大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる

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3.ワクワク!待ちに待ってた学園生活!

幕間 カルロス・バステス

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「紛らわしいことをして、すみませんでしたっ!!」

 そうはっきりと声に出し、膝につくほどに頭を下げた男子生徒を残して私はその場を後にする。
 立入禁止ではないが、あるのは現在通行不可の渡り廊下だけ。そんなところに向かう人影を目にして万が一を考え立ち寄ったのだが、結果として何事もなく終わってしまった。

 私の顔を見るなり泣き出した、名前だけは知っていた見知らぬ男子生徒。何かやましいことでもと疑う余地の無いほど貴族らしからぬ号泣を見せた彼、アルベント侯爵令息は、その後もひたすらに低姿勢で私の問いに答えていた。
 何故あんな場所にいたのか疑問は残るものの、語る言葉には私を騙そうとする気配は全く感じない。恐れ……ではないだろうが、どこか私に一線を引いている感触にこれ以上は踏み込めないだろうと追及は断念。彼は警戒対象であるためこれからも注意をしていくつもりであるが……。

「なかなか、素直なのだな」

 誰にも聞き取れないほどに小さく呟いた私の言葉は、ため息とともに空気に溶けていく。
 羨ましい、と思わないといったら嘘になる。相手に足元を掬われないよう、貴族というのは感情を大っぴらに表に出さないもの。王族ともなればより一層自らの振る舞いがどう受け取られるかに気を配らなくてはならず、それができない者は国をまとめる一族の資格などない。
 飛び上がりそうな喜びも、立ち上がれないほどの悲しみも、全てを薄い微笑みの下に押し込めなければならないのだ。

 その点でいえば私があのように他人に涙を見せることなどあってはならず、むしろ高位貴族であるのにあれほど感情豊かである彼の行く末を案じるほど。これは私でなくても伯爵以上であれば感じることだろう。
 だが、そんな貴族としての欠点を加味した上で私の中に生まれているのは、僅かな嫉妬だ。
 
 彼なら、彼女が喜んでいる隣で同じように喜びを分かち合えるのだろう。
 彼なら、彼女が泣いている隣で同じように泣いて慰められるのだろう。
 
 私では成し得ないことを彼は出来るのだと突きつけられ、張り付けた笑顔が微かに引きつる。

 ……ああ、よくない。気を抜くと私は怒っているように見えるのだと彼女は言っていた。完璧な王子として、常に認められる存在でいなければ。
 私が完璧であればあるほど、彼女はそのままでいられるのだから。

「そう、そのままで。あの温かいままで……」

 ささくれだった心を落ち着かせるため思い浮かべたのは、見事なまでの赤毛だ。

 側妃である私の母が死んだとき、10歳の私はただ茫然と棺を眺めることしかできなかった。
 感情を表に出してはならない。それは肉親の死を前にしても同じ、いや、数多くの目がある中では一層気をつけなければならないこと。
 母を溺愛していた父も、母を妹のように可愛がっていた正妃も泣いてなどいない。だから王子である私も泣いてはいけない……。

 そう心を落ち着かせようとしても体は強張り、動けなくなっていた私を支えてくれたのが彼女である。

 彼女は私の代わりに大泣きに泣き、はしたないと言われるのも無視して私を抱きとめた。抱え込まれた私の頭は彼女の胸に隠されて。きっと彼女は、彼女だけが私が泣くことを許してくれていたのだろう。
 結局、私の目から涙は流れなかったのだが。彼女の鼓動が私の強張りを解いてくれたのは間違いなく、それだけでも救われた気持ちになったのだ。

 出会った当初は人形のようだった彼女。それがある日を境に人間に戻り、積極的に私に関わるようになっていった。それはどこか世話を焼くようで、少々気恥ずかしくもあり。だけど慈愛に満ちた彼女の行動は心地のいいものだった。

 候補、と銘打ってはいるものの、最早私は彼女以外と添い遂げたくなどない。だからこそ婚約者候補は彼女一人であり、他の令嬢にどれだけ請われても候補に加えるつもりはない。
 それを表明するためにも無理を言って入学式で付けるコサージュに赤を入れてもらったのだ。本当なら彼女と共に壇上に上がることではっきりと突きつけるつもりであったのだが、直前で彼女が倒れてしまい私一人であったためにいまいち効力が発揮できていないらしい。
 そもそもかつて婚約者候補の選定時、母の身分が低いからと陰で散々私と母を嘲笑っていた令嬢たちだ。王都に住む高位貴族の令嬢というだけで彼女よりも早く私と顔を合わせていたというのに、拒絶されていたのは何故なのか分かっていないのだろうか。

 ……とにかく、私は彼女を手放さない。例え相手が彼女の幼馴染であり、すっかり感情の抜け落ちていた時でさえ遠く見つめていた視線の先にいたとしても、だ。
 私個人としてカノン・アルベントに好感は持ったが、それはそれ。私から彼女を奪わないよう、注視していく必要があるだろう。私のように不器用な人間に彼女は相応しくないかもしれないが、不器用だからこそ彼女を欲しているのだ。

 ああそうだ、私が気をつけるべきはカノン・アルベントだけではないな。幸いにして私を好いてくれているらしい彼女の気持ちを引き留めるために、私も頑張らねば。

「申し訳ありません。お待たせしてしまいましたね」
「いや、私が早く付きすぎた。せっかくの親睦を深めるための茶会だ、そう畏まらないでくれリズ」
「わかりました、カルロス様!」

 王族と王族が許可した者だけが使用を許される中庭に、現れたのは愛おしい赤毛。私の唯一の婚約者候補、エリザベス・フォーリン。
 私が愛称で呼べば嬉しそうに顔をほころばせる彼女は、一歩外に出れば非の打ちどころのない淑女として振る舞えるように成長していた。それは実質婚約者が確定しているために王太子妃の教育もなされているためであるが、私と2人きりのときはこうして昔と同じように接してくれている。

 入学のあれそれでしばらくこの茶会もなかったから、と手渡してくれたクッキーは、エリザベスの手作りだそうだ。嬉しい。これは彼女の親愛はまだ私にあると見ていいだろう。
 だが、油断はできない。彼女にはちゃんと確かめておかなければならないことがあるのだ。

「リズ」
「はい? なんでしょうか」
「ここに来る前、君はどこにいたのかな?」
「……え」
「……袖のところ、葉っぱが付いてるよ」
「!! こ、これは……」

 私の指摘に慌てて袖を払い始めるエリザベスに、やはり先ほどの渡り廊下から見える茂みにチラリと混じっていた赤は彼女の髪であったのだと確信する。
 何故あの人気のない渡り廊下に行き、隠れていたのか。カノン・アルベントがあそこに行ったのは偶然だったのか。それとも……。

「さ、リズ。どうしてあそこにいたのか、話して?」

 にっこりと、エリザベス曰く圧を感じるらしい笑みで問いかける。なに、エリザベスがどう答えても怒ったりなんてしない。彼女は彼女のしたいようにしてくれたらいい。

 ただ、場合によってはカノン・アルベントを呼び出すことにはなるかもしれないけど、ね。
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