陽気な吸血鬼との日々

波根 潤

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お墓参りへ

二十五、

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 「二両編成だ!ワンマンカーだ!」

 乗り換えの際、乗る電車を見てまたもケリーは嬉しそうにはしゃぎ始めた。

「田舎だろ」
「すごい!初めて乗る!」
「そんなに面白い物でもないけど」

先程乗っていた電車よりも乗客はもっと少なかった。ここが始発なので電車が出発するまでにはまだ少し時間がある。二駅しか乗らないので一両目に乗って電車が動き始めるのを待った。

「後ろの車両のドアが開かなくて、降りる時は前から降りるから運転手さんに切符を渡して….ってもしかして知ってる?」
「うん!乗るのは初めてだけど知ってるよ!」
「すごい。日本人でも知らない人いるよ」

吸血鬼が知っている日本の知識に改めて驚いた。
 田舎の在来線は運転手も優しくのんびりとしていて、出発予定時間丁度にホームに来たおばあちゃんが急いで電車に乗ろうとするのを待って、二分程遅れて出発した。

 電車が動きだし、ケリーがはしゃいでいる間に目的の駅に着いた。名残惜しそうにしているが着いたのだから仕方ない。運転手のおじさんに切符を渡して電車を降りる。この駅で降りたのは俺たちだけだった。

(今年も来た。)

駅に降り立ってそのように感じた。三月にも彼岸で来ているのだが、命日にこの地に来たというのがぐっと心にしみ込んでくる。辛くて、きて欲しくないと思う日だがしっかり母と向き合いたいと思う日でもある。

 「なんだか、ワンマンカー乗ってたからもっと田舎に行くと思ってたのに意外と景色変わらないんだね」
「ここまではそうかも。もうちょっと乗り続けたら田んぼと山と家が数件だけになる」
「自然豊かだね!」
「ポジティブだな。何もないだけだよ」
「俺は好きだよ!」

 口では揶揄しながら、俺はケリーの言う通り自然豊かなその場所が好きだった。日の出と共に活動して、のんびりとした時間が過ぎていき、陽が沈むとそれぞれの家に帰って行くような、そんな場所。わざわざ行くような場所でもないのかもしれないが、ここに住んでいた時は目的も無く訪れることもあった。中学生だったのでお金が勿体無くて、自転車で行くこともあったけど。

 「とりあえず、スーパー行こう。俺も買いたい物あるし」
「わかった!」

 駅を出て二人並んで歩く。これまでは一人で歩く墓地までの道のりにケリーがいるのが新鮮だ。キョロキョロと辺りを見渡しながら楽しんでいる。

「あ、猫がいる!」
「あの猫いつもいるんだ」

ピンク色の首輪をつけたハチワレの猫が、恐らく自分の家の屋根の上で香箱座りをしている。日向ぼっこをしているようで、暖かな陽射しに目を細めている姿が可愛らしい。ケリーが挨拶をするように小さく手を振った。

「あ、あれ通ってた中学校」
「へー!大きいね!」
「昔より生徒数は減ってると思うけど、ここら辺一帯の小学校の生徒が殆ど行くからあんなもん」

「新しそうな公園!」
「前からあったけど遊具塗り替えられてるな。塗装剥げてたから良かった」

「なんだか、清飛って本当にここに住んでたんだね」
「疑ってたの?」
「違うって!猫のこととか、通ってた中学校とか、公園の遊具とかのこと聞くと、あーここに清飛の日常があったんだなって」
「なにそれ。あ、着いたよ」

 嬉しそうに不思議な感想を言われて、思わず首を傾げているとスーパーに到着した。「キャッシュレス決済導入しました!」と以前は無かった貼り紙があり、田舎のスーパーが進化を遂げていることに妙に感動してしまった。

「清飛は何買うの?」
「お花。少しだけど生花売ってるからお墓参り用に」

 本当は母の好きそうな可愛らしい花が良いけど、持ってくる間に萎れてしまいそうなのでお墓参りの時は毎回ここで買っていた。生花売り場の小菊を手に持つ。もしかしたら美恵子さんや祖父母が後から活けるかもしれないと思い、あまり多くは買わずに二束だけ購入することにした。

 「じゃあ、一旦ここで」
「うん!ごゆっくりね。急がなくていいからね!」

 ケリーの声に背を押され、お会計をしてスーパーを後にする。

(あ……。)

歩き慣れた道を進むと、先程までは感じていなかった強い寂しさが胸に湧いてきて戸惑った。これまで一人で行くことの方が多かったのに。

(大丈夫だと思っていたのに、やっぱり辛い……。)

 気を遣ってスーパーでわかれたケリーだったが、一緒に来てもらった方が良かっただろうかと一瞬脳裏を掠めた。だが、流石にそこまでしてもらうような関係性ではないだろうと考えを改める。

(早く済ませて、ケリーの元に戻ろう。)

そう心に決めて、墓地に向かう足を早めた。

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