悪徳商人の無自覚英雄譚 ~悪行を善行と勘違いされる大商会の御曹司、気づけば世界を救う?~

鈴木竜一

文字の大きさ
28 / 60

第28話 コニー、キレる

しおりを挟む
 コニーがまさかのブチギレで場は一気に凍りつく。
 ――いや、これ比喩じゃなくて本当にめちゃくちゃ寒くなってきてる。

「これは……魔力を冷気に変えているのか……?」

 怒りで体温が上がるって話は耳にするが、逆に冷気を発するとは。
 驚くべき逆転の発想――なんて言っている場合じゃない。

 パキパキと音を立てながら、コニーの触れている部分がどんどん凍っていく。
 
 ……妙だな。

 彼女の全身から漂う冷気から察するに、恐らくは氷属性――と、言いたいが、そもそも魔法属性に氷なんてない。

平民の場合は入学後に属性診断をすることになっている。

 今はまだ基礎的な座学中心だが、近々実戦形式の鍛錬も取り入れていくらしく、それに合わせてコニーも診断をする予定になっていたのだが……一体どんな属性なんだ?

 ただ、俺以上に困惑していたのがザルフィンだった。

 最初は変わらずヘラヘラとしていたが、コニーが魔力を冷気へと変えた直後から明らかに動揺の色がうかがえる。
 
「お、おまえ……まさか……あの施設の生き残りか!?」

 涙目になりながら叫ぶザルフィン。
 あの怯えようは普通じゃないな。

 それに「あの施設」とは一体何を指すのだろう。

 なぜか分からないが、ヤツはコニーに対してビビりまくっている。
 今ならちょっと脅すだけで知りたい情報を手に入れられるだろう。

 あくどい商売を繰り返してきたヤツなら、おいしいネタも持っているはずだ。
 クレイグ・ベッカードの件で俺はネタを失っていたからちょうどいい。

 ありったけの情報を引きだそうと交渉を――

「あなただけは許さない……【氷結する世界ダイアモンド・ダスト】」

 俺がザルフィンに近づこうとした瞬間、コニーの氷魔法が発動。
 辺り一面はあっという間に白銀の世界へと変わってしまった。

「す、凄い……すべてが凍りついています」

 呆然と立ち尽くすルチーナ。
 俺も目の前の光景が信じられるずにいた。

 コニーの放った【氷結する世界ダイアモンド・ダスト】は、瞬きをする間に辺りを凍らせてしまっていたのだ。

 助かったのは俺とルチーナのみ。
 その場にいたザルフィンとヤツの配下は氷の中で冷凍保存状態だ。

「し、死んだのか?」
「いえ、かろうじて生きているようです」
「なら全員を氷から引っ張り出して拘束しておくんだ。死なせるわけにはいかない」
「おぉ……なんと慈悲深い……さすがはレーク様」
「だろう?」

 本当はヤツらから引っ張れるだけ情報を引っ張ってやろうかと思っただけなので、別に慈悲とかそういうのじゃない。

 とりあえず、氷の中からの救出作業はルチーナに任せるとして……俺は魔法を放った直後にその場へと座り込んでしまったコニーへと歩み寄る。

「一度に魔力を使いすぎたようだな」
「す、すいません……もっとイケると思ったんですけど……」

 謝罪するコニーの顔は真っ青だった。
 これは魔力消費だけが原因ではないようだな。

 例の施設、か。

 そういえば、コニーは教会で暮らす前の記憶がなかったんだよな。
 
 となると、教会へ来る前はザルフィンの言った施設とやらで暮らしていたのか?
 詳しい話を聞き出したいところではあるが……さっきの氷魔法ですでに虫の息となっているようだから、すぐにとはいかないだろう。

「私……どうしても……許せなくて……」
「許せない?」
「だって……さっきの人……」

 コニーは残された最後の力を振り絞るようにして叫ぶ。

「レーク様はハーレムになんて興味ないのに……まるで底なしの女好きみたいな言い方をしたから……」
「そうだったのか。それは――えっ?」

 いやいやコニーさん?
 バリバリ興味ありますよ?

 だからこうして人材を集めているわけですし?

 ……ただ、ここで肯定すると今度は俺が氷漬けになるかもしれない。

「ふっ、まったくだな。コニーの言う通りだ」
「ですよね!」

 圧が凄い。
 あと顔が近い。

 少しは元気が出たようだが、代償としてコニーの前ではハーレム関連の発言に制限がかけられるようになった。

 ――だが、あきらめるわけにはいかない。

 せっかく俺の理想とする商会の形が出来上がりつつあるのだ。

 それに、コニーの魔法使いとしての力は俺の創造を遥かに超える領域に達している。
 
 本来であれば存在しないはずの氷の魔法を使うというのも気がかりだ。
 ザルフィンはこれから騎士団や魔法兵団の取り調べを受けるから、詳しい情報を得るのに時間がかかるだろう。

だが、彼女の資質を見抜いて学園に招き入れた人物――その人ならば、何か知っているかもしれない。

「学園長、か……」

 生徒の入学に関して、最終決定権を持っているのは学園長だ。
 何も知らずにうっかり入学させてしまったなんてことはないだろうから、きっと何か事情を知っているはずだ。

「はれ?」
「おっと」

 考えごとをしていたら、突然コニーがふらついて倒れそうになる。
 頭から転倒しそうになるところを両腕でしっかりキャッチし、なんとか防止。
 
その際、がっつりと胸を触ってしまっているが、これは不可抗力だ。
 やましい気持ちなんてほんのわずかしかない。

一方、コニーは俺の両腕に抱かれた状態のまま静かに寝息を立てていた。

「眠ってしまったのか……」

 よほど消耗したらしいな。

 ともかく、思わぬ形ではあったがザルフィンのオークションを潰すという当初の目的は達成された。
 あとは騎士団と魔法兵団に通報して事後処理をやってもらうとしよう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...