼がしたくて来てもらったのに」
「それだと、また来にくくなるから……俺にもさせてください」
キッチンまで食器を運んでもらったら、休んでもらうつもりだった。
でも、田島さんはTシャツの袖をまくり、手伝う気満々らしい。
エプロンを着けて、私は彼の隣に並んだ。
「私がお皿洗うから、拭いてもらっていいですか?」
「それなら得意です。任せてください」
一人でも狭いくらいのキッチン。ガタイのいい田島さんと並んで作業していると、肩や腕が何度も触れてしまう。
その度に息を詰める私に、田島さんは少し苦笑いした。
しばらくお皿洗いに集中していると、田島さんの手が止まっているのに気づく。
隣を見上げると、私の首筋に視線が落ちていた。
「……ずっと思ってたんだけど、笹倉さんって首から肩がとても綺麗だね。気持ち悪かったら、ごめん」
「ああ……私、五歳からバレエやってたんです。そのせいかな?」
「踊る方のバレエだよね? 俺、そういうの全然詳しくないけどすごいな」
「姉が習ってたから、私もやりたくて。高校卒業するまで続けてました」
いつから見られてたんだろう――
意識すると手付きがぎこちなくなって、食器を滑り落としそうになる。
「あっ……」
田島さんの手が私の手に触れて、動きを止める。
見上げた視線が合って、逸らせなくなった。
少し濡れた彼の手が、頬をなぞる。
身体が強張るより先に、ぐっと距離が縮まる。
唇が一瞬だけ、確かめるように重なって離れていく。
どうしてキスなんてしたのか分からない。
でも、拒む理由もなかった。
「……嫌じゃない?」
聞かれて、迷わず首を横に振る。
「田島さんは……どうして?」
「分からない。ただ、笹倉さんにキスしたかった……」
長い指が首筋を撫でて、背中が小さく震える。
逃げる間もなく、腰を引き寄せられた。
もう一度、唇が重なる。
今度は離れない。
思わず、筋肉質な腕に両手でしがみついた。
狭いキッチンに、少し乱れた呼吸だけが残る。
腰に添えられた手が、ウエストのラインをなぞる。
膝の力が抜けそうになって、思わず身体を預けた。
「……怖かった?」
「……そうじゃないです。こんなキスしたの、初めてで」
まだ乱れたままの呼吸と心臓の音が、鼓膜を揺らす。
――このままじゃ、どうしたらいいか分からなくなる。
田島さんのシャツの裾を掴み、つま先に視線を落として言った。
「……コーヒー、飲みませんか?」
*
ラグの上に座り、ソファにもたれながら、田島さんと並んでコーヒーを飲む。
窓から入ってくる爽やかな風が、素足を撫でていった。
「梓さん、寒くない?」
「ううん、平気です……」
いつの間にか名前で呼ばれていた。
カップに口をつけるたび、さっきのキスを思い出す。
そのたび、じわりとお腹が疼いた。
「……あんなことしておいて今さらだけど、梓さん付き合ってる人はいるの?」
「いたら田島さんを部屋に呼んだりしないです。……去年、振られました」
自嘲気味に言って、笑ってごまかす。
コーヒーよりも、ずっとずっと苦い思い出しか残ってない。
田島さんは、ゆっくり私の方に身体を向けた。
「……ごめん、嫌なことを聞いた?」
「いいんです。むしろ、聞いてほしいです」
「梓さんがいいなら、いくらでも聞くけど……」
元カレとの思い出は、何から何までろくなことがない。
友達からも、「あんな男とは別れたほうがいいよ。梓なら絶対他にいい人がいるって」
何度も忠告されていたのに、惰性で付き合っていた。
「あ! 俺も手伝います」
「いいですよ。お礼がしたくて来てもらったのに」
「それだと、また来にくくなるから……俺にもさせてください」
キッチンまで食器を運んでもらったら、休んでもらうつもりだった。
でも、田島さんはTシャツの袖をまくり、手伝う気満々らしい。
エプロンを着けて、私は彼の隣に並んだ。
「私がお皿洗うから、拭いてもらっていいですか?」
「それなら得意です。任せてください」
一人でも狭いくらいのキッチン。ガタイのいい田島さんと並んで作業していると、肩や腕が何度も触れてしまう。
その度に息を詰める私に、田島さんは少し苦笑いした。
しばらくお皿洗いに集中していると、田島さんの手が止まっているのに気づく。
隣を見上げると、私の首筋に視線が落ちていた。
「……ずっと思ってたんだけど、笹倉さんって首から肩がとても綺麗だね。気持ち悪かったら、ごめん」
「ああ……私、五歳からバレエやってたんです。そのせいかな?」
「踊る方のバレエだよね? 俺、そういうの全然詳しくないけどすごいな」
「姉が習ってたから、私もやりたくて。高校卒業するまで続けてました」
いつから見られてたんだろう――
意識すると手付きがぎこちなくなって、食器を滑り落としそうになる。
「あっ……」
田島さんの手が私の手に触れて、動きを止める。
見上げた視線が合って、逸らせなくなった。
少し濡れた彼の手が、頬をなぞる。
身体が強張るより先に、ぐっと距離が縮まる。
唇が一瞬だけ、確かめるように重なって離れていく。
どうしてキスなんてしたのか分からない。
でも、拒む理由もなかった。
「……嫌じゃない?」
聞かれて、迷わず首を横に振る。
「田島さんは……どうして?」
「分からない。ただ、笹倉さんにキスしたかった……」
長い指が首筋を撫でて、背中が小さく震える。
逃げる間もなく、腰を引き寄せられた。
もう一度、唇が重なる。
今度は離れない。
思わず、筋肉質な腕に両手でしがみついた。
狭いキッチンに、少し乱れた呼吸だけが残る。
腰に添えられた手が、ウエストのラインをなぞる。
膝の力が抜けそうになって、思わず身体を預けた。
「……怖かった?」
「……そうじゃないです。こんなキスしたの、初めてで」
まだ乱れたままの呼吸と心臓の音が、鼓膜を揺らす。
――このままじゃ、どうしたらいいか分からなくなる。
田島さんのシャツの裾を掴み、つま先に視線を落として言った。
「……コーヒー、飲みませんか?」
*
ラグの上に座り、ソファにもたれながら、田島さんと並んでコーヒーを飲む。
窓から入ってくる爽やかな風が、素足を撫でていった。
「梓さん、寒くない?」
「ううん、平気です……」
いつの間にか名前で呼ばれていた。
カップに口をつけるたび、さっきのキスを思い出す。
そのたび、じわりとお腹が疼いた。
「……あんなことしておいて今さらだけど、梓さん付き合ってる人はいるの?」
「いたら田島さんを部屋に呼んだりしないです。……去年、振られました」
自嘲気味に言って、笑ってごまかす。
コーヒーよりも、ずっとずっと苦い思い出しか残ってない。
田島さんは、ゆっくり私の方に身体を向けた。
「……ごめん、嫌なことを聞いた?」
「いいんです。むしろ、聞いてほしいです」
「梓さんがいいなら、いくらでも聞くけど……」
元カレとの思い出は、何から何までろくなことがない。
友達からも、「あんな男とは別れたほうがいいよ。梓なら絶対他にいい人がいるって」
何度も忠告されていたのに、惰性で付き合っていた。
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