悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

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第12話 悪徳商人、ふられる

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 俺たちは場所を学園の敷地内にある工房へ移した。
 ここは二年から始まる魔道具の授業で使われるらしく、今回許可をもらって貸しだしてもらった。
 中に入ると、ルチーナが作業台の上に例の武器を置く。

「これは……」

 始めて見るその武器に、コニーは関心を抱いたようだ。

「そいつが完成をしたあかつきには、魔法を使えない者が魔法を使えるようになる」
「っ!? そ、そんなことが!?」
「できるさ。ただ、肝心なのはこいつの加工だ」

 そう言って、俺はポケットから青、赤、緑色をした三つの小さな石を取りだし、作業台の上に置いた。

「これってもしかして、魔鉱石ですか?」
「そうだ」

 魔鉱石は人々の生活補助のために使われるアイテムで、鉱山から採掘される。

たとえば赤い物はわずかな魔力を込めることで熱を発し、青い物からは水が染み出し、緑の魔鉱石は微風を生みだす効果があった。

 これらは料理や井戸の代役として使用されることが多いのだが、攻撃手段としては威力が低くて使い物にならない。

 あくまでも生活をほんのちょっと豊かにする程度の物だ。

 ――だが、こいつを俺の考えた魔道具で強化し、攻撃魔法と遜色ない威力を出せるようにする。
そのためにはどうしても専門家の意見が必要だった。
 
一応、関連書籍があるにはあるが、やはり実戦での経験が乏しいとうまくいかない。

 だからこそ、暗黙の了解を打ち破ってまで入学を許可されたコニーの知識と技術に頼ったのだ。

 ひと通り説明を終えると、

「…………」

 コニーは無言のまま武器を手にし、しばらく眺め――それから魔鉱石を手にすると魔力を練り始めた。

「む?」
「お?」

 俺とルチーナは同時に反応を示す。
 噂には聞いていたが……なんという魔力量だ。

 あまりにも強すぎて肉眼でもハッキリ認識できるくらいだ。

 全身から湯気のように紫色のオーラが発せられているのだが、あれ全部魔力っぽいな。

 しばらく見つめていると、

「できましたよ」
「「へっ?」」
 
 あまりにもあっさり言うものだから、俺とルチーナは思わず間の抜けた変な声を出してしまった。

「先ほど説明いただいた通りに加工をしてみましたが、いかがでしょう?」
「あ、ああ、どれどれ……」

 言われるがまま手に取ってみると――なるほど。
 確かに注文通りの仕上がりだ。

 これほどのクオリティをあの短時間で……どうやら、俺はコニー・ライアルという魔法使いの実力を甘く見ていたようだ。

 彼女はまぎれもなく天才。

 ――ほしい!
 ぜひとも俺の商会にほしい逸材だ!

「素晴らしい出来だよ、コニー」
「本当に……私も鍛冶職人としてさまざまな魔道具を扱ってきましたが、この短時間でこれほどの逸品を作り上げるとは見事としか言いようがありません」
「あ、ありがとうございます」

 俺たちから手放しに賞賛されて照れまくるコニー。

 ……ここしかない!
 周囲に漂うこれは成功の空気!

 そう判断した俺は、早速もうひとつの件について尋ねた。

「コニー……実はもうひとつ頼みたいことがあるんだ」
「なんでも言ってください。お力になってみせます」

 先ほどの成功で自信をつけたのか、微笑みながら告げるコニー。

 これはいい流れだ。
 この流れでダンスの誘いは断られないはず。

 確信に近い自信をもって、俺は彼女に言う。

「今度の新入生歓迎の舞踏会だけど……俺とパートナーを組んでほしいんだ」

 渾身のキメ顔を向けた後、静かに手を伸ばす。
 彼女の答えは――

「ごめんなさい!」
「――えっ?」

 まさかの「NO」だった。

 ……えっ?
 ちょ、ちょっと待って?
 完全にイケる流れだったでしょ!?

 放心状態の俺に追い打ちをかけるように、ここでまさかの登場人物が。

「あっ、いたいた。ここにいたのかい、コニー」

 工房にやってきたのは男性教員。
 ――俺は彼を知っている。

 名前はクレイグ・ベッカート。

 確か、魔法史の先生で昨年度の入試担当だったはず。
 面接試験の時に顔を合わせたから覚えていたんだ……あの無駄なイケメンぶりを。

 そのクレイグ先生はさも当然のようにコニーの肩へと手をかけた。
 この行為に対し、当のコニー自身は嫌がるどころか受け入れている様子。

「悪いけど、彼女は舞踏会には出ないよ」
「は?」
「私と一緒に魔法の研究をする予定なんだ」
「は、はい……実はそうなんです」
「そういうことだから、失礼するよ。――ああ、それと」

 去り際、クレイグ先生はこちらへと振り返り、

「君のような評判の悪い生徒につきまとわれてはコニーも迷惑だ。今後は接触を控えてくれるかな?」
「は?」

 何を言っているんだ、こいつは。
 大体、コニーは――

「お、お願いします。もう話しかけないでください。迷惑ですから」
「えっ……」

 ペコリと頭を下げるコニー。
 そこで俺の思考は完全に停止。

 何も言い返せないまま、ただ黙ってふたりの背中を見送るしかできずにいた。
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