完結♡聖女の狙いは私の旦那様!?~褒賞に選ばれた美貌の王子は、溺愛執着モードにチェンジしたようです~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

文字の大きさ
26 / 50

王妃の怒り

しおりを挟む
「クラーラ様。貴女が禁術をお使いになったということで、お間違いございませんね?」

「……っ」

 クラーラは無言のまま、何も答えない。しかし否定しないので、それは消極的な「肯定」に他ならなかった。

「それでは今回の件について、私からウクラーリフ国王陛下にご報告させていただきます。その上で……」

 リシャルドが話している途中、突然応接間の扉が開いた。そして慌てた様子で、何者かが部屋に入ってきたのだった。

「クラーラ様!!」

「……キーアス王太子殿下?」

 部屋にやって来たのは、ウクラーリフの王太子キーアスであった。よほど急いできたのか、彼は息を切らせており、額には汗が滲んでいた。

 キーアスの登場はリシャルドも想定外だったらしく、彼も驚いたように目をぱちくりさせていた。

「キーアス王太子殿下、いかがなさいましたか? とりあえず、イスにお掛けになって……」

「リシャルド王子殿下、ユスティア妃殿下……このたびはクラーラ様がご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした!」

 なぜかキーアスは、私たちに深々と頭を下げて謝ってきたのだった。まったく心当たりがないので、私とリシャルドは顔を見合せた。

「今回の件について、すべての責任は私にございます。ですので、賠償等につきましては私が……」

「王太子殿下、お顔を上げてくださいな。まずはお座りいただいて、落ち着いてお話ししましょう?」

「妻の言う通りです、どうか落ち着いてください」

 一国の王太子ともあろうお方が土下座しそうな勢いで謝り倒すだなんて、普通ならば絶対に有り得ないことだ。私もリシャルドもキーアスを懸命に説得するものの、彼が顔を上げることはなかった。

「申し開きをするつもりは毛頭ございません。本当に……」

「何で、貴方が出てくるのよ!?」

 夫婦揃って困り果てていると、突然クラーラはキーアスを怒鳴りつけたのだった。

「中途半端に余計なことをしないでよ、私なんて貴方にはどうでもいい存在なんでしょう!? ならば放っておけばいいじゃない!」

「っ、クラーラ様……」

「話しかけてこないで、貴方なんて顔も見たくない!!」

 そこまで言って、クラーラは応接間から出て行ってしまったのだった。

「クラーラ様! お二人共、申し訳ございません。今日のところは一旦失礼します、また後日、ご連絡させて頂きますので」

「は、はい……承知しました」

 勢いに押される形で、私もリシャルドも頷いた。するとクラーラを追うように、キーアスは走って部屋を出て行ったのだった。

 二人がいなくなり、嵐が過ぎ去ったかのような静寂が部屋に訪れる。驚きのあまり、夫婦揃って呆気にとられていたのだった。

「リシャルド様、クラーラ様のこと、私たちも追いかけた方がよろしいのでしょうか?」

「いや、ここまで追い詰めて逃げ出すことはできないだろうし、ひとまずは王太子殿下に任せよう。それに……」

「?」

「俺たちはまだ“第二ラウンド”を控えてるんだよ、ティア」

 そう言って、リシャルドは服の襟元を正したのだった。

+

「つまり私の体調不良は、クラーラ様の術によるものでした」

「なんと……」

 私たち夫婦と後からやって来た義両親は、謁見の間でウクラーリフ国王と面会をしていた。どうやら今日の朝のうちにリシャルドが連絡を入れていたらしく、義両親は禁術のこと含めてすでに把握しているようだった。

「烙印がある以上、クラーラ様の犯行であることに間違いありません。ご心配でしたらご自分で確認いただくか、キーアス王太子殿下にお聞きください。彼もその場におりましたので」

「いえ、この場で貴方が嘘をつくとは思えません。仰っていただいたことは、すべて事実なのでしょう」

 国王陛下の顔には、見るからに疲れが滲み出ていた。おそらく彼も、クラーラのワガママに散々振り回されてきたのだろう。今回の件について国王の監督不行届と言ってしまえばそれまでだが、私は彼に同情せざるを得なかった。

 なぜならアルラニと同じく、ウクラーリフもまた他国との戦争を経験した国だからだ。すでに終戦したものの、いまだに傷病者を多く抱えている国でもある。つまりは、クラーラの癒しの力により大きく支えられているのだ。

 とはいえ、国を担う聖女が犯罪まがいのことをしでかしたとなれば、お咎めなしとはいかない。今回の一件で、国王はさらに難しい対応を迫られることになってしまったのだった。

 そんな同情心を密かに抱いていると、義母上が口を開いた。

「国王陛下、差し出がましいようですが……この件について、どのようにお考えなのかお聞かせ願えますか?」

「はい。聖女殿の行動により、貴女方の大切な御令息を命の危険に晒してしまった。それについて、深くお詫び申し上げたく……」

「違うでしょう? リシャルドはこうして生きて戻ってきたのですから、そんなこと些細なことですわ」

「……え?」

 驚きのあまり、私は間抜けな声を上げた。国の至宝とも呼ばれる彼が死にかけたことが、一番の問題だと私は考えていたのだから。

「身勝手極まりない振る舞いで、聖女殿がユスティアを深く傷つけた。私はそれに怒っているのです」

 見ると、義母上は今まで見たことがない程に険しい顔をしていた。そこには普段の優しげな表情の面影もなく、見る者を畏怖させるような雰囲気をまとっていた。

 正直、義母上も私と同じく国王に同情する立場だと思っていたので、それは信じられない光景であった。

「聖女殿は、リシャルドにウクラーリフの爵位と領地を与えて結婚したいと仰っていたとお聞きしました。そんな常識外れなこと、認められると思うのですか?」

「そ、それは……」

「リシャルドだけでなくユスティアもまた、私たち夫婦にとって大事な“娘”です。なので、母として言わせていただきます。国益のために、大切な子供たちを振り回さないでください」

「ヨアンナ。……落ち着きなさい」

 義父上が止めに入るまで、義母上は国王に対する‘‘詰め’’を止めなかった。そして場をとりなすように、義父上は口を開いたのだった。

「陛下、この件についてはリシャルドからの説明で十分にご理解いただけたかと思います。今後の対応につきましては、日を改めてご相談させていただいてもよろしいですか?」

「はい、もちろんでございます」

 こうして、聖女や国王との面会という名の“詰め会”は幕を下ろしたのだった。

+2025/6/13ホットランキング3位ありがとうございます♡
+次は13:22更新予定。
なんとか無事に新婚旅行を終えたユスティア。ようやく平和な日常が戻り、仲の良い友人たちとお茶会を楽しんでいると、そこに現れたのは……?
お楽しみに♡
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...