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レイノアの亡霊編
第138話 帰還
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「帰って来たな……」
旧レイノア王都から馬車に乗って数時間。
ちょうど昼頃に、颯太と竜人族たち(メア、ノエル、キルカ、トリストン)リンスウッド・ファームへと戻って来た。ハドリーの話では、ブリギッテやアンジェリカも、リンスウッドで颯太たちの帰りを待っているのだと言う。ちなみにカレンは外交局側の証人としてアイザックと共にハルヴァ城にいる。
牧場へ一歩足を踏み入れると、
「ソータ! よく生きてたな!」
先に帰還していたイリウスが颯太を見つけるなり叫んだ。その後から、
「縁起でもないこと言うんじゃないの」
「でも、本当に無事でよかったですよ」
リートとパーキースも、帰還したオーナーである颯太を出迎えた。
「ほれ、さっさとその顔をお嬢たちに見せてきな。みんなおまえの帰りを今か今かと心待ちしているんだぜ? やったな色男」
イリウスに小突かれながら、颯太は言われた通り家へと向かう。ただ、なんとなく心がくすぐったいような、変な緊張感があってなかなか家に入ることができなかった。メアたちに「早く開けて入ろう」と急かされて、颯太はようやくノブに手をかけた。
「ただいま」
ドアを開けると、
「ソータさん!?」
まず大声で反応したのはマキナを抱きかかえたキャロルだった。それから、
「おかえりなさい」
「今回も相当なご活躍だったみたいですわね」
ブリギッテとアンジェリカは落ち着いたものだった。
「魔族とも遭遇したと聞いたからもしかしたらって心配したけど……強運と言ったらいいのかしらね」
「俺も何度かダメかもしれないって思ったけど、意外となんとかなるもんだよ」
「あまり楽天的に考えられても困りますわね。今回はたまたま運が良かったというだけかもしれないのに」
アンジェリカに言われ、苦笑いの颯太。
馬車の中では疲労困憊で爆睡していたが、家に帰ってきたらスッと疲れが消え去り、みんなと談笑できている。
本当はすぐにでも寝ようと決めていたが、そんな気も薄れてしまった。
「ところで、これからの予定はどうなっているの?」
「一応、明日朝一で城へ行く。……スウィーニー大臣が王国議会ですべてを洗いざらい話すはずだから」
「見届け人のひとりに選ばれたのね。――アンは?」
「わたくしは呼ばれていませんわ。まあ、あとで報告を受けると思いますが」
「たぶん私もそっち方面ね。カレンやアイザックほど、今回の事件に関与しているわけじゃないし」
とりあえず、明日城へ行くのは颯太だけのようだ。
「スウィーニー大臣は……どうしてレイノアを奪うようなマネをしたのかしらね」
何気なくブリギッテが放ったひと言。
その答えを求めて、明日の王国議会は開かれる。
この議会には、エインとダリス女王も招かれていた。
スウィーニーには、彼らの前で真実を語ってもらう手筈となっており、その後で正式にアルフォン王から領地返還についての話し合いがもたれることになっている。
アルフォン王にはアイザックやブロドリックからスウィーニーの企みに関するあらゆる証拠が提出されていた。
スウィーニーに対して、アルフォン王は絶大な信頼を寄せていただけに、当初は「何かの間違いではないか?」と疑っていたが、証拠の数――中でも、ジャービスら元レイノア外交局の人間たちへ支払ったとされる不正な金の出所が判明すると、「認めざるを得ない、か」と力なく語った。
「スウィーニー大臣は、わたくしが小さかった頃から国政において特別な地位に立つ人間という認識を持たれていました……それが、裏でそのような卑劣な行為に及んでいたなんて」
「ハルヴァ国民に与える影響も強いわよね」
影響――それは、国民の外交局に対しての不信感だろう。
飢饉を救った英雄の不祥事。
それも、単独ではなく、外交局全体を巻き込んだ組織ぐるみの不正であったことが、より悪印象を与えてしまっている。
このイメージを払しょくするのは並大抵のことではない。
次期外交大臣筆頭候補であるレフティは、就任直後からこの大問題へ立ち向かっていかなくてはならないのだ。
「レフティさんも大変ね」
「……でも、レフティさんは支配ではなく共に生きる道を選んだ」
それが何よりの光明だった。
馬車の中で話を聞いた限りでは、アルフォン王もレイノアへの経済支援に前向きな姿勢を見せているという。
ゆっくりではあるが、着実に現状は変わりつつある。
「ソータさん、今日はゆっくりしてください。ベッドの用意もできていますから」
「ああ……そうさせてもらうよ。ありがとう、キャロル」
「私たちも今日は解散にしましょうか」
「そうですわね。ソータさんの無事も確認できましたし、わたくしもそろそろ自分の牧場へ戻らないと。――行きますわよ、キルカ」
アンジェリカはキルカを呼び寄せ、一緒にマーズナー・ファームへと戻って行った。それを見送った後で、ブリギッテも自分の病院へ帰った。
途端にシンと静まり返る。
キャロルは午後からの仕事に出かけ、颯太は2階の自室にあるベッドで横になり、旧レイノア王都での出来事を思い出していた。
「本当に……生き延びているのが奇跡だよ」
森の中で獣人族や魔族に囲まれた時はもうダメだと思ったが、こうして生き抜いてまたハルヴァに戻って来られた。
生きている実感を噛みしめるように、颯太はまぶたを閉じて深い眠りへと落ちて行った。
◇◇◇
翌朝。
城へ向かおうと早朝から準備をする颯太のもとへ、
「「おはようございます」」
もはやすっかり伝達役が板についてきたテオとルーカが迎えに来ていた。
「ああ、おはよう。それにしても、随分と早いな」
「実は……お伝えしたいことがありまして」
神妙な面持ちのふたり。
一体何があったのかとたずねると、ルーカが重々しく口を開いた。
「落ち着いて聞いてくださいね」
「あ、ああ」
「スウィーニー大臣が――倒れました」
旧レイノア王都から馬車に乗って数時間。
ちょうど昼頃に、颯太と竜人族たち(メア、ノエル、キルカ、トリストン)リンスウッド・ファームへと戻って来た。ハドリーの話では、ブリギッテやアンジェリカも、リンスウッドで颯太たちの帰りを待っているのだと言う。ちなみにカレンは外交局側の証人としてアイザックと共にハルヴァ城にいる。
牧場へ一歩足を踏み入れると、
「ソータ! よく生きてたな!」
先に帰還していたイリウスが颯太を見つけるなり叫んだ。その後から、
「縁起でもないこと言うんじゃないの」
「でも、本当に無事でよかったですよ」
リートとパーキースも、帰還したオーナーである颯太を出迎えた。
「ほれ、さっさとその顔をお嬢たちに見せてきな。みんなおまえの帰りを今か今かと心待ちしているんだぜ? やったな色男」
イリウスに小突かれながら、颯太は言われた通り家へと向かう。ただ、なんとなく心がくすぐったいような、変な緊張感があってなかなか家に入ることができなかった。メアたちに「早く開けて入ろう」と急かされて、颯太はようやくノブに手をかけた。
「ただいま」
ドアを開けると、
「ソータさん!?」
まず大声で反応したのはマキナを抱きかかえたキャロルだった。それから、
「おかえりなさい」
「今回も相当なご活躍だったみたいですわね」
ブリギッテとアンジェリカは落ち着いたものだった。
「魔族とも遭遇したと聞いたからもしかしたらって心配したけど……強運と言ったらいいのかしらね」
「俺も何度かダメかもしれないって思ったけど、意外となんとかなるもんだよ」
「あまり楽天的に考えられても困りますわね。今回はたまたま運が良かったというだけかもしれないのに」
アンジェリカに言われ、苦笑いの颯太。
馬車の中では疲労困憊で爆睡していたが、家に帰ってきたらスッと疲れが消え去り、みんなと談笑できている。
本当はすぐにでも寝ようと決めていたが、そんな気も薄れてしまった。
「ところで、これからの予定はどうなっているの?」
「一応、明日朝一で城へ行く。……スウィーニー大臣が王国議会ですべてを洗いざらい話すはずだから」
「見届け人のひとりに選ばれたのね。――アンは?」
「わたくしは呼ばれていませんわ。まあ、あとで報告を受けると思いますが」
「たぶん私もそっち方面ね。カレンやアイザックほど、今回の事件に関与しているわけじゃないし」
とりあえず、明日城へ行くのは颯太だけのようだ。
「スウィーニー大臣は……どうしてレイノアを奪うようなマネをしたのかしらね」
何気なくブリギッテが放ったひと言。
その答えを求めて、明日の王国議会は開かれる。
この議会には、エインとダリス女王も招かれていた。
スウィーニーには、彼らの前で真実を語ってもらう手筈となっており、その後で正式にアルフォン王から領地返還についての話し合いがもたれることになっている。
アルフォン王にはアイザックやブロドリックからスウィーニーの企みに関するあらゆる証拠が提出されていた。
スウィーニーに対して、アルフォン王は絶大な信頼を寄せていただけに、当初は「何かの間違いではないか?」と疑っていたが、証拠の数――中でも、ジャービスら元レイノア外交局の人間たちへ支払ったとされる不正な金の出所が判明すると、「認めざるを得ない、か」と力なく語った。
「スウィーニー大臣は、わたくしが小さかった頃から国政において特別な地位に立つ人間という認識を持たれていました……それが、裏でそのような卑劣な行為に及んでいたなんて」
「ハルヴァ国民に与える影響も強いわよね」
影響――それは、国民の外交局に対しての不信感だろう。
飢饉を救った英雄の不祥事。
それも、単独ではなく、外交局全体を巻き込んだ組織ぐるみの不正であったことが、より悪印象を与えてしまっている。
このイメージを払しょくするのは並大抵のことではない。
次期外交大臣筆頭候補であるレフティは、就任直後からこの大問題へ立ち向かっていかなくてはならないのだ。
「レフティさんも大変ね」
「……でも、レフティさんは支配ではなく共に生きる道を選んだ」
それが何よりの光明だった。
馬車の中で話を聞いた限りでは、アルフォン王もレイノアへの経済支援に前向きな姿勢を見せているという。
ゆっくりではあるが、着実に現状は変わりつつある。
「ソータさん、今日はゆっくりしてください。ベッドの用意もできていますから」
「ああ……そうさせてもらうよ。ありがとう、キャロル」
「私たちも今日は解散にしましょうか」
「そうですわね。ソータさんの無事も確認できましたし、わたくしもそろそろ自分の牧場へ戻らないと。――行きますわよ、キルカ」
アンジェリカはキルカを呼び寄せ、一緒にマーズナー・ファームへと戻って行った。それを見送った後で、ブリギッテも自分の病院へ帰った。
途端にシンと静まり返る。
キャロルは午後からの仕事に出かけ、颯太は2階の自室にあるベッドで横になり、旧レイノア王都での出来事を思い出していた。
「本当に……生き延びているのが奇跡だよ」
森の中で獣人族や魔族に囲まれた時はもうダメだと思ったが、こうして生き抜いてまたハルヴァに戻って来られた。
生きている実感を噛みしめるように、颯太はまぶたを閉じて深い眠りへと落ちて行った。
◇◇◇
翌朝。
城へ向かおうと早朝から準備をする颯太のもとへ、
「「おはようございます」」
もはやすっかり伝達役が板についてきたテオとルーカが迎えに来ていた。
「ああ、おはよう。それにしても、随分と早いな」
「実は……お伝えしたいことがありまして」
神妙な面持ちのふたり。
一体何があったのかとたずねると、ルーカが重々しく口を開いた。
「落ち着いて聞いてくださいね」
「あ、ああ」
「スウィーニー大臣が――倒れました」
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