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退場は、飼い犬と共に
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「少し、席を外させてもらう」
皆からの視線に耐えられなくなり、ルシアノは広間から早足で出て行った。アリーチェが慌てて後を追うが、もうこの場には戻って来られないだろう。
しかし、立場を失ったのは自分も同じだ。彼が去った後も、ひそひそ声は私を取り巻いたままであった。
婚約破棄されましたと自首したようなものだ。仕方あるまい。
「帰るわよ、エヴェラウド」
「承知しました」
隣に控えていたエヴェラウドにエスコートされ、私は出口へと向かう。皆が道を開けて、私達二人に視線を浴びせる。
男達は皆、好奇の眼差しを私に向けていた。
そして女達は皆、エヴェラウドへ熱っぽい視線を投げかけていた。
「エヴェラウド様、いつ見ても本当に素敵な方……」
「一度くらい、こちらを向いて下さらないかしら?」
ヒールを履いた私よりも、ずっと背が高い彼。精悍な顔ばせは、令嬢から老婦人に至るまで様々な女を惹き付けるものであった。
しかしそんな評判も、エヴェラウドの耳には届いていないようだった。
「お疲れ様でございました、ディアナ様」
この夜会に訪れる手配をしたのは、他ならぬ彼だった。容姿が優れているだけでなく、この男は根回しも上手いのである。
「段取りしてくれたこと、本当に感謝するわ」
「とんでもございません。夜会を主催したギース辺境伯はよく知った方ですので、事情を説明したところ快諾いただけました。それにしても……」
私にしか聞こえない声で、彼は囁いた。
「本当に鼻を折られても仕方がない彼にお言葉だけで済ますなど、さすがディアナ様。何とお優しい」
「それは嫌味かしら?」
「いえいえ、心からの賛辞でございます」
品の良い笑みを浮かべ、エヴェラウドは言った。きっと遠巻きに見ている女達は、内心歓声を上げているに違いない。
この笑みで彼は、一体どれだけ人の心を射抜いてきたのだろうか。
そして私は、何度この笑顔を利用したのだろうか。
数えたらきりがない。そう思った瞬間、針が刺さったような痛みが胸にはしった。
「ところで。私の隣にいると、貴方まで在らぬ疑いを受けるわよ。さっさと離れた方が良いんじゃなくて?」
本当は、エヴェラウドをこの場に連れてくる気は無かった。しかし彼がついて行くと言って聞かなかったので、渋々隣に従えてやったのである。
「アグスティン家と当家の親交が深いのは、昔から周知の事実ですので。私がお傍にいても何ら不自然ではございません。それに……」
「?」
「ご主人様について行くのが、飼い犬の役目ですので」
「その言い方はお止めなさいと、何度も言ってるでしょう。みっともない」
軽く睨みつけるが、彼は何処吹く風といった様子であった。
「おや、失礼。すっかり忘れておりました」
都合の悪いことを聞き流す癖は、昔から変わらない。本当に、困った馬鹿犬だ。
広間を出て扉が閉まったところで、私は立ち止まった。それに合わせて、エヴェラウドも足を止める。
「帰る前に……少し休憩していきたいわ」
本当であれば、このまま床に倒れ込んでしまいたい。正直、立っていることすらやっとの状態だった。
復讐を果たし、好奇の目からも解放され、緊張の糸が切れてしまった。最早、私をこの場で支えるものは無くなっていた。
しかし、そんなことを彼に言えるはずがない。余計な心配をさせたくは無いのだ。
皆からの視線に耐えられなくなり、ルシアノは広間から早足で出て行った。アリーチェが慌てて後を追うが、もうこの場には戻って来られないだろう。
しかし、立場を失ったのは自分も同じだ。彼が去った後も、ひそひそ声は私を取り巻いたままであった。
婚約破棄されましたと自首したようなものだ。仕方あるまい。
「帰るわよ、エヴェラウド」
「承知しました」
隣に控えていたエヴェラウドにエスコートされ、私は出口へと向かう。皆が道を開けて、私達二人に視線を浴びせる。
男達は皆、好奇の眼差しを私に向けていた。
そして女達は皆、エヴェラウドへ熱っぽい視線を投げかけていた。
「エヴェラウド様、いつ見ても本当に素敵な方……」
「一度くらい、こちらを向いて下さらないかしら?」
ヒールを履いた私よりも、ずっと背が高い彼。精悍な顔ばせは、令嬢から老婦人に至るまで様々な女を惹き付けるものであった。
しかしそんな評判も、エヴェラウドの耳には届いていないようだった。
「お疲れ様でございました、ディアナ様」
この夜会に訪れる手配をしたのは、他ならぬ彼だった。容姿が優れているだけでなく、この男は根回しも上手いのである。
「段取りしてくれたこと、本当に感謝するわ」
「とんでもございません。夜会を主催したギース辺境伯はよく知った方ですので、事情を説明したところ快諾いただけました。それにしても……」
私にしか聞こえない声で、彼は囁いた。
「本当に鼻を折られても仕方がない彼にお言葉だけで済ますなど、さすがディアナ様。何とお優しい」
「それは嫌味かしら?」
「いえいえ、心からの賛辞でございます」
品の良い笑みを浮かべ、エヴェラウドは言った。きっと遠巻きに見ている女達は、内心歓声を上げているに違いない。
この笑みで彼は、一体どれだけ人の心を射抜いてきたのだろうか。
そして私は、何度この笑顔を利用したのだろうか。
数えたらきりがない。そう思った瞬間、針が刺さったような痛みが胸にはしった。
「ところで。私の隣にいると、貴方まで在らぬ疑いを受けるわよ。さっさと離れた方が良いんじゃなくて?」
本当は、エヴェラウドをこの場に連れてくる気は無かった。しかし彼がついて行くと言って聞かなかったので、渋々隣に従えてやったのである。
「アグスティン家と当家の親交が深いのは、昔から周知の事実ですので。私がお傍にいても何ら不自然ではございません。それに……」
「?」
「ご主人様について行くのが、飼い犬の役目ですので」
「その言い方はお止めなさいと、何度も言ってるでしょう。みっともない」
軽く睨みつけるが、彼は何処吹く風といった様子であった。
「おや、失礼。すっかり忘れておりました」
都合の悪いことを聞き流す癖は、昔から変わらない。本当に、困った馬鹿犬だ。
広間を出て扉が閉まったところで、私は立ち止まった。それに合わせて、エヴェラウドも足を止める。
「帰る前に……少し休憩していきたいわ」
本当であれば、このまま床に倒れ込んでしまいたい。正直、立っていることすらやっとの状態だった。
復讐を果たし、好奇の目からも解放され、緊張の糸が切れてしまった。最早、私をこの場で支えるものは無くなっていた。
しかし、そんなことを彼に言えるはずがない。余計な心配をさせたくは無いのだ。
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