悪役令嬢は下僕の舌上に踊る

3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや

文字の大きさ
3 / 11

令嬢の憂悶、飼い犬の手助け

しおりを挟む
「承知いたしました。それでは、お足元失礼します」

 エヴェラウドは、いきなり私を横抱きにしたのだった。

「ちょっと!! 誰かに見られたらどうする気!? 早く下ろしなさい!!」

「ご安心ください。今は皆、ルシアノ様の悪口に夢中でしょうから。誰も来ません」

 回廊をゆっくり歩きながら、彼は続ける。

「それか、飼い犬ごときの貧弱な腕の中では取り落とされないかご不安ですか?」

 剣術や乗馬で鍛えられた彼の身体つきは、上から下に至るまで頼もしいものであった。女一人抱きかかえるなど、造作もないことだろう。

 この胸に身体を預けてみたいという、ある令嬢の言葉も分からなくは無い。

 けれども。彼の胸に抱かれるべきなのは、私ではない。

「……別に」

 目を合わせぬまま、私は素っ気なく答える。そしてエヴェラウドの首元に腕を回したりはせず、大人しく飼い犬に運ばれることにした。

 やがて、宮殿のとある部屋の前に辿り着き、彼は扉を開いた。どうやら、ゲストルームの一室らしい。

「ここで少し、休みましょうか」

「庭のベンチで良かったのだけど」

「いえ。横になれる方がよろしいかと思いまして」

 それに、ゲストルームは自由に使って良いと聞いてるので。とエヴェラウドは続けた。

 もしかすると、彼には全てお見通しだったのかもしれない。

 私をベッドまで運んでから、エヴェラウドはメイドを呼んで何やら指示を出したのだった。

「手拭きと水を頼みましたので、少々お待ちください」

「悪いわね」

「いえいえ、とんでもない。飼い犬として当然のことですから」

「……勝手に言ってなさい」

 彼に注意する気力も無く、私はベッドに倒れ込んだ。

 ふと窓越しに外を見ると、丸い月と目が合った。

 私の瞳を切り取ったように、丸い月。

 物言わぬ逢い引きの目撃者を、私はきつく睨みつけた。

 しばらくそうしていると、扉をノックする音が聞こえた。どうやら、メイドが頼んだ品を持ってきたらしい。

「お待たせいたしました」

「ありがとう」

 グラスに注がれた水を口にすると、少しばかりの塩っ気が舌に広がる。

 レモン一切れに氷を沢山。そして塩を少々という私の好きな分量を、きちんとメイドに伝えてくれたらしい。本当に、どこまでも気の利く男だ。

 広間から離れたこの場所は、とても静かだ。エヴェラウドも口やかましい男では無いので、部屋はほとんど無音であった。

 不意に頭をよぎったのは、ルシアノの顔。そして、彼が以前私に言った一言だった。

 月のように冷淡、か。

 その言葉はいつしか、思い出す度に、私の心に飢えを引き起こす呪いとなっていた。

 今宵は飼い犬の''手助け''を求めるつもりは無かったのだが、それ以外に飢えから逃れる術を、私は知らない。

 氷の浮かんだグラスをぼんやり眺めていると、ガチャリと音が聞こえた。見ると、エヴェラウドが部屋の鍵を閉めていたのだった。

「気分が良くなるまで、休憩したいと言っておきましたので」

 気の回る飼い犬は、この後私が何を求めるかを早くも察していたようだった。

 鍵のかかった部屋に二人きり。しばらくは誰も来ない。となれば、私を止めるものは何も無かった。

「エヴェラウド、こっちに来なさい」

「仰せのままに、ディアナ様」

 これが最後、と自分に言い聞かせながら、私は彼を寝台の上へと呼び寄せたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される

あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた…… けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。 目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。 「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」 茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。 執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。 一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。 「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」 正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。 平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。 最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。

この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!

naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。 そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。 シオンの受難は続く。 ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。 あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

公爵令嬢のひとりごと

鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

処理中です...