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第229話 不穏な空気

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「今戻った」

 父であるデルゴ・アインレットが俺たちのもとへとやってきた。
 一気に緊張が走る――が、それはほんの一瞬。
 俺やキャロライン姉さんなど、ここ最近の父上を知らない者はその姿を見てギョッと目を丸くした。

 あの偉そうだった父上が、ひどく萎れていた。
 ビシェル兄さんとキャロライン姉さんが、それぞれ魔法使いとして優れた才能を持っていると分かってから、ずっと何事に対しても強気だったのに……今はそれが見る影もなかった。

 結局、父上は俺たちに軽く挨拶をしただけで自室へと戻っていってしまった。

「あ、あんな調子でパーティーは大丈夫なのかしら……」
「どこか、お体の調子が悪いのでは?」

 呆然とするキャロライン姉さんに、原因を追究しようとするジルベールさん。
 だが、取り巻きの者たちも詳しい話は聞いていないらしく、王都にある城で誰かと会談をしてから様子がおかしいという。

 不思議なのは、その会談相手さえ謎のままという点だ。お城の中で顔を合わせながら話し合ったということは、怪しい相手ではないと思いたい――いや、むしろその逆で、かなり立場のある人と話したのではないか。

 それであの様子なら……何か、アインレット家において不利益となる内容だったのだろう。

 その時、俺はあることに気づく。
 まだ、ビシェル兄さんの姿を見ていなかったのだ。

「そういえば、ビシェル兄さんがいませんね」
「言われてみれば……別室で誰かと話しているのかしら。ジルベールはどこかで会った?」
「い、いや、まだお会いしていないけど……」

 どうやら、キャロライン姉さんもジルベールさんも、兄さんの姿を見ていないらしい。
 ……あれ?
 そういえば、ライザさんはどこへ行ったんだろう?
 俺たちよりだいぶ先にドレスの準備に入ったはずだから、そろそろ出てきてもいい頃なのに。
 
「……何か、あったのかな」

 少し不安になってきたところで、

「ロイス様、お待たせいたしました」

 シルヴィアの準備が整ったのか、テスラさんが俺を呼びに来た。
 そして、俺やキャロライン姉さんたちの雰囲気が険しいのを見て眉をひそめる。

「何かあったのでしょうか?」
「あったというか、何もなかったというか……」
「?」

 首を傾げるテスラさんに、俺はここまでに起きたことを掻い摘んで説明する。

「私やシルヴィア様がいないうちにそのようなことが……」
「ビシェル兄さんの姿も見えないし……」
「ビシェル様でしたら、先ほど控室から出て行かれるところを見ましたよ」
「えっ? そうなの?」

 俺たちの前に姿を見せてはいないが、一応、パーティーに向けて準備を進めているみたいだ。
 ――いや、それはそもそもパーティーの準備なのか?
 何か、緊急事態が起きたってことはないだろうか。

 いずれにせよ、なんだか不穏な空気が漂い始めてきたな。
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