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今宵月となり、復讐を果たす
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「貴様、何故ここにいる!!」
「あら。折角久しぶりにお会いしましたのに、酷い言いようですこと。ルシアノ様」
動揺を隠せないルシアノをよそに、私は意地悪く微笑む。招かざれる客である私を見て、その態度になるのは致し方あるまい。
だが、これも彼が蒔いた種だ。
罪悪感など、今の私には微塵も無かった。
ルシアノの怒鳴り声で、和やかだった夜会の空気が、一瞬にして張り詰めたものに様変わりした。
私と彼に目を向けながら、皆ひそひそと話し始める。
「あれは……確か、アグスティン侯爵家ご令嬢のディアナ様では?」
「本当だ、何故ここに……?」
好意的とは言えない反応。しかし、それも想定の範囲内だ。好奇の目に臆することなく、私はルシアノの言葉を待った。
「……一体、何をしに来た?」
苦虫を噛み潰したような顔で、彼は問うた。先程よりも抑えた声だが、そこには隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
「最後に、貴方とご結婚相手のお顔を今一度拝んでおこうと思いましてね」
ルシアノの傍らにいるのは、男爵家の娘アリーチェ。見上げるようにして、不安げに彼の横顔を見つめていた。
私の嫌がらせに全く気付かなかった、鈍感な女。
そして私と婚約破棄してまで、彼が結ばれたがった女である。
結婚したというのに、彼女はまだ垢抜けなさが残っていた。純朴と言えば聞こえが良いが、洗練されてない雰囲気が私をより一層苛立たせた。
これが、この男の言う''太陽''か。
「貴女、アリーチェと言ったわね」
「はっ、はい」
怖気付いたように、小娘は肩をびくつかせた。彼女は、私がルシアノの元婚約者であるとは知らない。
見知らぬ女に名を呼ばれるなど、恐怖である他無いだろう。
「ご結婚おめでとう」
「……ありがとうございます」
「今後そのネックレスやイヤリングが似合うように、せいぜい頑張りなさいな」
アリーチェのドレスは、ルシアノが好みそうな明るいオレンジ色であった。彼のためにその色を選んだであろうことは、すぐに分かった。
何故なら。少し前まで、私も同じ様に努めていたから。
彼女の首元を飾るのは、ルシアノの家に代々伝わるエメラルドのネックレス。耳元には、彼から贈られたであろう真珠のイヤリングが光っていた。
それらは、私がかつて憧れた輝きだった。
「ディアナ嬢とルシアノ様のご関係は一体……?」
周囲のひそひそ話は続く。
この国では貴族の場合、婚約は内密に行われる。結婚式で初めて、結婚相手が公となるのだ。
つまりは、誰も私が彼の元婚約者であるとは知らない。
……が。階級差のあるアリーチェとルシアノが元々から婚約していたというのは無理な話だ。口にしなくとも、皆疑問に思っていたことだろう。
そして同じ侯爵家の人間である私の方が、彼の結婚相手と考えるには自然である。
決定的なことを言った訳では無い。しかし先程までのやりとりにより、人々を思い至らせるには十分であった。
「ディアナ嬢の親しげな口調と、あのお言葉。もしかして……」
一斉に、彼に疑いの目が向けられる。
「……っ、」
衆人環視の中で鼻を折られ、ルシアノは私を睨むことしかできない。殴り掛かられるかと思ったが、彼の拳は強く握られるだけであった。
いい気味ね。
決して背の高くないルシアノのために、今まで我慢していた高いヒール。それを履いて見る景色は、この上無い程に気持ち良い。
地味だとかつて彼が酷評した黒いドレスも着心地が良く、驚く程身体にしっくりきていた。
オパールを散りばめ装飾されたドレスは、さながら星の瞬く夜空である。
そして背の低い二人を見下ろす私の瞳は、偶然にも金色だった。
今の光景を例えるならば……夜空に浮かぶ月に睨まれた男女、とでも言おうか。
これからは月を見る度、怯えれば良い。
「あら。折角久しぶりにお会いしましたのに、酷い言いようですこと。ルシアノ様」
動揺を隠せないルシアノをよそに、私は意地悪く微笑む。招かざれる客である私を見て、その態度になるのは致し方あるまい。
だが、これも彼が蒔いた種だ。
罪悪感など、今の私には微塵も無かった。
ルシアノの怒鳴り声で、和やかだった夜会の空気が、一瞬にして張り詰めたものに様変わりした。
私と彼に目を向けながら、皆ひそひそと話し始める。
「あれは……確か、アグスティン侯爵家ご令嬢のディアナ様では?」
「本当だ、何故ここに……?」
好意的とは言えない反応。しかし、それも想定の範囲内だ。好奇の目に臆することなく、私はルシアノの言葉を待った。
「……一体、何をしに来た?」
苦虫を噛み潰したような顔で、彼は問うた。先程よりも抑えた声だが、そこには隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
「最後に、貴方とご結婚相手のお顔を今一度拝んでおこうと思いましてね」
ルシアノの傍らにいるのは、男爵家の娘アリーチェ。見上げるようにして、不安げに彼の横顔を見つめていた。
私の嫌がらせに全く気付かなかった、鈍感な女。
そして私と婚約破棄してまで、彼が結ばれたがった女である。
結婚したというのに、彼女はまだ垢抜けなさが残っていた。純朴と言えば聞こえが良いが、洗練されてない雰囲気が私をより一層苛立たせた。
これが、この男の言う''太陽''か。
「貴女、アリーチェと言ったわね」
「はっ、はい」
怖気付いたように、小娘は肩をびくつかせた。彼女は、私がルシアノの元婚約者であるとは知らない。
見知らぬ女に名を呼ばれるなど、恐怖である他無いだろう。
「ご結婚おめでとう」
「……ありがとうございます」
「今後そのネックレスやイヤリングが似合うように、せいぜい頑張りなさいな」
アリーチェのドレスは、ルシアノが好みそうな明るいオレンジ色であった。彼のためにその色を選んだであろうことは、すぐに分かった。
何故なら。少し前まで、私も同じ様に努めていたから。
彼女の首元を飾るのは、ルシアノの家に代々伝わるエメラルドのネックレス。耳元には、彼から贈られたであろう真珠のイヤリングが光っていた。
それらは、私がかつて憧れた輝きだった。
「ディアナ嬢とルシアノ様のご関係は一体……?」
周囲のひそひそ話は続く。
この国では貴族の場合、婚約は内密に行われる。結婚式で初めて、結婚相手が公となるのだ。
つまりは、誰も私が彼の元婚約者であるとは知らない。
……が。階級差のあるアリーチェとルシアノが元々から婚約していたというのは無理な話だ。口にしなくとも、皆疑問に思っていたことだろう。
そして同じ侯爵家の人間である私の方が、彼の結婚相手と考えるには自然である。
決定的なことを言った訳では無い。しかし先程までのやりとりにより、人々を思い至らせるには十分であった。
「ディアナ嬢の親しげな口調と、あのお言葉。もしかして……」
一斉に、彼に疑いの目が向けられる。
「……っ、」
衆人環視の中で鼻を折られ、ルシアノは私を睨むことしかできない。殴り掛かられるかと思ったが、彼の拳は強く握られるだけであった。
いい気味ね。
決して背の高くないルシアノのために、今まで我慢していた高いヒール。それを履いて見る景色は、この上無い程に気持ち良い。
地味だとかつて彼が酷評した黒いドレスも着心地が良く、驚く程身体にしっくりきていた。
オパールを散りばめ装飾されたドレスは、さながら星の瞬く夜空である。
そして背の低い二人を見下ろす私の瞳は、偶然にも金色だった。
今の光景を例えるならば……夜空に浮かぶ月に睨まれた男女、とでも言おうか。
これからは月を見る度、怯えれば良い。
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