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ニ、認められたい
しおりを挟む森川が、先程の彼女のことを考えながら交差点を渡り終え、後ろを振り返ると、既に、西嶋の姿はなくなっていた。
溜息をついた。そして、スマホを取り出した。
「麗娜? ああ、俺」
「仕事中じゃない。いいの?」
「ああ。少しの間なら」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね」
森川は、恋人の麗娜に電話をかけた。
「やっぱり、バレてたよ。先週の日曜日の映画。ったく追及されちゃってさ、俺、しどろもどろになっちゃって・・・・・・」
「え?」
「今、一緒に西嶋さんと仕事をしてんだけど、さっき、言われたんだよ・・・・・・」
「何て?」
「お前、先週の日曜日、娘と映画にいって来たのか、って。いきなりいってきたから、ちょっとびっくりして、それで、どうやって知り合ったんだとか、訊かれて、結局白状させられちゃった」
「もう、ちゃんとはっきり説明したの、わたしたちのことを。
何で陸はいっつも、そうやって優柔不断なの。私たち付き合ってるんでしょ。そうやって、言えばいいじゃない、パパに」
「言ったさ。ちゃんと説明したんだけど、でも・・・・・・」
「でも、何?」
「その話は訊きたくない。刑事との付き合いは認めん、ってまるで頑固爺さんみたいな感じで、駄目だの一点張りだった」
「何だかね。もう、困ったパパだわ、ほんと」
「それだけ麗娜のことが大事なんだよ。西嶋さんは」
「陸、そうやって感心してるけど、いいのそれで? 私たちのこと認めてもらわないと、この先進展がないのよ」
「それは、困る・・・・・・」
森川は言った。
「それより、西嶋さんはいつも人使いが荒いんだ」
「パパは人を使うのが上手いのよ。私もいつもやらされちゃう。あれ、取ってくれ。エアコンつけてくれって・・・・・・。
きっと、それがパパの才能かもね。だって、そうゆう風に使われても意外に腹が立つ、っていうことが少ないのよね。なんか、気づいたらやっていた、っていうパターンが多いもの。あれでも、人の顔色見ているのよ、パパは」
「ああ。不思議と嫌な感じはしないもんね」
「でしょ。何だろ、ね」
「きっと人徳だろ。それ以外考えられん。持って生まれたものだよ」
「そうかもね」
森川は、スマホを仕舞い、地下鉄に向かった。
俺も早く一人前になり、西嶋さんに、麗娜のことを認められる男にならなくちゃ、そう思いながら、速足で階段を駆け下りていった。
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