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3.ワクワク!待ちに待ってた学園生活!
ヒロイン不在の出会いイベント(カルロス)
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「うぅ……推し……俺の推し……」
授業が終わり、項垂れながらトボトボと歩く俺。今日も今日とて推しは現れず、悲しみに暮れる俺をどうしたものかと戸惑いつつもエドワードが慰めてくれている。
俺も、この1週間推し探しだけをしていた訳じゃない。人のこといえないくらい同じように避けられていたクラスメイトと距離を詰め、学園内の散策をし、授業も張り切って受けていた。
しかしゲームに似通った部分を色々と見つけ、「この感じなら!?」と期待をしていた分落胆は大きく、まだ「推しがいない」という現実が受け入れられない。
……いや、ほんとにいないのか? 俺が見つけられてないだけでは?
だってカルロスは王子だったけど、エディは辺境伯令息じゃなかったし。そもそも身分が違うとなると、ゲーム知識を元に高位貴族クラスばかりを探していた俺の捜索網には引っかからない……!
「まだ……まだ希望が! よし、次は下位貴族クラスを見に行こう!」
「カノン。元気になってくれたのは嬉しいが、下位貴族側の校舎に行けるようになるのは1学期が終わってからだ。今はまだ、渡り廊下は閉鎖されている」
「う…………待てよ? 物理的に遮られてたらいくら推しといえどこっちにこれないもんな。うん、やっぱ下位貴族になってる説、あるぞ……!」
「……カノン、駄目だからな。ただでさえ辺境出身で知り合いがおらず、信頼されていないんだ。ここで問題を起こすと今後に影響が出る」
「……分かってる……」
思いつくまま下位貴族クラス棟と高位貴族クラス棟を繋ぐ渡り廊下に駆け出そうとした俺を、抱きとめたエドワードが諭す。
これは『皆平等』を掲げた弊害であるが、下位貴族が高位貴族、果ては王族に馴れ馴れしくした事例がかつてあったそうだ。
平等、というのはあくまでも勉学の中でのことで、あまりに身分を無視した言動を推奨するものではない。結婚相手を見つけるにしてもちゃんとした手順とアピール方法があるだろうってことだ。
その辺をしっかり教育するという意味でも初めはクラスが分けられているのだが、1学期が終わるまではお互いのクラスを行き来することすら禁じられている。まぁあの大ホールとか食堂みたいな共用スペースもあるから、完全に分断されてはいないけど。
だが一応そういった建前がある以上、堂々と境界を越えるのはあまりよろしくない。
少しは話すようになったとはいえ、エドワードの言うとおりまだまだ俺たちは教室で『異質な存在』。子供の時からお茶会や親について出たパーティー、幼年学校等々で少なからず面識のある彼ら彼女らの中に放り込まれた見知らぬ人間が俺たちだ。初対面である意味やらかしていたヒロインよりかはまだ拒否感は少ない気がするが、それでもふとした瞬間壁を感じるときがある。
まぁあの、あれだよ。仲良しグループに後から入ったときみたいな感じ。たまに「皆楽しそうだけど、俺そのエピソード知らんわ~」ってなるアレ。もうしょうがないことだから、気にせずこれから仲良くなっていきたい。
……不思議だろ? それなら推しを待っている間、同じ境遇のヒロインと先に仲良くなっててもいいじゃんって。実際、この際だからと俺はヒロインとまずは仲を深めようとしていた。
俺にはエドワードがいるし爵位も問題ないが、本当に独りでいつ身分をつつかれるようになるか分からない状態のヒロインを放ってはおけない。なにより見捨てたなんて推しに顔向けできないし、後々ヒロインに推しと繋がりができたとき紹介してほしい!
……と、下心ありありながらも接点を作ろうとした俺を、エドワードが止めた。
曰く「まずは自分たちがクラスメイトに溶け込むことが重要だろう」、とのこと。確かに、あんまりコミュ強じゃない俺と俺及び侯爵邸公爵邸の限られた人間としか触れ合っていないエドワードでは、発光から始まり突如クラスメイトに近づいたかと思えば一方的に喋り、最終的に「使えないわね!」で足音を鳴らして立ち去るヒロインを制御できる気がしない。
……ていうかヒロイン、性格もちょっと……かなりだったんだよ。ハブるのはもちろんよくないけど、だからといって積極的に話したいかというと……俺は……合わない……!
だって、こっちを見たと思ったら「モブにしてはまあまあイケメンね」とかすげぇ上から目線で言ってたんだもの! 確かに俺たちはイケメンだけど! なんで「暇なときはちやほやしてもらおっ!」って俺たちが傅く前提で考えてるんだ!
いくらゲーム期間の全てが表示されてないとはいえ、明らかに俺のヒロイン像とはずれている。もっと、底辺から這い上がるガッツと包み込むような優しさを兼ね備えたような感じだったはず。
だからこそ推しの死に涙し奮起してくれる訳なんだが、そこにいるヒロイン(仮)はむしろ守られて当たり前って推しを一瞥もしなそうな気がする!
正直そんな相手に推しを接近させたくもないが、それでも手を差し伸べるのが推しだから……。でもやっぱ危険を増やしたくないから、推しの存在を確認できたらヒロインサポートの役目は俺が引き継ぐつもりだから……!
「俺は……推しのためなら……っ!」
「…………無理はするなよ」
はぁ、と呆れたようなため息を吐くエドワード。俺の推し捜索に巻き込むのも悪いと俺のことは気にせずに学園生活を楽しんでほしいと伝えたのだが、始め難色を示していたというのになんだかんだでエドワードも捜索を手伝ってくれている。ちょくちょく眉間にシワを寄せ、密かに歯を食いしばってるときもあるけど……。
「どうしても気になるようだし、向こう側にいる奴にその『オシ』ってやつを探してもらうように頼んでおく」
「えっ!? エド、いつの間に友好関係を広げて……?」
「広げるというか……とにかく、伝手はあるからカノンが何かをする必要はない」
「むぅ……そうするしかない、かぁ」
入学式からこっち、ほとんどずっと俺の隣に陣取っていたはずのエドワードからの思わぬ申し出に驚く俺。しかし現状俺自身が下位貴族側に行けないとなると、そちら側にいる人の手助けは必須である。
まぁ今すぐ事件が起こるでもなし、急いで所在を確認する必要もなく、俺が渡り廊下解禁まで耐えればいい話なんだけど。頭では分かっていてもどうにもならないものってあるよね。
駄目だと思ってても少しくらいならって未練がましくなっちゃうときも……あるよね!
「しっかし、紐数本なら乗り越えられちゃうよなぁ」
てな訳で、俺は棟を繋ぐ渡り廊下に来ていた。
エドワードは早速下位貴族クラスにいる誰かに話しをするということで、お互いの接点となる食堂や中庭を少し回っている最中。エドワードには先に帰っていてくれって言われていたが、いつも同乗しているため今日も迎えの馬車は一つであり、馬車に何度も往復してもらうのも……と俺はエドワードを待つことにしたのだ。ていうか、俺も一緒に連れて行ってくれてよかったのに。何故かそこは頑なに首を横に振られたんだよなぁ。
そんな訳で少し時間が空いた俺は、ちょっとばかし足を伸ばしたのである。もちろん、いけそうだとしても紐を越えるつもりはない。ただその向こう、あちら側を推しがふらっと歩いてたりしないかなーみたいな僅かすぎる可能性に期待して。
当たり前というか、数分眺めていても推しは通りがからなかった。むしろ推しどころか誰も。ここにあるのは渡り廊下だけで、それも使えないとなると来る必要性など皆無だからそりゃそうか。
収穫は何もなかったが、いい時間潰しにはなった。あんまり長居すると今度はエドワードを待たせることになる、と俺は諦めて馬車停めに向かうことにする。
「やぁ。君、ここで何してたのかな?」
そうして振り返ったら、王子様がいました。
……いや、比喩じゃなくて本当に王子様だ!?
「あっ、へっ!?」
「……見ない顔だな。近しい歳の貴族の顔はみな覚えているつもりだったが……すまないね、君の名を教えてくれるかい?」
「はぃっ! カノっ、カノン・アルベント、ですっ!」
「ああ、侯爵の。でははじめまして、だな。体の方は支障ないか?」
「へぁっ!? だ、だいじょぶですぅ……」
「そうか。それはなにより」
そう、微笑むカルロス。うっわ睫毛長っ。肌もすべっすべしてそう。マジで、ゲームで見てたとおりのキラキラ加減。
でも生きてて、呼吸に合わせて微かに肩が上下してて……。
「!? どうした? 急に気分が悪くなったか?」
「うぅっ……ご心配おかけして、すみません……っ……ただ感情が溢れただけなので、お気になさらず……ぐすっ」
「そ、そうか……」
気付けばとめどなく涙が流れ出し、ギョッとしながらも俺を気遣ってくれるカルロスにさらに涙量が増える。大丈夫とは伝えたもののガン泣きの俺を放置するのも気が引けたのか、カルロスは涙で視力が仕事していない俺を廊下の目立たない所までエスコートしてくれた。すまん里香。お前を差し置いてこんな接触を。
そして、ハマってないとか嘘じゃん。どハマりだよ俺。いや、でもさぁ、こんな心身ともに王子様なカルロスを前にして、好きにならないやつなんていないだろ!
と、次々と『乙ゲーのヒーロー力』をまざまざと見せつけられて少々攻略されかけていた俺。危ない危ない。
しばし柱の陰に隠れようやく落ち着くと、そこで再度カルロスに何をしていたのかと尋ねられた。さっき自分で考えていた通り、ここはなんとなくで佇むような場所ではない。恐らく俺がこっそり下位貴族棟に入り込もうとする不届き者だと疑っての詰問だろう。
そんなことをするつもりは全くなかったが、かといって「向こう側に知り合い(推し)がいるかもしれないので、少しでもその顔が見れればと思って」というのは些か理由として弱いっていうのは俺も分かる。
「封鎖されてるのは分かってましたが、どんなところか確認しておきたくって……」
結局、嘘じゃないが微妙に本心ではないようなことを口にした。まぁ、封鎖されてるのを知ってるのも渡り廊下を確認してたのも間違いじゃないし、堂々としてればなんとかなる……はず。
さらにここの景色はいいですねー、とか殿下も見回りお疲れ様です、とか徐々に渡り廊下から話題を逸らそうと試みると、カルロスも一応は納得してくれたらしい。
「疑われたくなければ不用意に近づかない方がいい」と至極まっとうな助言を残して立ち去るカルロスに、俺はほっと息を吐いた。
「……ふぅ。あっぶな。でも、なんでこんなとこにカルロスが……?」
なんとなく見回りと言ってはみたが、王子がそんなことするんだろうか。いや、するのかな。これから過ごすことになる学園を直に見て回るとは……流石未来の国王。もっと信奉しちゃう。
それにしてもこの渡り廊下、なーんか見覚えあるんだよな。ここは一階、地面と地続きになっているが、他の渡り廊下は二階より上にある。だからいくら大木といっても幹はあんまり見えないんだけど、どこかで廊下とぶっとい幹が一緒に見えた時があったような……。
「……あ。出会いイベント……か……!?」
うんうん唸り、パッと頭に浮かんだのはカルロスの立ち絵。背景は廊下で、画面の端にチョロッとだけ茶色いものが見えていた。
以降出てくる廊下背景にはなかったため、表示バグだと思われていたソレ。しかしバグではなく木の幹だったとすると、あのイベントはこの棟を繋ぐ渡り廊下で行われていたんだろう。
ちなみに茶色は本当に画面の端にちみっとあるだけなので、気付いていない人の方が多い。俺がそれを知ってるのは里香のおかげだ。世間では1年生の教室の近くにある共用施設ゾーンに繋がる渡り廊下だという意見が多かったが、違和感を捨てきれなかったらしい里香はマップを凝視しこの一階の廊下に目を付けていた。里香。お前の考察、合ってたぞ!!
しかし、そうなると俺はヒロインの代わりに出会いイベントをやってしまった?
推しのことは助けるにしろ、俺は今まで大幅にゲームのシナリオを変えるつもりも介入するつもりもなかった。だがヒロインと攻略対象の出会いを邪魔したとなると、これまでの比にならないくらいの変化が起こってしまうんじゃないか。
「い、いや、頻繁にカルロスが見回りをしてるならヒロインにもチャンスはあるし……むしろ、その前例があったからさっきもここに来たのかもしれないし……」
湧き上がる焦燥感を打ち消すべく、小声で自分に言い聞かせる俺。なんにせよこのままこの場に留まるとまた別の人からあらぬ誤解を受ける、ととにかく俺もここを離れようとすると、近くにあった茂みががさりと揺れ、視界の端を赤い何かが通り過ぎていった気がした。
赤。ヒロインの、髪の色……。
「…………やっちまったかもしれん」
しでかしたかもという不安にふらつきながら、なんとか足を運んだ馬車留め。用事を終えたらしいエドワードもちょうど同じタイミングで対面からやってきて、俺の姿を見つけ一瞬顔を明るくさせた後全力で走り寄ってきた。
覚束ない俺の足取りを指摘し、どうして帰ってないんだ、何があったんだ、と焦ったように尋ねてくるエドワードにこちらも慌ててなんでもないと答える。しかし当然納得しないエドワード。
結局帰りの馬車内でずっとエドワードに詰問され、ヒロインやイベントというものを伏せてぼんやり俺の迂闊さを白状させられることになったのだった。
授業が終わり、項垂れながらトボトボと歩く俺。今日も今日とて推しは現れず、悲しみに暮れる俺をどうしたものかと戸惑いつつもエドワードが慰めてくれている。
俺も、この1週間推し探しだけをしていた訳じゃない。人のこといえないくらい同じように避けられていたクラスメイトと距離を詰め、学園内の散策をし、授業も張り切って受けていた。
しかしゲームに似通った部分を色々と見つけ、「この感じなら!?」と期待をしていた分落胆は大きく、まだ「推しがいない」という現実が受け入れられない。
……いや、ほんとにいないのか? 俺が見つけられてないだけでは?
だってカルロスは王子だったけど、エディは辺境伯令息じゃなかったし。そもそも身分が違うとなると、ゲーム知識を元に高位貴族クラスばかりを探していた俺の捜索網には引っかからない……!
「まだ……まだ希望が! よし、次は下位貴族クラスを見に行こう!」
「カノン。元気になってくれたのは嬉しいが、下位貴族側の校舎に行けるようになるのは1学期が終わってからだ。今はまだ、渡り廊下は閉鎖されている」
「う…………待てよ? 物理的に遮られてたらいくら推しといえどこっちにこれないもんな。うん、やっぱ下位貴族になってる説、あるぞ……!」
「……カノン、駄目だからな。ただでさえ辺境出身で知り合いがおらず、信頼されていないんだ。ここで問題を起こすと今後に影響が出る」
「……分かってる……」
思いつくまま下位貴族クラス棟と高位貴族クラス棟を繋ぐ渡り廊下に駆け出そうとした俺を、抱きとめたエドワードが諭す。
これは『皆平等』を掲げた弊害であるが、下位貴族が高位貴族、果ては王族に馴れ馴れしくした事例がかつてあったそうだ。
平等、というのはあくまでも勉学の中でのことで、あまりに身分を無視した言動を推奨するものではない。結婚相手を見つけるにしてもちゃんとした手順とアピール方法があるだろうってことだ。
その辺をしっかり教育するという意味でも初めはクラスが分けられているのだが、1学期が終わるまではお互いのクラスを行き来することすら禁じられている。まぁあの大ホールとか食堂みたいな共用スペースもあるから、完全に分断されてはいないけど。
だが一応そういった建前がある以上、堂々と境界を越えるのはあまりよろしくない。
少しは話すようになったとはいえ、エドワードの言うとおりまだまだ俺たちは教室で『異質な存在』。子供の時からお茶会や親について出たパーティー、幼年学校等々で少なからず面識のある彼ら彼女らの中に放り込まれた見知らぬ人間が俺たちだ。初対面である意味やらかしていたヒロインよりかはまだ拒否感は少ない気がするが、それでもふとした瞬間壁を感じるときがある。
まぁあの、あれだよ。仲良しグループに後から入ったときみたいな感じ。たまに「皆楽しそうだけど、俺そのエピソード知らんわ~」ってなるアレ。もうしょうがないことだから、気にせずこれから仲良くなっていきたい。
……不思議だろ? それなら推しを待っている間、同じ境遇のヒロインと先に仲良くなっててもいいじゃんって。実際、この際だからと俺はヒロインとまずは仲を深めようとしていた。
俺にはエドワードがいるし爵位も問題ないが、本当に独りでいつ身分をつつかれるようになるか分からない状態のヒロインを放ってはおけない。なにより見捨てたなんて推しに顔向けできないし、後々ヒロインに推しと繋がりができたとき紹介してほしい!
……と、下心ありありながらも接点を作ろうとした俺を、エドワードが止めた。
曰く「まずは自分たちがクラスメイトに溶け込むことが重要だろう」、とのこと。確かに、あんまりコミュ強じゃない俺と俺及び侯爵邸公爵邸の限られた人間としか触れ合っていないエドワードでは、発光から始まり突如クラスメイトに近づいたかと思えば一方的に喋り、最終的に「使えないわね!」で足音を鳴らして立ち去るヒロインを制御できる気がしない。
……ていうかヒロイン、性格もちょっと……かなりだったんだよ。ハブるのはもちろんよくないけど、だからといって積極的に話したいかというと……俺は……合わない……!
だって、こっちを見たと思ったら「モブにしてはまあまあイケメンね」とかすげぇ上から目線で言ってたんだもの! 確かに俺たちはイケメンだけど! なんで「暇なときはちやほやしてもらおっ!」って俺たちが傅く前提で考えてるんだ!
いくらゲーム期間の全てが表示されてないとはいえ、明らかに俺のヒロイン像とはずれている。もっと、底辺から這い上がるガッツと包み込むような優しさを兼ね備えたような感じだったはず。
だからこそ推しの死に涙し奮起してくれる訳なんだが、そこにいるヒロイン(仮)はむしろ守られて当たり前って推しを一瞥もしなそうな気がする!
正直そんな相手に推しを接近させたくもないが、それでも手を差し伸べるのが推しだから……。でもやっぱ危険を増やしたくないから、推しの存在を確認できたらヒロインサポートの役目は俺が引き継ぐつもりだから……!
「俺は……推しのためなら……っ!」
「…………無理はするなよ」
はぁ、と呆れたようなため息を吐くエドワード。俺の推し捜索に巻き込むのも悪いと俺のことは気にせずに学園生活を楽しんでほしいと伝えたのだが、始め難色を示していたというのになんだかんだでエドワードも捜索を手伝ってくれている。ちょくちょく眉間にシワを寄せ、密かに歯を食いしばってるときもあるけど……。
「どうしても気になるようだし、向こう側にいる奴にその『オシ』ってやつを探してもらうように頼んでおく」
「えっ!? エド、いつの間に友好関係を広げて……?」
「広げるというか……とにかく、伝手はあるからカノンが何かをする必要はない」
「むぅ……そうするしかない、かぁ」
入学式からこっち、ほとんどずっと俺の隣に陣取っていたはずのエドワードからの思わぬ申し出に驚く俺。しかし現状俺自身が下位貴族側に行けないとなると、そちら側にいる人の手助けは必須である。
まぁ今すぐ事件が起こるでもなし、急いで所在を確認する必要もなく、俺が渡り廊下解禁まで耐えればいい話なんだけど。頭では分かっていてもどうにもならないものってあるよね。
駄目だと思ってても少しくらいならって未練がましくなっちゃうときも……あるよね!
「しっかし、紐数本なら乗り越えられちゃうよなぁ」
てな訳で、俺は棟を繋ぐ渡り廊下に来ていた。
エドワードは早速下位貴族クラスにいる誰かに話しをするということで、お互いの接点となる食堂や中庭を少し回っている最中。エドワードには先に帰っていてくれって言われていたが、いつも同乗しているため今日も迎えの馬車は一つであり、馬車に何度も往復してもらうのも……と俺はエドワードを待つことにしたのだ。ていうか、俺も一緒に連れて行ってくれてよかったのに。何故かそこは頑なに首を横に振られたんだよなぁ。
そんな訳で少し時間が空いた俺は、ちょっとばかし足を伸ばしたのである。もちろん、いけそうだとしても紐を越えるつもりはない。ただその向こう、あちら側を推しがふらっと歩いてたりしないかなーみたいな僅かすぎる可能性に期待して。
当たり前というか、数分眺めていても推しは通りがからなかった。むしろ推しどころか誰も。ここにあるのは渡り廊下だけで、それも使えないとなると来る必要性など皆無だからそりゃそうか。
収穫は何もなかったが、いい時間潰しにはなった。あんまり長居すると今度はエドワードを待たせることになる、と俺は諦めて馬車停めに向かうことにする。
「やぁ。君、ここで何してたのかな?」
そうして振り返ったら、王子様がいました。
……いや、比喩じゃなくて本当に王子様だ!?
「あっ、へっ!?」
「……見ない顔だな。近しい歳の貴族の顔はみな覚えているつもりだったが……すまないね、君の名を教えてくれるかい?」
「はぃっ! カノっ、カノン・アルベント、ですっ!」
「ああ、侯爵の。でははじめまして、だな。体の方は支障ないか?」
「へぁっ!? だ、だいじょぶですぅ……」
「そうか。それはなにより」
そう、微笑むカルロス。うっわ睫毛長っ。肌もすべっすべしてそう。マジで、ゲームで見てたとおりのキラキラ加減。
でも生きてて、呼吸に合わせて微かに肩が上下してて……。
「!? どうした? 急に気分が悪くなったか?」
「うぅっ……ご心配おかけして、すみません……っ……ただ感情が溢れただけなので、お気になさらず……ぐすっ」
「そ、そうか……」
気付けばとめどなく涙が流れ出し、ギョッとしながらも俺を気遣ってくれるカルロスにさらに涙量が増える。大丈夫とは伝えたもののガン泣きの俺を放置するのも気が引けたのか、カルロスは涙で視力が仕事していない俺を廊下の目立たない所までエスコートしてくれた。すまん里香。お前を差し置いてこんな接触を。
そして、ハマってないとか嘘じゃん。どハマりだよ俺。いや、でもさぁ、こんな心身ともに王子様なカルロスを前にして、好きにならないやつなんていないだろ!
と、次々と『乙ゲーのヒーロー力』をまざまざと見せつけられて少々攻略されかけていた俺。危ない危ない。
しばし柱の陰に隠れようやく落ち着くと、そこで再度カルロスに何をしていたのかと尋ねられた。さっき自分で考えていた通り、ここはなんとなくで佇むような場所ではない。恐らく俺がこっそり下位貴族棟に入り込もうとする不届き者だと疑っての詰問だろう。
そんなことをするつもりは全くなかったが、かといって「向こう側に知り合い(推し)がいるかもしれないので、少しでもその顔が見れればと思って」というのは些か理由として弱いっていうのは俺も分かる。
「封鎖されてるのは分かってましたが、どんなところか確認しておきたくって……」
結局、嘘じゃないが微妙に本心ではないようなことを口にした。まぁ、封鎖されてるのを知ってるのも渡り廊下を確認してたのも間違いじゃないし、堂々としてればなんとかなる……はず。
さらにここの景色はいいですねー、とか殿下も見回りお疲れ様です、とか徐々に渡り廊下から話題を逸らそうと試みると、カルロスも一応は納得してくれたらしい。
「疑われたくなければ不用意に近づかない方がいい」と至極まっとうな助言を残して立ち去るカルロスに、俺はほっと息を吐いた。
「……ふぅ。あっぶな。でも、なんでこんなとこにカルロスが……?」
なんとなく見回りと言ってはみたが、王子がそんなことするんだろうか。いや、するのかな。これから過ごすことになる学園を直に見て回るとは……流石未来の国王。もっと信奉しちゃう。
それにしてもこの渡り廊下、なーんか見覚えあるんだよな。ここは一階、地面と地続きになっているが、他の渡り廊下は二階より上にある。だからいくら大木といっても幹はあんまり見えないんだけど、どこかで廊下とぶっとい幹が一緒に見えた時があったような……。
「……あ。出会いイベント……か……!?」
うんうん唸り、パッと頭に浮かんだのはカルロスの立ち絵。背景は廊下で、画面の端にチョロッとだけ茶色いものが見えていた。
以降出てくる廊下背景にはなかったため、表示バグだと思われていたソレ。しかしバグではなく木の幹だったとすると、あのイベントはこの棟を繋ぐ渡り廊下で行われていたんだろう。
ちなみに茶色は本当に画面の端にちみっとあるだけなので、気付いていない人の方が多い。俺がそれを知ってるのは里香のおかげだ。世間では1年生の教室の近くにある共用施設ゾーンに繋がる渡り廊下だという意見が多かったが、違和感を捨てきれなかったらしい里香はマップを凝視しこの一階の廊下に目を付けていた。里香。お前の考察、合ってたぞ!!
しかし、そうなると俺はヒロインの代わりに出会いイベントをやってしまった?
推しのことは助けるにしろ、俺は今まで大幅にゲームのシナリオを変えるつもりも介入するつもりもなかった。だがヒロインと攻略対象の出会いを邪魔したとなると、これまでの比にならないくらいの変化が起こってしまうんじゃないか。
「い、いや、頻繁にカルロスが見回りをしてるならヒロインにもチャンスはあるし……むしろ、その前例があったからさっきもここに来たのかもしれないし……」
湧き上がる焦燥感を打ち消すべく、小声で自分に言い聞かせる俺。なんにせよこのままこの場に留まるとまた別の人からあらぬ誤解を受ける、ととにかく俺もここを離れようとすると、近くにあった茂みががさりと揺れ、視界の端を赤い何かが通り過ぎていった気がした。
赤。ヒロインの、髪の色……。
「…………やっちまったかもしれん」
しでかしたかもという不安にふらつきながら、なんとか足を運んだ馬車留め。用事を終えたらしいエドワードもちょうど同じタイミングで対面からやってきて、俺の姿を見つけ一瞬顔を明るくさせた後全力で走り寄ってきた。
覚束ない俺の足取りを指摘し、どうして帰ってないんだ、何があったんだ、と焦ったように尋ねてくるエドワードにこちらも慌ててなんでもないと答える。しかし当然納得しないエドワード。
結局帰りの馬車内でずっとエドワードに詰問され、ヒロインやイベントというものを伏せてぼんやり俺の迂闊さを白状させられることになったのだった。
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