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番外編 西の都の癒しツアー?
第152話 安らぎの湯
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「おお!」
風呂場を訪れた颯太は思わず声をあげた。
公共の風呂ということで複数人が入れるよう設計されたそこは、まさに颯太が見慣れた温泉そのものだった。
「床なんて見た目は檜そのものだな……なんて名前の木なんだろう」
あまりにもそっくりなものだからついつい見入ってしまった颯太だが、周りをじっくりと観察するように眺めているうちに、
「…………」
ふと、ある疑問が湧き上がってきた。
あまりにも似過ぎていないか?
この世界は明らかに颯太のいた世界と違う。
それはもう何度も確認してきたことだ。
魔法とかドラゴンとか、元いた世界ではファンタジーの世界でしかその存在を認められないようなものが当たり前のようにいる――それが何よりの証拠だ。
しかし、ダステニアにある宿。
今思い出してみても、内装や湯浴みのデザインは颯太のいた世界の温泉宿と酷似している部分が多い。
これは果たして偶然だろうか。
仮に、偶然じゃないとしたら――そうなると、話は複雑になってくる。
この宿を作った者は颯太の世界の情報を知っている可能性がある。
「――なーんて、考え過ぎか」
そんなわけがないと笑い飛ばすと軽く体をお湯で洗い流してから浴槽につかる。
だが、思い返してみたら自分自身の存在がその仮説を証明する物的証拠じゃないのかと颯太は考え始めていた。
そもそも、なぜ自分はこの世界に来たのか。
退職届を懐に忍ばせて、パワハラ三昧だったあの部長の顔面に叩きつけてやると息巻いていつもの通勤ラッシュへ飛び込もうとした矢先、クラッと立ちくらみのような症状が出たかと思うとこの世界の地を踏んでいた。
颯太がこの世界へやって来たのは誰かの導きなのか。
それとも、神の気まぐれなのか。
「…………」
浮かび上がった可能性を消し去るようにバシャッと湯を顔にかけた。肌を伝って水滴は湯に戻るが、その考えだけは今も鮮明に頭の中で渦巻いている。
「俺は……誰かに呼ばれたのか?」
そう仮定するなら、誰が、何の目的で颯太をこの世界へ呼んだのか。
もしかしたら、竜王レグジートとの出会いさえ、その召喚した者によって仕組まれていたのかもしれない。
自分の境遇を改めて振り返った颯太は、その影に何か巨大な存在が隠れているのではないかと疑い、その表情は強張っていったのだが、
「――うん?」
フッと鼻腔をくすぐる香りに、全身から力みが取り除かれていくような感覚になる。固まった体がほぐされていく――一体何が起こったのかと辺りを見回すと、
「いかがですか? 緊張を緩和する香りなのですが」
丁寧な物腰と柔らかな口調。
腰まで伸びた長い水色の髪をした女の子が、いつの間にか風呂場の中にいた。
「えっ!?」
颯太は慌てふためく。
もしや男風呂と女風呂を間違えたかと焦ったが、すぐにその少女が訂正する。
「ここは男湯ですよ。私はオーバ先生に頼まれてあなたの疲れを癒しに来たのです」
「オーバ先生に? ――あ」
冷静さを取り戻した颯太は少女の容姿からその正体を見破る。
「君は竜人族なのか」
「はい。《香竜》レプレンタスと申します。レプレとお呼びください」
外見年齢はメアたちと変わらないが、その態度はまるで大人の女性のように落ち着き払っていた。
――ただ、現在颯太は素っ裸。
いくら竜人族とはいえ、今の見た目は人間の少女となんら変わらないのでさすがにこの格好のままではまずいかと思ったが、リラックス効果のあるこのフローラルな香りに包まれていると、そんなことがどうでもよく感じられてしまう。
「この香り……これが君の能力か?」
「はい。この長い髪には人やドラゴンなどの感情に働きかける香りを出すことができます。今は肩の力を抜いてまったりできる香りを流していますが、どうですか?」
「絶大な効果だよ……」
「そのようですね♪」
明らかに全身が弛緩している颯太の様子を見たレプレは満足そうに笑う。
「私は竜人族でありながら戦うことが苦手なので、こういった形でみなさんの力になれるのはとても嬉しいんです」
レプレはメアやキルカのような戦闘特化型ではなく、ペルゼミネのミルフォードとレアフォード姉妹のような非戦闘タイプの能力を有しているらしい。
颯太は、先ほど浮かんだ疑問を投げかけてみた。
「ここの宿は随分と独特な雰囲気をしているけど、何か参考にした場所とかあるのかな?」
「うーん……聞いたことはありませんが――あ、そういえば」
何かを思い出したのか、レプレはポンと手を叩いて、
「オーナーのリーさんはこの宿の構想を描いたのは自分ではなく別の人だという話を聞いたことがあります。自分はその構想を譲ってもらって作ったのだと」
「別の人……」
それも気にかかるが、この施設もあのリー・ラフマンが絡んでいる物件だったのか。ダステニアにとっては欠かすことのできない重要人物なのだろう。
そのリー・ラフマンは、この宿を作る際にある人物からアドバイス――構想を譲ってもらって、その構想通りに作ったのがこの宿ということらしい。
「まさか……」
真っ先に浮かんできたのは――未だに謎の行動が多いランスロー王子であった。
特に関連性があるわけではない。
インスピレーションというべきか、ともかく、レプレとの会話を終えて真っ先に浮かんできたのがランスローとナインレウスだったのだ。
「しかし、なんでまた……」
「あ、また難しい顔をしていますよ!」
「おっと」
ちょっと油断するとすぐに力んでしまう。
職業病というか持って生まれた癖というか。
自分自身に呆れながらも、レプレンタスの出してくれる香りに心身とも癒される颯太なのであった。
風呂場を訪れた颯太は思わず声をあげた。
公共の風呂ということで複数人が入れるよう設計されたそこは、まさに颯太が見慣れた温泉そのものだった。
「床なんて見た目は檜そのものだな……なんて名前の木なんだろう」
あまりにもそっくりなものだからついつい見入ってしまった颯太だが、周りをじっくりと観察するように眺めているうちに、
「…………」
ふと、ある疑問が湧き上がってきた。
あまりにも似過ぎていないか?
この世界は明らかに颯太のいた世界と違う。
それはもう何度も確認してきたことだ。
魔法とかドラゴンとか、元いた世界ではファンタジーの世界でしかその存在を認められないようなものが当たり前のようにいる――それが何よりの証拠だ。
しかし、ダステニアにある宿。
今思い出してみても、内装や湯浴みのデザインは颯太のいた世界の温泉宿と酷似している部分が多い。
これは果たして偶然だろうか。
仮に、偶然じゃないとしたら――そうなると、話は複雑になってくる。
この宿を作った者は颯太の世界の情報を知っている可能性がある。
「――なーんて、考え過ぎか」
そんなわけがないと笑い飛ばすと軽く体をお湯で洗い流してから浴槽につかる。
だが、思い返してみたら自分自身の存在がその仮説を証明する物的証拠じゃないのかと颯太は考え始めていた。
そもそも、なぜ自分はこの世界に来たのか。
退職届を懐に忍ばせて、パワハラ三昧だったあの部長の顔面に叩きつけてやると息巻いていつもの通勤ラッシュへ飛び込もうとした矢先、クラッと立ちくらみのような症状が出たかと思うとこの世界の地を踏んでいた。
颯太がこの世界へやって来たのは誰かの導きなのか。
それとも、神の気まぐれなのか。
「…………」
浮かび上がった可能性を消し去るようにバシャッと湯を顔にかけた。肌を伝って水滴は湯に戻るが、その考えだけは今も鮮明に頭の中で渦巻いている。
「俺は……誰かに呼ばれたのか?」
そう仮定するなら、誰が、何の目的で颯太をこの世界へ呼んだのか。
もしかしたら、竜王レグジートとの出会いさえ、その召喚した者によって仕組まれていたのかもしれない。
自分の境遇を改めて振り返った颯太は、その影に何か巨大な存在が隠れているのではないかと疑い、その表情は強張っていったのだが、
「――うん?」
フッと鼻腔をくすぐる香りに、全身から力みが取り除かれていくような感覚になる。固まった体がほぐされていく――一体何が起こったのかと辺りを見回すと、
「いかがですか? 緊張を緩和する香りなのですが」
丁寧な物腰と柔らかな口調。
腰まで伸びた長い水色の髪をした女の子が、いつの間にか風呂場の中にいた。
「えっ!?」
颯太は慌てふためく。
もしや男風呂と女風呂を間違えたかと焦ったが、すぐにその少女が訂正する。
「ここは男湯ですよ。私はオーバ先生に頼まれてあなたの疲れを癒しに来たのです」
「オーバ先生に? ――あ」
冷静さを取り戻した颯太は少女の容姿からその正体を見破る。
「君は竜人族なのか」
「はい。《香竜》レプレンタスと申します。レプレとお呼びください」
外見年齢はメアたちと変わらないが、その態度はまるで大人の女性のように落ち着き払っていた。
――ただ、現在颯太は素っ裸。
いくら竜人族とはいえ、今の見た目は人間の少女となんら変わらないのでさすがにこの格好のままではまずいかと思ったが、リラックス効果のあるこのフローラルな香りに包まれていると、そんなことがどうでもよく感じられてしまう。
「この香り……これが君の能力か?」
「はい。この長い髪には人やドラゴンなどの感情に働きかける香りを出すことができます。今は肩の力を抜いてまったりできる香りを流していますが、どうですか?」
「絶大な効果だよ……」
「そのようですね♪」
明らかに全身が弛緩している颯太の様子を見たレプレは満足そうに笑う。
「私は竜人族でありながら戦うことが苦手なので、こういった形でみなさんの力になれるのはとても嬉しいんです」
レプレはメアやキルカのような戦闘特化型ではなく、ペルゼミネのミルフォードとレアフォード姉妹のような非戦闘タイプの能力を有しているらしい。
颯太は、先ほど浮かんだ疑問を投げかけてみた。
「ここの宿は随分と独特な雰囲気をしているけど、何か参考にした場所とかあるのかな?」
「うーん……聞いたことはありませんが――あ、そういえば」
何かを思い出したのか、レプレはポンと手を叩いて、
「オーナーのリーさんはこの宿の構想を描いたのは自分ではなく別の人だという話を聞いたことがあります。自分はその構想を譲ってもらって作ったのだと」
「別の人……」
それも気にかかるが、この施設もあのリー・ラフマンが絡んでいる物件だったのか。ダステニアにとっては欠かすことのできない重要人物なのだろう。
そのリー・ラフマンは、この宿を作る際にある人物からアドバイス――構想を譲ってもらって、その構想通りに作ったのがこの宿ということらしい。
「まさか……」
真っ先に浮かんできたのは――未だに謎の行動が多いランスロー王子であった。
特に関連性があるわけではない。
インスピレーションというべきか、ともかく、レプレとの会話を終えて真っ先に浮かんできたのがランスローとナインレウスだったのだ。
「しかし、なんでまた……」
「あ、また難しい顔をしていますよ!」
「おっと」
ちょっと油断するとすぐに力んでしまう。
職業病というか持って生まれた癖というか。
自分自身に呆れながらも、レプレンタスの出してくれる香りに心身とも癒される颯太なのであった。
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