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エピローグ ~それからのお話し~
第247話 中央領《ドラゴレイズ》誕生
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颯太がもとの世界へ一時帰国して2日目。
廃界オロム。
魔族の脅威が過ぎ去ったここオロムでは、フライア・ベルナール改めメリナ姫から引き継いだミラルダ・マーズナーをトップとする新生フォレルガによる復興作業が着々と進められていた。
人の住んでいないオロムを復興――一見すると意味のない行為のように思えるが、生まれ変わったオロムには新たな国が建国する予定になっている。
その国はハルヴァ、ガドウィン、ペルゼミネ、ダステニアの4国から支援を受け、今まさに産声をあげる手前まで来ていた。
「王都の復興作業は順調に進んでいるのです」
「ここがうちらの住む国になるなんて、ちょっと信じられないわね」
「これもすべては4大国家の支援あってのものさ」
魔竜イネスとの死闘により崩壊したオロム城。
そこには、3匹の竜人族がいた。
奏竜ローリージン。
磁竜ベイランダム。
焔竜ニクスオード。
かつて、魔竜イネスと共に連合竜騎士団と戦った竜人族たち。
――そう。
ここオロムは彼女たち竜人族の国――中央領《ドラゴレイズ》として生まれ変わったのだ。
メアとの戦いに執着するエルメルガはソラン王国竜騎士団に身を寄せることになったが、同じく廃界オロムで連合竜騎士団と戦ったローリージン、ベイランダム、ニクスオードの3匹は女王を守る近衛兵としてこのドラゴレイズに残っていた。
竜人族の国を創りたい――第一声はシャルルペトラの口から放たれた。
それを受け取った颯太がハルヴァのアルフォン王に話を通すと、その話はトントン拍子にペルゼミネ、ダステニア、ガドウィンへと伝わり、どの国からもふたつ返事で了承されることとなった。この間たったの丸一日。史上初の驚くべきスピードで新たな国――ドラゴレイズは誕生したのだ。
話はすぐにレフティ大臣から新生フォレルガの代表ミラルダへと伝わり、昨夜遅くから作業が始まっていた。
「それにしても、ほんの数日前までここで激戦を繰り広げていたというのに……もしかしたら人間というのはうちら竜人族よりタフなのかもしれないわね」
ベイランダムの言葉に、ローリージンとニクスオードは頷いた。
「さて、僕らも彼らの手伝いに行かないとな」
「それなのですけど……女王様の部屋を私たちで先に作っておくというのはどうです?」
ローリージンの提案に、残り2匹は賛成する。
新王国――中央領ドラゴレイズの女王。
それはもちろん、父レグジートからその座を受け継いだ新竜王の智竜シャルルペトラだ。
現在、その国王は颯太と共に国を――いや、それどころか、この世界自体から一時離脱をしている。そのため、新王国でありながらも国王不在という事態になっていた。
しかし、颯太の意向を尊重する4大国家の王たちはシャルルペトラの離脱を認め、その間に第三国が侵略に踏み込まぬよう、廃界周辺の警戒は厳重となっていた。
もっとも、竜騎士たちの護衛がなくとも、そこいらの国の軍勢など、ローリージンたち3匹が本気を出したら瞬殺できるのだろうが。
張り切ってシャルルペトラの部屋となる予定の場所を掃除し、家具を備え付けていく3匹の竜人族たち。
そんな3匹の耳に、大きな羽音が聞こえてきた。
王都で復興作業に勤しむフォレルガや各国の竜騎士たちも、その音に気がついて空を見上げていた。
「ど、ドラゴンだ……」
1匹のドラゴンが、ドラゴレイズ城へと舞い降りた。
大地を覆わんばかりの巨体――しかしの体は着地すると同時に縮んでいき、やがてひとりの少女の姿へと変わった。
「竜人族か……」
ニクスオードの言う通り、空から舞い降りた1匹のドラゴンは竜人族――それも、これまでに会ったことのない竜人族であった。
「魔竜討伐戦の時には姿のなかった子なのです!」
「本当ね。初めて見る顔だわ」
ローリージンもベイランダムも興味深げに少女へと視線を送る。
一方、注目を集めた竜人族の少女は恥ずかしそうに目を伏せていた。
前竜王レグジートの娘である竜人族は全部で55匹――というのがメアから伝えられた情報であったが、どうやら実際はもっと多いらしいということが発覚。目の前の少女も、そんな「未確認」な娘の1匹なのだろう。
魔竜イネス討伐に参戦せず、ずっと静かに暮らしていた――そう思われる彼女が、どうしてここへ来たのだろうか。
実はそれこそがシャルルペトラが建国した最大の理由だった。
ドラゴンの国とは即ち――ドラゴンを救うための国となることを最終的な目標として掲げていた。たとえ力がなくても、平和に穏やかに暮らすことをドラゴンだっている。ここはその救済の場となればいいという考えであった。
「…………」
少女は何かを伝えたいようだがうまく口にできない様子。
極度の恥ずかしがり屋なのか、はたまたコミュニケーションの経験自体が圧倒的に少ないのか。ともかくうまく会話ができない。
「ここは僕らがリードした方がよさそうだね?」
「そのようなのです」
「世話の焼ける新入りさんだなぁ」
結論が出たところで、竜王代理(自称)のニクスオードが一歩前に出る。
「ようこそ、ドラゴレイズへ」
「!」
ドラゴレイズの名を聞いた途端、少女の顔つきが変化する。
「あ、あの! ここはドラゴンにとって楽園だと聞きましたが、本当ですか!?」
「「「楽園?」」」
3匹は顔を合わせる。
何がどうなってそんな情報が流れているのかわからないが――でも、たしかに、言われてみるとここはドラゴンにとって最高に住みやすい環境だ。何せ、女王が竜人族なのだし、おまけに3匹の近衛兵も優秀と来ている。
そんな彼女たちが平和を守る国なのだから、悪い国なわけがない。
「楽園……いい響きなのです!」
「だったら改めて――ようこそ、楽園ドラゴレイズへ。僕らはいつでも君を歓迎するよ」
「あ、ありがとうございます! 私は竜人族で閃竜ジジフォルドと言います! よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた竜人族のジジフォルド。
記念すべき新王国最初の国民の誕生だった。
廃界オロム。
魔族の脅威が過ぎ去ったここオロムでは、フライア・ベルナール改めメリナ姫から引き継いだミラルダ・マーズナーをトップとする新生フォレルガによる復興作業が着々と進められていた。
人の住んでいないオロムを復興――一見すると意味のない行為のように思えるが、生まれ変わったオロムには新たな国が建国する予定になっている。
その国はハルヴァ、ガドウィン、ペルゼミネ、ダステニアの4国から支援を受け、今まさに産声をあげる手前まで来ていた。
「王都の復興作業は順調に進んでいるのです」
「ここがうちらの住む国になるなんて、ちょっと信じられないわね」
「これもすべては4大国家の支援あってのものさ」
魔竜イネスとの死闘により崩壊したオロム城。
そこには、3匹の竜人族がいた。
奏竜ローリージン。
磁竜ベイランダム。
焔竜ニクスオード。
かつて、魔竜イネスと共に連合竜騎士団と戦った竜人族たち。
――そう。
ここオロムは彼女たち竜人族の国――中央領《ドラゴレイズ》として生まれ変わったのだ。
メアとの戦いに執着するエルメルガはソラン王国竜騎士団に身を寄せることになったが、同じく廃界オロムで連合竜騎士団と戦ったローリージン、ベイランダム、ニクスオードの3匹は女王を守る近衛兵としてこのドラゴレイズに残っていた。
竜人族の国を創りたい――第一声はシャルルペトラの口から放たれた。
それを受け取った颯太がハルヴァのアルフォン王に話を通すと、その話はトントン拍子にペルゼミネ、ダステニア、ガドウィンへと伝わり、どの国からもふたつ返事で了承されることとなった。この間たったの丸一日。史上初の驚くべきスピードで新たな国――ドラゴレイズは誕生したのだ。
話はすぐにレフティ大臣から新生フォレルガの代表ミラルダへと伝わり、昨夜遅くから作業が始まっていた。
「それにしても、ほんの数日前までここで激戦を繰り広げていたというのに……もしかしたら人間というのはうちら竜人族よりタフなのかもしれないわね」
ベイランダムの言葉に、ローリージンとニクスオードは頷いた。
「さて、僕らも彼らの手伝いに行かないとな」
「それなのですけど……女王様の部屋を私たちで先に作っておくというのはどうです?」
ローリージンの提案に、残り2匹は賛成する。
新王国――中央領ドラゴレイズの女王。
それはもちろん、父レグジートからその座を受け継いだ新竜王の智竜シャルルペトラだ。
現在、その国王は颯太と共に国を――いや、それどころか、この世界自体から一時離脱をしている。そのため、新王国でありながらも国王不在という事態になっていた。
しかし、颯太の意向を尊重する4大国家の王たちはシャルルペトラの離脱を認め、その間に第三国が侵略に踏み込まぬよう、廃界周辺の警戒は厳重となっていた。
もっとも、竜騎士たちの護衛がなくとも、そこいらの国の軍勢など、ローリージンたち3匹が本気を出したら瞬殺できるのだろうが。
張り切ってシャルルペトラの部屋となる予定の場所を掃除し、家具を備え付けていく3匹の竜人族たち。
そんな3匹の耳に、大きな羽音が聞こえてきた。
王都で復興作業に勤しむフォレルガや各国の竜騎士たちも、その音に気がついて空を見上げていた。
「ど、ドラゴンだ……」
1匹のドラゴンが、ドラゴレイズ城へと舞い降りた。
大地を覆わんばかりの巨体――しかしの体は着地すると同時に縮んでいき、やがてひとりの少女の姿へと変わった。
「竜人族か……」
ニクスオードの言う通り、空から舞い降りた1匹のドラゴンは竜人族――それも、これまでに会ったことのない竜人族であった。
「魔竜討伐戦の時には姿のなかった子なのです!」
「本当ね。初めて見る顔だわ」
ローリージンもベイランダムも興味深げに少女へと視線を送る。
一方、注目を集めた竜人族の少女は恥ずかしそうに目を伏せていた。
前竜王レグジートの娘である竜人族は全部で55匹――というのがメアから伝えられた情報であったが、どうやら実際はもっと多いらしいということが発覚。目の前の少女も、そんな「未確認」な娘の1匹なのだろう。
魔竜イネス討伐に参戦せず、ずっと静かに暮らしていた――そう思われる彼女が、どうしてここへ来たのだろうか。
実はそれこそがシャルルペトラが建国した最大の理由だった。
ドラゴンの国とは即ち――ドラゴンを救うための国となることを最終的な目標として掲げていた。たとえ力がなくても、平和に穏やかに暮らすことをドラゴンだっている。ここはその救済の場となればいいという考えであった。
「…………」
少女は何かを伝えたいようだがうまく口にできない様子。
極度の恥ずかしがり屋なのか、はたまたコミュニケーションの経験自体が圧倒的に少ないのか。ともかくうまく会話ができない。
「ここは僕らがリードした方がよさそうだね?」
「そのようなのです」
「世話の焼ける新入りさんだなぁ」
結論が出たところで、竜王代理(自称)のニクスオードが一歩前に出る。
「ようこそ、ドラゴレイズへ」
「!」
ドラゴレイズの名を聞いた途端、少女の顔つきが変化する。
「あ、あの! ここはドラゴンにとって楽園だと聞きましたが、本当ですか!?」
「「「楽園?」」」
3匹は顔を合わせる。
何がどうなってそんな情報が流れているのかわからないが――でも、たしかに、言われてみるとここはドラゴンにとって最高に住みやすい環境だ。何せ、女王が竜人族なのだし、おまけに3匹の近衛兵も優秀と来ている。
そんな彼女たちが平和を守る国なのだから、悪い国なわけがない。
「楽園……いい響きなのです!」
「だったら改めて――ようこそ、楽園ドラゴレイズへ。僕らはいつでも君を歓迎するよ」
「あ、ありがとうございます! 私は竜人族で閃竜ジジフォルドと言います! よろしくお願いします!」
深々と頭を下げた竜人族のジジフォルド。
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