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番外編 西の都の癒しツアー?
第154話 再会
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「姿を消したという理由は……やっぱり、このお見合いに乗り気ではなかったということでしょうか」
「俺も最初はそう考えた。ここは学園というだけあって、同年代の子が多い。今回の一件は父親の早とちりで娘にはもう恋人がいた、とか」
本当にいなくなったとするならその可能性が限りなく高い。
或は、
「誘拐という線はありませんか?」
「まあ、大富豪の娘だし、あり得ない話じゃないが……それならさすがにもっと騒ぎにするだろうしな」
ジェイクの指摘はもっともだった。
ダステニアでも重要な人物であるリー学園長の娘が誘拐とあったら、今食堂で展開されているようなバカ騒ぎなどできないだろう。
それでも、ダステニアの騎士たちが一緒になって騒いでいるところを見るに、まだ彼らにはその事実を知らされていないようだ。
「或は、俺たちに気を遣っているのかもな」
「え?」
「娘はソータに惚れていると思ってお見合いをセッティングしたが、実は娘にはすでに心に決めた人がいた。娘は父親の勝手な行動に怒って出て行ったって線もあり得る」
颯太も同意見だった。
「ともかく、俺はリー学園長を探し出してそれとなく聞き出してみる。呼び出してすまなかったな。おまえは食事を楽しんでくれ」
「俺も手伝いますよ」
「申し出はありがたいが、おまえはこの機会を利用してゆっくり休め。リンスウッドに来てからずっと働きづめだったろう?」
「それを言うならジェイクさんも」
「俺はそういう仕事だからいいんだよ。おまえの場合は牧場のオーナーという仕事だけではなく、国政にも大きな影響を及ぼす大事件を解決に導いて来た……その疲れをしっかり癒してくれ」
ジェイクは颯太の肩を優しくポンと叩いた。
ジェイクの言う通り、颯太はここまで明らかにオーバーワークだった。
「おまえにはソラン王国の件で命を助けられた。そんなおまえが、働き過ぎでぶっ倒れてそのまま死んだなんてことになったら、俺は生涯後悔し続けるだろうからな。とりあえず、シャオのことは俺に任せておけ。何かわかったらまた知らせる」
「ジェイクさん……ありがとうございます」
「じゃあ後でな」と言い残して、ジェイクはリー学園長を探しに行く。
颯太はジェイクの気遣いを無駄にしないよう、回れ右をして食堂へ。
正直なところ、お見合いの話がご破算になるかもしれないとわかってホッとしていた。自分が結婚とか、これっぽっちも考えていなかった。きっと一生独身なんだろうなと腹を括っていた。
そんなところへ降って湧いたお見合い話。
喜ぶとか浮かれるとか、そんな感情よりも先に浮かび上がったのは戸惑いだった。
今の颯太にはハルヴァのこれからしか頭にない。
特に、レイノアが国家として生き返った今、そちらへの援助の話も出てきている。颯太もできる限りそれに協力するつもりで、お見合い話がなければレフティ大臣とその件について話の場を持ちたいとカレン経由で伝えていた。
「たしかに、こっちへ来てからずっと働いているよなぁ」
この世界では、日付の感覚はあっても曜日の感覚はない。
基本的に、人々は無休で働いていて、何か用事がある時だけ臨時休業を取るという形だ。その分、残業やノルマはなく、終わりたい時に終わるというスタンスがこの世界での一般的な職業観であった。少し意味合いが違ってくる面もあるが、フレックスタイム制度と似たような面がある。
普通はずっと仕事をしていると、よっぽど好きでもない限り「早く休みたい」と思うものだが、この世界の人々からは特にそういったマイナスの印象を受けない。
大変そうではあるが、みんな責任とやりがいを持って働いているように映った。
そんなことを考えながら歩いていると、曲がり角で人とぶつかった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそよそ見を――あら?」
「え? あなたは――」
曲がり角でぶつかったのは顔見知りの人物であった。
「マシューさん!? それにチェイスオーナーまで!?」
「久しぶりね、ソータ」
「元気にしていたっすか?」
北方領ペルゼミネの竜医であるマシュー・マクレイグとペルゼミネ一の規模を誇るドラゴン育成牧場サンドバル・ファームのオーナーであるチェイス・サンドバルのふたりだった。
「こんなところで奇遇ね。休暇かしら?」
男でありながらしなやかな口調と態度。
マシューは肌も白く、顔立ちも中性的なので、正しい性別を知らない限り女性と間違えてもしょうがないくらいのオネェだった。
「いや、まあ、いろいろあって……おふたりこそ、休暇でダステニアへ?」
「違うわよ。――その様子だと知らないみたいね」
なんだか含みのある言い方をするマシュー。
「明日の午後から、このダステニアに4大国家の王が全員集まって会議を開くのよ」
「自分たちはその会議で話される内容についてシリング王に見解を述べる立場として参加する予定なんすよ」
「ええ!?」
颯太にとっては初耳だった。
「知らなかったの?」
「無理ないっすよ。ソータさんの能力は凄いですけど、やはりハルヴァのドラゴン牧場といえば未だにマーズナーの名が先に出ますからね。同行しているのはマーズナーの関係者じゃないっすか?」
それは致し方のないことだ。
颯太が加わってまだ1年と経っていないリンスウッドより、古くからハルヴァで名前の知られているマーズナーの方が、他国でも名前の通りがいいのは必然だ。
――ただ、気がかりなのはオーナーであるアンジェリカは何も言っていなかった。
もしかしたら、周りには内密にするよう言われているのかもしれないが、少し気になる。
「もっとゆっくりと話をしたいところだけど、私たちはこれから明日の打ち合わせがあるからここで失礼するわね」
「会議が終わった後で時間があったら、またお話しをしましょうっす!」
「ああ、楽しみにしているよ」
ふたりは急いでいるようで、颯太と別れると足早に最寄りの階段から二階へと上がっていった。
「4大国王の会議、か」
いなくなったシャオと突如開催された国王会議。
お見合い話と癒しの旅。
そんな名目で始まったこのダステニア訪問は、やはりその裏に大きな影を潜ませていたようだった。
「俺も最初はそう考えた。ここは学園というだけあって、同年代の子が多い。今回の一件は父親の早とちりで娘にはもう恋人がいた、とか」
本当にいなくなったとするならその可能性が限りなく高い。
或は、
「誘拐という線はありませんか?」
「まあ、大富豪の娘だし、あり得ない話じゃないが……それならさすがにもっと騒ぎにするだろうしな」
ジェイクの指摘はもっともだった。
ダステニアでも重要な人物であるリー学園長の娘が誘拐とあったら、今食堂で展開されているようなバカ騒ぎなどできないだろう。
それでも、ダステニアの騎士たちが一緒になって騒いでいるところを見るに、まだ彼らにはその事実を知らされていないようだ。
「或は、俺たちに気を遣っているのかもな」
「え?」
「娘はソータに惚れていると思ってお見合いをセッティングしたが、実は娘にはすでに心に決めた人がいた。娘は父親の勝手な行動に怒って出て行ったって線もあり得る」
颯太も同意見だった。
「ともかく、俺はリー学園長を探し出してそれとなく聞き出してみる。呼び出してすまなかったな。おまえは食事を楽しんでくれ」
「俺も手伝いますよ」
「申し出はありがたいが、おまえはこの機会を利用してゆっくり休め。リンスウッドに来てからずっと働きづめだったろう?」
「それを言うならジェイクさんも」
「俺はそういう仕事だからいいんだよ。おまえの場合は牧場のオーナーという仕事だけではなく、国政にも大きな影響を及ぼす大事件を解決に導いて来た……その疲れをしっかり癒してくれ」
ジェイクは颯太の肩を優しくポンと叩いた。
ジェイクの言う通り、颯太はここまで明らかにオーバーワークだった。
「おまえにはソラン王国の件で命を助けられた。そんなおまえが、働き過ぎでぶっ倒れてそのまま死んだなんてことになったら、俺は生涯後悔し続けるだろうからな。とりあえず、シャオのことは俺に任せておけ。何かわかったらまた知らせる」
「ジェイクさん……ありがとうございます」
「じゃあ後でな」と言い残して、ジェイクはリー学園長を探しに行く。
颯太はジェイクの気遣いを無駄にしないよう、回れ右をして食堂へ。
正直なところ、お見合いの話がご破算になるかもしれないとわかってホッとしていた。自分が結婚とか、これっぽっちも考えていなかった。きっと一生独身なんだろうなと腹を括っていた。
そんなところへ降って湧いたお見合い話。
喜ぶとか浮かれるとか、そんな感情よりも先に浮かび上がったのは戸惑いだった。
今の颯太にはハルヴァのこれからしか頭にない。
特に、レイノアが国家として生き返った今、そちらへの援助の話も出てきている。颯太もできる限りそれに協力するつもりで、お見合い話がなければレフティ大臣とその件について話の場を持ちたいとカレン経由で伝えていた。
「たしかに、こっちへ来てからずっと働いているよなぁ」
この世界では、日付の感覚はあっても曜日の感覚はない。
基本的に、人々は無休で働いていて、何か用事がある時だけ臨時休業を取るという形だ。その分、残業やノルマはなく、終わりたい時に終わるというスタンスがこの世界での一般的な職業観であった。少し意味合いが違ってくる面もあるが、フレックスタイム制度と似たような面がある。
普通はずっと仕事をしていると、よっぽど好きでもない限り「早く休みたい」と思うものだが、この世界の人々からは特にそういったマイナスの印象を受けない。
大変そうではあるが、みんな責任とやりがいを持って働いているように映った。
そんなことを考えながら歩いていると、曲がり角で人とぶつかった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそよそ見を――あら?」
「え? あなたは――」
曲がり角でぶつかったのは顔見知りの人物であった。
「マシューさん!? それにチェイスオーナーまで!?」
「久しぶりね、ソータ」
「元気にしていたっすか?」
北方領ペルゼミネの竜医であるマシュー・マクレイグとペルゼミネ一の規模を誇るドラゴン育成牧場サンドバル・ファームのオーナーであるチェイス・サンドバルのふたりだった。
「こんなところで奇遇ね。休暇かしら?」
男でありながらしなやかな口調と態度。
マシューは肌も白く、顔立ちも中性的なので、正しい性別を知らない限り女性と間違えてもしょうがないくらいのオネェだった。
「いや、まあ、いろいろあって……おふたりこそ、休暇でダステニアへ?」
「違うわよ。――その様子だと知らないみたいね」
なんだか含みのある言い方をするマシュー。
「明日の午後から、このダステニアに4大国家の王が全員集まって会議を開くのよ」
「自分たちはその会議で話される内容についてシリング王に見解を述べる立場として参加する予定なんすよ」
「ええ!?」
颯太にとっては初耳だった。
「知らなかったの?」
「無理ないっすよ。ソータさんの能力は凄いですけど、やはりハルヴァのドラゴン牧場といえば未だにマーズナーの名が先に出ますからね。同行しているのはマーズナーの関係者じゃないっすか?」
それは致し方のないことだ。
颯太が加わってまだ1年と経っていないリンスウッドより、古くからハルヴァで名前の知られているマーズナーの方が、他国でも名前の通りがいいのは必然だ。
――ただ、気がかりなのはオーナーであるアンジェリカは何も言っていなかった。
もしかしたら、周りには内密にするよう言われているのかもしれないが、少し気になる。
「もっとゆっくりと話をしたいところだけど、私たちはこれから明日の打ち合わせがあるからここで失礼するわね」
「会議が終わった後で時間があったら、またお話しをしましょうっす!」
「ああ、楽しみにしているよ」
ふたりは急いでいるようで、颯太と別れると足早に最寄りの階段から二階へと上がっていった。
「4大国王の会議、か」
いなくなったシャオと突如開催された国王会議。
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