清楚系彼女は溺愛警察官を乱して狂わせる

日下 凛

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第二章 触れ合うたび深くなる

十四話 温もりが灯る夜

 私は少し湯あたり気味になって、先にお風呂を出た。
 パジャマを着て髪をタオルで拭いていると、中折れ戸が開いて拓巳さんが出てきた。腰にタオルを巻いているとはいえ、さすがに直視するわけにもいかない。
 濡れた前髪を無造作に払う仕草にドキッとして、慌てて背中を向けた。

「梓、何か付けた? いい匂いがする」
「うん、乾燥するからいつもボディローション塗ってるの。拓巳さんも塗る? ラベンダーの香り」

 背中越しにボディローションのボトルを渡して、私は髪を拭き続けた。

「もうズボン穿いたから、こっち向いても大丈夫だよ。なんか、こういうのっていいよな……同じ匂いがする」

 そう言って、ホカホカと温かい腕が背後から回される。濡れたままの私の髪に顔を埋めて拓巳さんは、大きく息を吸った。
 湯あたりした頬の熱さが、少し落ち着きかけていたのに……。

「梓の髪、乾かしてもいい?」
「……そんなこと……いいの?」

 洗面台の前に並んで立っているのに、拓巳さんの顔は私の頭より十センチ近く上にある。
 ドライヤーの温風よりも、地肌に触れる彼の指先の温度が熱くて、うなじや耳の裏に触れるたびに肩が跳ねた。
 わたし、こんなに甘やかされてていいのかな?

 ほとんど髪が乾いてきて、「もういいよ」と言ったのに、拓巳さんは鏡越しに微笑むだけ。やっとドライヤーが終わると、彼は私の髪を一束手のひらにすくい上げた。

「……いい匂いする。俺と同じはずなのに」
「同じシャンプーだよ?」
「梓の匂いだから甘く感じるのかも……」

 拓巳さんは、ブラシで丁寧に髪を梳いてくれる。
 その合間に、私の首筋や耳の裏にするりと指先を滑らせた。

「よし、サラサラになった」
「……ありがとう、拓巳さん」

 乾いた髪を手のひらからするする落としながら、そう呟いた拓巳さんと鏡越しに視線が絡まる。
 熱い手が頬に添えられて、低い声で耳元に囁かれた。

「……梓、こっち向いて」

 身体ごと拓巳さんと向かい合う。
 まだ火照っている顔を、彼が大きな両手で包み込む。
 首を傾げた私に、柔らかな表情で微笑みかけた。

「どうしたの……?」
「……風呂の中では、君が泣いてたから我慢してた。でも、……もう限界。頬も肌もピンクに染まってて……かわいい」

 私の頬の感触を確かめるように、拓巳さんは長い指を滑らせた。
 何度触れられても慣れなくて、鼓動がうるさく跳ねる。
 目を閉じる間もないまま、近づいてきた熱い唇が重なって思わず彼の胸に腕を回す。

 繰り返し唇を食まれ、彼に与えられた快楽を呼び起こすように身体の芯が鈍く疼いた。
 唇が離れたあと、彼は額をこつんと私の額に当てた。

「……これ以上してると、夕飯が遅くなっちゃうな」

 拓巳さんは少し名残惜しそうにそう言って、私の髪をもう一度優しく撫でてくれた。

「お腹、空いたよね? リビングに戻ろうか」 
「……うん」


 リビングに続く扉を開けると、空腹を刺激する香りが漂っていた。

「あんなに短い時間で、もう出来上がってるの?」

 私が先にお風呂に入っている間に、下ごしらえしてくれていたはず。
 素直に驚いていると、拓巳さんは得意気に笑ってみせた。

「弱火でタイマーにして煮込んでたんだ。後は温めて最後の仕上げをするだけだから。梓は座って待ってて」
「じゃあ、テーブル拭いてようかな。何か手伝えることがあったら言ってね」
「うん、ありがとう」

 二人で食事をするには、少し狭いくらいのテーブルを拭くのに五分もかからない。
 狭いキッチンで作業している拓巳さんの邪魔にならないように食器の準備をしていると、ずっと前から一緒に暮らしていたような気がした。

 食事の用意が済んで、昼と同じようにテーブルをはさんでラグの上に座る。拓巳さんが作ってくれたのは、鶏のみぞれ煮とかきたま汁。

「すごい……美味しそう……」
「美味いかどうか味は保証できないけど、愛情は込めたから。さ、お腹も空いたし食べよっか」

「愛情を込めた」なんて、その言葉だけで胸が温かくなる。
 二人でいただきますをして、食事を食べ始めた。

「梓、どう? 味濃かったり、薄かったりしない?」
「ううん、すっごく美味しい……。拓巳さん、ほんとに料理上手」

 感動して言うと、拓巳さんは照れたように笑う。
 鶏のみぞれ煮は食べやすいように、小さめにカットしてくれていた。
 お米もお昼に使ったのと同じなのに、彼が作ってくれただけで何よりも美味しく感じるから不思議。

 二人で何気ない会話をしながら、ゆっくりと食事をする。
 豪華なディナーなんかじゃなくても、拓巳さんがいてくれるだけで、お腹も心も満たされた。
 
 美味しいね、と笑い合った瞬間、彼の視線がほんの一瞬、微かに揺れた気がした。
 その意味は――このあと、私が知ることになる。
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