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エピローグ ~それからのお話し~
第249話 二度目の異世界転移
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「戻って来たか……」
オロム改め新生中央領ドラゴレイズ――その北側にある森の中に、颯太とシャルルペトラは佇んでいた。
静岡の実家の庭から次元転移魔法を使ってこの世界へと帰還した。
顔を上げれば、木々の枝越しに青い空が見える。
耳をすませば、近くを流れる小川のせせらぎが聞こえる。
不思議と新鮮さはなかった。
わずか数ヶ月という期間ではあるが、そうした自然の息吹が当たり前に感じているほどに自分はこの世界に染まっている――颯太はそう実感した。
「はあー……疲れた」
物思いにふけっている颯太の横で、ドカッと地面に腰を下ろしたシャルルペトラ。
次元転移魔法は一度でかなりの魔力を使うらしく、今回の往復で魔力はほとんどなくなってしまったらしい。
「無茶をさせてすまないな」
「いいのよ。それに、もうちょっとコツを掴んだら無駄な魔力の消費を抑えられるかもしれないし……精進アリってわけね」
意欲に燃えるシャルルペトラ――だが、
「でもちょっと休憩していきましょう?」
「賛成だ」
颯太から賛同をもらった直後、シャルルペトラは体を横にして「じゃ、おやすみなさい」と目を閉じた。「おいおい」と注意をしようとしたが、すでに安らかな寝息を立てているため起こすのが躊躇われ、「本人がいいならいいか」と目を瞑ることにした。
「それにしても……」
改めて周囲を見回した颯太。
日本ではお目にかかることのない圧倒的な大自然の迫力。
それはこの世界の第一印象でもあった。
「本当に凄い世界だよなぁ、ここは」
深呼吸をしてから呟いた。
思えば、すべてはこんな感じの森で、竜王レグジートと出会ったところから始まった。あの出会いはシャルルペトラによって仕組まれたものであったが、颯太にとって人生を丸ごとひっくり返されたような出来事となった。
見知らぬ世界で困っているところをキャロルに救われ、竜の言霊の力を買われてそのままリンスウッド・ファームのオーナーに就任。
それから、ソラン王国の内乱――ハルヴァ舞踏会――禁竜教の侵攻――ペルゼミネへの遠征――レイノアの領地不正譲渡問題――そして廃界への魔竜討伐。
楽しいことも辛いこともあった数ヶ月。
夢のような数ヶ月。
うだつの上がらない平凡なサラリーマンだった高峰颯太が、この世界では自分の居場所を見つけられた。ハドリーの話では、今回の魔竜討伐の件で、アルフォン王から勲章が贈られるという話も出ているらしい。
「まだ信じられないな」
自分がそこまでの人間なんて実感はない。
この世界へ来てからの颯太はとにかく懸命だった。
サラリーマン時代とは違い、こっちでの仕事は命の危険がある。実際、これまで何度も命の危険に晒された。それでもなぜだか嫌だという気持ちはなかった――この仕事で生きていくという決心があったからだ。
「ソータさん!」
これまでの思い出に浸っていた颯太の名前を叫ぶ声。
テオとルーカだ。
「テオ? それにルーカまで……一体どうしたんだ?」
「迎えに来たんですよ」
「そうそう」
初めて会った時はまだ新兵っぽい初々しさがあったふたりだが、颯太と共にさまざまな戦場を経験して立派に成長を遂げていた。何より、
「お? もう指輪をしているのか?」
「はい! 先日できたばかりなんですよ!」
「俺もです」
テオとルーカ。
ふたりの指にはシルバーの指輪が光っている。
これはいわゆる結婚指輪――婚約相手に指輪を贈るという習慣はこっちの世界でもあるらしかった。お相手は颯太が竜騎士とメイドで合コンをした際に参加していた女性で、颯太とも面識があった。
「まさかふたりに先を越されるとはな」
「これもソータさんのおかげですよ」
「あ、それと、リンスウッド分団のシュードさんたちも是非ソータさんと一緒に食事会へ参加したいと言っていました」
「……俺は幸運の置物扱いか?」
これではまるで縁起物だ。
笑って、颯太は踵を返した。
森の真ん中でお昼寝中の女王陛下を起こすためだ。
「迎えが来たぞ、シャルル」
「う~ん……」
夢の世界へ旅立ったままのシャルル。
しょうがないと颯太はその体を優しく抱き起こす――おんぶだ。
「馬車で来たんだろう?」
「ええ。お疲れと思い、中には毛布の用意も」
「助かるよ」
シャルルをおんぶした状態の颯太はテオとルーカの案内で森を出る。
眩い陽光に目を細めたその先――復興最中のドラゴレイズ王都にシャルルペトラの居城となるドラゴレイズ城が見える。
「作業は順調のようだな」
「ええ。フォレルガ以外にも協力を申し出てくれた民間団体がいくつかあったおかげで予定よりもだいぶ早いです」
「そうか……」
竜人族の頂点である竜王――その竜王シャルルペトラを女王とするドラゴンたちのための国がドラゴレイズである。
「その子が女王だなんて信じられませんね」
「そう言うなよ。ペルゼミネのシリング王だって若いじゃないか」
テオとルーカは「それもそうですね」と納得したようで、颯太に負けない笑顔を浮かべている。
「さて――」
颯太は森の外にとめられていた馬車にシャルルペトラを乗せると、一度外に出る。
その瞳の先にあるのは、
「帰ろう……俺たちのいるべき場所へ」
第二の故郷――ハルヴァだ。
※次回投稿は6月30日(土)午前6時~7時の予定――いよいよ最終回です。
オロム改め新生中央領ドラゴレイズ――その北側にある森の中に、颯太とシャルルペトラは佇んでいた。
静岡の実家の庭から次元転移魔法を使ってこの世界へと帰還した。
顔を上げれば、木々の枝越しに青い空が見える。
耳をすませば、近くを流れる小川のせせらぎが聞こえる。
不思議と新鮮さはなかった。
わずか数ヶ月という期間ではあるが、そうした自然の息吹が当たり前に感じているほどに自分はこの世界に染まっている――颯太はそう実感した。
「はあー……疲れた」
物思いにふけっている颯太の横で、ドカッと地面に腰を下ろしたシャルルペトラ。
次元転移魔法は一度でかなりの魔力を使うらしく、今回の往復で魔力はほとんどなくなってしまったらしい。
「無茶をさせてすまないな」
「いいのよ。それに、もうちょっとコツを掴んだら無駄な魔力の消費を抑えられるかもしれないし……精進アリってわけね」
意欲に燃えるシャルルペトラ――だが、
「でもちょっと休憩していきましょう?」
「賛成だ」
颯太から賛同をもらった直後、シャルルペトラは体を横にして「じゃ、おやすみなさい」と目を閉じた。「おいおい」と注意をしようとしたが、すでに安らかな寝息を立てているため起こすのが躊躇われ、「本人がいいならいいか」と目を瞑ることにした。
「それにしても……」
改めて周囲を見回した颯太。
日本ではお目にかかることのない圧倒的な大自然の迫力。
それはこの世界の第一印象でもあった。
「本当に凄い世界だよなぁ、ここは」
深呼吸をしてから呟いた。
思えば、すべてはこんな感じの森で、竜王レグジートと出会ったところから始まった。あの出会いはシャルルペトラによって仕組まれたものであったが、颯太にとって人生を丸ごとひっくり返されたような出来事となった。
見知らぬ世界で困っているところをキャロルに救われ、竜の言霊の力を買われてそのままリンスウッド・ファームのオーナーに就任。
それから、ソラン王国の内乱――ハルヴァ舞踏会――禁竜教の侵攻――ペルゼミネへの遠征――レイノアの領地不正譲渡問題――そして廃界への魔竜討伐。
楽しいことも辛いこともあった数ヶ月。
夢のような数ヶ月。
うだつの上がらない平凡なサラリーマンだった高峰颯太が、この世界では自分の居場所を見つけられた。ハドリーの話では、今回の魔竜討伐の件で、アルフォン王から勲章が贈られるという話も出ているらしい。
「まだ信じられないな」
自分がそこまでの人間なんて実感はない。
この世界へ来てからの颯太はとにかく懸命だった。
サラリーマン時代とは違い、こっちでの仕事は命の危険がある。実際、これまで何度も命の危険に晒された。それでもなぜだか嫌だという気持ちはなかった――この仕事で生きていくという決心があったからだ。
「ソータさん!」
これまでの思い出に浸っていた颯太の名前を叫ぶ声。
テオとルーカだ。
「テオ? それにルーカまで……一体どうしたんだ?」
「迎えに来たんですよ」
「そうそう」
初めて会った時はまだ新兵っぽい初々しさがあったふたりだが、颯太と共にさまざまな戦場を経験して立派に成長を遂げていた。何より、
「お? もう指輪をしているのか?」
「はい! 先日できたばかりなんですよ!」
「俺もです」
テオとルーカ。
ふたりの指にはシルバーの指輪が光っている。
これはいわゆる結婚指輪――婚約相手に指輪を贈るという習慣はこっちの世界でもあるらしかった。お相手は颯太が竜騎士とメイドで合コンをした際に参加していた女性で、颯太とも面識があった。
「まさかふたりに先を越されるとはな」
「これもソータさんのおかげですよ」
「あ、それと、リンスウッド分団のシュードさんたちも是非ソータさんと一緒に食事会へ参加したいと言っていました」
「……俺は幸運の置物扱いか?」
これではまるで縁起物だ。
笑って、颯太は踵を返した。
森の真ん中でお昼寝中の女王陛下を起こすためだ。
「迎えが来たぞ、シャルル」
「う~ん……」
夢の世界へ旅立ったままのシャルル。
しょうがないと颯太はその体を優しく抱き起こす――おんぶだ。
「馬車で来たんだろう?」
「ええ。お疲れと思い、中には毛布の用意も」
「助かるよ」
シャルルをおんぶした状態の颯太はテオとルーカの案内で森を出る。
眩い陽光に目を細めたその先――復興最中のドラゴレイズ王都にシャルルペトラの居城となるドラゴレイズ城が見える。
「作業は順調のようだな」
「ええ。フォレルガ以外にも協力を申し出てくれた民間団体がいくつかあったおかげで予定よりもだいぶ早いです」
「そうか……」
竜人族の頂点である竜王――その竜王シャルルペトラを女王とするドラゴンたちのための国がドラゴレイズである。
「その子が女王だなんて信じられませんね」
「そう言うなよ。ペルゼミネのシリング王だって若いじゃないか」
テオとルーカは「それもそうですね」と納得したようで、颯太に負けない笑顔を浮かべている。
「さて――」
颯太は森の外にとめられていた馬車にシャルルペトラを乗せると、一度外に出る。
その瞳の先にあるのは、
「帰ろう……俺たちのいるべき場所へ」
第二の故郷――ハルヴァだ。
※次回投稿は6月30日(土)午前6時~7時の予定――いよいよ最終回です。
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