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【最終章③】魔竜討伐編
第228話 ふざけるな!
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「俺をこの世界へ呼んだのはやはりシャルルペトラだったのか……」
断定をするにはまだ情報が少ない。
しかし、今のところの情報を総合するに、その線が濃厚になっているのはたしかだ。
「魔力を練って……そんなことができるのか」
「ちょっと修行が必要だったけど、コツを掴めばなんとかできるわ。ただ、相当量の魔力を使用するからたくさんは作れないけど……というか、もう1個作るのは難しいかも」
レグジートの表情は呆れと驚きが混じったような複雑なものだった。
「竜の言霊を渡す人間……そのような人間が、果たしているのだろうか」
「いるよ。きっとその人なら、この世界を変えてくれるはず」
「心当たりがあるのか?」
「まあね。――だから、ここで待っていて。ここに、竜の言霊を預けられる人を連れてくるから」
「連れて来るとは……」
「復活するんでしょう? ……魔竜イネスが」
「!?」
そこまで知っているのか、という言葉が聞こえてきそうなほどに、わかりやすい反応をレグジートは示した。
「これはその予防策。いつか、魔竜イネスが甦っても、竜の言霊を持つ者がきっとそれを食い止めてくれるはず。その人間に、私は心当たりがあるの。近いうちに、私がここへ連れて来るわ」
「シャルル……わかった。ならば私はここで待とう。この命尽きるまで」
ここに連れてくる。
シャルルペトラの放ったその言葉が、颯太の頭の中で雷鳴のごとく轟いた。
そこで、颯太は気づく。
今、自分が立っているこの場所――レグジートが横たわり、シャルルと会話をしているここは、レグジートと出会ったあの森の中だった。
「シャルルペトラが連れてくるといった人間……それは――」
何かを思い出しかけた颯太であったが、まるで思考に靄がかかったような状態となり、自分が探し求めていた答えが遠のいていくのを感じた。
まるで「それに気がついてはダメだ」と本能が警鐘を鳴らしているようだった。
「お父さん、あのね……私今、人間と一緒にいるの」
「!? そ、そうなのか?」
「ここにはいないから安心して。……と言っても、その人たちはお父さんに危害を加えるような人たちじゃないけど」
シャルルは父であるレグジートへそう告げた。
人間との付き合いというのは、恐らくランスローとメリナのことであろう。
「おまえは……人間と良好な関係を築けているのか?」
「うん。とっても大切な人たちよ」
「それは何よりだが、どうやった意思の疎通を?」
「私、人間の言葉が話せるからね」
「! ど、どうやって!?」
「覚えたの。……私の能力は、私次第でどんなことでも可能になる。知識の源が頭の中に詰まっているのよ」
「なるほど……それがおまえの授かった能力か」
得意げに語るシャルルペトラ。
次元転移などの禁忌魔法さえ扱えるようになるのだから、人間の言葉を話すくらいは造作もないのだろう。それでも、レグジートの驚きぶりから、相当な快挙であるのは間違いなさそうだが。
「竜人族と人間が友好関係に……素晴らしいことだ」
「お父さんはそんな世界を目指していたのでしょう?」
「その通りだ。アーティーから――いや、お母さんから聞いたのか?」
「うん。お母さん、お父さんの話をする時はいつも楽しそうだし、どんな内容でも長話になるから大変だけどね」
「ふふ、そうか。それはすまなかったな。アーティーに代わって謝ろう」
謝罪するレグジートだが、その顔はニヤけていた。レグジートとしても、アーティーに悪く思われていないとしれて満更でもないようだ。
「…………」
ふと、シャルルペトラがレグジートの体に顔を引っ付ける。
「? シャルル?」
「お父さん……会えて本当によかった……」
シャルルペトラは寿命の迫る父レグジートと会えたことを心から喜んでいた。湿っぽいのは嫌いだから、ずっと明るく振る舞っていたが、そろそろ別れなければならない時が迫っていることを悟り、とうとう感情が爆発してしまったようだ。
別れると言ってもこれが――今生の別れとなると知っていたから。
「……さあ、涙を拭いて行くんだ。人間たちを待たせているのだろう?」
「お父さん……」
「おまえの想いは受け取った。おまえは……この竜王レグジートの自慢の娘だ」
「はい……」
互いに涙を流して最後の別れをするシャルルペトラとレグジート。颯太も思わずもらい泣きをしてしまうが――突如周囲が真っ暗となった。
「! な、なんだ!?」
困惑している颯太のもとへ、
「いかがだったかしら?」
闇の中から再びイネスが現れた。
「ここから先の話も見たいかしら? どうしてシャルルとランスローとメリナたちが私のもとへとやって来たのか」
「自分で操っておいてよく言う。それではまるで望んでそちら側についたような言い草じゃないか」
「大差ないわ。結局のところ、誰もシャルルを――いえ、私の魔力を打ち破るなんてことはできない」
魔竜イネスが指を鳴らすと、真っ暗な空間に楕円形の光が生まれた。そこにはある映像が映し出されている。
「これは!?」
「外の様子よ。ランスロー王子が必死にシャルルを説得しているようね。――あら? アーティーも来たようね」
「!?」
颯太の目に飛び込んできたのは、シャルルを説得しようと叫ぶランスロー王子と、シャルルを押さえ込もうとするアーティーの姿であった。シャルルからの抵抗を受けた証しと言わんばかりに、ランスローとアーティーは全身傷だらけであった。
「必死になって止めようとして――滑稽ね」
イネスは酷薄に笑う。
かつて魔女と呼ばれたその名に相応しい邪悪な微笑み。
見ているだけで全身が凍りつきそうなほどであるが、颯太の心に芽生えた怒りはそんな恐怖心を一蹴した。
「ふざけるな!」
人生で未だかつて出したことがないほどの声量で、颯太は怒鳴る。
「アーティーもランスローも命を賭けてシャルルペトラを止めようとしている! 実の母親であるおまえに、望みもしない戦場へかり出され、大切な人たちを自分の手で傷つけてシャルルペトラを! それでもおまえは母親なのか!」
「母よ。私が生んだ娘だもの」
「違う!」
颯太は即座に否定する。
イネスの生んだ娘がシャルル――だが、事はそんな単純な「事実」だけを並べて説明できるものではない。冷めた目で映像越しの娘を見ているイネスより、口端から血を流しながらも正気を失っているシャルルを食い止めようと必死になっているアーティーの方がずっと母親らしい行動を取っていると言える。
所詮、母親「らしい」どまりだと言われても、間違いなくシャルルの母はアーティーであると颯太は断言する。たとえそれが、実母であるイネス相手であっても。
「おまえはシャルルの母親ではない!」
「あなたとはそんな議論を交わしたくてここへ引っ張り込んだのではないの」
颯太からの抗議をないように受け流して、イネスは語り始める。
「あなたには――是非とも私の野望に協力をしてほしいの」
断定をするにはまだ情報が少ない。
しかし、今のところの情報を総合するに、その線が濃厚になっているのはたしかだ。
「魔力を練って……そんなことができるのか」
「ちょっと修行が必要だったけど、コツを掴めばなんとかできるわ。ただ、相当量の魔力を使用するからたくさんは作れないけど……というか、もう1個作るのは難しいかも」
レグジートの表情は呆れと驚きが混じったような複雑なものだった。
「竜の言霊を渡す人間……そのような人間が、果たしているのだろうか」
「いるよ。きっとその人なら、この世界を変えてくれるはず」
「心当たりがあるのか?」
「まあね。――だから、ここで待っていて。ここに、竜の言霊を預けられる人を連れてくるから」
「連れて来るとは……」
「復活するんでしょう? ……魔竜イネスが」
「!?」
そこまで知っているのか、という言葉が聞こえてきそうなほどに、わかりやすい反応をレグジートは示した。
「これはその予防策。いつか、魔竜イネスが甦っても、竜の言霊を持つ者がきっとそれを食い止めてくれるはず。その人間に、私は心当たりがあるの。近いうちに、私がここへ連れて来るわ」
「シャルル……わかった。ならば私はここで待とう。この命尽きるまで」
ここに連れてくる。
シャルルペトラの放ったその言葉が、颯太の頭の中で雷鳴のごとく轟いた。
そこで、颯太は気づく。
今、自分が立っているこの場所――レグジートが横たわり、シャルルと会話をしているここは、レグジートと出会ったあの森の中だった。
「シャルルペトラが連れてくるといった人間……それは――」
何かを思い出しかけた颯太であったが、まるで思考に靄がかかったような状態となり、自分が探し求めていた答えが遠のいていくのを感じた。
まるで「それに気がついてはダメだ」と本能が警鐘を鳴らしているようだった。
「お父さん、あのね……私今、人間と一緒にいるの」
「!? そ、そうなのか?」
「ここにはいないから安心して。……と言っても、その人たちはお父さんに危害を加えるような人たちじゃないけど」
シャルルは父であるレグジートへそう告げた。
人間との付き合いというのは、恐らくランスローとメリナのことであろう。
「おまえは……人間と良好な関係を築けているのか?」
「うん。とっても大切な人たちよ」
「それは何よりだが、どうやった意思の疎通を?」
「私、人間の言葉が話せるからね」
「! ど、どうやって!?」
「覚えたの。……私の能力は、私次第でどんなことでも可能になる。知識の源が頭の中に詰まっているのよ」
「なるほど……それがおまえの授かった能力か」
得意げに語るシャルルペトラ。
次元転移などの禁忌魔法さえ扱えるようになるのだから、人間の言葉を話すくらいは造作もないのだろう。それでも、レグジートの驚きぶりから、相当な快挙であるのは間違いなさそうだが。
「竜人族と人間が友好関係に……素晴らしいことだ」
「お父さんはそんな世界を目指していたのでしょう?」
「その通りだ。アーティーから――いや、お母さんから聞いたのか?」
「うん。お母さん、お父さんの話をする時はいつも楽しそうだし、どんな内容でも長話になるから大変だけどね」
「ふふ、そうか。それはすまなかったな。アーティーに代わって謝ろう」
謝罪するレグジートだが、その顔はニヤけていた。レグジートとしても、アーティーに悪く思われていないとしれて満更でもないようだ。
「…………」
ふと、シャルルペトラがレグジートの体に顔を引っ付ける。
「? シャルル?」
「お父さん……会えて本当によかった……」
シャルルペトラは寿命の迫る父レグジートと会えたことを心から喜んでいた。湿っぽいのは嫌いだから、ずっと明るく振る舞っていたが、そろそろ別れなければならない時が迫っていることを悟り、とうとう感情が爆発してしまったようだ。
別れると言ってもこれが――今生の別れとなると知っていたから。
「……さあ、涙を拭いて行くんだ。人間たちを待たせているのだろう?」
「お父さん……」
「おまえの想いは受け取った。おまえは……この竜王レグジートの自慢の娘だ」
「はい……」
互いに涙を流して最後の別れをするシャルルペトラとレグジート。颯太も思わずもらい泣きをしてしまうが――突如周囲が真っ暗となった。
「! な、なんだ!?」
困惑している颯太のもとへ、
「いかがだったかしら?」
闇の中から再びイネスが現れた。
「ここから先の話も見たいかしら? どうしてシャルルとランスローとメリナたちが私のもとへとやって来たのか」
「自分で操っておいてよく言う。それではまるで望んでそちら側についたような言い草じゃないか」
「大差ないわ。結局のところ、誰もシャルルを――いえ、私の魔力を打ち破るなんてことはできない」
魔竜イネスが指を鳴らすと、真っ暗な空間に楕円形の光が生まれた。そこにはある映像が映し出されている。
「これは!?」
「外の様子よ。ランスロー王子が必死にシャルルを説得しているようね。――あら? アーティーも来たようね」
「!?」
颯太の目に飛び込んできたのは、シャルルを説得しようと叫ぶランスロー王子と、シャルルを押さえ込もうとするアーティーの姿であった。シャルルからの抵抗を受けた証しと言わんばかりに、ランスローとアーティーは全身傷だらけであった。
「必死になって止めようとして――滑稽ね」
イネスは酷薄に笑う。
かつて魔女と呼ばれたその名に相応しい邪悪な微笑み。
見ているだけで全身が凍りつきそうなほどであるが、颯太の心に芽生えた怒りはそんな恐怖心を一蹴した。
「ふざけるな!」
人生で未だかつて出したことがないほどの声量で、颯太は怒鳴る。
「アーティーもランスローも命を賭けてシャルルペトラを止めようとしている! 実の母親であるおまえに、望みもしない戦場へかり出され、大切な人たちを自分の手で傷つけてシャルルペトラを! それでもおまえは母親なのか!」
「母よ。私が生んだ娘だもの」
「違う!」
颯太は即座に否定する。
イネスの生んだ娘がシャルル――だが、事はそんな単純な「事実」だけを並べて説明できるものではない。冷めた目で映像越しの娘を見ているイネスより、口端から血を流しながらも正気を失っているシャルルを食い止めようと必死になっているアーティーの方がずっと母親らしい行動を取っていると言える。
所詮、母親「らしい」どまりだと言われても、間違いなくシャルルの母はアーティーであると颯太は断言する。たとえそれが、実母であるイネス相手であっても。
「おまえはシャルルの母親ではない!」
「あなたとはそんな議論を交わしたくてここへ引っ張り込んだのではないの」
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