氷片のパズルが嵌るとき~どうしても雪男と結ばれたい彼女~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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風呂場での思いつき

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「今年もあっという間だったわね」

 湯船のお湯を肩にかけながら、私は呟く。大晦日の午前零時少し前。来年がもうすぐそこまで来ていた。スポンジを泡だらけの身体に滑らせながら、冬馬はふふっと笑った。

「こんなに楽しくてあっという間の一年は多分初めてだ」

「んー……それは確かに」

 一緒に風呂に入り、たわいの無い会話をする。それだけでも幸せだ。

 ……けれども。

 シャワーで泡が洗い流され、露わになる男の身体。当然、何も思わない訳が無い。ここが映画の一場面であるならば、否、私達が普通の男と女であるならば、風呂上がりに事に及ぶまでがセットだろう。

「後ろ、失礼」

「んっ」

 私を後ろから抱き締めるような形で、彼は湯船に大きな身体を滑り込ませた。

 湯は温かい。しかし、彼と触れ合う箇所は冷たい。温かさと冷たさが打ち消し合い、何だか不思議な感覚だ。

 不意に、とある考えが頭を過ぎる。そして考えるより先に、私はそれを口にしていた。

「ね、ここでシてみよ?」

「……」

 馬鹿じゃないの、と言われて終わりかと思いきや、彼は黙ったままであった。

 暫くして聞こえてきたのは……深いため息だった。

「……夏祭りの屋台の景品と同じだよ」

 私から距離をとるように少し身体を離してから、冬馬は言った。

「手に入ってないから、その場ではやたら良いものに見えるだけだ。で、何とかして手に入れて、家に持ち帰ってからようやく、大したものじゃないと気付く」

「……」

「衝動的な欲求に無理する必要は無いし、無理したら痛い目を見るだけだ」

 大切にしたいんだ。冬馬は私の耳元で呟いた。

「手に入れたら、案外良いものよ」

「っん……!?」

 振り向いて、私は彼に強く口付けた。ひやりと冷たい舌の感触は相変わらずだが、何故だか心地良い。

 腹から胸に至るまで冬馬の身体にぴたりと添わせたが、離される。けれども負けじと、私は再度肌をくっつけた。

「ソファに置いてあるくまのぬいぐるみ。あれ、私の実家から持ってきたの覚えてる?」

「うん」

「あの子ね、子供の頃夏祭りの射的で手に入れたの」

 何故欲しくなったのかは覚えていない。しかし、当時の私には可愛らしいぬいぐるみが魅力的に見えたのはよく覚えている。

 結局、お小遣いを全て使い果たして手に入れ、この家にも連れてきた訳だ。

「……負けたよ」

 降参したように、冬馬は困ったように笑った。

「僕も実は昔、同じようなことをしたことがあるんだ」

 やっぱりそう。

 隠し事が苦手なこの男とは、どこまでも相性が良いのだ。
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