望月沙織のほんとうのこと

山田シルベストレ

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第5章 優しく子供好きな彼女

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僕の名前は健太。10歳で小学4年生。
僕が初めてあのお姉さんに会ったのは、春休みの終わり頃だった。

新しい学年が始まる前の、ちょっとだけドキドキする日。
その日、僕は公園で一人で遊んでいた。友達は皆、旅行とか習い事とかで忙しくて。
ブランコに乗りながら、ただボーッと空を見ていたんだ。

「こんにちは」

突然、誰かが話しかけてきた。振り向くと、向かいのベンチに座っているお姉さんだった。
黒い髪を肩くらいの長さに切って、メガネをかけている。服装は普通のTシャツに、ちょっと長めのスカート。
なんだか静かな雰囲気のお姉さんだった。

「こんにちは」僕も答えた。
「一人?」お姉さんが聞いてきた。

「うん」

「友達は?」

「みんな忙しくて」

お姉さんは少し考えて、それから微笑んだ。とても優しい笑顔だった。

「じゃあ、私と遊ぶ?」

普通なら知らない大人と遊んじゃいけないって分かってる。
でもこのお姉さん、なんだか悪い人には見えなかった。それに声も優しいし。

「いいよ」

お姉さんはベンチから立ち上がって、僕の方に歩いてきた。

「私の名前は沙織。あなたは?」

「健太です」

「健太くん、何して遊ぶ?」

「かけっこ、できる?」

お姉さんは笑って、「いいよ」と言った。
それから僕たちは公園で走り回った。お姉さんはスカートを履いていたのに、すごく速かった。
でも、最後はわざと僕に負けてくれた気がする。

「すごいね、健太くん。速いね」

そう言ってくれたお姉さんが嬉しくて、僕はもっと頑張った。鬼ごっこもして、砂場でお城も作った。
何時間も一緒に遊んでくれた。
帰る時間になったとき、お姉さんはポケットからキャンディを出して僕にくれた。

「明日もここに来る?」お姉さんが聞いた。

「うん、多分」

「じゃあ、また会えるといいな」

それが最初の出会いだった。




それから僕は何度もお姉さんに会った。毎日じゃないけど、週に2回くらい。
いつも同じ公園で。お姉さんは時々、お菓子を持ってきてくれた。
チョコレートとかグミとか、クッキーとか。全部美味しかった。

「これ、僕のために作ったの?」僕が聞くと、
「そうよ。健太くんのために特別に」って笑ってくれた。

ある日、僕は学校の宿題で困ってた。算数の問題が全然解けなくて。
「どうしたの?」お姉さんが聞いてきた。

「宿題が難しくて…」

「見せて」

お姉さんはとても頭が良かった。難しい問題をすぐに解いて、僕にも分かりやすく教えてくれた。

「お姉さん、すごい!先生みたい」

「ありがとう、健太くんに褒められると嬉しいな」

お姉さんは少し照れたみたいだった。
他にも色々なことを教えてくれた。生き物の名前とか、星座の話とか、面白い本の話とか。

お姉さんは僕の知らないことをたくさん知っていた。
でも、難しく説明したりせず、いつも僕が分かるように話してくれる。そんなところも好きだった。

ママには「公園で友達と遊んでる」って言ってた。大人の人と遊んでると言うと心配するから。
でも、お姉さんは悪い人じゃないって分かってた。だって、こんなに優しいんだもん。




夏休みが始まって、天気のいい日は毎日のように公園に行った。
お姉さんはいつもいるわけじゃなかったけど、会えると嬉しかった。

ある暑い日、お姉さんがアイスクリームを持ってきてくれた。
二人で木陰に座って食べながら、色々な話をした。

「健太くんは何になりたいの?大きくなったら」

「うーん…消防士かな。それか、サッカー選手!」

「素敵ね」

「お姉さんは何になりたかった?」

お姉さんは少し考えて、それから答えた。

「私は…人の役に立つ仕事がしたいな」

「先生とか?」

「そうね、それも良かったかも」

でも、お姉さんの目が少し遠くを見ているように感じた。

「お姉さんは今、何の仕事してるの?」

「普通の会社で働いてるよ。あまり面白くないけどね」

「大変なの?」

「そうね…色々あるわ」

お姉さんの表情が少し曇った気がした。でも、すぐに笑顔に戻った。

「でも、健太くんと遊ぶと元気になるの」

その言葉が嬉しくて、僕も笑顔になった。




そんな日々が続いていた7月の終わり、僕の人生で最も怖い日がやってきた。
その日も暑かった。夕方、少し涼しくなってから公園に行った。
お姉さんはベンチに座って本を読んでいた。

「沙織お姉さん!」

僕が呼ぶと、お姉さんは顔を上げて微笑んだ。

「健太くん、こんにちは」

「今日は何して遊ぶ?」

「そうね…かくれんぼはどう?」

僕は大喜びした。かくれんぼは大好きだから。

「いいよ!じゃあ、お姉さんが鬼ね!」

お姉さんは頷いて、目を閉じて数え始めた。

「1、2、3…」

僕は急いで隠れる場所を探した。公園の端にある大きな茂みがいいと思った。そこなら見つかりにくいし。
茂みの中に潜り込んで、息を殺した。お姉さんの声が聞こえる。

「…28、29、30!もういいかい?」

「まだだよ」と言うのは、かくれんぼのルールに反するから黙っていた。

しばらくして、お姉さんが僕を探す足音が聞こえた。でも、だんだん遠ざかっていく。
茂みの中で待っていると、別の音が聞こえてきた。何かが茂みの向こう側から近づいてくる音。

そっと葉の間から覗くと、小さな子犬が歩いてきた。茶色い毛の、とても小さな子犬。
多分野良犬だろうけど、とてもかわいい。

子犬は僕に気づかずに通り過ぎようとした。その時、別の人影が近づいてきた。
沙織お姉さんだった。

「あら、こんにちは」

お姉さんは子犬に優しく話しかけた。
子犬は少し警戒したけど、お姉さんがしゃがんで手を差し出すと、臭いを嗅ぎに近づいた。
お姉さんは子犬の頭を優しく撫で始めた。子犬も尻尾を振って喜んでいる。

「かわいいね、ワンちゃん一人なの?」

お姉さんが小さな声で言った。
僕は茂みの中で微笑んだ。お姉さんは動物も好きなんだね。
でも次の瞬間、信じられないことが起きた。

お姉さんの手が突然動き、子犬の首をグッと掴んだ。
子犬が驚いて鳴こうとしたけど、お姉さんのもう片方の手がすかさず口を押さえた。

「シーッ、静かになさいね」

その声は優しいのに、何か違う。冷たい感じがした。
お姉さんは立ち上がり、子犬を抱えて茂みの奥へ歩いていった。
僕の隠れている場所からほんの数メートル離れた、もっと茂みが深いところ。

僕は息を殺して、葉の間から見つめた。何か変だ。何か怖い。でも体が動かない。
お姉さんは子犬を地面に置いた。子犬はまだ暴れようとしているけど、お姉さんの手は強くて逃げられない。
「おとなしくね」お姉さんは囁いた。

そして、お姉さんのバッグから何かを取り出した。小さな、キラリと光るもの。
ハサミだった。
僕は目を疑った。なぜお姉さんがハサミを?

「かわいいね」

お姉さんはまた言った。

「でも、もっとかわいくしてあげる」

お姉さんはハサミを子犬の耳に近づけた。

「これをもらうね」

僕は息を飲んだ。心臓が激しく鼓動する。これは夢だ。悪い夢だ。
でもそれは夢じゃなかった。

「チョキン」

小さな音と共に、子犬の耳の一部が切り落とされた。
子犬は痛みに震え、鳴こうとしたけど、お姉さんの手がしっかりと口を押さえている。

「もう一つ、もらうね」

もう一度ハサミが動いた。
僕は目を閉じたかった。でも閉じられなかった。恐怖で体が固まって、まばたきすらできなかった。
お姉さんは切り取った耳の一部をビニール袋に入れて、バッグにしまった。
そして再びハサミを持ち、今度は子犬の足に向けた。

「次はこれ」

僕は頭の中で叫んでいた。やめて、やめてよ、お姉さん。でも声は出なかった。
お姉さんはハサミで子犬の前足の指を一本、また一本と切り落としていった。
子犬の体が痛みに震えている。血が地面に落ちて、暗い染みになっていく。

「いい子ね」

お姉さんは作業を続けながら言った。
切り取った足の指もビニール袋に入れていく。

お姉さんの表情は、僕が知っているあのやさしいお姉さんのものなのに、どこか違う。目が…目が生きていない。
子犬はもう抵抗する力もなく、ただ震えるだけ。
お姉さんはハサミを置くと、今度は両手で子犬を持ち上げた。

「最後にもう一つだけね」

お姉さんは子犬を地面に押しつけ、足で踏み始めた。最初は優しく、でもだんだん強く。
「クッ」という音がした。骨の折れる音。

僕は吐き気を感じた。目を閉じたかったのに、恐怖で体が言うことを聞かない。
お姉さんの足が何度も上下する。子犬の体がだんだん変形していく。血が周りに飛び散る。

「これでいいわ」

お姉さんは満足そうに言って、足を止めた。地面には、もう子犬の形をしていないものが残っていた。
お姉さんはしゃがみ込み、その中から何かを取り出した。

歯だった。小さな犬の歯。
それもビニール袋に入れて、丁寧にバッグにしまった。

「ありがとう」

お姉さんは地面の残骸に向かって言った。
そして立ち上がり、ハンカチで手と足についた血を拭き始めた。お姉さんの表情は穏やかだった。
まるで公園で普通に散歩していたかのように。

僕は震えていた。恐怖で、吐き気で、理解できない感情で。こんなことありえない。
お姉さんがこんなことするなんて。
その時だった。

「カサッ」

僕の体が勝手に動いて、茂みが揺れた。
お姉さんの顔がピクリと動き、こちらを向いた。

「誰かいるの?」

僕は息を止めた。見つからないで、見つからないでと祈った。
でも、お姉さんは茂みに近づいてきた。葉をかき分けて、そして—

「健太くん?」

僕たちの目が合った。
お姉さんの目が一瞬、何かの感情で暗くなった。でもすぐに、いつもの優しい表情に戻った。

「あら、ここに隠れていたの?」

お姉さんは微笑んだ。
僕は言葉が出なかった。今見たものが現実なのか、悪い夢なのか分からなくて。

「健太くん?」

お姉さんは少し首を傾げた。

「どうしたの?」

「あ…あの…」

僕はやっと声を絞り出した。

「お、お姉さん…今の…」

お姉さんは一瞬だけ表情を固くしたけど、すぐに優しく微笑んだ。

「あら、見ちゃったの?」

お姉さんは僕の前にしゃがみ込み、僕の肩に手を置いた。
その手にはまだ、微かに血の匂いがした。

「健太くん、あれはね、特別なことなの」

「特別…?」

「そう。私、お仕事のためにあれをしているの」

僕は混乱した。どんな仕事が犬を…あんな風にするの?

お姉さんは声を低くした。

「でもね、これは大人の秘密。誰にも言っちゃダメよ」

「で、でも…」

「健太くん」

お姉さんの手が僕の肩をきつく掴んだ。
お姉さんは言葉を切った。
そして、ポケットからさっきのハサミを取り出した。

「このハサミ、とても切れるの」

お姉さんは静かに言った。

「健太くんのお母さんや、お友達も、このハサミで切ることができるわ」

僕の体が凍りついた。

「もちろん、健太くんが秘密を守ってくれるなら、そんなことしないわ」

お姉さんは優しく微笑んだ。

「私たち、お友達でしょう?」

僕は震えながら頷いた。

「そう、良い子ね」

お姉さんはハサミをしまい、僕の頭を撫でた。

「じゃあ、今日はもう遅いし、帰りましょう。明日また会えるといいな」

お姉さんは立ち上がり、僕の手を引いて茂みから出た。公園の入り口まで一緒に歩き、そこで手を離した。

「じゃあね、健太くん」

お姉さんは手を振って、反対方向に歩き去った。
僕は足が震えて、やっと家までたどり着いた。




その夜、僕は眠れなかった。目を閉じると、あの光景が浮かんでくる。子犬の恐怖に震える姿。ハサミで切り落とされる体の一部。足で踏みつぶされる音。
どうして?どうしてお姉さんはあんなことをするの?
あんなに優しかったのに。僕にクッキーをくれたり、宿題を教えてくれたり、一緒に遊んでくれたお姉さん。
でも今日見たのは、別人みたいだった。目が…あの目が怖かった。
「健太?まだ起きてるの?」
ママが部屋をノックした。
「う、うん…」
ママが部屋に入ってきた。
「どうしたの?顔色が悪いわよ」ママは僕の額に手を当てた。「熱はないみたいだけど…」
僕はママに言いたかった。公園で見たことを。でも、お姉さんの言葉が頭に浮かんだ。
「このハサミ、とても切れるの。健太くんのお母さんや、お友達も…」
「何でもない」僕は言った。「ちょっと、お腹が痛いだけ」
「そう?じゃあ、お薬飲む?」
「ううん、大丈夫」
ママは少し心配そうに僕を見たけど、「分かった。でも具合が悪くなったら言ってね」と言って部屋を出て行った。
一人になると、また恐怖が襲ってきた。お姉さんはママにも何かするかもしれない。僕が秘密を話したら。
明日、公園に行くべきじゃない。もう二度と会わない方がいい。
そう思ったのに、お姉さんの「明日も来るよ」という言葉が頭に残っていた。
もし行かなかったら…彼女は怒るかもしれない。そして…
考えるだけで怖くなった。

次の日、学校から帰ると、ママが言った。

「健太、公園に行かないの?いつもこの時間行くでしょ?」

「今日は…ちょっと…」

「どうしたの?昨日から元気ないわね」

「別に…」

ママは僕の顔をじっと見て、「無理しないでね」と言った。

結局、僕は公園に行かなかった。部屋で漫画を読んで過ごした。
でも、頭の中はずっとお姉さんのことでいっぱいだった。
次の日も行かなかった。その次の日も。

でも4日目、僕は公園の近くを通らなければならなかった。友達の家に行く近道だから。
公園の前を通り過ぎようとした時、声がした。

「健太くん」

お姉さんだった。
彼女は地面にしゃがみ込んで、何かを抱えていた。小さな子猫。
灰色の、とても小さな子猫。

「こんにちは、かわいいでしょ、この子」

お姉さんの声は優しかった。でも僕は前に見たことを思い出して、体が固まった。
そして、恐れていたことが起きた。

お姉さんのバッグから、あのハサミが取り出された。

「少しだけ痛いけど、我慢してね」

僕は見たくなかった。でも、あの子猫を助けなきゃという気持ちが湧いてきた。

「や、やめて!」

思わず叫んでいた。
お姉さんが振り向いた。驚いた表情。

「健太くん…」

「やめて、お姉さん!猫さん、痛いよ!」

お姉さんは一瞬、困ったような顔をした。でもすぐに優しい笑顔に戻った。

「健太くん、近くに来て」

「いや…」

「大丈夫よ。ちょっと説明させて」

僕は怖かったけど、少しだけ近づいた。お姉さんの手には子猫がいる。まだ無事だった。

「この子ね、怪我してるの」

お姉さんは言った。

「見て、足に棘が刺さってる」

確かに、子猫の後ろ足に大きな棘が刺さっていた。
お姉さんはハサミを見せた。

「これで慎重に切り取れば、痛くないから」

本当かな?僕は半信半疑だった。

「だって…前は犬を…」

お姉さんの表情が一瞬だけ曇った。

「あれは別のことよ」

お姉さんは小さな声で言った。

「でも今日は、この子を助けるだけ」

「本当?」

「本当よ。見ていて」

お姉さんはハサミで慎重に棘の周りを切った。子猫は少し鳴いたけど、大人しくしていた。
お姉さんの手つきは優しかった。

「ほら、取れたわ」

棘が取れると、子猫はお姉さんの手の中でリラックスした。

「この子、捨てられたみたいね」

お姉さんは言った。

「可哀想に」

「連れて帰るの?」

「そうしたいけど…私のマンション、ペット禁止なの」

お姉さんは考え込んだ。

「健太くんは?飼えない?」

「うーん…」

僕は考えた。

「ママに聞いてみる…」

「そう」

お姉さんは微笑んだ。

「じゃあ、とりあえず一緒に面倒を見てあげましょう」

お姉さんは子猫を優しく抱き、立ち上がった。

「お水、飲ませてあげましょう」

僕たちは公園の水飲み場まで行った。お姉さんは手に水を溜め、子猫に飲ませた。
子猫は喉が渇いていたのか、たくさん飲んだ。

「お腹空いてるのね」

「何か食べ物、持ってる?」

僕は聞いた。

「ちょっと待って」

お姉さんはバッグを探り、小さなビニール袋を取り出した。
中には小さなクッキーが入っていた。

「これしかないけど…」

お姉さんはクッキーの一部を砕いて、子猫の前に置いた。
子猫は臭いを嗅いで、少し食べ始めた。

「健太くん」

お姉さんが言った。

「明日、キャットフードを買ってきてあげられる?」

「うん!」

「じゃあ、明日またここで会いましょう」

その日、僕たちは子猫のために段ボールで小さな家を作った。
公園のベンチの下、雨が当たらない場所に置いた。
お姉さんはハンカチを敷いて、子猫を優しく中に入れた。

「また明日ね」

お姉さんは子猫に言った。

「寒くなったら、私のコートで包んであげるわ」

僕は少し混乱していた。これが本当のお姉さんなの?動物を大切にするお姉さん。
でも前に見たのは…

「健太くん」

お姉さんが僕を見た。

「あの日見たこと、覚えてる?」

僕は黙って頷いた。

「あれはね…」

お姉さんは少し悲しそうな表情になった。

「私の中にいる別の私がしたことなの」

「別の…?」

「そう。時々、私の中で別の私が出てくるの。でも、本当の私はこうやって動物を助けたいの」

僕には難しくて分からなかった。でも、お姉さんの表情は真剣だった。

「健太くんは、本当の私の味方でいてくれる?」

お姉さんは僕の目をまっすぐに見た。

「う、うん…」

お姉さんは微笑んだ。

「ありがとう。明日も来てね」




次の日、僕はキャットフードを買って公園に行った。
お姉さんはもう来ていて、子猫と遊んでいた。子猫は元気そうだった。

「健太くん!」

お姉さんが手を振った。

「ほら、元気になったわよ」

僕たちは子猫にエサをあげて、一緒に遊んだ。
その日から、僕たちは毎日のように公園で会って、子猫の世話をした。
お姉さんはいつも優しくて、子猫を大事にしていた。

あの日見た恐ろしい光景は、まるで悪い夢のようだった。
でも時々、お姉さんの目が変わる瞬間がある。話の途中で、突然遠くを見るような目になる。
そんな時、僕は怖くなる。

「別の私」っていうのは本当なのかな?お姉さんの中に、優しい人と怖い人が両方いるの?




そして今日、僕は決心した。子猫のことをママに相談してみようと思う。

「ママ、公園で子猫を見つけたんだ」

ママはびっくりしていた。

「一人で?それとも友達と?」

「えっと…お姉さんと」

「お姉さん?」

僕は初めてママにお姉さんのことを話した。もちろん、あの恐ろしいことは言わなかった。
子猫を助けてくれた優しいお姉さんのことだけ。

「その人とはどうやって知り合ったの?」

ママは少し心配そうだった。

「公園で。いつも本を読んでて、一緒に遊んでくれるんだ」

「健太、知らない人と遊んじゃだめって言ったでしょ」

「でも、優しいんだよ」

ママは考え込んだ。

「今度、私もその人に会ってみたいな」

「え?」

「子猫のことも見てみたいし。明日、一緒に行こうか」

僕は迷った。
でもママに黙って会い続けるのも変だから、「うん」と答えた。



今、僕はベッドで考えている。
明日、ママとお姉さんが会う。大丈夫かな?お姉さんは怒らないかな?
お姉さんには二つの顔がある。優しい顔と、怖い顔。

ママに会うのは、どっちのお姉さんだろう?
僕は分からなくなってきた。お姉さんは本当は良い人なのか、悪い人なのか。

でも子猫には優しくしてくれた。僕にも優しい。
だけど、あの茂みの中で見たことも本当だった。
どうして優しいお姉さんが、あんなことをするんだろう?

僕の頭の中はグルグル回って、答えが見つからない。
お姉さんは言った。「私の中の別の私」って。
本当に人って、そんな風に二つの人が住んでることがあるのかな?

もしそうなら、本当のお姉さんはどっちなんだろう?
僕はまだ小学生だから、分からないことがたくさんある。
でも一つだけ分かることは、明日がとても怖いってこと。

ママとお姉さんが会って、何が起こるんだろう?
僕は目を閉じた。でも、あの子犬の悲鳴が頭から離れない。

お姉さん、本当はどんな人なの?
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