悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

文字の大きさ
8 / 60

第8話 不可能を可能にする才能

しおりを挟む
 裏闘技場での一件は瞬く間に広まっていった。
 
 どうやら王国騎士団や魔法兵団も取り締まりに動きだそうとしていたようだが、あの水晶玉を通して観戦していた悪趣味貴族の中にかなりの権力者が紛れ込んでいたらしく、なかなか手を出せずにいたらしい。

 そこへ俺が乗り込み、ルチーナを秘書としてヘッドハンティングしたわけだが、それをきっかけに大乱戦となった。

 近くで張り込んでいた騎士たちが応援にかけつけた時には、すでにルチーナが闘士たちを半殺し状態にまで追い込んでおり、すぐさま御用となった。

 当然、俺たちは巻き込まれた被害者として罪に問われることはない。

 ルチーナは強制的に働かされており、俺はそれから開放するよう支配人であるガーベルに直談判をしに来たという流れで収まったのだった。

 さらに、もうひとつ嬉しい誤算があった。

 騎士団が裏闘技場にあるガーベルの執務室を調査した結果、彼女を引き入れるために商会と結託して王国議会に嘘の証言をさせていた証拠書類が見つかったのだ。

 そう。
 ルチーナを王都から追いやった商人とガーベルはグルだったのだ。

 ヤツらは彼女の才能を独占し、おまけに安い賃金で死ぬまで働かせようという魂胆で計画を仕掛けていた。

 ……なんと浅はかな連中だろう。
 人心掌握の基本がなっていない。
 だからルチーナは簡単に俺の方へとなびいたのだ。
 抑え込む気でいるなら、もっと強大な力を示し、抵抗など無意味なものだと刷り込まなくては。

 さらに詳しく書類を見ていくと、この件に絡んでいる現役の騎士の名前がチラホラ見受けられた。

 これを知った騎士団幹部が激怒。
 すぐに名前のあった者たちに処分が言い渡され、次々と王都を去っていくこととなった。

 こうして、彼女の無実は思わぬ形で証明されたのだった。

 おかげで犯罪歴も消滅し、秘書として堂々と学園に連れていける。
 最悪の場合、戸籍を偽装しようかとも考えたが、その策は不要になったな。


  ◇◇◇


 騎士団での取り調べが終わって家に戻ると、すぐにルチーナを父上に紹介する。

「いやいや……まさかあのティモンズ家の若き天才鍛冶職人とは……」

 まあ、当然の反応だな。
 例の事件以降、工房を閉じた後については消息不明扱いだったらしいし。

 ただ、父上も彼女の鍛冶職人としての腕は把握しており、また業界の事情にも詳しいため秘書としては十分な資質を有している。

 さらに驚くべきは彼女の戦闘力だ。 
 
《一流の鍛冶職人は一流の使い手であれ》――というティモンズ家の家訓が示す通り、ルチーナはあらゆる武器の腕前は一流レベルであった。

 しかし、彼女には課題もあった。

 いくら秘書という仕事上のパートナー的立場で学園に滞在することになるとはいえ、最低限のマナーや知識は身につけておかないといけない。

 王立学園の生徒はその九割が貴族の子息や令嬢など上流階級の人間で構成されている。
 そういった者たちに取り入り、卒業後は優良顧客として付き合っていく――俺が学園に通う一番の理由はそれだ。

 なので、粗相をして「ギャラード家はダメだな」という烙印を押されるのだけはどうしても避けたい。
 
 彼女はそれを理解し、俺が学園に通うまでの一ヵ月間、みっちり特訓をして完璧にこなせるようになった。

 さらに、俺は屋敷近くに専用工房を建て、そこで彼女にある武器の製作を依頼しようと自作した設計図を持ち込んだ。

「専門家としての率直な意見を聞きたい。忖度はなしで頼む」
「は、はい」

 俺から設計図を受け取り、ひと通り目を通すと、

「こ、これは……今までに見たことも聞いたこともない斬新なデザインと性能ですね……」

 大きく目を見開きながら、ルチーナはそう告げる。
 だが、すぐに彼女の表情が曇りだした。

「あの……大変言いにくいのですが……」
「もしかして、素材についてか?」

 そう尋ねると、ルチーナはビックリしていた。

「それについては俺に考えがある」
「考え?」
「専門的な知識に長けている者を学園で探す。というか、もうすでに声をかける相手についてはピックアップしてあるんだ」
「もうそこまでお考えになられているとは……さすがです、レーク様」

 事前の調べできちんと把握しておいたからな。
 彼女に武器の大まかなパーツを任せ、もうひとりには肝心の素材部分を使用した武器の核となる部分を作り上げてもらう。

 くくく。
 
 設計図に記した通りの効果を実際に得られれば、俺の唯一の弱点が消え去る。

 何せ、この弱点の影響で俺の下馬評は最下層にいるのだから。
 ほとんどの御子息や御令嬢は「コネ入学か」とあきれているだろう。

 だからこそ、こいつの力を目の当たりにした時……きっと学園中が度肝を抜かれるぞ。
 その時の驚愕と焦燥に染まった顔を見るのが今から楽しみだ。

 こいつが実現したあかつきには夢――能力ある者たちを働かせ、雇い主である俺は楽して儲けられるという生活の実現にまた一歩近づく。
 なんてめでたいのだろう!

「入学までは残り二日……とはいえ、こいつはすぐに必要となる物でもないから、二週間くらい猶予があればできるか?」
「お任せください! 命に代えても必ずや完成させてみせます!」
「頼もしいな。やはり君を選んで正解だったようだ。しかし、俺の許可なく勝手に死ぬことは許さんぞ」
「レーク様ぁ……承知いたしました。たとえこの身がドラゴンに食いちぎられようとも生き抜くと誓います!」

 ふっ、ルチーナのヤツめ。
 すっかり俺に入れ込んでいるようだな。
 
 おかげで扱いやすくて助かる。
 ……まあ、彼女のことだから本当に体を食いちぎられてもなんやかんや生き延びそうな生命力を感じるんだよなぁ。

あと、実は俺が悪の覇道を進んでいると知ったら、正義感が暴走して裏闘技場の連中と同じ目に遭うのだが……大丈夫。

きっとバレない。

なぜなら俺は天才だから!

 ――そして二日後。
 ついに入学式当日を迎えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...