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庭園での秘め事
その後、夜会は無事終わった。終始和やかに進み、頑張った甲斐もあってか女王陛下に服装をお褒めいただいたのだった。
「大成功だったな。流石イリーナ、お前のおかげだよ」
「ふふ、嬉しいわ。ありがとうお兄様」
とはいえ、私はこれから馬車に乗って帰らなければならない。あまりに帰宅が遅くなると、きっとディート様に心配されてしまう。早急に着替えるべく、私は広間から衣装部屋に向かったのだった。
しかし広間から出たところで、私は会うはずのない人影を目にする。
「イリーナ?」
「え?」
そこに居たのは……仕事で来れないはずの、ディート様だった。
「その服装……」
驚いたように目を見開き、彼は言葉を失っていた。その表情を見て、冷水を浴びたように背筋が寒くなるのを感じる。
全てが崩れ去った。もう駄目だ。
「っ、嘘つきで、ごめんなさい……!!」
「あ、おい!!」
ディート様の呼び止める声を無視して、私は何処へと無く無我夢中で駆け出したのだった。
もう、おしまいだ。
何も聞きたくなかった。消えてしまいたかった。彼の望まない姿を見せてしまった自分自身が、許せない。押し寄せた恥ずかしさと悲しみで出てきた涙を堪えるために、唇を噛み締める他なかった。
「イリーナ、待てと言ってるだろっ!!」
「嫌です、待ちませんわ!!」
ヒール靴を履いているというのに、自分でも驚く程に速く走れる。逃げる時はかくもすばしっこくなれるのかと、内心驚きを隠せない。息を切らせながら、私は必死にディート様から逃げた。
けれども、庭園まで来たところで、走るペースが段々と遅くなっていた。そして片足首を捻り、バランスを崩してしまったのである。
「きゃっ……!!」
「危ない!!」
転ける寸前、ディート様は私を支えてくれたのだった。
彼に抱き止められ、胸に顔を預ける形となる。軍服の繊維の匂いが鼻を掠め、彼の存在を嗅覚でも感じたのだった。
「そんなに無茶するな、……全く」
怒るでもなく、彼はため息をついた。軍服の上からでも分かる逞しい肩は、呼吸する度に上下していた。
「どうして逃げるんだ?」
「……待てと言われて待つ泥棒がおりますか?」
「お前は泥棒じゃないだろ」
「泥棒じゃなくとも、十分悪い女ですわ」
ヤケになって、私は投げやりに言い捨てる。しかし言った瞬間に自分が情けなくなり、一気に涙が出てきたのだった。
「どうかもう、構わないでくださいませ。私は本当は……貴方の望むような、堅実で聡明な女なんかではないのです」
ディート様に顔を背けて、私は言った。
「イリーナ……? 一体どういうことだ?」
「軍人である以上、けばけばしい服装も化粧も、貴方は好まないでしょう? しかし、私は元来そういう女なのです」
自らの行いで初恋が終わるなんて、思ってもみなかった。辛くて、悲しくて胸の奥が痛い。けれども自分では、どうすることも出来なかった。
ディート様もさぞ失望したに違いない。けれども、彼は何も言わなかった。
「……イリーナ」
名前を呼び、ディート様は私の肩に軍服のジャケットをかけたのだった。
「肩を冷やすぞ。一旦、場所を変えるか」
「え、あっ!!」
私を横抱きにして、ディート様は歩き出した。彼の匂いに包まれているようで、少しだけ心が落ち着くのを感じた。
「取り敢えずここで良いか」
辿り着いたのは、庭園のガゼボ。そこは、初めて彼と二人きりで話した場所だった。
初めての顔合わせは、ディート様が私の家を訪ねる形で行われた。最初は部屋で行われる予定だったが、兄と弟が聞き耳を立てるのが安易に想像できたので、急遽ここに変更したのだ。
……まあ、それでも彼らは、室内から私達を覗いていたのだけれども。兄と弟は、昔から過保護なのだ。
「まずは驚かせて悪かった。仕事が早く終わったから迎えに来たのだが……まさかここまで逃げられるとは思わなかった」
私を椅子に座らせた後、苦笑いしながらディート様は言った。
テーブルを挟んで向かい合わせに椅子が二つ置かれていたので、片方を私の隣に移動させて、彼はそこに座った。
彼が謝る必要なんて無いのに。責められるべきは、謝るべきは私なのに。私は混乱していた。
「失望したでしょう、お気遣いには及びませんわ」
「だから何で、私がお前を嫌う前提なんだ」
「だって、将校様の家系は……派手さの無い賢い女性を好むのでしょう? 着飾って、夜会に喜んで参加するような女はお嫌いなのでしょう?」
あるべき姿とかけ離れた自分を思い浮かべ、私はまた一粒涙を流した。俯いて拳を握りしめ、握ったスカートの生地はぐしゃぐしゃになっていた。
「確かに、いつもと違う雰囲気のお前には驚いたが……それはただの一般論だろう。全ての人間が当てはまる訳ではない。先走りすぎだ」
意外にも、ディート様は怒っても失望してもいないらしい。けれども、まだ私は安心できずにいた。
「それに士官学校時代のご学友から、貴方は落ち着いた淑やかな女性が好みだと聞きましたわ」
「そんなことを言った記憶は無いが?」
「クラスで……人気娼婦の写真が何枚か回ってきた際に、どの女性がタイプか聞かれて、一番派手さの無い方を選んだって」
「……っ!?」
私がそこまで言うと、彼は言葉を詰まらせた。こんなにも驚く夫の姿は、初めて見た。
やはり、図星なのだろうか。
「それはもう大分昔の話だ。今とは違う」
「……本当ですか?」
「ああ。外見が変わったところで、お前のことを嫌いになる訳が無い。なれる訳が無いだろう。私はお前の内面に惹かれて結婚したのだから。これは、神に誓ったって良い」
そこまで言って、ディート様は私の手に自らの手のひらを重ねた。綿製の白い手袋越しではあるけれども、そこには確かな温もりが感じられた。
「私を、信じてくれるか?」
「……はい」
指を絡めるように彼と手を繋ぎ、私はやっと微笑んだのだった。
夜風が吹き抜ける中で、繋いだ手の熱は心地よく感じられた。
「しかしまあ。私の知らない姿を他所の男に見せていたと思うと、少しだけ妬けるな」
「えっ、あ、んうっ……!!」
何の前触れも無く、ディート様は私に深く口付けた。それは朝起きた時の目覚めのキスとは違い、酷く濃厚なものであった。
「ん、っ……ディート様、ぁ」
ようやく唇を離されたものの、至近距離で彼と見つめ合う。月明かりに照らされた緋色の瞳は、妖しく光っていた。
「イリーナ。私は、他の奴が見れない様なお前の姿をもっと見たいのだが……駄目なのか?」
耳元に口を寄せて、ディート様は優しく囁いた。それは、情事への誘いである他無かった。
私を自らの膝の上に座らせて、彼は応えを待つように黙っている。そしていつの間にか、大きな両手は私の腰をしっかりと支えていた。
「ディート様……駄目です、こんなところで」
真面目で品行方正な彼が野外で事に及ぼうとしているなんて、信じられない。逃げようと必死に身体を捩るけれども、何の足しにもならないのは明白であった。
「夜会終わりで、きっと皆片付けだの何だのに追われてるだろう」
「そ、んな、……っ、ん」
もう一度キスしながら、ディート様はドレスの上から胸を撫でた。直接ではないのに、それだけで身体が昂っていくのを感じる。
外で軍服を着た彼と睦み合うという状況に、内心私は興奮していたのだ。
「あっ、んっ……」
許されるならば、このまま彼に身を委ねてしまいたかった。
しかしそれは、口に出すのを躊躇われるようないやらしい欲望である。私はただひたすらに、彼の膝の上でいやいやと体を揺らすばかりであった。
スカートの中では脚が撫でられているものの、その指先がドロワーズに入って来ることは無い。
もどかしさに耐えられず、私は必死に懇願した。
「ディート様、ぁ、ん、やめ……、こんなの、嫌……ぁ、」
「そうか、嫌か。だったら、止めるしかないな」
「え、え……?」
「"嫌なことをして"悪かったな、イリーナ」
スカートの中腿を撫でる手を止めて、ディート様は意地悪く笑った。どうやら合意が無い限り、ことを進める気は無いらしい。
高まった身体の熱を置き去りにして、彼はスカートから手を出してしまった。
「今からお前に身体で分からせる''仕置き''をしようかと思ったが、嫌がることをするのは良くないな」
「え、えっと……」
「さて。私はこのまま帰りの馬車の中で懇々とお前を優しく説教することもできるし、この場で思い切り仕置きをすることもできる訳だ」
どちらが良い?ディート様は私に聞いた。
「最も、聞き分けの良いお前のことだ。強引なことをしなくとも、二言、三言注意するだけで十分かもしれないな」
紳士的だけどどこかサディスティックで、意地悪。それは、普段の優しい彼でもなく、悪人に対して見せる厳しい彼でもない。
私にしか見せない、男としての彼だった。
きっと、帰宅するまで身体の疼きに耐えるなど私には出来ないだろう。それを考えた上で、ディート様は言ってるのだ。
「お前はどうされたい? イリーナ」
勝ちを確信したように、彼は目を細めた。
「ディート様、……ぁ」
「ん、どうした?」
「いっぱい、ここでお仕置き、して……ください」
「お望みの通りに」
ディート様はコルセットを外し、私のドレスの胸元を肌着ごと一気に引き下げた。襟ぐりが開いているデザインなので、あっさり胸が露出してしまった。
ぶるりと揺れて、二つの乳房が彼の前に露わとなる。そして私が手で隠すより先に、ディート様は片方の頂に口を付けた。
「……っ、あっ、んっ」
背骨が弓なりとなり、肩にかけてられたジャケットが地面に落ちる。拾おうとしたけれども、それは彼に阻まれてしまった。
「今は仕置きの時間だろう? こっちに集中しろ」
頂を指で弾き、軽く噛まれる。彼の甘い''叱咤''に、私は身体を震わせた。
「ん、今は私のことだけを考えろ、良いな?」
「ひっ、あ、っごめんなさ、いっ……!!」
ドロワーズの狭間に指を入れられ、秘部が手袋越しに触れられる。隠された場所は雨露に濡れたようにしとどに湿っており、手袋を湿らす光景が安易に想像できて、堪らなく恥ずかしい。
「もう十分すぎる位だな」
「そんな……の、い、わ、ないでぇ、」
そして手袋を外した後、ディート様は秘唇を指の腹で撫で始めた。そして、ふとましい指が入ってきたのだった。
「っひ、ああっ……っ!!」
指の動きに合わせるように、身体が震える。近頃ようやく快楽を覚え始めた胎内は、彼の存在を待ち望むかのように指を締め付けていた。
「あ、ディート様ぁ、」
「ん、素直で良い子だ」
ベルトを外して、ディート様は猛り始めた自身を取り出す。まだ勃ち上がりきっていない牡茎を、私は無意識に蕩けた視線で見つめていた。
「次に何をするべきかは、分かるな?」
「は、い」
こくん、と幼子のように私は頷いた。まだ慣れておらず不安はあるけれども、私は自然とそれを握っていた。
「……ん、っ」
「……は、大分、上手くなったな。偉いぞ」
ゆっくりと竿を扱き、硬くさせていく。彼にやり方を教わった時は顔から火が出そうになったが、嫌では無い。手淫で彼自身を悦ばせるのが、いつしか私の仕事となっていた。
「……っ、は、ぁ、」
聞けば、これを口に含むこともあるらしい。こんな大きなものを咥え込むなど、今の私には想像すらできない。もしそれを求められたら、ちゃんと出来るだろうか。そんな不安が、不意に頭を過った。
そんなことを考えながら手を動かしていると、肉塔は天を仰ぎ始めたのだった。
硬いそれを口に含む自らの姿を思い浮かべ、私はつい息を呑んだ。
「ん、口の方は今日は大丈夫だ。無理せず少しずつ慣れていけば良い」
そう言って、ディート様は私の頬にキスをしてくれた。意地悪な中に紛れている優しさに触れ、胸が高鳴るのを感じる。
厳しいのに優しいなんて、ずるい。これでは、どんどん好きになるばかりではないか。
ディート様は地面に落ちたジャケットを広い、テーブルの上に広げた。そして私を、そこに寝かせたのだった。
上着の上に押し倒され、私は一気に貫かれた。
「あっ、ああああ!!」
「ぐ、あっ……は、イリーナ、っ!!」
背中が痛くならないように、ディート様はきつく私を抱きすくめた。ガツガツと突かれる度にテーブルが揺れ、ベッドのスプリングであるかように錯覚する。ここが庭園であることも忘れ、最早彼しか目に入らなくなっていた。
「あっ、ディート様、ディート様っあ……!!」
「は、……イリーナ、良いか? こんな表情もこんな姿も見て良いのは私だけだ。もし、他の男に見せたら、許さないからな……っ、」
「ひ、ぁっ、そんなこと、絶対しないから、っ…ディート様、嫌いにならないで、怒らないで……っ、え、!!」
「……っふ、お前を嫌いになるはずか無いだろう? 仮にそんなことがあったなら、相手の男をぶちのめしてお前を取り返すだけだ……!!」
「あっ、ひ、あああん!!」
首や鎖骨、胸元と至る所に口付けて、ディート様は所有の証を残していく。その愛痕はまるで、薔薇の花びらの様に肌に散らばっていた。
「は、っ、イリーナ、もう、出すからな……っ、ぐっ……ぁ!!」
「ひ、ぁ、っ、あああああ!!」
最奥を突かれ、放たれた白濁。それは、私の心と身体をゆっくりと満たしていった。
「……は、イリーナ、っ、愛してる」
精を吐き出した後も、ディート様は何度も愛を囁いてくれた。
意識の途切れる寸前。最後に感じたのは、性交の匂いと微かな薔薇の香りだった。
「大成功だったな。流石イリーナ、お前のおかげだよ」
「ふふ、嬉しいわ。ありがとうお兄様」
とはいえ、私はこれから馬車に乗って帰らなければならない。あまりに帰宅が遅くなると、きっとディート様に心配されてしまう。早急に着替えるべく、私は広間から衣装部屋に向かったのだった。
しかし広間から出たところで、私は会うはずのない人影を目にする。
「イリーナ?」
「え?」
そこに居たのは……仕事で来れないはずの、ディート様だった。
「その服装……」
驚いたように目を見開き、彼は言葉を失っていた。その表情を見て、冷水を浴びたように背筋が寒くなるのを感じる。
全てが崩れ去った。もう駄目だ。
「っ、嘘つきで、ごめんなさい……!!」
「あ、おい!!」
ディート様の呼び止める声を無視して、私は何処へと無く無我夢中で駆け出したのだった。
もう、おしまいだ。
何も聞きたくなかった。消えてしまいたかった。彼の望まない姿を見せてしまった自分自身が、許せない。押し寄せた恥ずかしさと悲しみで出てきた涙を堪えるために、唇を噛み締める他なかった。
「イリーナ、待てと言ってるだろっ!!」
「嫌です、待ちませんわ!!」
ヒール靴を履いているというのに、自分でも驚く程に速く走れる。逃げる時はかくもすばしっこくなれるのかと、内心驚きを隠せない。息を切らせながら、私は必死にディート様から逃げた。
けれども、庭園まで来たところで、走るペースが段々と遅くなっていた。そして片足首を捻り、バランスを崩してしまったのである。
「きゃっ……!!」
「危ない!!」
転ける寸前、ディート様は私を支えてくれたのだった。
彼に抱き止められ、胸に顔を預ける形となる。軍服の繊維の匂いが鼻を掠め、彼の存在を嗅覚でも感じたのだった。
「そんなに無茶するな、……全く」
怒るでもなく、彼はため息をついた。軍服の上からでも分かる逞しい肩は、呼吸する度に上下していた。
「どうして逃げるんだ?」
「……待てと言われて待つ泥棒がおりますか?」
「お前は泥棒じゃないだろ」
「泥棒じゃなくとも、十分悪い女ですわ」
ヤケになって、私は投げやりに言い捨てる。しかし言った瞬間に自分が情けなくなり、一気に涙が出てきたのだった。
「どうかもう、構わないでくださいませ。私は本当は……貴方の望むような、堅実で聡明な女なんかではないのです」
ディート様に顔を背けて、私は言った。
「イリーナ……? 一体どういうことだ?」
「軍人である以上、けばけばしい服装も化粧も、貴方は好まないでしょう? しかし、私は元来そういう女なのです」
自らの行いで初恋が終わるなんて、思ってもみなかった。辛くて、悲しくて胸の奥が痛い。けれども自分では、どうすることも出来なかった。
ディート様もさぞ失望したに違いない。けれども、彼は何も言わなかった。
「……イリーナ」
名前を呼び、ディート様は私の肩に軍服のジャケットをかけたのだった。
「肩を冷やすぞ。一旦、場所を変えるか」
「え、あっ!!」
私を横抱きにして、ディート様は歩き出した。彼の匂いに包まれているようで、少しだけ心が落ち着くのを感じた。
「取り敢えずここで良いか」
辿り着いたのは、庭園のガゼボ。そこは、初めて彼と二人きりで話した場所だった。
初めての顔合わせは、ディート様が私の家を訪ねる形で行われた。最初は部屋で行われる予定だったが、兄と弟が聞き耳を立てるのが安易に想像できたので、急遽ここに変更したのだ。
……まあ、それでも彼らは、室内から私達を覗いていたのだけれども。兄と弟は、昔から過保護なのだ。
「まずは驚かせて悪かった。仕事が早く終わったから迎えに来たのだが……まさかここまで逃げられるとは思わなかった」
私を椅子に座らせた後、苦笑いしながらディート様は言った。
テーブルを挟んで向かい合わせに椅子が二つ置かれていたので、片方を私の隣に移動させて、彼はそこに座った。
彼が謝る必要なんて無いのに。責められるべきは、謝るべきは私なのに。私は混乱していた。
「失望したでしょう、お気遣いには及びませんわ」
「だから何で、私がお前を嫌う前提なんだ」
「だって、将校様の家系は……派手さの無い賢い女性を好むのでしょう? 着飾って、夜会に喜んで参加するような女はお嫌いなのでしょう?」
あるべき姿とかけ離れた自分を思い浮かべ、私はまた一粒涙を流した。俯いて拳を握りしめ、握ったスカートの生地はぐしゃぐしゃになっていた。
「確かに、いつもと違う雰囲気のお前には驚いたが……それはただの一般論だろう。全ての人間が当てはまる訳ではない。先走りすぎだ」
意外にも、ディート様は怒っても失望してもいないらしい。けれども、まだ私は安心できずにいた。
「それに士官学校時代のご学友から、貴方は落ち着いた淑やかな女性が好みだと聞きましたわ」
「そんなことを言った記憶は無いが?」
「クラスで……人気娼婦の写真が何枚か回ってきた際に、どの女性がタイプか聞かれて、一番派手さの無い方を選んだって」
「……っ!?」
私がそこまで言うと、彼は言葉を詰まらせた。こんなにも驚く夫の姿は、初めて見た。
やはり、図星なのだろうか。
「それはもう大分昔の話だ。今とは違う」
「……本当ですか?」
「ああ。外見が変わったところで、お前のことを嫌いになる訳が無い。なれる訳が無いだろう。私はお前の内面に惹かれて結婚したのだから。これは、神に誓ったって良い」
そこまで言って、ディート様は私の手に自らの手のひらを重ねた。綿製の白い手袋越しではあるけれども、そこには確かな温もりが感じられた。
「私を、信じてくれるか?」
「……はい」
指を絡めるように彼と手を繋ぎ、私はやっと微笑んだのだった。
夜風が吹き抜ける中で、繋いだ手の熱は心地よく感じられた。
「しかしまあ。私の知らない姿を他所の男に見せていたと思うと、少しだけ妬けるな」
「えっ、あ、んうっ……!!」
何の前触れも無く、ディート様は私に深く口付けた。それは朝起きた時の目覚めのキスとは違い、酷く濃厚なものであった。
「ん、っ……ディート様、ぁ」
ようやく唇を離されたものの、至近距離で彼と見つめ合う。月明かりに照らされた緋色の瞳は、妖しく光っていた。
「イリーナ。私は、他の奴が見れない様なお前の姿をもっと見たいのだが……駄目なのか?」
耳元に口を寄せて、ディート様は優しく囁いた。それは、情事への誘いである他無かった。
私を自らの膝の上に座らせて、彼は応えを待つように黙っている。そしていつの間にか、大きな両手は私の腰をしっかりと支えていた。
「ディート様……駄目です、こんなところで」
真面目で品行方正な彼が野外で事に及ぼうとしているなんて、信じられない。逃げようと必死に身体を捩るけれども、何の足しにもならないのは明白であった。
「夜会終わりで、きっと皆片付けだの何だのに追われてるだろう」
「そ、んな、……っ、ん」
もう一度キスしながら、ディート様はドレスの上から胸を撫でた。直接ではないのに、それだけで身体が昂っていくのを感じる。
外で軍服を着た彼と睦み合うという状況に、内心私は興奮していたのだ。
「あっ、んっ……」
許されるならば、このまま彼に身を委ねてしまいたかった。
しかしそれは、口に出すのを躊躇われるようないやらしい欲望である。私はただひたすらに、彼の膝の上でいやいやと体を揺らすばかりであった。
スカートの中では脚が撫でられているものの、その指先がドロワーズに入って来ることは無い。
もどかしさに耐えられず、私は必死に懇願した。
「ディート様、ぁ、ん、やめ……、こんなの、嫌……ぁ、」
「そうか、嫌か。だったら、止めるしかないな」
「え、え……?」
「"嫌なことをして"悪かったな、イリーナ」
スカートの中腿を撫でる手を止めて、ディート様は意地悪く笑った。どうやら合意が無い限り、ことを進める気は無いらしい。
高まった身体の熱を置き去りにして、彼はスカートから手を出してしまった。
「今からお前に身体で分からせる''仕置き''をしようかと思ったが、嫌がることをするのは良くないな」
「え、えっと……」
「さて。私はこのまま帰りの馬車の中で懇々とお前を優しく説教することもできるし、この場で思い切り仕置きをすることもできる訳だ」
どちらが良い?ディート様は私に聞いた。
「最も、聞き分けの良いお前のことだ。強引なことをしなくとも、二言、三言注意するだけで十分かもしれないな」
紳士的だけどどこかサディスティックで、意地悪。それは、普段の優しい彼でもなく、悪人に対して見せる厳しい彼でもない。
私にしか見せない、男としての彼だった。
きっと、帰宅するまで身体の疼きに耐えるなど私には出来ないだろう。それを考えた上で、ディート様は言ってるのだ。
「お前はどうされたい? イリーナ」
勝ちを確信したように、彼は目を細めた。
「ディート様、……ぁ」
「ん、どうした?」
「いっぱい、ここでお仕置き、して……ください」
「お望みの通りに」
ディート様はコルセットを外し、私のドレスの胸元を肌着ごと一気に引き下げた。襟ぐりが開いているデザインなので、あっさり胸が露出してしまった。
ぶるりと揺れて、二つの乳房が彼の前に露わとなる。そして私が手で隠すより先に、ディート様は片方の頂に口を付けた。
「……っ、あっ、んっ」
背骨が弓なりとなり、肩にかけてられたジャケットが地面に落ちる。拾おうとしたけれども、それは彼に阻まれてしまった。
「今は仕置きの時間だろう? こっちに集中しろ」
頂を指で弾き、軽く噛まれる。彼の甘い''叱咤''に、私は身体を震わせた。
「ん、今は私のことだけを考えろ、良いな?」
「ひっ、あ、っごめんなさ、いっ……!!」
ドロワーズの狭間に指を入れられ、秘部が手袋越しに触れられる。隠された場所は雨露に濡れたようにしとどに湿っており、手袋を湿らす光景が安易に想像できて、堪らなく恥ずかしい。
「もう十分すぎる位だな」
「そんな……の、い、わ、ないでぇ、」
そして手袋を外した後、ディート様は秘唇を指の腹で撫で始めた。そして、ふとましい指が入ってきたのだった。
「っひ、ああっ……っ!!」
指の動きに合わせるように、身体が震える。近頃ようやく快楽を覚え始めた胎内は、彼の存在を待ち望むかのように指を締め付けていた。
「あ、ディート様ぁ、」
「ん、素直で良い子だ」
ベルトを外して、ディート様は猛り始めた自身を取り出す。まだ勃ち上がりきっていない牡茎を、私は無意識に蕩けた視線で見つめていた。
「次に何をするべきかは、分かるな?」
「は、い」
こくん、と幼子のように私は頷いた。まだ慣れておらず不安はあるけれども、私は自然とそれを握っていた。
「……ん、っ」
「……は、大分、上手くなったな。偉いぞ」
ゆっくりと竿を扱き、硬くさせていく。彼にやり方を教わった時は顔から火が出そうになったが、嫌では無い。手淫で彼自身を悦ばせるのが、いつしか私の仕事となっていた。
「……っ、は、ぁ、」
聞けば、これを口に含むこともあるらしい。こんな大きなものを咥え込むなど、今の私には想像すらできない。もしそれを求められたら、ちゃんと出来るだろうか。そんな不安が、不意に頭を過った。
そんなことを考えながら手を動かしていると、肉塔は天を仰ぎ始めたのだった。
硬いそれを口に含む自らの姿を思い浮かべ、私はつい息を呑んだ。
「ん、口の方は今日は大丈夫だ。無理せず少しずつ慣れていけば良い」
そう言って、ディート様は私の頬にキスをしてくれた。意地悪な中に紛れている優しさに触れ、胸が高鳴るのを感じる。
厳しいのに優しいなんて、ずるい。これでは、どんどん好きになるばかりではないか。
ディート様は地面に落ちたジャケットを広い、テーブルの上に広げた。そして私を、そこに寝かせたのだった。
上着の上に押し倒され、私は一気に貫かれた。
「あっ、ああああ!!」
「ぐ、あっ……は、イリーナ、っ!!」
背中が痛くならないように、ディート様はきつく私を抱きすくめた。ガツガツと突かれる度にテーブルが揺れ、ベッドのスプリングであるかように錯覚する。ここが庭園であることも忘れ、最早彼しか目に入らなくなっていた。
「あっ、ディート様、ディート様っあ……!!」
「は、……イリーナ、良いか? こんな表情もこんな姿も見て良いのは私だけだ。もし、他の男に見せたら、許さないからな……っ、」
「ひ、ぁっ、そんなこと、絶対しないから、っ…ディート様、嫌いにならないで、怒らないで……っ、え、!!」
「……っふ、お前を嫌いになるはずか無いだろう? 仮にそんなことがあったなら、相手の男をぶちのめしてお前を取り返すだけだ……!!」
「あっ、ひ、あああん!!」
首や鎖骨、胸元と至る所に口付けて、ディート様は所有の証を残していく。その愛痕はまるで、薔薇の花びらの様に肌に散らばっていた。
「は、っ、イリーナ、もう、出すからな……っ、ぐっ……ぁ!!」
「ひ、ぁ、っ、あああああ!!」
最奥を突かれ、放たれた白濁。それは、私の心と身体をゆっくりと満たしていった。
「……は、イリーナ、っ、愛してる」
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けれどその幸せは唐突に終わる。
両親が死んでから何もかもが変わってしまった。
叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。
今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。
どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥??
もう嫌ーー