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第三章 近づく未来、深まる愛
四話 あの子たちは知らない (改)
※本話は、これまでの流れに合わせるために一部加筆・再構成を行った改稿版です。
タイトルも現在の内容に沿う形へ変更していますが、ストーリーの大きな展開には影響ありません。
読みやすくなっていれば嬉しいです。
陽が傾きかけた頃、目覚めた拓巳さんが両腕を伸ばして伸びをする。
隣に横になり、しばらく一緒に眠っていた私は、先に目を覚ましていた。
「ふああーっ、よく寝た。あれ……梓?」
「おはよう。途中で脚が痺れちゃって……クッションに移動してもらったの」
「いや、こっちこそごめんな。重かっただろ? でも、おかげでぐっすり寝られた」
「それならよかった」
私は寝乱れた髪をそっと手櫛で梳いた。
二人の間に漂う気まずさをやわらげるみたいに。
「梓、あのさ……やっぱり、玄関の時……俺……」
何か言いかけた唇を、私は指で静かに塞いだ。
警察の仕事は、私の想像以上に張りつめている。
衝動的だったのも、あの瞬間ふっと気が緩んだからだと分かっている。
「拓巳さん。玄関のことなら、もう終わり。私、しつこい人は嫌いだよ?」
「……わかった。でも、ごめんな」
抱き寄せられながら、その胸の鼓動をしばらく聞いた。
「ねえ、目覚ましにコーヒー飲まない?」
「ああ、いいな。飲みたい」
たったそれだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
夕陽を眺めながらコーヒーを飲んでいたら、拓巳さんが言った。
「梓、このあと少し出かけないか?」
「うん、夕方の散歩しよ。外の空気吸いたいし」
軽く着替えて外に出ると、拓巳さんはいつものように車道側に立ってくれた。
男性の視線を感じると、肩を抱き寄せてくる。
「さっきの男、梓をじろじろ見てた」
「まさか。拓巳さんと勘違いしただけじゃ?」
「いや、絶対梓だ」
「見られても減らないよ?」
「減るからダメ」
子どもみたいに言う声が可愛くて、つい笑ってしまう。
「梓、どこ行く?」
「コンビニ。パン切らしてたし、アイスも買いたい」
「よし、明日のパンだな。アイスも行くぞ」
コンビニの明るい照明の下でパンを選んでいると、
近くの女子高生たちが騒ぎ始めた。
「ねえ、あの人ビジュよくない?」
「体格エグ……無理、好き……」
丸聞こえだった。
私に視線が移った瞬間の「え、あの人が彼女?」 というあからさまな眼差し。
以前の私なら、一歩引いてしまっていたかもしれない。
拓巳さんは気にせず、メロンパンをひょいとカゴに入れた。
「梓、これ好きだろ? 期間限定だって」
「……覚えててくれたんだ」
「当たり前だろ。梓のことなら、なんだって覚えてるよ」
その言葉に胸が跳ねる。
女子高生たちがまたざわついた。
「また笑った……やば……」
「彼女ってこと? ずる……」
拓巳さんは自然に私の肩へ手を回し、アイス売り場へ連れていく。
その何気ない仕草が、私だけが知っている現実の重みを教えてくれる。
会計を終えて外へ出ると、女子高生の一人が駆け寄ってきた。
「あのっ、すみませ~ん!」
視線はまっすぐ私に向けられている。
上から下までじろじろと見られ、少し居心地が悪い。
「やっぱり彼女さん、なんですよね……? ……なんか、意外。
もっとキラキラした人を連れてるのかと思ってた」
無邪気な失礼と嫉妬が混じった声音。
でも、私は揺れたりしない。
――この子たちは知らない。
今朝、玄関で、この逞しい人が私をどう抱いたのか。
私の膝でどんな顔で眠っていたか。
拓巳さんが一歩前に出る。
「はい。俺の彼女です。大事な人なんで、あまり失礼なこと言わないでください」
その低く静かな声に、女子高生たちは一瞬で顔を赤くした。
「だ、大事って……」
「無理……勝てんやつ……」
私はほんの少しだけ微笑んだ。
拓巳さんの言葉を聞いた瞬間、ふっと肩の力が抜ける。
こんなふうに迷いなく味方でいてくれるんだ、と気づいてしまったからだ。
私は女子高生ではなく、隣の拓巳さんのほうへ顔を向ける。
「……ありがとう。拓巳さんは、いつもちゃんと言ってくれるね」
拓巳さんの呼吸が、わずかに止まったように感じた。
人前では崩れない男が、私の声だけで揺れる。
その事実にも微かな優越感を覚える。
「梓、帰ろうか」
「うん。寒くなってきたし」
通り過ぎるとき、女子高生たちの囁きが背中に届く。
「いいな……ああいうの、いい……」
「小柄なのに雰囲気強い……彼女さん……」
振り返らず、繋いだ手の温度だけを確かめた。
――あの子たちは知らない。
もう誰の視線にも怯えない私のことも。
この人と過ごして変わり始めた心の強さも。
私は、彼の隣に立っていい。
そう思うと、自然と背筋が伸びた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回の話は、これまでに投稿したパートを読み返している中で、
「梓の変化」や「拓巳の外デレ」をより自然に見えるよう、いくつかの場面を加筆・再構成しました。
特に、梓が他者の視線に怯えなくなっていく過程や、拓巳の揺るがない態度をしっかり描きたくて、
タイトルもそれに合わせて変更しています。
読み直してくださった方、本当にありがとうございます。
今後も二人の関係を丁寧に描いていけたらと思います。
タイトルも現在の内容に沿う形へ変更していますが、ストーリーの大きな展開には影響ありません。
読みやすくなっていれば嬉しいです。
陽が傾きかけた頃、目覚めた拓巳さんが両腕を伸ばして伸びをする。
隣に横になり、しばらく一緒に眠っていた私は、先に目を覚ましていた。
「ふああーっ、よく寝た。あれ……梓?」
「おはよう。途中で脚が痺れちゃって……クッションに移動してもらったの」
「いや、こっちこそごめんな。重かっただろ? でも、おかげでぐっすり寝られた」
「それならよかった」
私は寝乱れた髪をそっと手櫛で梳いた。
二人の間に漂う気まずさをやわらげるみたいに。
「梓、あのさ……やっぱり、玄関の時……俺……」
何か言いかけた唇を、私は指で静かに塞いだ。
警察の仕事は、私の想像以上に張りつめている。
衝動的だったのも、あの瞬間ふっと気が緩んだからだと分かっている。
「拓巳さん。玄関のことなら、もう終わり。私、しつこい人は嫌いだよ?」
「……わかった。でも、ごめんな」
抱き寄せられながら、その胸の鼓動をしばらく聞いた。
「ねえ、目覚ましにコーヒー飲まない?」
「ああ、いいな。飲みたい」
たったそれだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
夕陽を眺めながらコーヒーを飲んでいたら、拓巳さんが言った。
「梓、このあと少し出かけないか?」
「うん、夕方の散歩しよ。外の空気吸いたいし」
軽く着替えて外に出ると、拓巳さんはいつものように車道側に立ってくれた。
男性の視線を感じると、肩を抱き寄せてくる。
「さっきの男、梓をじろじろ見てた」
「まさか。拓巳さんと勘違いしただけじゃ?」
「いや、絶対梓だ」
「見られても減らないよ?」
「減るからダメ」
子どもみたいに言う声が可愛くて、つい笑ってしまう。
「梓、どこ行く?」
「コンビニ。パン切らしてたし、アイスも買いたい」
「よし、明日のパンだな。アイスも行くぞ」
コンビニの明るい照明の下でパンを選んでいると、
近くの女子高生たちが騒ぎ始めた。
「ねえ、あの人ビジュよくない?」
「体格エグ……無理、好き……」
丸聞こえだった。
私に視線が移った瞬間の「え、あの人が彼女?」 というあからさまな眼差し。
以前の私なら、一歩引いてしまっていたかもしれない。
拓巳さんは気にせず、メロンパンをひょいとカゴに入れた。
「梓、これ好きだろ? 期間限定だって」
「……覚えててくれたんだ」
「当たり前だろ。梓のことなら、なんだって覚えてるよ」
その言葉に胸が跳ねる。
女子高生たちがまたざわついた。
「また笑った……やば……」
「彼女ってこと? ずる……」
拓巳さんは自然に私の肩へ手を回し、アイス売り場へ連れていく。
その何気ない仕草が、私だけが知っている現実の重みを教えてくれる。
会計を終えて外へ出ると、女子高生の一人が駆け寄ってきた。
「あのっ、すみませ~ん!」
視線はまっすぐ私に向けられている。
上から下までじろじろと見られ、少し居心地が悪い。
「やっぱり彼女さん、なんですよね……? ……なんか、意外。
もっとキラキラした人を連れてるのかと思ってた」
無邪気な失礼と嫉妬が混じった声音。
でも、私は揺れたりしない。
――この子たちは知らない。
今朝、玄関で、この逞しい人が私をどう抱いたのか。
私の膝でどんな顔で眠っていたか。
拓巳さんが一歩前に出る。
「はい。俺の彼女です。大事な人なんで、あまり失礼なこと言わないでください」
その低く静かな声に、女子高生たちは一瞬で顔を赤くした。
「だ、大事って……」
「無理……勝てんやつ……」
私はほんの少しだけ微笑んだ。
拓巳さんの言葉を聞いた瞬間、ふっと肩の力が抜ける。
こんなふうに迷いなく味方でいてくれるんだ、と気づいてしまったからだ。
私は女子高生ではなく、隣の拓巳さんのほうへ顔を向ける。
「……ありがとう。拓巳さんは、いつもちゃんと言ってくれるね」
拓巳さんの呼吸が、わずかに止まったように感じた。
人前では崩れない男が、私の声だけで揺れる。
その事実にも微かな優越感を覚える。
「梓、帰ろうか」
「うん。寒くなってきたし」
通り過ぎるとき、女子高生たちの囁きが背中に届く。
「いいな……ああいうの、いい……」
「小柄なのに雰囲気強い……彼女さん……」
振り返らず、繋いだ手の温度だけを確かめた。
――あの子たちは知らない。
もう誰の視線にも怯えない私のことも。
この人と過ごして変わり始めた心の強さも。
私は、彼の隣に立っていい。
そう思うと、自然と背筋が伸びた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回の話は、これまでに投稿したパートを読み返している中で、
「梓の変化」や「拓巳の外デレ」をより自然に見えるよう、いくつかの場面を加筆・再構成しました。
特に、梓が他者の視線に怯えなくなっていく過程や、拓巳の揺るがない態度をしっかり描きたくて、
タイトルもそれに合わせて変更しています。
読み直してくださった方、本当にありがとうございます。
今後も二人の関係を丁寧に描いていけたらと思います。
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