おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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外伝長編(最終)  未来へ……

中編  祭りの夜

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※次回、いよいよシリーズ完結!!
 書籍版「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1・2巻発売中!!



 颯太がブリギッテを連れて実家に戻ると、それはもうこれまでにないくらいの大騒ぎとなった。
 両親からすれば、外見が明らかに外国人であるブリギッテに最初こそ委縮しまくりであったが、話が通じることと礼儀正しい女性であることが発覚したことであっという間に受け入れらた。
 特に母とはすっかり意気投合し、知らぬ間にアルバムを引っ張り出してきて颯太の過去について頼んでもいないのに大暴露をしていく。
 そんな母の暴走を止めつつ、颯太はブリギッテに日本の町を案内すると言って外へと連れ出したのだった。
 ――ちなみに、ふたりを連れてきたシャルルペトラは相変わらず梅干を食べていた。



「元気なお母様ね」
「元気すぎて困っているくらいだよ」

 ははは、と苦笑いを浮かべつつ、颯太はブリギッテをしっかりとエスコートして日本の街並みを見て回った。
 途中で大型のショッピングモールに立ち寄り、せっかくだからとこの世界の洋服をプレゼントすることに。すでに会社は辞めているので近くのATMからお金を下ろして――という流れもブリギッテには初めてのことなので最初からずっと戸惑いっぱなしだった。

 その姿を見た颯太は「失敗したかな」とちょっと後悔した。
 というのも、何もかもが初体験であるブリギッテにとっては逆にそれがストレスに感じてしまうこともあるのではないかと懸念したのだ。

――が、そんな懸念は杞憂だった。
すっかりショッピングモールを気に入ったブリギッテはゲームセンターやペットショップなどを見て回り、気がつけばすっかり夕暮れとなる頃まで満喫していた。

 そろそろ帰ろうかと提案しかけた時、前回帰省した際に購入したこの世界で使うためだけのスマホが鳴る。SNSを通して母親からメッセージが送られてきた。

「? ブリギッテに渡したい物があるから戻って来いだって」
「私に?」

 颯太とブリギッテは互いに顔を見合わせ、ほぼ同時に首を傾げた。
 ともかく、急を要する話のようなので、颯太とブリギッテは帰路に就いた。


  ◇◇◇


「はい! これでバッチリよ!」

 颯太の母がブリギッテに渡したかった物とは浴衣であった。
 縁日へ行くならこの衣装しかない、と颯太たちが出かけたあとで押入れをひっくり返す勢いで探したのだとか。

「ちょっと前に近所の奥様からいただいたのよ。本当はシャルルちゃんにと思ったんだけどサイズが大きくて困っていたのよね。あなたにピッタリでよかったわ」
「凄いですね……とても綺麗です」

 舞踏会の時に着ていたドレスに比べたら遥かに見劣りをする日本の浴衣。だが、それでも美人のブリギッテが着ればまるで別物に見えてくるから不思議だ。
 一方、浴衣を逃したシャルルペトラは少し拗ねてしまったようでそれを梅干しを食べることで発散させているようだった。

「ほら、何か言うことがあるんじゃないの!」

 ボーっと浴衣姿のブリギッテを眺めていたら母にせっつかれた。
 情けない、と思いつつ、颯太は素直な感想をブリギッテに告げた。

「似合っているよ、ブリギッテ」
「! あ、ありがとう……」

 照れ笑いを浮かべるブリギッテを連れて、颯太は縁日へ向かうため家を出た。



 とはいえ、その会場は実家と目と鼻の先にある。
 周囲には親子連れの姿もあり、とても賑やかな雰囲気となってきた。

「ハルヴァ王都のお祭りとはまた少し違った感じね」
「近いのは舞踏会の前夜祭かな」
「ああ、言われてみれば」
 
 何気ない会話に花を咲かせながら祭りの会場へ。
 道中、井出村康介ら同窓会で再会を果たした同級生たちにいじられたりもしたが、ブリギッテはとても楽しそうに会話を楽しんでいた。
 もちろん、縁日自体も大いにエンジョイしていた。
 金魚すくいに夢中となり、屋台で買った綿菓子をおいしそうに頬張っていた。

「私のいた世界ではなかった食べ物ばかりだわ!」
「確かに、ちょっと食文化は違うかもな」
「でもどれもおいしいわ!」

 テンション高めに語るブリギッテ。
 焼きそばにアメリカンドッグにイカ焼き――細身の彼女のどこに消えていくのだろうかと疑問に思ってしまうくらいよく食べる。それだけおいしいということなのだろうが。

「はあ~……満足したわ」

 とりあえずベンチで一休みをするふたりは、地球の日本と自分たちの世界の違いについて颯太にその感想を述べていた。

「とても平和なところね、あなたの故郷って」
「いや……割とそうでもないよ。今も世界のどこかでは戦争があるし、この国だって、凶悪な事件が起きることもある」
「そうなの? ……世界が違っても、根本的にやることは変わらないのね」

 残念そうに語るブリギッテを前に、颯太は「しまった」とまたも自身の行いを悔いた。
 暗い雰囲気になりかけたところで、沈黙を打ち破ったのは――空に咲く美しい火の花であった。

「わあ! こっちの世界にもあるのね」
「花火か……」

 ふたりは揃って空を見上げた。
 夜空に打ち上げられる色とりどりの花火。
 
「少しはあっちのお祭りの参考になったかな」
「そうね。戻ったら、考えましょう」
「ああ」

 そんなやりとりの最中も、ふたりの視線は空にあった。



 人間とドラゴンが平和に暮らす世界。
 颯太の思い描く未来を形作っていく――その第一歩となるハルヴァのドラゴン祭りはこれから始まる。
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