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密かで、されど幸せな片思い
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私はずっと、夫に片思いをしている。けれどもそれは、幸せな片思いであった。
身体だけでも彼と結ばれて、私はなんて幸せなのだろう。
これまで何度心の中で呟いたかも分からない言葉を思い浮かべながら、今宵も私は夫に抱かれていた。
「……っ、は、んっ、うっ、……っ、」
向かい合って身体を繋げたことにより、私は今、彼の眼前に全てを曝け出している。生まれたままの姿を見せて恥じらう気持ちが無いと言えば嘘になるが、抵抗する気は無かった。
私ができるのは、彼に身体を委ねることだけなのだから。
「ナターシャ……っ、……痛くないか?」
腰の動きを一旦止めて、夫であるイザークは気遣わしげに問いかけた。
閨事の際、彼は私のことをとても気にかけてくれる。私が嫌がることを無理強いすることはまず有り得ない。それは、何度目の夜であっても変わらぬことであった。
それがたとえ、イザークからすれば''特別ではない優しさ''であっても、私は嬉しくて仕方がない。
そもそも私が彼と結婚したこと自体、ただの幸運に過ぎない。特段の寵愛を受けたいという気持ちは、毛頭無かった。
「……っ、ど、どうかお構いなく」
精悍な顔ばせには汗が滲んでおり、頬が紅く上気していた。その色気のある表情は、穴のあく程に見つめても飽きないものであった。
艶のある黒髪の下にあるのは、惹き込まれるような紫色の瞳。
その瞳とじっと見つめ合ってしまえば、彼を中できつく抱き締めてしまう。だから私は、目を合わせた後直ぐに目を瞑った。
「……そうか。……っ、なら良い」
安心したかのように、イザークは抜き差しを再開した。押し込んだり打ち付けたりというよりも性器を擦り合わせるような律動は、じわりとじわりとさざ波のような快楽を与えてくれる。
きっと彼としては、この行為も子作りという名の務めでしかないのだろう。
けれども私にとっては、密かな楽しみとなっていた。
王太子妃として子を成すという大義名分の下、個人的な欲を満たしているなど、口が裂けても言えない。
「……っ、ぐ、ぁ、は、っん、」
「ん、……っ、は、……ナターシャ……っ、」
呼び掛けに応じるように薄目を開くと、イザークは肩に担ぎあげていた両脚を下ろし、私の腰を掴んで引き寄せた。そして、やや性急に腰を打ち付け始める。
なるべく膣奥に精を吐き出すためか、いつも彼は射精の間際そうするのであった。
「あ、ナターシャ、出すぞ……っ、中、……っぐ、あっ……!!」
「あっ、あっ……っ、ひ、あああっ、!!」
感電したかのように、一瞬意識が弾け飛ぶ。
吐き出された熱い白濁。それを逃すまいと、胎内がイザークを締め付ける。内側から、彼の鼓動が伝わってくるのを感じた。
「はっ……、ぁ、」
イザークは緩く腰を動かし、余すこと無く精を注ぎ込む。それから肉竿が萎え始めたところで、腰を引いた。
そして後処理を終えた後。私の隣に横たわり、彼は優しく頭を撫でてくれた。
「ん、……具合、悪くないか?」
「はい。どうぞ、お気遣い無く」
夫婦の勤めは終わった。けれども、寝る間際まで彼は気配りを忘れない。
何をするでも無く見つめ合い、荒い呼吸の中キスが落とされる。それは、房事の終わりの合図であった。
「……おやすみ」
「……おやすみなさいませ、イザーク様」
幸せな結婚生活。けれども一つ悩みがあるとすれば……。
私が彼を、愛しすぎていることだろう。
身体だけでも彼と結ばれて、私はなんて幸せなのだろう。
これまで何度心の中で呟いたかも分からない言葉を思い浮かべながら、今宵も私は夫に抱かれていた。
「……っ、は、んっ、うっ、……っ、」
向かい合って身体を繋げたことにより、私は今、彼の眼前に全てを曝け出している。生まれたままの姿を見せて恥じらう気持ちが無いと言えば嘘になるが、抵抗する気は無かった。
私ができるのは、彼に身体を委ねることだけなのだから。
「ナターシャ……っ、……痛くないか?」
腰の動きを一旦止めて、夫であるイザークは気遣わしげに問いかけた。
閨事の際、彼は私のことをとても気にかけてくれる。私が嫌がることを無理強いすることはまず有り得ない。それは、何度目の夜であっても変わらぬことであった。
それがたとえ、イザークからすれば''特別ではない優しさ''であっても、私は嬉しくて仕方がない。
そもそも私が彼と結婚したこと自体、ただの幸運に過ぎない。特段の寵愛を受けたいという気持ちは、毛頭無かった。
「……っ、ど、どうかお構いなく」
精悍な顔ばせには汗が滲んでおり、頬が紅く上気していた。その色気のある表情は、穴のあく程に見つめても飽きないものであった。
艶のある黒髪の下にあるのは、惹き込まれるような紫色の瞳。
その瞳とじっと見つめ合ってしまえば、彼を中できつく抱き締めてしまう。だから私は、目を合わせた後直ぐに目を瞑った。
「……そうか。……っ、なら良い」
安心したかのように、イザークは抜き差しを再開した。押し込んだり打ち付けたりというよりも性器を擦り合わせるような律動は、じわりとじわりとさざ波のような快楽を与えてくれる。
きっと彼としては、この行為も子作りという名の務めでしかないのだろう。
けれども私にとっては、密かな楽しみとなっていた。
王太子妃として子を成すという大義名分の下、個人的な欲を満たしているなど、口が裂けても言えない。
「……っ、ぐ、ぁ、は、っん、」
「ん、……っ、は、……ナターシャ……っ、」
呼び掛けに応じるように薄目を開くと、イザークは肩に担ぎあげていた両脚を下ろし、私の腰を掴んで引き寄せた。そして、やや性急に腰を打ち付け始める。
なるべく膣奥に精を吐き出すためか、いつも彼は射精の間際そうするのであった。
「あ、ナターシャ、出すぞ……っ、中、……っぐ、あっ……!!」
「あっ、あっ……っ、ひ、あああっ、!!」
感電したかのように、一瞬意識が弾け飛ぶ。
吐き出された熱い白濁。それを逃すまいと、胎内がイザークを締め付ける。内側から、彼の鼓動が伝わってくるのを感じた。
「はっ……、ぁ、」
イザークは緩く腰を動かし、余すこと無く精を注ぎ込む。それから肉竿が萎え始めたところで、腰を引いた。
そして後処理を終えた後。私の隣に横たわり、彼は優しく頭を撫でてくれた。
「ん、……具合、悪くないか?」
「はい。どうぞ、お気遣い無く」
夫婦の勤めは終わった。けれども、寝る間際まで彼は気配りを忘れない。
何をするでも無く見つめ合い、荒い呼吸の中キスが落とされる。それは、房事の終わりの合図であった。
「……おやすみ」
「……おやすみなさいませ、イザーク様」
幸せな結婚生活。けれども一つ悩みがあるとすれば……。
私が彼を、愛しすぎていることだろう。
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