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第291話 夫婦関係
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無属性魔法が持つ可能性。
それは無限大――属性魔法の効果以外で「こんなことができたらいいな」という願望を叶えられる魔法だと俺は考えている。
転移魔法、結界魔法、収納魔法、重力魔法――これまでに扱ってきた魔法たちを思い出してみれば、それは明白な事実と言えるだろう。
それから、従来の魔法をさらに強化してより強力な効果を得られる魔法に昇格できるのではないかとも予想している。これで結界魔法を強化し、山頂へ挑む前に立ち寄れる村を雪崩から守れるようにしたい。
――が、これが思いのほか難航した。
ユリアーネの書店で関連書物を買い込んで研究をしようと試みたのだが……なかなかうまくいかない。
そうこうしているうちに三日も経っていた。
「うーん……ダメだ」
「あまり根を詰めすぎない方がいいぞ」
「分かってはいるんだけどねぇ」
俺としてはもっと突き詰めていきたいところではあるが、シルヴィアに心配をかけているようではダメだ。
「ありがとう、シルヴィア。ちょっと気分転換に外へ出てみようかな」
「っ! それがいい! 私も付き合うぞ!」
急にテンションのあがるシルヴィア。
もしかして……構ってほしかったのかな。
そういえば、ここのところずっと研究三昧でまともに会話をしていかなかったかも。これじゃあ、アインレット家の屋敷にいた頃と変わらないじゃないか。
猛省しなくてはいけないな。
きっと、夫婦間のすれ違いってこういうのがきっかけになっているのだろう。
「……夫婦、か」
鼻歌交じりに支度を始めるシルヴィアを見て、俺は呟く。
ジェロム地方での生活が落ち着いたら、今後について決めていこうなんて悠長なことを考えていたけど、今の忙しさがこれからすぐに収まるとも思えない。なんか、ようやく動きだせる時になったら、俺とシルヴィアももうお爺ちゃんやおばあちゃんって呼ばれる年齢になっているんじゃないかって思えてきた。
領地発展のためには無属性魔法の進化が欠かせない。
それ以上に、俺たち夫婦の未来についても新たな境地へ踏みだすべきなのでは。
気がつくと、俺はキッチンで夕食の仕込みを始めたテスラさんのもとへ向かっていた。
「おや? どうされましたか、ロイス様」
「いや、その……シルヴィアとちょっと外へ出て来ようかなって」
「それはいい考えだと思います。たまには陽の光を浴びませんと」
「うん。それでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「? なんですか? 改まって」
何やら大事な話だと察したテスラさんは、作業の手をとめてこちらへと向き直る。こういうところはキチンと空気を読んでくれるんだよなぁ。
――っと、本題に移らないと。
「実は……シルヴィアとの結婚式を考えているんだ」
「っ!?」
俺がそう告げると、テスラさんはこれまでにないくらい動揺していた。
「け、結婚式……ついにその時が来ましたか」
「本当はもうちょっと落ち着いてからの方がいいんじゃないかって思うんだけど、それだといつになるか見当がつかなくて」
「そうですね」
「結婚式と言っても、キャロライン姉さんたちがしていたような派手なものじゃなく、この地方で静かにあげたいなって」
「それがよろしいと思いますね」
ネックになっているのはうちの父親と兄、それからシルヴィアのところの両親とマーシャルさんを除くふたりの兄だからな。
……って、そういえば、俺ってラクロア家にちゃんと挨拶ってしたのか?
こういう場合、やっぱり直接伝えた方がいいんだろうけど……どうしよう。
それは無限大――属性魔法の効果以外で「こんなことができたらいいな」という願望を叶えられる魔法だと俺は考えている。
転移魔法、結界魔法、収納魔法、重力魔法――これまでに扱ってきた魔法たちを思い出してみれば、それは明白な事実と言えるだろう。
それから、従来の魔法をさらに強化してより強力な効果を得られる魔法に昇格できるのではないかとも予想している。これで結界魔法を強化し、山頂へ挑む前に立ち寄れる村を雪崩から守れるようにしたい。
――が、これが思いのほか難航した。
ユリアーネの書店で関連書物を買い込んで研究をしようと試みたのだが……なかなかうまくいかない。
そうこうしているうちに三日も経っていた。
「うーん……ダメだ」
「あまり根を詰めすぎない方がいいぞ」
「分かってはいるんだけどねぇ」
俺としてはもっと突き詰めていきたいところではあるが、シルヴィアに心配をかけているようではダメだ。
「ありがとう、シルヴィア。ちょっと気分転換に外へ出てみようかな」
「っ! それがいい! 私も付き合うぞ!」
急にテンションのあがるシルヴィア。
もしかして……構ってほしかったのかな。
そういえば、ここのところずっと研究三昧でまともに会話をしていかなかったかも。これじゃあ、アインレット家の屋敷にいた頃と変わらないじゃないか。
猛省しなくてはいけないな。
きっと、夫婦間のすれ違いってこういうのがきっかけになっているのだろう。
「……夫婦、か」
鼻歌交じりに支度を始めるシルヴィアを見て、俺は呟く。
ジェロム地方での生活が落ち着いたら、今後について決めていこうなんて悠長なことを考えていたけど、今の忙しさがこれからすぐに収まるとも思えない。なんか、ようやく動きだせる時になったら、俺とシルヴィアももうお爺ちゃんやおばあちゃんって呼ばれる年齢になっているんじゃないかって思えてきた。
領地発展のためには無属性魔法の進化が欠かせない。
それ以上に、俺たち夫婦の未来についても新たな境地へ踏みだすべきなのでは。
気がつくと、俺はキッチンで夕食の仕込みを始めたテスラさんのもとへ向かっていた。
「おや? どうされましたか、ロイス様」
「いや、その……シルヴィアとちょっと外へ出て来ようかなって」
「それはいい考えだと思います。たまには陽の光を浴びませんと」
「うん。それでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「? なんですか? 改まって」
何やら大事な話だと察したテスラさんは、作業の手をとめてこちらへと向き直る。こういうところはキチンと空気を読んでくれるんだよなぁ。
――っと、本題に移らないと。
「実は……シルヴィアとの結婚式を考えているんだ」
「っ!?」
俺がそう告げると、テスラさんはこれまでにないくらい動揺していた。
「け、結婚式……ついにその時が来ましたか」
「本当はもうちょっと落ち着いてからの方がいいんじゃないかって思うんだけど、それだといつになるか見当がつかなくて」
「そうですね」
「結婚式と言っても、キャロライン姉さんたちがしていたような派手なものじゃなく、この地方で静かにあげたいなって」
「それがよろしいと思いますね」
ネックになっているのはうちの父親と兄、それからシルヴィアのところの両親とマーシャルさんを除くふたりの兄だからな。
……って、そういえば、俺ってラクロア家にちゃんと挨拶ってしたのか?
こういう場合、やっぱり直接伝えた方がいいんだろうけど……どうしよう。
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