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困惑
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「いつになく元気が無いね、ルイーセ」
「……」
「おやおや、大分悩みは深いみたいだ」
ベスレエラでの夜会を終えた夜、やはり私は夢の中で強姦魔と相まみえていた。やはり場所は薄暗いベッドの上で、男の顔だけは一切分からない。彼は添い寝するかのように、私の隣に寝そべっていたのだった。
「貴方って本当にしつこいわね」
「何度も言うけど、君が俺を呼んだんだ。呼ばれてなかったら来ないのだが?」
「意味分からない」
最早男は、恐怖の対象では無くなっていた。全て夢と分かっているので、前回と同じく私は自然と素っ気ない態度をとっていた。
「結婚式がやけに静かだったのは、お前のせいじゃない。アイツのせいだった訳だ」
「やめて、ウェンデ様のことを悪く言わないで頂戴」
そう言って、私はキッと男を睨み付けた。しかし、彼が動じることは無かった。
「分かったよ。だが夫婦である以上、この状況は残念ながらこれからも続くだろう。それは君とアイツ、お互いに幸せなのか?」
「それは……」
私は思わず黙り込んだ。そして、男は言葉を続けた。
「それに、奴からすれば愛し合ったからではなく断れないから君と結婚しただけ。違うか?」
「!?」
男の一言が胸に深く突き刺さり、私は何も言えなかった。
リクスハーゲン王室では、結婚相手を選ぶ時に独自のルールがある。プロポーズは男性から行って婚約に至るのが貴族階級では通例だ。しかしリクスハーゲンの王女である場合、釣書を送るのは男性側だが見合いを重ねて最終的に王女からプロポーズするのである。そして、その求婚は原則断ることは出来ないのだ。
「……でも。釣書が来たということは、選ばれたならば結婚する意思があったということでしょう?」
「さあな。本人ではなくとも親が勝手に送った場合だって考えられる。奴が最初から結婚に前向きだった根拠なんてどこにも無いよ」
「……っ」
「言っただろう? 奴の本心は君を悲しませるだけだ……と」
男は私の髪を指でそっと耳に掛けながら、耳元で囁く。その手を払い除けて、私は口を開いた。
「彼に、直接聞いた訳では無いもの。だから、そうとは限らないわ」
「じゃあ、式典が終わったら聞いてみると良いさ。自ら望んで釣書を送ったのかってね」
ウェンデの姿をぼんやりと思い浮かべる。今まで彼が見せてきた優しさは、私を愛しているからではなく、私が王女という気を使うべき相手だからだと言うのだろうか。
もしそうならば、これまでの夫婦生活は何だったのだろうか。
両思いなどではなく、私の片思いに彼を付き合わせていたのだろうか。
「悲しませて済まない、だが一つ、良いことを教えてあげよう」
「何……?」
「君のことを幸せにできる相手……両思いになれる相手は、意外にもすぐ傍にいる」
男は私を抱きしめて、ナイトドレス越しに肌を撫で始めた。それは飼い犬を撫でるような手つきにも感じられた。抵抗するように身を捩るけれども、逃れることは出来なかった。
「やめっ……、手抓るわよ、」
「君がどうして奴を選んだのかは知らないが、どうか今一度、周りをよく見て欲しい。そして、気付いてくれ……っ、」
そこまで言うと、男は急に愛撫を止めた。表情は分からないが、しまった、という心の声がどこからか聞こえてきたような気もした。
「……やれやれ、つい本音が出てしまったよ。もうバレたも同然か」
「貴方、何言ってんの?」
「え?」
「言ってる意味が、全然分からないんだけど」
「っな!?」
あからさまに男は困惑していた。それは、初めて見る彼の余裕の無さであった。
「本当に目の前の男が誰なのか、分からないのかい?」
「私の周りは皆優しい人ばっかりよ。貴方みたいな酷い人は居ないわ。だから、知らないし分からない。じゃあね、おやすみなさい」
男から背を向けて、私は瞼を閉じた。無理矢理に乱暴されるかと思いきや、彼は私を腕から解放したのだった。
「ルイーセ……どうして」
意識が途切れる直前、そんな言葉が聞こえた。しかしその問いに答えることなく、私は睡魔に溺れていったのである。
「……」
「おやおや、大分悩みは深いみたいだ」
ベスレエラでの夜会を終えた夜、やはり私は夢の中で強姦魔と相まみえていた。やはり場所は薄暗いベッドの上で、男の顔だけは一切分からない。彼は添い寝するかのように、私の隣に寝そべっていたのだった。
「貴方って本当にしつこいわね」
「何度も言うけど、君が俺を呼んだんだ。呼ばれてなかったら来ないのだが?」
「意味分からない」
最早男は、恐怖の対象では無くなっていた。全て夢と分かっているので、前回と同じく私は自然と素っ気ない態度をとっていた。
「結婚式がやけに静かだったのは、お前のせいじゃない。アイツのせいだった訳だ」
「やめて、ウェンデ様のことを悪く言わないで頂戴」
そう言って、私はキッと男を睨み付けた。しかし、彼が動じることは無かった。
「分かったよ。だが夫婦である以上、この状況は残念ながらこれからも続くだろう。それは君とアイツ、お互いに幸せなのか?」
「それは……」
私は思わず黙り込んだ。そして、男は言葉を続けた。
「それに、奴からすれば愛し合ったからではなく断れないから君と結婚しただけ。違うか?」
「!?」
男の一言が胸に深く突き刺さり、私は何も言えなかった。
リクスハーゲン王室では、結婚相手を選ぶ時に独自のルールがある。プロポーズは男性から行って婚約に至るのが貴族階級では通例だ。しかしリクスハーゲンの王女である場合、釣書を送るのは男性側だが見合いを重ねて最終的に王女からプロポーズするのである。そして、その求婚は原則断ることは出来ないのだ。
「……でも。釣書が来たということは、選ばれたならば結婚する意思があったということでしょう?」
「さあな。本人ではなくとも親が勝手に送った場合だって考えられる。奴が最初から結婚に前向きだった根拠なんてどこにも無いよ」
「……っ」
「言っただろう? 奴の本心は君を悲しませるだけだ……と」
男は私の髪を指でそっと耳に掛けながら、耳元で囁く。その手を払い除けて、私は口を開いた。
「彼に、直接聞いた訳では無いもの。だから、そうとは限らないわ」
「じゃあ、式典が終わったら聞いてみると良いさ。自ら望んで釣書を送ったのかってね」
ウェンデの姿をぼんやりと思い浮かべる。今まで彼が見せてきた優しさは、私を愛しているからではなく、私が王女という気を使うべき相手だからだと言うのだろうか。
もしそうならば、これまでの夫婦生活は何だったのだろうか。
両思いなどではなく、私の片思いに彼を付き合わせていたのだろうか。
「悲しませて済まない、だが一つ、良いことを教えてあげよう」
「何……?」
「君のことを幸せにできる相手……両思いになれる相手は、意外にもすぐ傍にいる」
男は私を抱きしめて、ナイトドレス越しに肌を撫で始めた。それは飼い犬を撫でるような手つきにも感じられた。抵抗するように身を捩るけれども、逃れることは出来なかった。
「やめっ……、手抓るわよ、」
「君がどうして奴を選んだのかは知らないが、どうか今一度、周りをよく見て欲しい。そして、気付いてくれ……っ、」
そこまで言うと、男は急に愛撫を止めた。表情は分からないが、しまった、という心の声がどこからか聞こえてきたような気もした。
「……やれやれ、つい本音が出てしまったよ。もうバレたも同然か」
「貴方、何言ってんの?」
「え?」
「言ってる意味が、全然分からないんだけど」
「っな!?」
あからさまに男は困惑していた。それは、初めて見る彼の余裕の無さであった。
「本当に目の前の男が誰なのか、分からないのかい?」
「私の周りは皆優しい人ばっかりよ。貴方みたいな酷い人は居ないわ。だから、知らないし分からない。じゃあね、おやすみなさい」
男から背を向けて、私は瞼を閉じた。無理矢理に乱暴されるかと思いきや、彼は私を腕から解放したのだった。
「ルイーセ……どうして」
意識が途切れる直前、そんな言葉が聞こえた。しかしその問いに答えることなく、私は睡魔に溺れていったのである。
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