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三、緊迫したこの状況の中で
しおりを挟む「中はかなり危険なことになっていますね。監禁されている坂戸さんは殴られ、怪我をしているようですから。どうしますか?」
森川が言った。
「しっ!」
西嶋が森川の言葉を制した。
二人に緊張が走った。こんな時、いつも西嶋の耳には、声が入らない。なぜなら西嶋が集中すると、自分の殻の中に閉じ籠ってしまうからだ。
そして、その集中力が彼の咄嗟の判断力、行動力へと繋がり、いつも事件が解決されてきた。森川は、そんな西嶋に大幅の信頼を寄せている。
「坂戸さんが外に出てくる。ここは俺たちが身を潜め、彼らに気づかれないよう配慮しなくてはならない。動くんじないぞ。気配を消すんだ」
「わかりました」
森川が声を潜め、西嶋に従う。
「何か、見えますか?」
森川は、ぼそぼそとした声で訊いた。
「かなり痛めつけれてたようだな。暗いから、はっきりとは見えないが、右の瞼が腫れ、唇の辺りを切っているのが見える。坂戸さんがこちら側にやってくるぞ」
西嶋は双眼鏡で、彼を見ていた。
「移動しますか?」
「そうだな。こっちにくる」
二人は坂戸が来る方向とは逆に移動した。
「あまり足音を立てるな。坂戸さんに気付かれると、藪押に我々の気配を確認され、まずいことになる。応援が来るまでは突入できないんだ。
だから、中の人のことを考えれば、藪押の気を荒立てることはしたくない。俺たちは、この場では状況を見守ることしかできないんだ。人質がいる。滅多なことはできん」
西嶋は、動けない自分のことを呪い、歯軋りをしていた。
森川は、そんな西嶋を見て思った。こんな西嶋は珍しい。
いつも自分の判断の基、テキパキと動く彼が、戦況を見守り、じっとして、動けない自分を呪うことしかできないのだ。いつもよりイライラとしている。
森川もそんな緊張した場面で、自分のこの居場所に居た堪れない想いを抱いていた。何とかして、助けてやりたい。刑事として、人間として、一人の男として、廃墟の中にいる女性と子供を。
どうにか、中の人質を助けれないものか・・・・・・。
一体、彼女たちが何をしたというのだ。何で彼女たちがこれ程までに、苦しまなくてはならないというのだ。
薮押のその自分勝手な想いだけが、彼女らに重く圧しかかっている。もういいではないか。その圧から解放してやっても。
薮押、お前のその想いは、愛情でもなければ、自分のエゴ、いや、淋しさから逃れるだけのもので、お前は、自分を変えようともしない。怠慢なだけだよ。お前という人間は。
そんなことをやっていて赦されるものでもない。
そして、こんなことがいつまでも続けれるわけではない。
いつの日か、きっと・・・・・・。
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