清楚系彼女は溺愛警察官を乱して狂わせる

日下 凛

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第三章 近づく未来、深まる愛

九話 その一 あなたに溺れる ※

 休日の昼下がり。
 微かに開いた窓からは、子供たちの弾む声や遠くを走る車の音が、薄い膜越しに聞こえてくる。
 けれど、この部屋だけは外の明るさから完全に切り離されたみたいに、ゆっくりと熱を孕んでいた。

 拓巳さんの腕の中に、自分から吸い寄せられるように飛び込む。
 彼の唇が重なり、深く舌を絡め合うたび、呼吸のしかたさえ忘れてしまう。抱きしめられた背中に熱が沈み込み、握った指先まで淡い痺れが広がった。

 唇を離さないまま抱き上げられ、昨日換えたばかりのシーツの上にそっと横たえられる。
 彼の影が私を覆い、焦らすように服の布地がゆっくりと剥がされていく。

「……梓。顔が赤い。俺が触れるの、ずっと待ってただろ? こんなに尖って……」

 耳の裏に落ちた声は、甘さとひび割れた熱が混じっていて、そこだけ空気の重さが変わる。
 私の弱いところを知り尽くした唇が、耳の後ろから肩の稜線りょうせんへ執拗に吸い付く。

 ブラジャーのホックを外され、大きな手のひらが胸を包むように触れる。
 硬くなった先端を指先が、ほんの少し意地悪に掠めた。

「っ……ん……」
「……柔らかいな、梓の胸」
「やだ……」
「嫌じゃないだろ。……俺以外に、こんな顔見せるなよ」

 囁きの奥に潜む、独占の色。
 逆らいたくても、視線ひとつで胸の奥がとろけていく。
 私の身体は誤魔化しがきかなくて、彼の胸に吸い寄せられるように抱きついてしまう。

 その拍子にスカートが床へ滑り落ちる乾いた音がして、真昼の光がむき出しになった肌を容赦なく照らした。
 隠す暇もなく、昨日刻まれた紅い痕が浮かび上がる。
 拓巳さんの手が、その中でも一番色の濃い場所をゆっくり探り当て、指の腹で円を描くように撫でた。

「……明るいところだと、こんなに綺麗に見えるんだな。全部、見せて」

 熱に潤んだ彼の目に射抜かれると、胸の奥に残っていた僅かな理性が溶けていく。
 視線を逸らせないまま、長い指がショーツ越しに身体の芯へ触れた瞬間、喉の奥で小さく息が跳ねた。
 ぴたりと肌に貼りついた布を除けて、指先が微かな水音を立てて、まるで私の反応を楽しむように奥へゆっくりと潜り込んでくる。

「痛くないか……?」
「……んん、痛く……ないけどっ……」

 そっと擦るような指先の動きが甘い刺激に変わり、唇を噛みしめる。
 下腹から全身を一気に痺れるような快感が私を支配して、頭の中がスパークする。
 呼吸するのを忘れたまま、背中を逸らしながら、拓巳さんの太い腕を必死に掴んでいた。

 その波が引ききってしまう前に、私の腰を強く掴んだ彼の手が濡れたショーツを剥ぎ取った。
 逆らうことなど一切許さないような力で、私をシーツの上に押し付けて割った膝の間に、大きな体躯をねじ込んでくる。

 荒々しく服を脱ぎ捨てた拓巳さんの目に映るのは、羞恥に染まりきった哀れな私の姿と、それを覆い隠す彼の大きな影。
 彼はすぐに重なろうとはしなかった。

 私の膝の裏から太腿の内側へ、そして震えるほどの熱を持つ場所へと、逃げ場を塞ぐような強い圧を掛けながら、じっとりと撫でる。
 触れるか触れないか、そんな意地悪な焦らしに、私の身体は心より先に限界だと悲鳴を上げて小刻みに波打った。

「……拓巳さん、お願い……っ、もう……」

 泣きそうな声で「お願い」と縋った瞬間、拓巳さんは動きを止めたまま、私の頬に触れた。

「……梓。君は、自分で立っていたいんだろ」

 その声音は責めるでも笑うでもなく、まるで「ちゃんと見てるよ」と静かに告げるようで、胸の奥がきゅっと縮んだ。
 どうして、そんなところまで分かってしまうのか。
 拓巳さんの親指が涙を拭う。
 優しいのに、逃がしてはくれない温度。

「それでも、梓が俺にこんな顔見せてくれるのは……流されてるからじゃない。梓が俺を選んでるからだよ」

 耳元に落ちた低い声が、身体の奥で震えた。
 否定も肯定もできずに、私は唇を震わせた。

「……だから、言ってほしい。梓の意思で、俺を欲しがってるって」

 その言葉に、抗う気力なんてもう残っていなかった。
 自分で立ちたいと願ったはずなのに、拓巳さんの前で私はこんなにも脆くなる。

 でも彼は、それを責めたりしなかった。
 むしろ見透かされて、抱きしめられている。
 そんな安心と羞恥が入り混じって、私は彼の胸の中でゆっくり息を吸い込んだ。
 
 落ちてきたのは、静かで、それでいて熱い声だった。
 彼自身の硬く焼け付くような熱情が、私の入り口にぴったりと押し当てられる。
 しかし、決してその内側へとは踏み込まない。

 拓巳さんの分厚い胸板が私の胸に密着し、ドクン、ドクンという重たい心音が直に私の骨へと響く。
 鎖骨を歯で甘噛みされ、絶望的な体格差の中で手足の自由はとうに奪われていた。

 焦燥感と快楽の未遂が私を狂わせる。耐えきれず目尻からボロボロと涙がこぼれ落ち、無意識に指が白くなるまでシーツを握りしめた。
 彼は最後の一線を見据えたまま、耳元で悪魔のように優しく囁いた。

「……梓。君から『欲しい』って言わない限り、俺はこれ以上進まないよ。誰を必要としてるのか、その声で聞かせて?」

 逃げ道など、初めからなかったのだ。
 私という自我の輪郭が音を立てて崩れていく。
 羞恥心に震えながらも、私の身体と魂はすでに彼に縋り付いて、みっともなく欲しがるだけ。

「拓巳さんが……いいの……っ。お願い……、今だけは……」

 私の嗚咽が零れ落ちたその瞬間――容赦のない質量のすべてが、奥深くへと沈み込んだ。
 悲鳴すら掠れるほどの圧倒的な上書き。
 狂気を孕んだようにただ私の奥へと、押し入ってくる質量。
 
 拓巳さんの首にしがみつきながら、やっと満たされた私の内側は、勝手に引きれて彼を締め付ける。
 動かないままでいる、彼の余裕のない息遣いが、私の耳元をくすぐった。
 
 歯がゆくて、揺れてしまう腰をぎゅっとつかまれた。
 肌とシーツが擦れる音だけが、狂った拍動になって部屋に響く。

「ずっとずっと……忘れるなよ。君の中を埋めてるのは、俺だけだ」

 低い声でそう囁くと、浅くそして深く、緩急をつけて繰り出される容赦のない熱の奔流ほんりゅうが、私の内部を彼で満たしていく。
 脳が真っ白に明滅して、もう自分がどこにいるのかさえ、わからなくなる。
 
 ただ、この人なしでは生きていけないことだけ、嫌というほど刻みつけられる。
 光の粒が乱舞するように、視界がチカチカと明滅した。
 最奥部が彼という灼熱をギュッと締め上げ、波状に押し寄せる絶頂のうねりが、私のちっぽけな理性を完全に消し飛ばす。

「あぁっ……あ……っ、拓巳、さんっ……!」

 弾けた快楽の余韻に全身が痺れ、白鳥のように首を反らして酸欠のあえぎを繰り返す。
 けれど、微睡まどろむような安息は一瞬だった。

 私の内壁に深々と楔を打ち込んだままの彼は、限界を迎えてだらりと力の抜けた私の両腕を、一瞬息が止まるほど強引に掴み上げた。
 うつ伏せになった私の頬を、シーツが優しく受け止める。

「あ、っ……! 抜けて、ない……っ」
「逃がさないよ。……こんなにかわいい顔で啼かれたら、これくらいで終われるわけがないだろ」

 絶頂の収縮も収まらないまま組み伏せられた私の背中に、拓巳さんの逞しい体躯の質量がずしりとのしかかってきた。
 薄っぺらな私の身体なんて彼の巨大な影と熱量にたやすく飲み込まれ、身動きできないその抱擁が、余計に彼を感じさせた。

 視界は真っ白なシーツに完全に塞がれる。
 次の瞬間、私の世界は音だけになった。
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