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番外編 西の都の癒しツアー?
第153話 暗雲
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「食堂はこちらになります」
風呂上がりの颯太はレプレに案内されて宴の会場となっている大食堂へと案内される。そこではすでに酒盛りが展開されていた。
あっちからこっちから大きな笑い声が響く。
ハルヴァとダステニアの騎士たちはリラックスし、楽しいムードで宴を満喫しているようだった。
「賑やかというかなんというか……」
「でも、こんなに大騒ぎしているのは珍しいですよ」
「うーん……やっぱレイノアでの一件で肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたんだろうなって思うと、この弾けっぷりは理解できるけど」
国の一大事に、騎士として最前線で戦い続けた者たちにとって、今という安息の時をこれでもかというほど味わいたい――それが本音だろう。
颯太は、以前ハドリーが言っていた言葉を思い出した。
『4大国家間で同盟が結ばれ、人間同士による戦争がなくなった――俺はそれがたまらなくうれしかった。騎士として、戦いに背を向けるような思考は避けるべきなのだが、やはり人間同士で殺し合うのは好きになれん』
かつて、ハルヴァはペルゼミネとガドウィンと敵対関係にあった。
それが、魔族の登場により同盟を組むこととなり、今はそれぞれの国が協力をし合って魔族掃討作戦へ向けて着々と準備を進めている。
「魔族、か……」
中学生の休み時間みたいな騒がしさの中で、颯太は静かに考えを巡らせる。
その中心にあったのは馬車の中での会話。
かつて、4大王国の中心に位置していた、今は亡き中央領オロム。
魔法で栄えたこの国が、魔族を生み出した元凶として語られている。
だが、裏を返せば、オロムが魔族を生み出したから4大王国が手を取り合い、戦争を終結させて協力体制を取るようになったとも受け取れる。
なぜ、オロムは魔族なんて生み出したのだろう。
オロムに関する情報のほとんどは存在せず、半ば伝説めいた存在として現在まで伝わっている。恐らく、詳細を知る者は生きてはいないだろう。
しかし、颯太はどうしてもオロムと魔族の関係が気になっていた。
「難しい顔してどうしたのよ」
深い思考のスパイラルに陥っていた颯太の顔をのぞき込んできたのはブリギッテだった。
「どわっ!」
「何よ、人の顔見てそんなに驚くなんて」
「い、いきなりだったから……」
「ふーん……まあ、いいわ。盛り上がっているみたいじゃない」
「盛り上がっているというか……」
だんだん悪酔いみたいになってきた。
それでも、ジェイクをはじめとする一部の護衛騎士は酒を控えて食事のみを楽しんでいるようだ。あれだけ騒がれたら誘惑に負けそうなものだが、そこは国を守る騎士だけあってきちんと気持ちを切り替えられている。
「わたくしたちも食事としましょうか」
「こんなに賑やかな食卓は初めてです!」
「わたくしもですわ」
いつの間にか颯太の横に立っていたアンジェリカとキャロルだが、すぐに颯太たちを抜き去って食卓につく。ふたりも腹ペコのようだ。
「私たちも行きましょう」
「ああ」
「さあて、今日は飲むわよ!」
「そうだ――な」
颯太の脳裏に苦い記憶がよみがえる。
テオ、ルーカと共に挑んだ人生初の異世界合コン。
そこにこっそり参加していたブリギッテは、酷い酒癖で参加者たちも困惑させていた。なんの因果か、この場にはその時の参加者であるテオとルーカもいる。
「あ、あのさ、ブリギッテ」
「何?」
「あまり飲み過ぎないようにな」
「わかっているわよ」
そう言いながら、グラスからこぼれんばかりに酒を注ぐブリギッテ。
「……まあ、周りも騒々しいから酷さは相殺されるかもな」
「? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
この場では言わないでおくが、今度もう少し酒を控えるように忠告しておいた方がよさそうだと判断した。今日くらいは、好きなだけ飲ませてあげよう。
颯太たちがテーブルへつくと、すぐさま料理が運ばれてくる。ダステニアの郷土料理らしいが、見た目は限りなく中華料理だった。
「これはエビチリっぽいな」
日本では中華料理屋でも高価な部類に入るエビチリ。サラリーマン時代によく通った中華屋では、いつもラーメンと小ライスを頼んでいたが、月に一度だけ、給料日の帰りはエビチリ定食を頼むのが自分へのご褒美だった。
――という過去を持つ颯太にとって、この世界でも似たような料理に巡り合えたことは何か運命めいたものを感じてしまう。
「どれどれ」
ひとつ取って口に含む。
口内に広がるピリッとした辛さとエビ(のようなもの)がよくマッチしている。
ペルゼミネやガドウィンでも食事をしてきたが、颯太の好みとしてはこのダステニアの料理が一番合っていた。
「ソータ」
ダステニアの料理に舌鼓を打っていた颯太へ声をかけたのはジェイクだった。
「ちょっといいか」
「は、はい」
この騒がしい会場ではできない話らしい。
ブリギッテたちに少し席をはずすことを伝えて、颯太とジェイクは食堂を出る。
「何かあったんですか?」
「……大きい声は出すなよ」
ジェイクは真面目な顔つきで颯太に告げる。
その眼差しに、颯太は事態の重要さを見抜いて気を引き締める。
「緊急事態ですか?」
「断言はできない。その可能性があるというだけだが……おまえにも関係の深い話だから今のうちに言っておく」
ジェイクは指をクイクイと曲げる――もう少し顔を近づけろという合図だ。
そのジェスチャーに従って近づくと、
「シャオ・ラフマンが行方不明らしい」
「!?」
驚きのあまり声が出そうになるのを寸前のところで食い止めた。
「どういうことですか?」
「詳細は不明だが、この食事会にも参加していない。――それどころか、リー学園長の姿も見えなかったから部下を使って調べさせた」
「その結果は?」
「行方不明というのはちょっと語弊があるかもしれないから訂正するが――シャオ・ラフマンが本来いるべき場所にいないということは間違いないようだ。騒ぎにならないよう静かに行動しているが、専属の従者たちは明らかに困惑し、何かを探している」
「その探しているのがシャオ・ラフマンだと?」
「騎士のひとりが従者同士の会話を聞いたんだ。いなくなったのはほぼ間違いないだろう」
姿をくらましたシャオ・ラフマン。
そして、父親であり、お見合いの仕掛け人であるリー・ラフマンもいない。
ダステニアでのお見合い話は、なんとも不吉な風に煽られ始めていた。
風呂上がりの颯太はレプレに案内されて宴の会場となっている大食堂へと案内される。そこではすでに酒盛りが展開されていた。
あっちからこっちから大きな笑い声が響く。
ハルヴァとダステニアの騎士たちはリラックスし、楽しいムードで宴を満喫しているようだった。
「賑やかというかなんというか……」
「でも、こんなに大騒ぎしているのは珍しいですよ」
「うーん……やっぱレイノアでの一件で肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたんだろうなって思うと、この弾けっぷりは理解できるけど」
国の一大事に、騎士として最前線で戦い続けた者たちにとって、今という安息の時をこれでもかというほど味わいたい――それが本音だろう。
颯太は、以前ハドリーが言っていた言葉を思い出した。
『4大国家間で同盟が結ばれ、人間同士による戦争がなくなった――俺はそれがたまらなくうれしかった。騎士として、戦いに背を向けるような思考は避けるべきなのだが、やはり人間同士で殺し合うのは好きになれん』
かつて、ハルヴァはペルゼミネとガドウィンと敵対関係にあった。
それが、魔族の登場により同盟を組むこととなり、今はそれぞれの国が協力をし合って魔族掃討作戦へ向けて着々と準備を進めている。
「魔族、か……」
中学生の休み時間みたいな騒がしさの中で、颯太は静かに考えを巡らせる。
その中心にあったのは馬車の中での会話。
かつて、4大王国の中心に位置していた、今は亡き中央領オロム。
魔法で栄えたこの国が、魔族を生み出した元凶として語られている。
だが、裏を返せば、オロムが魔族を生み出したから4大王国が手を取り合い、戦争を終結させて協力体制を取るようになったとも受け取れる。
なぜ、オロムは魔族なんて生み出したのだろう。
オロムに関する情報のほとんどは存在せず、半ば伝説めいた存在として現在まで伝わっている。恐らく、詳細を知る者は生きてはいないだろう。
しかし、颯太はどうしてもオロムと魔族の関係が気になっていた。
「難しい顔してどうしたのよ」
深い思考のスパイラルに陥っていた颯太の顔をのぞき込んできたのはブリギッテだった。
「どわっ!」
「何よ、人の顔見てそんなに驚くなんて」
「い、いきなりだったから……」
「ふーん……まあ、いいわ。盛り上がっているみたいじゃない」
「盛り上がっているというか……」
だんだん悪酔いみたいになってきた。
それでも、ジェイクをはじめとする一部の護衛騎士は酒を控えて食事のみを楽しんでいるようだ。あれだけ騒がれたら誘惑に負けそうなものだが、そこは国を守る騎士だけあってきちんと気持ちを切り替えられている。
「わたくしたちも食事としましょうか」
「こんなに賑やかな食卓は初めてです!」
「わたくしもですわ」
いつの間にか颯太の横に立っていたアンジェリカとキャロルだが、すぐに颯太たちを抜き去って食卓につく。ふたりも腹ペコのようだ。
「私たちも行きましょう」
「ああ」
「さあて、今日は飲むわよ!」
「そうだ――な」
颯太の脳裏に苦い記憶がよみがえる。
テオ、ルーカと共に挑んだ人生初の異世界合コン。
そこにこっそり参加していたブリギッテは、酷い酒癖で参加者たちも困惑させていた。なんの因果か、この場にはその時の参加者であるテオとルーカもいる。
「あ、あのさ、ブリギッテ」
「何?」
「あまり飲み過ぎないようにな」
「わかっているわよ」
そう言いながら、グラスからこぼれんばかりに酒を注ぐブリギッテ。
「……まあ、周りも騒々しいから酷さは相殺されるかもな」
「? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
この場では言わないでおくが、今度もう少し酒を控えるように忠告しておいた方がよさそうだと判断した。今日くらいは、好きなだけ飲ませてあげよう。
颯太たちがテーブルへつくと、すぐさま料理が運ばれてくる。ダステニアの郷土料理らしいが、見た目は限りなく中華料理だった。
「これはエビチリっぽいな」
日本では中華料理屋でも高価な部類に入るエビチリ。サラリーマン時代によく通った中華屋では、いつもラーメンと小ライスを頼んでいたが、月に一度だけ、給料日の帰りはエビチリ定食を頼むのが自分へのご褒美だった。
――という過去を持つ颯太にとって、この世界でも似たような料理に巡り合えたことは何か運命めいたものを感じてしまう。
「どれどれ」
ひとつ取って口に含む。
口内に広がるピリッとした辛さとエビ(のようなもの)がよくマッチしている。
ペルゼミネやガドウィンでも食事をしてきたが、颯太の好みとしてはこのダステニアの料理が一番合っていた。
「ソータ」
ダステニアの料理に舌鼓を打っていた颯太へ声をかけたのはジェイクだった。
「ちょっといいか」
「は、はい」
この騒がしい会場ではできない話らしい。
ブリギッテたちに少し席をはずすことを伝えて、颯太とジェイクは食堂を出る。
「何かあったんですか?」
「……大きい声は出すなよ」
ジェイクは真面目な顔つきで颯太に告げる。
その眼差しに、颯太は事態の重要さを見抜いて気を引き締める。
「緊急事態ですか?」
「断言はできない。その可能性があるというだけだが……おまえにも関係の深い話だから今のうちに言っておく」
ジェイクは指をクイクイと曲げる――もう少し顔を近づけろという合図だ。
そのジェスチャーに従って近づくと、
「シャオ・ラフマンが行方不明らしい」
「!?」
驚きのあまり声が出そうになるのを寸前のところで食い止めた。
「どういうことですか?」
「詳細は不明だが、この食事会にも参加していない。――それどころか、リー学園長の姿も見えなかったから部下を使って調べさせた」
「その結果は?」
「行方不明というのはちょっと語弊があるかもしれないから訂正するが――シャオ・ラフマンが本来いるべき場所にいないということは間違いないようだ。騒ぎにならないよう静かに行動しているが、専属の従者たちは明らかに困惑し、何かを探している」
「その探しているのがシャオ・ラフマンだと?」
「騎士のひとりが従者同士の会話を聞いたんだ。いなくなったのはほぼ間違いないだろう」
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